第125話 世紀末覇者でも乗せるつもりか?

 藍大は何もない所を狙って<爆轟眼デトネアイ>を使ってみた。


 その瞬間、ドガァンと強烈な音が聞こえると共に藍大が狙った場所が爆発した。


 (ヤバい威力だな。生物に当たったら爆散すんじゃね?)


 藍大がそう思うのも無理はなかった。


 <火炎眼フレイムアイ>を使った時の倍以上の威力があったのだから、スタンピードで藍大が倒したゴブリンジェネラルなら余裕で爆散する。


 素材を駄目にする可能性が高いので、直撃させるのは余程VITが高い相手か緊急事態の時だけだと藍大は決めた。


「今の藍大だよね?」


「すごいよ主!」


『ご主人すごい!』


『悪くない』


『流石アタシねっ』


「すごいです」


 舞も従魔達もその威力に感心していた。


「ありがとな。とはいえ頻繁には使えなさそうだけどな」


「そうなの?」


「素材が駄目になったら嫌だろ? 今日なんて食べられる部位が減るぞ?」


「『嫌だ!』」


 食いしん坊ズは今日も安定して食欲に忠実である。


 ヒッポグリフを倒し、ノーブルホースもほとんど狩り尽くしてしまったとなれば、地下3階に残るのはレッドブルとまだ見ぬフロアボスだけだ。


 レッドブルは現れる度に舞と従魔達があっさり倒すので、注意すべきはフロアボスだと言えよう。


 しばらくレッドブルを倒しては進むことを繰り返していると、藍大達の進行方向にポツリと黒い点が見えた。


 その点は藍大達に近づくにつれてどんどん大きくなり、ノーブルホースよりも一回り大きいことが目視確認できた。


「何かいるな」


「黒いのは初めてだしフロアボスじゃないかな?」


「言えてる」


「主、威力偵察して来ようか?」


「いや、その必要はない。調べて作戦を伝える」


 暫定フロアボスがどんなアビリティを所持しているかわからない。


 それゆえ、能力値が高いサクラなら威力偵察どころか倒せてしまうのではと思っても藍大は先にモンスター図鑑で調べると告げた。


 筋肉質な黒い馬型モンスターについて、藍大はすぐに調べた。



-----------------------------------------

名前:なし 種族:コクオー

性別:雄 Lv:40

-----------------------------------------

HP:1,000/1,000

MP:500/500

STR:700

VIT:500

DEX:400

AGI:500

INT:0

LUK:400

-----------------------------------------

称号:地下3階フロアボス

アビリティ:<怪力突撃パワーブリッツ><硬化蹴ハードキック><戦叫ウォークライ

      <震撃クエイク><根性ガッツ

装備:なし

備考:高揚

-----------------------------------------



 (世紀末覇者でも乗せるつもりか?)


 種族名だけでもそうだが、漢臭いアビリティのラインナップからも藍大はそのような感想を抱いた。


「ブルッヒィィィィィン!」


 コクオーは大気を揺らすレベルの咆哮を上げた。


 最初からる気満々のようだ。


 咆哮を上げた後、コクオーは両前脚を上げて力一杯地面を踏みつけようとした。


「メロ、掴まれ!」


「主、危ない!」


 それを見た藍大がメロを抱えたが、藍大も危ないと判断したサクラがメロごと藍大を抱えて空に逃げた。


 コクオーの両前脚が地面に触れた瞬間、周囲一帯が激しく揺れた。


 体感からすれば、震度5の地震が起きたような揺れだった。


 いくら藍大が<鎧化アーマーアウト>を発動したゲンを装備しているとしても、藍大の体幹まで急激に良くなる訳ではない。


 ゲンのVITが加わっても打たれ強くなるだけであり、藍大が震度5の地震で微動だにせず立ち続けていられるようになる訳ではない。


 藍大と生産メインのメロはサクラに助けてもらわなければ、転んだまましばらく動けなかっただろう。


「サクラ、助かったよ」


「助かったです」


「どういたしまして」


 藍大とメロに礼を言われてサクラは微笑みながらそれを受け入れた。


 その一方、藍大のパーティーでは舞もリルも体を鍛えている部類なのでしっかり立っていられた。


「あの馬は悪い馬だよ。馬肉にしよう」


『賛成!』


 舞とリルが自分を馬肉にしてやると話しているのが聞こえたのか、コクオーはやれるものならやってみろと<怪力突撃パワーブリッツ>を発動した。


「リル君、私が動きを止める!」


『そこを僕が攻撃だね!』


 (なんか俺いなくても作戦決まってるんだが)


