第137話 Oh! Sushi!
レモラの解体を済ませると、今度はメロが魔石を貰う番だったので期待した目で藍大のことを見上げていた。
「マスター、メロの番です?」
「勿論だ。魔石をおあがり。あ~ん」
「あ~んです」
メロが大きく口を開けて藍大に魔石を食べさせてもらうと、メロから花の甘い香りが感じられるようになった。
『メロのアビリティ:<
「いっぱい蔓が出せるようになったのか」
「なのです」
<
モンスター図鑑で調べてみると、まさに自分の予想していた通りだったのでメロのサポートできる範囲が幅広くなったと藍大は喜んだ。
「戦闘以外でも手足のように蔓を使えそうで良かったな」
「はいです。便利になるです」
藍大がメロの頭を撫でていると、リルが藍大に声をかけた。
『ご主人、前から樽がこっちに来るよ』
「樽?」
リルに言われて漁船の先端に立つと、確かに樽がどんぶらこどんぶらこと漁船に向かって流されて来ている。
念のためモンスター図鑑で調べてみたが、それは藍大が心配し過ぎただけで普通に樽だった。
「メロ、早速<
「やるです」
メロは4本の蔓を創り出し、がっちりと樽を固定して漁船の甲板にそれを引っ張り上げた。
中にモンスターはいないとわかっているので、もしかしたら宝箱の代わりかもしれないと思ったサクラが藍大達を代表して樽の蓋を開けた。
樽の中にあったのはアウトドアに適した黒いリュックだった。
「主、リュックが中に入ってたよ」
「ただのリュックじゃないはずだ。調べてみよう」
藍大はサクラが手に持った黒いリュックの正体をモンスター図鑑で調べてみた。
(おいおいおい、収納リュックってマジか!)
モンスター図鑑によると、樽の中に入っていた黒いリュックは収納袋の上位互換の収納リュックだった。
収納袋の容量は25mプールだったが、収納リュックの容量は東京ドーム1つ分だった。
その上、収納リュックの中に入れた物は時間の経過もないし取り出したい物を念じればすぐに取り出せる。
冒険者垂涎のアイテムであることは間違いないだろう。
「これ、収納リュックだって」
「すごい! いっぱい食材を詰め込めるね!」
『やったねご主人! お肉いっぱい入るよ!』
食いしん坊ズの喜ぶポイントは実に食欲に忠実である。
「それもまあそうだけど、リュックだから背負えるんだよな。収納袋よりも持ち運びが楽だ。サクラは今回も良い仕事してくれたよ」
「エヘヘ♪」
「よしよし」
サクラはLUKが他のメンバーと比べ物にならないぐらい高いから、サクラがアイテムを取り出せば良い物が手に入ることは約束されたようなものだ。
藍大に褒められてサクラは嬉しそうに笑みを浮かべた。
リルと一緒に盛り上がっていた舞が落ち着きを取り戻すと、ふと気になったことを訊ねた。
「ところで、藍大は今持ってる収納袋をどうするの?」
「司に貸し出そうと思ってる。未亜達にはパンドラがいるけど司にはいないだろ? 司達の稼ぎも収納袋があれば増えるだろうし」
「そっか。私も賛成だよ」
「舞は違う可能性を想定してたのか?」
「売りに出すかもって思った。収納袋を売ったら、慎ましくしなくても一生働かずに済むお金が稼げるし」
舞がそう言った瞬間、藍大はニヤリと笑った。
「それはしない。舞が大金を稼ぐと壊れるから。大金怖いって譫言のように言い続けてたもんな」
「もう! 藍大の意地悪!」
舞がプンスカと怒るから藍大はごめんと謝った。
実際のところ、収納袋の需要は極めて高い。
売りに出せば三原色のクランが億単位の金を動かす事態になるレベルである。
極貧生活を味わったことのある舞からすれば、1億円は雲の上の話と言えよう。
収納袋の中身を収納リュックに入れ替えた後、藍大達は次の敵襲に備えて警戒を再開した。
藍大達の乗る漁船はどういう原理なのかわからないが全く進まない。
風を受けたり波に押し出されれば、ずっと同じ位置に居続けることはありえないはずなのに少しも移動したりしない。
しかも、移動しないだけでなく船が揺れないのだ。
そのおかげで藍大達は船酔いせずにいられる。
船上にクロコバイツがいない以上、海を泳いでクロコバイツが現れることはないから
ところが、グサダーツも売り切れなのか全く現れなかった。
どういうことだろうと藍大が首を傾げていると、リルが漁船に接近する何かに気づいた。
『ご主人、2時の方角から何か猛スピードで突っ込んで来るよ』
「フロアボスかもな。サクラ、深淵コーティングを頼む」
「は~い。ぶつかりそうなところは分厚くしとくね」
「そうだな。そうしてほしい」
サクラは藍大が頷くと<
すると、10秒後に鈍い音が周囲に響き渡り、その直後に横向きで海面に5mは優に超えるマグロが白目をむいて浮かび上がって来た。
「マグロさんだよ! お寿司だよ!」
『Oh! Sushi!』
(リルさんや、一体どこで外人っぽいリアクションを覚えたんだい?)
