第136話 そこはホオジロザメだろうが!

 茂が千春と話をしている頃、藍大達はダンジョンの地下3階に来ていた。


 今日のメンバーは藍大と舞に加えてパンドラ以外の従魔全員だ。


 ゲンとゴルゴンはそれぞれ<鎧化アーマーアウト>と<装飾化アクセアウト>を使っているので、藍大が連れ歩く従魔はサクラとリル、メロだけだが。


「デカい漁船?」


「そうみたいだね」


「海の上にいるね」


『ご主人、クロコバイツに囲まれてる』


「鰐がいっぱいです」


 リルとメロが言う通り、藍大達は船の甲板の上でクロコバイツの群れに囲われていた。


 地下3階に来た時点でモンスターの群れに囲われており、海上に浮かぶ大きな漁船の上にいるなんて藍大達に対する殺意の高い仕打ちと言えよう。


「主、海にも何かいる」


「魚だ! 顎が嘴みたいに尖ってる! いっぱいいるよ!」


「ダツか!?」


 ただでさえ船上には逃げ場のない状況だというのに、追い打ちをかけるようにダツみたいなモンスターが漁船をぐるりと囲むように群れている。


 海面に顔を出したダツのようなモンスター達は、一斉に海から跳躍して甲板の上にいる藍大達に攻撃し始めた。


 だがちょっと待ってほしい。


 一般的な冒険者達ならば絶体絶命かもしれないが、藍大達ならばいくつかこの状況をどうにかする手段がある。


「私に任せな!」


 舞がそう叫ぶと、自分達を覆うように光のドームが現れた。


 こうすれば、前後左右から尖った顎で突進されても藍大達がやられることはない。


 それに加え、自分達を取り囲むモンスター達はサクラが自身の敵と認定した。


 その結果、<豪運フォーチュン>が仕事してダツのようなモンスターの群れが藍大達の手前にいるクロコバイツの群れに突き刺さった。


「サクラすげえ。グサダーツがクロコバイツに当たってんじゃん」


「でしょ~」


 クロコバイツ達からすれば不幸でしかない。


 スタート位置から敵を取り囲んでいた有利な状況だったにもかかわらず、同じ階のモンスターのフレンドリーファイアによってその包囲網が崩れているのだから。


 藍大が素早くモンスター図鑑で調べたグサダーツは、同じ雑魚モブモンスターのクロコバイツよりも強い。


 そのおかげで、クロコバイツの中にはダメージを負うだけに留まらずにHPを全損してしまった個体もいた。


 それどころか、グサダーツの方が元から数が多かったため、クロコバイツの包囲網を突破して舞の張った光のドームにぶつかって弾き返されたものまでいた。


「舞もサンキューな。助かった」


「良いってことよ。油断すんじゃねえぞ」


 今の舞は戦闘モードだ。


 守りに徹してる時はヒャッハーしないから、ハートは熱く頭はクールな状態を保てている。


 ダツに攻撃されたクロコバイツだが、当然ながらやられたままではいられない。


 やられたらやり返す精神に則り、船上でピチピチと跳ねるダツに嚙みついたり尻尾で払い飛ばしたりしていた。


『ご主人、僕達は戦わなくて良いの?』


「このまま待機しよう。両軍勢が弱ったところをまとめて掻っ攫う」


『そっか』


 藍大は漁夫の利を得る作戦を選んだため、リルは警戒を緩めずに待機した。


 5分後、数で勝っていたグサダーツが船上のクロコバイツを全滅させた。


 しかし、グサダーツ達もそこそこ消耗していて動きがかなり鈍っていた。


「これから攻撃に移る。舞がドームを解除したら、サクラとリル、メロは動いてるグサダーツにとどめを刺してくれ」


「「「『了解!』」」」


 藍大の指示に返事をすると、舞達はその通りに行動を開始した。


 サクラは深淵の刃を創り出して次々にグサダーツの首を刎ねる。


 リルも<輝銀狼爪シャイニングネイル>で同じことをする。


 メロは<種砲弾シードシェル>で順番に狙い撃って息の根を止める。


 グサダーツ掃討戦は順調に進んでいるように見えた。


 そんな時、死んだふりをして甲板の上でじっとしていたグサダーツが無防備そうな藍大を狙って突然跳躍した。


「舐めんなオラァ!」


 すかさず舞が藍大とグサダーツの間に割り込み、向かって来たグサダーツをB2メイスで叩き落とした。


「ったく、油断も隙もあったもんじゃねえな」


「舞、ナイスブロック。助かった」


「おう。大船に乗ったつもりでドンと構えとけ」


 (もう乗ってる。いや、止そう)


