第132話 早く蒲焼き食べた~い

 冷え固まった溶岩の大波のオブジェから離れて再び溶岩海岸と相応しい場所まで来ると、溶岩の中から遠目には細長い形状のモンスターが現れた。


「フロアボスか」


雑魚モブは鯰だったけどボスは何かな?」


「鰻じゃない? 昨日のテレビであんな形だったの見たよ」


『鰻の蒲焼き!』


 サクラとリルが見ていたテレビ番組とは、夕方のニュース番組内のグルメ特集のことだ。


 昨日は偶々鰻の蒲焼きが美味しい老舗のお店が取り上げられており、リルはその味に興味津々だったのか反射的に鰻の蒲焼きと叫んだ。


「鰻かどうか調べてみよう」


 リルの期待に応えられるとは限らないが、どの道ステータスを調べるつもりだったので藍大はモンスター図鑑を開いた。



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名前:なし 種族:ビリビール

性別:雌 Lv:40

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HP:530/530

MP:750/750

STR:0

VIT:470

DEX:550

AGI:530

INT:750

LUK:420

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称号:地下3階フロアボス

アビリティ:<溶岩弾マグマバレット><溶岩波マグマウェーブ><放電ディスチャージ

      <火炎耐性レジストフレイム><雷耐性レジストサンダー

装備:なし

備考:警戒

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 (ビリビールの皮で作った防具は火と雷に強いってお得じゃね?)


 ステータスを見て脅威に感じなかったため、藍大は既に素材について考えていた。


 まさか自分が倒された後のことを考えられているとは知らず、ビリビールは溶岩を泳いで藍大達に接近した。


 遠目には細長かったものの、ビリビールを近くで見るとオレンジ色の巨大鰻と言い表すのが相応しい。


 しかし、藍大達の誰も怯えることはなかった。


「蒲焼き食べたいな~」


『蒲焼き~』


『蒲焼き』


『アタシも蒲焼きに賛成っ!』


「みんな蒲焼きって言うから私も食べたくなってきちゃった」


 食いしん坊ズを筆頭に装備組とサクラまで感想が食欲によって締められていた。


 ここに来てようやく自分が脅威ではなく食料として見られていると気づき、ビリビールは食われてなるものかと全力で<放電ディスチャージ>を発動した。


 ビリビールからバチバチと電気が放出され、周囲の溶岩をグツグツと言わせている。


「ビィィィィィッ!」


 ビリビールが叫んだ瞬間、ビリビールから放出された電気が藍大達に誘導されるように飛んで来た。


「鰻風情が生意気だ!」


 舞が光のドームで<放電ディスチャージ>から藍大達を守った。


 ビリビールの<放電ディスチャージ>が終わると、サクラの反撃が始まる。


「おとなしくしなさい」


 深淵を操って鎖を創り出すと、それでビリビールをグルグルと巻いて一本釣りの要領で岩場の上に釣り上げた。


『蒲焼きになっちゃえ!』


 続いてリルが連続で<輝銀狼爪シャイニングネイル>をお見舞いし、ビリビールのHPを刈り取ると共に解体まで済ませてしまった。


『サクラがLv68になりました』


『リルがLv67になりました』


『ゲンがLv64になりました』


『ゴルゴンがLv60になりました』


『ゴルゴンのアビリティ:<再生リジェネ>がアビリティ:<自動再生オートリジェネ>に上書きされました』


 あっけなくビリビール戦が終わってしまった。


 いや、今のを戦いというには解体作業らしさが強過ぎた。


 鰻の悪あがきを舞が容易く封じ込め、サクラが動けなくしたところをリルが解体した感じが否めないのである。


 藍大は舞達にを労った後、魔石だけ除けて解体されたビリビールを回収した。


 ゴルゴンは<装飾化アクセアウト>を解除し、いつでも藍大から魔石を貰えるようにスタンバイしていた。


 藍大もわざわざ待てと意地悪するつもりもないので、ビリビールの魔石をゴルゴンに与えた。


 その直後、ゴルゴンが脱皮して抜け殻の中からツヤツヤした状態で現れた。


『ゴルゴンのアビリティ:<火炎牙フレイムファング>とアビリティ:<火炎吐息フレイムブレス>がアビリティ:<火炎支配フレイムイズマイン>に統合されました』


『ゴルゴンがアビリティ:<解毒アンチドート>を会得しました』


 (ヒュドラと言えば毒のはずなのにどうした?)


