第118話 よし、これから首上げゲームを始めるぞ

 金曜日、藍大は家族全員で県内の自然公園にピクニックしに来ていた。


 家族全員なので、パンドラも今日は藍大について来ている。


 それに合わせて麗奈と司がダンジョンに挑み、未亜と健太がシャングリラで待機しているから防犯面でも問題はない。


 パンドラは未亜達のおかげでLv43まで成長しており、時々未亜達に同行しているLv47のメロとの差がかなり縮まっている。


 アビリティも<偽夢フェイクドリーム>が<悪夢ナイトメア>に上書きされ、<睡眠霧スリープミスト>から連携して使うのが効果的になった。


 今日はどうしてピクニックをすることになったかと言えば、明日の結婚式前に開けた場所に藍大がのんびりするためにどこかに遊びに行きたかったからだ。


 秋田の立石孤児院に行った時は、院長の裕太に舞と結婚することを報告しに行くという目的があった。


 そうではなくて、のんびりと舞や従魔達と触れ合う時間を設けたいからこそピクニックに来た。


 弁当は藍大が全員分用意しているし、遊び道具も十分持っている。


 今は午前10時半過ぎだから、弁当を食べるには全然早い。


 ということで、サクラとリル以外の従魔もアビリティを解除するか亜空間から呼び出された。


「今日は夕方までここで遊ぼう」


『ご主人、フライングディスクやりたい!』


 藍大が遊ぼうと言った直後にリルが自分のリクエストを告げた。


 リクエストを告げたリルの尻尾はブンブン振られており、遊びたくて仕方ないことが一目でわかる。


「リルは欲しがりだな。今用意するから少し待っててくれ」


『うん!』


 藍大はリルのリクエストに応じて収納袋からフライングディスクを取り出した。


「投げるぞ。それっ!」


「ウォン!」


 リルはテレパシーを使わずに本能的に吠え、次の瞬間には藍大の投げたディスクをキャッチして戻って来た。


 ディスクを咥えて帰って来たリルは嬉しそうだが、藍大は数回投げたことであることに気づいた。


 (俺が貧弱過ぎてリルの遊び相手になってねえ・・・)


