第122話 命燃やすぜ!

 藍大達が結婚式場を出て月見商店街によって買い物をしてから帰宅すると、夕食の時間が近づいていた。


 しかし、披露宴の食事が豪華だったため、藍大はあっさりしたものが食べたくなったから和食のメニューにした。


 豆腐ハンバーグとひじきと豆の五目煮、山芋の梅おかか甘酢和え、味噌汁、赤飯というメニューだ。


 めでたい日だからと月見商店街でお祝い代わりに貰った食材をふんだんに使っている。


 商店街の店を休みにする訳にもいかなかったから八百屋の店主が代表して結婚式に参加したが、本当は商店街のメンバーは皆結婚式に行ってお祝いしたかったのだ。


 だから、せめてもの気持ちとして自分達の店の品を藍大に渡した訳である。


「美味しそう。今日は和風なんだね」


「昼は豪勢なパーティー料理だったし、ちょっと落ち着いたものが食べたくなってな。舞には物足りない?」


「ううん。私のためにアローボアの生姜焼きを用意してくれたんだもん。それだけで十分だよ」


『僕も嬉しい』


 藍大は料理において気遣いのできる男だ。


 自分はあっさりしたものが食べたいと思っても、舞やリルのように食べ盛りの家族のために自分が食べる気分ではない料理だって用意してみせる。


 もっとも、あらかじめ作り置きしていた物を出来立ての状態で収納袋に入れておき、それを取り出しただけだがその気遣いが舞やリルにとってはありがたいのである。


「「「『いただきます』」」」


「ヒュー」


「「「「「「シュロッ」」」」」」


「メロン」


 昼間の食事に比べれば華やかさは欠けるが、藍大の作る家庭料理の味に全員ホッとした様子だった。


 豪華な食事も良いけど藍大の食事の方がもっと良いということだろう。


 夕食を終えて食休みした後、藍大は女性陣に先に風呂に入ってもらってからサクラ以外の従魔の体を洗ってから自分も風呂に入った。


 サクラの<浄化クリーン>でも構わないのだが、藍大の従魔達は風呂が好きである。


 火属性のゴルゴンの場合はお湯で温めたタオルで拭くだけに留まるが、それ以外の従魔はシャワーを嫌がる者はいない。


 というよりも藍大に洗ってもらえるのが嬉しいだけかもしれない。


 藍大は従魔達の世話を終えてからゆっくりと湯船につかり、今日1日のことを振り返った。


 (家族か・・・)


