第12章 大家さん、パーティーに参加する
第135話 反吐が出る
6月3日の水曜日の朝、茂は出社と同時にDMU本部で本部長室に呼び出されていた。
「本部長、朝一で呼び出しとは何か緊急の案件でしょうか?」
「茂、何回も言ってるだろ? 2人の時は気楽に話してくれて構わないよ」
親しき中にも礼儀ありと思って茂がきっちりしたにもかかわらず、今は気にしなくていいと
「・・・はぁ。あのさぁ、俺は無駄話をしに来たつもりはねえの。鑑定の仕事もあるし、時間作って藍大に頼まれた舞さんの新しい属性武器の進捗も聞きに行きたいし暇じゃねえんだが」
「属性武器? 舞さんのB2メイスはまだ全然使えるはずだろ?」
「そりゃ使えるさ。けど、属性武器は複数持ってこそ意味がある。敵対するモンスターが苦手とする属性によって属性武器を換装できたら戦闘を有利に運べる」
「なるほど。今度は何属性の武器になりそうなんだい?」
「雷属性だ。武器の種類は
「職人班にミョルニルを作ってくれってことかい?」
「そこまでの代物にはならねえだろうけど、それっぽいものは期待されてる」
藍大も
あくまで
昨日DMU運輸経由で届いた素材は既に職人班の作業場に持ち込まれており、
職人班のメンバーは徹夜も辞さないやる気を見せ、今朝まであれこれと試して生産活動にしていたに違いない。
シャングリラ産のモンスター素材であらゆる加工をしたおかげで、職人班の
もしかしたら生産が既に終わっているかもしれないので、茂はさっさと本部長室を出て職人班の様子を見に行きたいのだ。
「
「何かあったのか?」
「あったと言えばあった。正確には来週行うイベントの引継ぎをしたい」
「イベント? どういうことだ?」
いきなり過ぎて潤の言いたいことがわからず、茂は詳細を話すよう促した。
「昨日の夕方、”楽園の守り人”のオークションがあっただろう?」
「あったな」
「”楽園の守り人”がシャングリラ産のモンスター素材の加工品やアイテムを売り出したことで、おとなしくしてた企業が刺激されたらしい。我々にもそれらを手に入れる機会を設けてくれってね。その動きを利用できると思った困った連中がDMUにもいるのは知ってるだろ?」
「チッ、老害共か。今度はなんだ? DMUからの出向って関係がなくなった以上、基本的に干渉は不可能だぞ? あくまで依頼をする側とされる側の関係でしかない」
「その通りなんだが、ああいう連中はこういう時だけ頭が働くんだよね。今週の土曜日の企業とスポンサーのいない冒険者達のマッチングパーティーを開くんだけど、そこに”楽園の守り人”を招待したいと言い出した」
茂はそこまで聞いて顔を引き攣らせた。
「”楽園の守り人”をマッチングパーティーに呼ぼうってか? 冗談だろ?」
「冗談だと思いたいけど冗談じゃないんだ。元々の企画自体は環境に恵まれない冒険者の救済策になるから私もGOサインを出してた。さっきDMUのホームページにアップされてたのを確認したよ。だが、それはそれとして藍大君達を招待するのは阻止したい。”楽園の守り人”を食い物にされたくないからね」
「藍大達は月見商店街に食材を卸し、月見商店街はモンスター食材の取り扱いで藍大達が煩わされることのないように支援してる。でも、食べられない素材の方は手付かずなはずだからビジネスパートナーになって儲けたいと考える企業がたくさんいるってことか」
「その通り。今は藍大君達が販売先に拘りがなく、DMUが誇る職人班の作品を気に入ってくれてるから食材以外は継続して取引してくれてる。でも、この関係がずっと続く訳でもなければ狸親父達が現状で私腹を肥やせてる訳でもない。そこで今回のマッチングパーティーだ。参加費で小銭を稼ぎ、マッチングした時の紹介料で稼ぐつもりなんだよ」
「反吐が出る」
茂は激怒した。
必ずかの邪智暴虐の老害共を除かなければならぬと決意した。
茂には政治がわからないがDMUの鑑定班のホープである。
モンスターの強さを肌に感じたことないが、藍大から人一倍ダンジョンの探検談を聞いていた。
だからこそ、命を懸けたこともなければDMU本部で大したこともせずに高い給料を貰っている老害共を許せなかった。