 藍大のような後衛の冒険者の力では、すぐにリルが物足りなくなってしまうだろう。


 どうしたものかと思ったが、そんな藍大の肩を舞が優しく叩いた。


「リル君のディスクは私が投げるよ」


「なるほど。その手があったか」


 自分に力がないのならば舞に任せれば良い。


 藍大は自分だけで問題を解決することに拘らず、力のある舞にリルの遊び相手を任せた。


「リル君、私が投げるよ~」


『いつでも良いよ!』


「それ~!」


 舞は緩い感じの掛け声で投げているが、そのスピードも飛距離も藍大が投げた時とは比べ物にならなかった。


 リルも本気でディスクを取りに行き、ジャンプしてキャッチした時の姿は芸術と呼んでも過言ではなかった。


 リル以外の従魔だが、それぞれバラバラに楽しんでいた。


 ゲンは日向ぼっこをして目を閉じており、メロは気になる草花を集めてパンドラはその荷物持ちをしている。


 藍大の前に残っているのはサクラとゴルゴンだった。


 サクラは藍大の傍にいられればそれだけで楽しいから残っており、ゴルゴンは藍大が収納袋から取り出した色違いのバンダナに興味を示していた。


「ゴルゴン、これが気になるのか?」


「「「「「「シュロッ」」」」」」


 全ての首が縦に振られるのを見て、藍大は不意にゴルゴンと遊ぶ方法を思いついた。


 すぐに藍大はゴルゴンの首に違う色のバンダナを撒き始めた。


 バンダナは赤と青、緑、黄、黒、白の6色あった。


「よし、これから首上げゲームを始めるぞ」


「「「「「「シュロ?」」」」」」


 首上げゲームって何と言わんばかりにゴルゴンは首を傾げた。


 藍大が言う首上げゲームとは旗揚げゲームの首版である。


 ゴルゴンには手がないから、6つの首それぞれに色のついたバンダナを着けて役割を決める。


 旗の代わりに首を上げ下げするのが首上げゲームということだ。


 ゲームの説明を終えると、ゴルゴンは楽しそうだとおもしろそうだとソワソワしていた。


「準備は良いか?」


「「「「「「シュロッ!」」」」」」


 やる気十分なゴルゴンを見て、藍大はホイッスルをサクラに任せた。


「始めるね。ピッピッピ! ピッピッピ! ピッピッピッピッピッピッピ!」


 前奏の三三七拍子が終わってすぐに藍大がそれに続く。


「赤上げて、白上げて、赤下げないで、青上げる。黒上げて、赤下げて、黄色上げないで、緑上げる」


「「「「「「シュロ~」」」」」」


 1巡目はどの首も間違うことがなかったので、ゴルゴンの全ての首がドヤ顔になった。


 そのドヤ顔が鼻についたらしく、サクラがムッとした表情になった。


「スピードアップするよ。ピッピッピ! ピッピッピ! ピッピッピッピッピッピッピ!」


 サクラがスピードを上げて吹いた前奏の三三七拍子が終わると、藍大もその流れに続く。


「青下げて、白下げて、黒下げないで、黄色上げる。緑下げて、黄色下げて、赤下げないで、赤下げる」


「シュロッ!?」


 赤いバンダナをしていた首がうっかり間違って上げていたため、やってしまったと声を上げた。


「あれれ? ちょっとスピードを上げただけなのにもう間違えちゃったの?」


「シュロロ・・・」


 赤いバンダナのを付けた首はサクラに煽られてぐぬぬと悔しがっていた。


 そこに興味を持った舞とリルがやって来た。


「面白そうなことやってるね」


『僕もやりたい!』


 メロとパンドラも採集を終えたのか戻って来た。


「メロ!」


「キシッ!」


 自分以外の従魔が全員やるとなれば、日向ぼっこをしていたゲンもやる気になっていた。


「ヒュー」


「よろしい、全員参加だな。サクラも一番従魔として負けられないんじゃないか?」


「むむっ、負けないよ」


「だったら私がホイッスルを担当するよ」


 話がまとまり、ゴルゴンだけが選手の首上げゲームは藍大の従魔対抗戦のバンダナ上げゲームへと移行した。


 赤いバンダナはサクラの右腕に巻く。


 青いバンダナはリルの右前脚に巻く。


 緑のバンダナはゲンの右前脚に巻く。


 黄色のバンダナはゴルゴンの代表の首が巻く。


 黒のバンダナはメロの右前脚に巻く。


 白のバンダナはパンドラの右の鋏に巻く。


 全員の準備が整うと、舞がホイッスルで前奏の三三七拍子を吹き始めた。


「いっくよ~。ピッピッピ! ピッピッピ! ピッピッピッピッピッピッピ!」


「赤上げて、黒上げて、青上げないで、緑上げる。赤下げて、黒下げて、緑下げないで、黄色上げる」


 1巡目は様子見だったことから誰も間違うことはなかった。


「問題なさそうだからスピードアップするね。ピッピッピ! ピッピッピ! ピッピッピッピッピッピッピ!」


 舞がスピードを上げて吹いた前奏の三三七拍子が終わると、藍大もその流れに続く。


「青上げて、白上げて、赤上げないで、赤上げる。黄色上げて、黄色下げて、黒上げないで、黄色下げない」


「「「「「「シュロッ!?」」」」」」


 2巡目が終わった時、ゴルゴンは自分が間違ったことで全員から注目を浴びたのだと気づいて声を上げた。


「ゴルゴンは騙されやすいみたいだな」


「「「「「「シュロッ! シュロロッ!」」」」」」


 待ってほしい、これは孔明の罠なんだと言わんばかりにゴルゴンが訴えるが、藍大はそんなゴルゴンの頭を優しく撫でる。


「落ち着け。別にそれでどうこう言うつもりはないさ。得手不得手があるのは当然だろ? 焦らなければできるんだから、予想外なことが起きても焦らないようにどんと構えれば良いんだ」


「「「「「「シュロ~」」」」」」


 普段は<残機レフト>で複数の首を同時に動かしてアビリティを発動できているのだから、ゴルゴンが馬鹿ということではない。


 焦った時に判断力が下がるだけだ。


 それだけならば誰にだって起こり得ることなのだから、ゴルゴンだけを吊るし上げる理由はないだろう。


 藍大がそう言う意図を込めて言ったのだと理解すると、ゴルゴンはやってみると応じてから藍大に甘えた。


 バンダナ上げゲームがひと段落すると、弁当を食べるには丁度良い時間だったので昼食を取ることにした。


 藍大はそれぞれに弁当を用意しており、食べはぐれる者がいないようにした。


 午後は従魔達の毛づくろいをしたり、舞とサクラが交代で藍大を膝枕させたりと本当にのんびりと過ごした。


「偶にこうやって休む日を設けるか」


「そうだね~。こういう日があっても良いと思うよ」


「主を膝枕するのは毎日でも良い」


「あっ、私も」


 この会話を掲示板の住人達が聞いたらリア充爆発しろと連投することは間違いない。

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