 婚姻届を出した時点で結婚は成立していたが、結婚式を行ったことで改めて舞とサクラと結婚したことを強く自覚したらしい。


 藍大は家計を預かる身として今まで以上に貯金しなければと思った。


 冒険者は稼ごうと思えば1日に大金を稼げる。


 それによって金遣いが荒くなり、その日暮らしになる者も少なくない。


 藍大は無駄遣いしない方ではあるが、食費が家計の大半を占めているのは言うまでもない。


 冒険者にとって体は資本だから、これをケチればパフォーマンスだって落ちてしまうリスクがある。


 となれば、日頃から節約できることはサボらずにやるぐらいはするべきだろう。


 そんなことを考えつつ風呂を上がり、後はもう寝るだけという状態になって藍大が自室に戻ると、舞とサクラがベッドの上で待機していた。


 藍大と舞、サクラが結婚してからというもの、リルは他の従魔達と寝るようになった。


 リルは最初よくわからずにいつもと変わらず一緒に寝ようとしたのだが、どこからともなくメロが現れてリルを連れて行ったのだ。


 男女関係においてメロは本当に気の利く従魔だと言える。


 そんな感じで結婚初日から藍大達は3人で夫婦の営みをするようになった。


 藍大も舞もサクラも経験がないが、そこは調べようと思えばいくらでも調べられる時代なので藍大達が知識面で困ることはなかった。


 それはさておき、今日は結婚式を挙げたことで舞とサクラの気分が昂っていた。


 少なくとも、結婚式のリハーサルの時は藍大からするはずだったキスを自分からしてしまうぐらいには昂っているのは間違いなかった。


「藍大やっと来た~」


「主、待ってたよ」


「うわっ」


 舞とサクラに引っ張られて藍大はベッドに倒れ込んだ。


「確保~」


「逃がさないよ」


 両側からがっちりと抱き着かれ、藍大は身動きが取れなくなった。


 藍大は舞とサクラと密着した状態になったことで、彼女達から良い匂いがすることに気づいた。


 その匂いはいつもと違う匂いであり、舞とサクラがシャンプーやボディーソープを変えたのだろうかと藍大は気になった。


「あれ? 舞もサクラも良い匂いだな」


「でしょ? 奈美ちゃんが調合した特別な香水を使ったの」


「薬師寺さんが作ったの?」


「うん。薬士ってすごいよね~」


 薬士の職業技能は《ジョブスキル》はできることが多い。


 モンスターにダメージを与えるような薬品を作れるだけでなく、一時的に自分達の能力値を向上させる薬品や香水まで作れてしまう。


「主、今日もたっぷり可愛がってね」


 サクラは藍大の耳元で甘く囁いた。


「私のことも可愛がってね。藍大の赤ちゃん欲しいもん」


 舞もサクラに張り合うように耳元で囁く。


 サクラがサキュバスの本能で藍大を誘惑するのだとしたら、舞もまた子孫を残そうとする生存本能によって藍大を誘惑している。


 舞は孤児であり、両親の顔を知らない。


 裕太養父のこと大事に思っていても血の繋がりはない。


 しかし、藍大と結婚して毎晩子作りに励むようになってからは藍大との間にできる子が早く欲しいと思うようになった。


 愛する藍大と私の繋がりを証明する子供が欲しい。


 これは他に血の繋がりがある者がいないからこそ、舞の中で日に日にその思いが強まっていくのである。


 (家族計画はしっかり立てよう。神奈川のハムスターとか呼ばれるのは嫌だし)


 ハムスターは子だくさんな生き物として知られていることから、藍大は舞とサクラと性に爛れた関係になって揶揄されたくないと思ったから2人に訊ねた。


「舞とサクラは子供は何人欲しい?」


「私は少なくとも2人産みたい。男の子と女の子」


「私は産めるだけ産みたい」


 舞は比較的常識の範囲内の回答だったが、サクラはぶっ飛んでいた。


 サクラの望み通りになると、神奈川のハムスター呼び待ったなしのルートに入るから藍大はサクラに待ったをかけた。


「サクラ、そんなに子供が増えたらこの家がぎゅうぎゅうになるぞ」


「主との子供ならいればいるだけ幸せだよ?」


「うっ・・・」


 小首を傾げるサクラがあざとい。


 藍大の自制心が強くなければ、クラッと来たままサクラを抱いていたに違いない。


「サクラ、とりあえず舞と同じ数にしよう。そもそも子供をたくさん作るには稼げてないと駄目なんだし」


「私、探索頑張る。いっぱい稼いでいっぱい子供作る」


 (あれ、なんか違う方向にやる気を出させちゃったか?)


「私も頑張るよ! 家族みんながお腹いっぱいご飯を食べられるようにしたいから!」


 (うん、舞はブレないな。いつまでもそんな舞でいてくれ)


 あくまで食欲に忠実な舞を見て、藍大はホッとするのと同時にいつまでも舞には変わらないでいてほしいと思った。


「ところで、主は何人が良いの?」


「そうだね。藍大の意見も聞きたいな」


「それぞれ2,3人ずつかな。舞とサクラには同じ数だけ


 藍大は舞とサクラのどちらかだけを贔屓するつもりはない。


 不公平なことになると、舞とサクラの仲が悪化すると考えているからだ。


 喧嘩の絶えない家族ではなく、仲の良い家族を目指したい藍大としては両者を平等に愛したいところである。


 戸籍上では舞が正妻でサクラが側妻だ。


 こればっかりは告白した順番だから仕方がないと言えよう。


 だが、それは今は置いておくべきだろう。


 何故なら、愛する藍大に自分の子を産んでほしいと言われた瞬間、舞とサクラの目つきが変わったのだから。


 舞もサクラもその言葉を聞いた瞬間、家族計画とかどうでも良いから藍大を抱きたいと強く思った。


 その思いが2人を突き動かした。


「藍大!」


「何?」


「んむぅ!?」


 最初は舞だった。


 舞が有無を言わせずに藍大の唇を奪った。


 獣のように荒々しく藍大を求め、藍大の体に力が入らなくなるまでキスを続けた。


 それが終われば今度はサクラのターンだ。


 サクラは舞とは対照的に大人のキスで藍大を攻めた。


 舞が剛ならばサクラは柔である。


 ここまでされれば藍大もその気になってしまうのも仕方がないだろう。


 (命燃やすぜ!)


「藍大が積極的! 激しい!」


「主! 素敵!」


 ハッスルした藍大達が眠りについたのは深夜になってからだったと記しておこう。

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