そう心の中で思いつつ、藍大はモンスター図鑑で海面に浮いているマグロっぽいモンスターについて調べた。
-----------------------------------------
名前:なし 種族:ロケットゥーナ
性別:雄 Lv:40
-----------------------------------------
HP:1/580
MP:600/700
STR:800
VIT:520
DEX:350
AGI:680
INT:0
LUK:370
-----------------------------------------
称号:地下3階フロアボス
アビリティ:<
<
装備:なし
備考:窒息死
-----------------------------------------
(瀕死じゃね? あっ、HPが0になった)
藍大がモンスター図鑑で確認した時には既にHPが1しかなかったが、他の能力値やアビリティを見ている間にロケットゥーナのHPが0になった。
『サクラがLv70になりました』
『サクラのアビリティ:<
『リルがLv69になりました』
『ゲンがLv66になりました』
『ゴルゴンがLv62になりました』
『メロがLv56になりました』
「出オチじゃねえか!」
「藍大、どうしたの?」
「このモンスター、ロケットゥーナって言うんだが既に死んでる」
「「「『え?』」」」
藍大の告げた事実が予想外だったらしく、舞達はキョトンとしてしまった。
「ロケットゥーナは<
「そんなアビリティがあったんだ~」
「勿論、止まれない代わりに戦闘時のみ10秒毎にAGIが5ずつ上がるってメリットもある。突撃した時に使ったのは<
「このマグロは特攻野郎だね」
「そこはロケットって言ってやれ。ほら、名前だってロケットゥーナなんだし」
舞からすれば特攻野郎の方がしっくりくるらしいが、ロケットゥーナの名前はロケットとマグロの英語のツナの造語だろうと判断した藍大は苦笑いした。
「主、あれを引き揚げよう」
「そうだな。メロの出番だ」
「任せるです」
サクラの言う通り、ここでグダグダしていても仕方がないから藍大はメロに指示を出してロケットゥーナを甲板に引き上げさせた。
サクラとリルが協力して解体し、テキパキと解体された部位から順番に収納リュックへと入れていく。
「うわぁ、大トロどれぐらい食べられるかな~」
『大トロだけじゃないよ。カマトロもあるよ』
リルはマグロについて予習済みのようだ。
舞が大トロをたくさん食べられると喜んでいる隣で、リルは希少部位も忘れてはいけないと注意している。
そんな食いしん坊ズを他所に、サクラが藍大に魔石を強請った。
「主、魔石が欲しいの」
「よし。今度はサクラだもんな。あ~ん」
「あ~ん。んん~♪」
魔石を飲み込んだ直後、サクラの角と翼がエレガントな光沢になった。
『サクラがアビリティ:<
(サクラのLUKを活かせそうなアビリティの予感がする)
藍大の予想は正しかった。
すぐにモンスター図鑑で調べてみると、使用者のLUKの数値が高ければ高い程威力の増す一撃を与えるアビリティだった。
今のサクラが使えば、ほとんどの敵が跡形もなく消え去るだろう。
「サクラ、すっごいピンチの時以外は新しいアビリティを使うの禁止な」
「使っちゃ駄目なの?」
「駄目。素材が駄目になるというかなくなる。稼ぎが減ると家族計画に支障が出る」
「主の言うこと聞く」
サクラも舞やリルとは違うベクトルで欲求に忠実だった。
その後、藍大達はロケットゥーナを倒したらいつの間にか現れた魔法陣でダンジョンから脱出した。
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