第124話 僕がご主人の騎獣だもん!

 メロが落ち着いたところで、藍大は改めてメロが新たに会得したアビリティについて調べた。


 <大地祝福ガイアブレッシング>は自分の指定した場所を植物を育てるのに適した土壌にするアビリティだ。


 メロは<農家ファーマー>で自身の知っている植物の種をMPを消費して創造して育てられるから、<大地祝福ガイアブレッシング>は<農家ファーマー>と相性が良いと言えよう。


 しかも、シャングリラの家庭菜園はルナリスを植えたりメロが調整をしたおかげで植えて1週間でどんな植物も育つようになっているから、その状態を維持できるようになったことでメロは理想の農地を手に入れることができる。


 家庭菜園で育てられる量が少なくとも、1週間サイクルでどんな植物も育てられるなら農業チートと呼ぶに相応しい。


 <停止綿ストップコットン>は触れた者を3秒間動けなくする効果があった。


 たかが3秒と思うかもしれないが、されど3秒と考えるべきだろう。


 実力者同士の戦いならば、3秒あれば複数の手を繰り出せるのだからあって損はない。


 もっとも、状態異常を無効化する者には効かないからシールドアミュレットを装備したサクラには通用しない。


 これを利用してサクラの周囲に<停止綿ストップコットン>を展開し、サクラが敵を挑発して引き付ければ雑魚モブ狩りが効率化できる。


 <種砲弾シードシェル>は種を砲弾として飛ばすシンプルなアビリティであり、メロにとっては<螺旋蔓スパイラルヴァイン>と併せて数少ない攻撃手段となる。


 メロはLv50になったことで近距離でも遠距離でも戦闘できるようになったし、サポートでも生産活動でも今まで以上に藍大の役に立てるようになった。


 藍大がメロのアビリティを確認し終えると、リルが穴を掘り終えて何か見つけたようだ。


『ご主人、埋まってた物があったよ』


「主、拾っといた」


「流石リルだな。サクラもありがとう」


 仕事ができるリルとサクラを順番に褒めてから、藍大はサクラの手にあるアイテムについて調べ始めた。


 (スカルネックレスってのは見たまんまだな)


 サクラが手に持っていたのは数珠繋ぎになった小さい頭蓋骨のネックレスだった。


 その名前がスカルネックレスだから、藍大が見たまんまと言った訳だ。


 ところが、このスカルネックレスの効果は馬鹿にしたものでもない。


 知能の低いモンスターがこれを見ると不気味に思い、装備した者から距離を置きたがるらしい。


 オシャレとは言えないビジュアルではあるが、モンスターに近寄られないならば後衛として垂涎のアイテムと言えよう。


「舞、悪いことは言わない。次に舞に似合うアクセサリーを手に入れたらあげるからこれは止めとけ」


「は~い」


 藍大は以前サクラにダンジョン産のアクセサリーを与えた時、次に見つけたら舞に上げると約束していた。


 しかし、舞がスカルネックレスを身に着けているところを想像すると、戦闘時に蛮族らしさに拍車がかかるから渡したくなかった。


 舞も自分の趣味じゃないネックレスを着ける気にならなかったので、あっさりと藍大の言うことを聞いた。


「主が着けるの?」


「いや、これは未亜か健太に欲しいか訊いてみる。この布陣でスカルネックレスを使っても正直意味がないからな。敵を近づけたくないならリルの<誇咆哮プライドロア>があるし」


「そうかも」


「確かに~」


『ご主人に敵は近づけないよ』


「ですです」


 満場一致でスカルネックレスは未亜もしくは健太に譲ることとなった。


 そんな時、藍大達の視界が暗くなった。


 その理由とは、藍大達が日陰に入ってしまったからだった。


 周囲には樹なんて存在せず、見渡す限りの草原である。


 日差しだって夏を思わせるぐらい強かったにもかかわらず、いきなり日陰に入ったとなれば異常であると気づくのに時間はほとんどかからなかった。


「藍大見て! 空に何かいる!」


「ヒッポグリフじゃないか! 奴がこの階の”掃除屋”なのか!?」


 舞が指差した頭上の高い位置には、藍大が言った通り上半身がグリフォンで下半身が馬の姿をしたヒッポグリフがいた。


 藍大はすぐにモンスター図鑑でヒッポグリフについて調べた。



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名前:なし 種族:ヒッポグリフ

性別:雄 Lv:45

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HP:650/650

MP:700/700

STR:700

VIT:500

DEX:600

AGI:600

INT:650

LUK:400

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称号:掃除屋

アビリティ:<火炎吐息フレイムブレス><凍結羽根フリーズフェザー><怪力降下パワーダイブ

      <硬化爪ハードネイル><硬化蹴ハードキック><戦叫ウォークライ

装備:なし

備考:警戒

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 (急に強くなり過ぎじゃね?)