 藍大はくだらないボケを思いついたが、それを口に出すのは止めた。


 ツッコまれずに普通にそれもそうだと舞に受け入れられそうだったからだ。


 騙し打ちがあってからは、藍大もモンスター図鑑でHPを残したまま死んだふりをしている個体がいないか慎重に調べた。


 ゲンが<鎧化アーマーアウト>を使っている時点で藍大に攻撃は通らないが、慢心は弱者である自分の敵だと気を引き締めているのだ。


『メロがLv54になりました』


 システムメッセージが戦いの終わりを告げたため、藍大達はテキパキと解体と回収を進めた。


 船の先端まで移動して最後の1体を回収し終えると、舞は気になったことを藍大に訊ねた。


「地下3階ってどうやって進むのかな~?」


「進むって発想じゃなくて生き残るってのが正しいんじゃね?」


「どういうこと?」


「この漁船って誰かが操縦してると思う?」


「思わない。じゃあ、どんどん現れるモンスターをやっつけてボスまで倒せば地下4階に繋がるのかな?」


「俺はそう考えてる」


「なるほど~」


 舞も今日の地下3階のようなタイプのダンジョンは初めてだったらしく、今までの経験が当てにならないから藍大の考えに納得した。


『ご主人、前から何か来るよ!』


「今日の”掃除屋”が来たか」


 リルが言う通り、海に大きな影が現れた。


 その影が海面に浮上するにつれて、どこからともなく迫り来る危機を彷彿とさせるBGMが藍大達の耳に聞こえ始めた。


『何か聞こえるよ』


「何この音?」


「ソワソワするです」


「まさか奴が現れるのか?」


「あっ、私もこれ聞いたことあるかも」


 従魔達は知らないが、藍大と舞はピンと来るものがあったようだ。


 そのBGMがどんどん大きくなって一番盛り上がった瞬間、バシャンと水飛沫を飛ばしながら一角鮫と呼称すべき軽トラサイズのモンスターが現れた。


「そこはホオジロザメだろうが!」


 藍大はツッコんだ。


 ツッコミながらもモンスター図鑑を開いて敵の正体を調べた。



-----------------------------------------

名前:なし 種族:レモラ

性別:雌 Lv:45

-----------------------------------------

HP:900/900

MP:600/600

STR:850

VIT:700

DEX:150

AGI:500

INT:800

LUK:300

-----------------------------------------

称号:掃除屋

アビリティ:<怪力突撃パワーブリッツ><怪力噛パワーバイト><吸血サックブラッド

      <硬化鰭ハードフィン><水砲弾ウォーターシェル><削肌シェイブスキン

装備:なし

備考:興奮

-----------------------------------------



 (ジ○ーズらしさどこいった?)


 藍大がそう思うのも無理はない。


 BGMの演出まであったにもかかわらず、血を吸ったり遠距離攻撃もできるとなればもはや別物だろう。


 レモラは甲板に藍大達の姿を見つけると、早速<水砲弾ウォーターシェル>を連発した。


「ノーコンかよ!?」


 レモラが放った攻撃は悉く藍大達に当たらなかった。


 明後日の方向に飛んでいく水の砲弾を見れば、藍大はツッコまずにはいられなかった。


「主、この船にぶつかったら不味いんじゃない?」


「確かに。サクラ、船の表面スレスレを深淵でコーティングできるか?」


「やってみる」


 足場となる漁船がなくなるのは困るので、藍大はサクラに指示を出して漁船をレモラから守った。


 そうしている間に一撃だけ藍大達に向かって飛んで来る水の砲弾があった。


「無駄!」


 舞が光を纏わせたメイスで打ち返し、水の砲弾はレモラにぶつかった。


 自分の攻撃を利用されたことに怒り、レモラは船体への攻撃を開始した。


「サクラ、攻撃されてる部分の深淵を厚くしろ!」


「うん!」


 レモラは角を使った<怪力突撃パワーブリッツ>で船を攻撃しようとするが、サクラのINTをレモラのSTRが上回らなければ通じない。


 深淵の膜を分厚くされれば余計に通じるはずがない。


「メロ、<倦怠雲羊アンニュイシープ>だ」


「やるです!」


 メロが気怠そうな羊を模った雲を創り出し、それがレモラに向かって突撃した。


 それに触れた途端にレモラの動きが鈍った。


「サクラはレモラを甲板の上に運んでくれ。リルはそれを真っ二つにしちゃえ」


「は~い」


『わかった!』


 サクラが深淵の一部を操作してレモラを移動させると、リルが<輝銀狼爪シャイニングネイル>でレモラをバッサリと真っ二つにした。


『サクラがLv69になりました』


『リルがLv68になりました』


『ゲンがLv65になりました』


『ゴルゴンがLv61になりました』


『メロがLv55になりました』


 (現実は映画と違って圧勝だったな)


 藍大はレモラから足場を無事に守り切れてホッとした。

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