「気持ちはよくわかる。茂を呼び出したのは、藍大君達を呼ばない口実がないか考えてほしいからだ。最悪、参加を許可するにしても上手いことマッチせずにパーティーで飲み食いして帰るだけにしたい」
「クランの資産でパーティーに参加できる冒険者の範囲を狭めたらどうだ? 昨日のオークションで1億円以上稼いでる。1億円未満の資産の冒険者限定にしないと中小規模の冒険者の機会を奪うって突っぱねるとかは?」
「悪くないね。だけど、それじゃ縛りが弱い気がする。1つだけ条件を付けても狡賢い連中だからグレーゾーンを攻めて来るぞ」
「いっそのこと、同じ日に別のパーティーを開いて藍大達にそっちに参加してもらえば良いんじゃねえか?」
「良いね。茂もそう考えてくれたか」
茂の案ならば自分達が企画したパーティーを開けるから、そちらに”楽園の守り人”を招待するのは容易い。
老害達には”楽園の守り人”に伝手がなく、茂や潤には伝手があるのだから。
「どんな名目で招待する?」
「実は、スタンピードの救援要請に応じてくれたお礼として三原色のクランのマスターとサブマスターをパーティーに招いてるんだ。藍大君はそう言うのとか好きじゃないだろうし、結婚したばかりの彼等の時間を奪いたくなかったから後日別の形でお礼をしようと思ってたけど、そこに藍大君達も引き込んだ方が良さそうだ。”グリーンバレー”は藍大君と面識がないから顔繫ぎの機会としても丁度良いし」
「なるほど。悪くないな」
「そうだろう? じゃあそれで決定。会場は私が藍大くん達の結婚式に使ったホテルの宴会場だ。まだ会場しか抑えてないから、当日のコンテンツを決めるのと実行は任せた」
「は?」
「仕事が立て込んでて中身に着手できてないんだよ。それに、私が
「ふざけんな畜生!」
潤がこう言った以上、無茶振りでも茂がやるしかない。
茂は潤の息子だから、潤が無茶振りしたことに不平不満をぶつけても撤回してくれないことを理解している。
そうなればこんな所にいつまでいても仕方がないので、茂は本部長室を早急に退出した。
普段の仕事は鑑定班の班長に言えば融通が利くが、パーティーのコンテンツ決めと実行はプロジェクトリーダーの茂が人を巻き込んで進めるしかない。
茂が鑑定班の仕事場に向かってどうしたものかと早足で歩いていると、今度一緒に料理を作ることになった職人班の千春が通路の反対側から歩いて来た。
「茂君、おはよう」
「おはようございます、岡さん」
「もう、千春って呼んでよ。岡さんだと呼び方次第でお母さんに聞こえちゃうでしょ?」
「そうでしたね。千春さん、おはようございます」
「おはよう、茂君。険しい顔してたけど大丈夫?」
茂は潤のやり方にムッとしていたが、それを隠したつもりで通路を歩いていた。
隠したつもりが隠し切れてないとわかると、茂は落ち着くために軽く深呼吸してから応じた。
「俺1人だけだと大丈夫とは言えないですね。千春さんの力も借りられればとても助かります」
その瞬間、千春の心がキュンと来た。
千春は背が低く童顔の小動物タイプなので、周囲から子供扱いされてしまうことが多い。
それは千春を守るべき庇護対象と思ってのことだが、千春だって27歳なのだから気持ち的には大人の女性なのだ。
大人の女性らしく誰かに相談されてみたいとか頼られたいと思っていても、実際はその反対で千春の周囲の者が自発的に手伝うからやってみたいことが実現することはない。
そんな千春に願ってもないチャンスが舞い降りた。
しかも、お見合いして自分のことを尊重してくれる茂から頼られたとなれば、千春のテンションが上がらないはずがない。
千春からピクピクする猫耳とブンブン振っている尻尾が幻視できそうなぐらい喜んでいる。
「私に任せて! 私、大人の女性だから! バリバリ働いちゃうよ!」
「それは助かります。ここで話す訳にもいきませんので、小会議室に行きましょう」
「うん!」
茂は千春と共に小会議室へと向かった。
千春は茂が任されたプロジェクトの話を聞くと、職人班の手すきの人や他班の知り合いから人手を回せないか訊いてみると言った。
千春に頼まれれば皆ホイホイ言うことを聞くので、この時点で茂の負担が楽になることが決まった。
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