 コクオーを馬肉にしてやると認識を一致させた舞とリルは、藍大が指示を出さなくとも迎撃の準備を整え始めた。


 そして、舞は全身に光を付与してコクオーに向かって走り出した。


「直撃はヤバい。メロ、コクオーの足を狙って攻撃!」


「やるです!」


 メロは<種砲弾シードシェル>を発動し、舞に向かって突撃中のコクオーの左前脚に種をぶつけた。


「ブルッヒン!?」


 コクオーは種が脚にぶつかったことでバランスを崩した。


「今だ! サクラ、コクオーを転がせ!」


「任せて! 転がりなさい!」


 サクラは<深淵支配アビスイズマイン>でコクオーの左側に深淵の鞭を創り出し、そのままコクオーをその鞭で叩いた。


 側面からの攻撃には備えられていなかったため、コクオーはサクラの攻撃を受けて横転した。


「ヒャッハァァァァァッ! ミンチにしてやるぜぇぇぇっ!」


『舞!? 食べれるところ減らさないでね!』


「わかってらぁ! 頭だけぶっ叩く!」


 その後の展開はもう一方的としか言い表せないものだった。


 光の付与されたB2メイスで何度も頭を殴られ、コクオーは頭がクラクラして立ち上がれなかった。


 無駄にHPだけは高いせいで楽に死ねず、結果として舞にボコボコに殴られていた。


『僕がとどめ刺す!』


「よし! やれ!」


『うん! 喰らえ!』


 リルが<輝銀狼爪シャイニングネイル>でコクオーの首を刎ね、ようやくコクオーは力尽きて動かなくなった。


『サクラがLv64になりました』


『リルがLv63になりました』


『ゲンがLv60になりました』


『ゲンのアビリティ:<反撃形態カウンターフォーム>がアビリティ:<自動操縦オートパイロット>に上書きされました』


『ゴルゴンがLv56になりました』


『メロがLv53になりました』


 システムメッセージが鳴り止んだ頃にはサクラが藍大とメロを地面に降ろしてくれた。


「サクラとメロはアシストしてくれてサンキュー」


「これぐらいどうってことないよ」


「ですです」


 藍大がサクラとメロの頭を撫でていると、自分達も褒めてくれと言わんばかりに舞とリルがその後ろにスタンバイしていた。


「舞とリルもお疲れ。食べられる所をちゃんと残せてよかったな」


「私も日々成長してるの~」


『僕もだよ!』


「よしよし。偉いぞ」


 舞とリルの褒められ方が同じことについてツッコむ者がいない。


 食いしん坊ズが気にしないのだから、きっとそれで良いのだろう。


 さて、ゲンが新たに手に入れた<自動操縦オートパイロット>を調べてみると、攻撃が命中する直前に自動的に殻に閉じ籠って甲羅から棘を生やして反撃するというゲンが楽をするためのアビリティだった。


 アビリティがゲンを甘やかしている感じが否めない。


 その後、藍大達がコクオーの解体を済ませて魔石を取り出すと、今度はメロが魔石を貰う番である。


「これはメロにあげよう」


「ありがとです」


 魔石を飲み込んだことでメロの髪がサラサラになった。

 

『メロのアビリティ:<睡眠雲羊スリープシープ>がアビリティ:<倦怠雲羊アンニュイシープ>に上書きされました』


 すぐに藍大が<倦怠雲羊アンニュイシープ>について調べてみると、雲で形成された羊に触れられると全能力値が3分間30%ダウンすることがわかった。


 眠って動けなくさせるのもありかもしれないが、敵を弱らせて倒しやすくする点では新しいアビリティの方が良さそうだ。


 メロはアビリティよりも自分の髪質が気に入ったようなので、藍大はメロの髪を褒めた。


「CMに出られそうな髪になったな」


「髪は女の命です」


「メロちゃんが大人ぶってる。可愛い」


「ストップです! 舞は近寄っちゃ駄目です!」


 自分は大人の女性だと言わんばかりに振舞うメロを可愛く思い、舞が手をワキワキさせながら近づいた。


 しかし、進化した時に振り回されたことが軽くトラウマになっているようで、メロは藍大の後ろにスッと隠れて舞を警戒した。


 これは舞の自業自得だろう。


「メロちゃん、私は怖くないよ? 優しくするよ?」


「駄目です。舞はマスターの優しさを見習うです。それまでお触り禁止です」


「藍大~、メロちゃんが触らせてくれないよ~」


 プイと横を向くメロを懐柔するのは困難だと判断し、舞は藍大にどうにかしてもらおうと頼った。


 だが、藍大は苦笑いして首を横に振った。


「こればっかりは仕方ない。舞は従魔との触れ合い方を学ぼうな」


「そんなぁ・・・」


 当てが外れて舞はしょんぼりした。


 メロはリルと違って一緒にご飯をドカ食いすれば仲良くなれるタイプではない。


 とりあえず、地道に自分が怖くないことを印象付けるしかないだろう。


 それはさておき、地下3階の探索は終わったので藍大達はダンジョンを脱出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る