 能力値から見ればメロに劣るが、地下2階の”掃除屋”と比べてぐんと能力値が伸びたと知って藍大の表情が引き攣った。


 しかも、ヒッポグリフは太陽に背を向けて飛んでいるから、見上げて戦う藍大達よりも位置取りでは優位に立っている。


 賢さという面でも地下2階とは比べ物にならないだろう。


「ヒッポグリフはテイムした方が良いかもな」


 藍大はその能力値と賢さからヒッポグリフをテイムしようかと口に出した。


 だが、その考えに異を唱えた者がいた。


 リルである。


『テイム反対!』


「どうして?」


『僕がご主人の騎獣だもん!』


 なんとも愛くるしい言い分だった。


 リルは自分とヒッポグリフの役割が被っていることを気にしているようだ。


 リルが絶対に負けられない戦いがあると言わんばかりに目で訴えるから、藍大はリルの頭を撫でて安心させた。


「そうだよな。リルがいるもんな。テイムは止めよう」


『ご主人、ありがとう! あいつは僕が倒すから任せて!』


 リルは自分が強いのだと藍大にアピールしたいらしい。


 それは十分にわかっているが、リルがここで実力を示さねばプライドを保てないかもしれないと判断して藍大は頷いた。


「わかった。存分にやってごらん」


『うん!』


 藍大とリルの話が終わると、ヒッポグリフは何かリルが仕掛ける前に先手を打とうと口から火を吐いた。


『無駄だよ!』


 リルはそれを<輝銀狼爪シャイニングネイル>で迎撃した。


 リルとヒッポグリフの能力値を比較すれば、言うまでもなくリルの方が強い。


 フェンリルに進化した時点でヒッポグリフとの能力値に差がついており、力負けするはずがないのだ。


 ヒッポグリフの<火炎吐息フレイムブレス>はあっさりとリルの<輝銀狼爪シャイニングネイル>によって真っ二つにされた。


「ピョッ!?」


 有利な条件で戦っていたと思い込んでいたヒッポグリフは、リルの攻撃に自分の攻撃が破られたことに気づくのに遅れ、完全に回避し切れずにダメージを負った。


 ダメージを受けっ放しではいられないと思い、ヒッポグリフは<凍結羽根フリーズフェザー>で反撃した。


『僕は強いんだ!』


 そう力強く言うと、リルは<碧雷嵐サンダーストーム>を発動した。


 点ではなく面によるヒッポグリフの攻撃に対し、雷を纏った嵐が迎撃してそれらを飲み込んだ。


 勿論それだけに留まることはなく、空中にいるヒッポグリフにもその嵐が命中して大ダメージを与えた。


 雷のせいで体が痺れ、微塵も体を動かせなくなったヒッポグリフは地面に墜落した。


 落下ダメージが決め手となり、ヒッポグリフは力尽きた。


「アオォォォォォン!」


 リルが勝利の雄叫びを上げた直後、藍大の耳にシステムメッセージが届いた。


『サクラがLv63になりました』


『リルがLv62になりました』


『ゲンがLv59になりました』


『ゴルゴンがLv55になりました』


『メロがLv51になりました』


『メロがLv52になりました』


 システムメッセージが鳴り止むと、藍大の前に褒めてくれと言わんばかりに尻尾をブンブンと振ったリルが待機していた。


「リル、ソロ討伐おめでとう。やっぱり俺の騎獣はリルだけだ」


「クゥ~ン♪」


 喜びを言葉にできないらしく、リルはとても嬉しそうに鳴いた。


 藍大はリルが落ち着くまでひとしきり頭を撫でると、サクラ達が解体を済ませてくれていたのでそちらも労った。


 その後、ヒッポグリフの魔石はゴルゴンにあげる番なのでゴルゴンに<装飾化アクセアウト>を解除させて魔石を与えた。


 魔石を飲み込んだゴルゴンの鱗のツヤが一段と輝きを増した。


『ゴルゴンのアビリティ:<火炎眼フレイムアイ>がアビリティ:<爆轟眼デトネアイ>に上書きされました』


「燃やすどころか爆発すんのか」


「「「「「「シュロ~♪」」」」」」


 火力が上がったことにゴルゴンは喜んでいた。


 ゴルゴンの<火炎眼フレイムアイ>が<爆轟眼デトネアイ>に上書きされたということは、ゴルゴンが<装飾化アクセアウト>を使っている間は藍大が<爆轟眼デトネアイ>を使えるということである。


 (これはちゃんと使えるようにならなきゃヤバいな)


 ぶっつけ本番で使うのは危険だと判断し、藍大はゴルゴンに<装飾化アクセアウト>を使わせてから適当に<爆轟眼デトネアイ>を試し撃ちすることにした。

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