 システムメッセージが告げた内容がツッコミ待ちとしか言いようのないものだったので、藍大も心の中でツッコんだ。


 <火炎支配フレイムイズマイン>の会得は納得できるものだったから、ゴルゴンが純粋に強化されたと喜ぶだけで済んだ。


 レベルアップ時に会得した<自動再生オートリジェネ>も<再生リジェネ>がパッシブアビリティ化して継戦能力が上がったと喜ぶだけだった。


 だが、<解毒アンチドート>の会得は喜びこそすれどツッコまずにはいられなかった。


 ヒュドラと言えば毒なのに解毒してしまってはヒュドラらしさがない。


 ゴルゴンはレッサーパイロヒュドラだから、普通のヒュドラではないことは明らかだ。


 しかしながら、ヒュドラらしさが複数ある首だけというものはいかがなものだろうか。


 (待て待て。貴重な毒対策なんだ。これは前向きに考えよう)


 どうしてこうなったかわからないが、<解毒アンチドート>がマイナスに作用することはないので藍大は結局受け入れることにした。


「「「「「「シュロロ~」」」」」」


「よしよし。また強くなったな。ゴルゴンも頼りにしてるぞ」


 甘えて来るゴルゴンの全ての頭を撫で、藍大はゴルゴンのことも頼りにしているとちゃんと言葉に出した。


 ゴルゴンが<装飾化アクセアウト>でヘアピンの姿に戻ると、ゴルゴンが放置した抜け殻も何かの役に立つ気がして藍大は忘れずに回収した。


 藍大達はダンジョン地下3階でやるべきことがなくなったので、ダンジョンから脱出した。


 今日はオークション当日のため、奈美が忙しそうにしていたから藍大は102号室に戻ってから茂に電話した。


『藍大か。一体どうした? 今日のオークションについて何か話があるのか?』


「オークションの話じゃない。あれは健太に任せてるから」


『なるほど。お祭りはあいつ任せで良いよな。別件で何かやらかしたか?』


「やらかした訳じゃない。舞のB2メイスみたいに属性武器第二弾の制作を依頼したい」


『詳しく』


 茂もB2メイスの作成はワクワクしたようで、またそんなワクワクを体験できるならばと話の先を促した。


「今度は雷属性の戦槌ウォーハンマーを作ってほしいんだ」


『ミョルニルですね、わかります』


 茂は藍大の言いたいことを察した。


「今の舞なら戦槌ウォーハンマーを十分に使えそうだし、素材も揃えたから頼むわ」


『俺は職人班に連携するだけだから構わん。素材には何を用意したんだ?』


「バイコーンの角とビリビールって電気鰻の電気袋。それから、俺が使うって言って一度も実践で使えてないMPブレード」


『聞いてるだけでもとんでもねえモンができそうだな。了解。職人班に頼んどくぜ』


「助かる。それじゃあ」


『おう』


 藍大が電話を切ると、舞が藍大に話しかけた。


「藍大、MPブレードを新しい武器の素材にしちゃって良いの?」


「俺が持ってても宝の持ち腐れなのがよくわかったし、舞が強くなって俺を守ってくれれば全然OK」


 茂との電話で言った通り、藍大は実戦でMPブレードを使ったことがない。


 かろうじてゴルゴンの<火炎眼フレイムアイ>と<爆轟眼デトネアイ>を使ったぐらいだ。


 こうなってしまったのも、舞と従魔達が藍大に戦わせるのは自分達が実力不足だと思って1体もモンスターを藍大の前まで通したことがないからである。


 そこまで言われれば、舞も藍大の決断を受け入れるしかない。


 舞は藍大を抱き締めてお礼を言った。


「ありがとう。私が藍大を無傷で守り切ってみせるよ」


 立場が逆なんじゃないかというツッコミは今更だから誰も言わないし、そもそもいう者もいない。


 そこにリルがやって来た。


『早く蒲焼き食べた~い』


「よしよし。フォアナウマズの蒲焼きで良ければ作ろう」


『ビリビールの蒲焼きは?』


「即席で作る蒲焼きよりもしっかりと準備をして作ったビリビールの蒲焼きが食べたくないか?」


『食べたい! ご主人の言う通りにする!』


「よろしい」


 リルはあっさりと藍大に説得され、昼食はフォアナウマズの蒲焼きに決定した。


 ネットで蒲焼きのタレの作り方を調べると、藍大は大量にあるフォアナウマズを使ってうな重ならぬなま重を作ってみせた。


 なま重はなま重でありかもと食いしん坊ズがおかわりしまくった。


 今日は働いたとゲンもモリモリ食べていたし、ゴルゴンも気に入ったようで漠々と食べていた。


 藍大とサクラはおとなしく一人前だけ食べ、満腹で苦しむ家族にジト目を向けたのは予定調和と言えよう。

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