第110話 あ、ありのまま今起こった事を話すぜ!

 シャングリラに帰った藍大達を待っていたのはバーベキューの準備を済ませていた未亜と健太だった。


 後は肉や野菜を焼くだけの段階にしておけば、藍大は0から料理を作る必要もないし救援組のことも労える。


 その上自分達もバーベキューにありつけるから皆が幸せになれるという理論を展開したようだ。


 しかも、健太が連絡したのかバーベキューを初めて少ししてから茂まで駆け付けた。


 これで茂も健太もバーベキューに参加できる。


 バーベキューはすぐにカオスになった。


 食いしん坊ズとゲン、ゴルゴンは食べまくり、麗奈と健太は酒をハイペースで飲んでいく。


 麗奈と健太が奈美に絡み、それを司が助けようとすると未亜が健太と司の絡みを期待して腐女子全開腐ルスロットルになる。


 そんな中、藍大とサクラ、メロ、茂は静かに落ち着いて食べていた。


 パンドラは食べたりしないが非戦闘地域藍大の近くに避難していた。


「こりゃヤベえわ。藍大が前にしばらくやりたくねえって言った意味わかった」


「だろ? メロ、野菜の串焼きは美味いか?」


「メロン!」


「主も食べてね。あ~ん」


「おう。ありがと」


 メロにちゃんと食べているか訊く藍大に、サクラは甲斐甲斐しくお肉を食べさせてあげる。


 サクラと藍大のやり取りを見て、茂は話さなければならない話の1つを切り出すことにした。


「これなら問題なさそうだな」


「何が?」


「恐らく数日の内に報道されると思うが、日本でも一夫多妻制が導入されることになった。調べたところDMUに登録された男性冒険者の数も減ってきてるから、男性冒険者が複数人囲わないと今後もっと人口減少が予想される」


「マジ?」


「マジだ。それでな、政府は亜人型の従魔と人の結婚も認めるそうだ。つまりはお前とサクラちゃんも結婚できるようになった」


「あ、ありのまま今起こった事を話すぜ! 俺が肉を焼いてたら一夫多妻制が導入されることになって、人と亜人型従魔が結婚できるように法改正が進んでた。な、何を言っているのかわからねーと思うが俺も何を言われたのかわからなかった。寝言だとか夢物語だとかそんなチャチなもんじゃあ断じてねえ。もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ・・・」


「長文乙。一通りボケて少しは落ち着いたか?」


「落ち着いた」


 茂の口から聞かされた事実により、藍大はノータイムでボケに走った。


 ボケに走るのだって頭を使うのだから、馬鹿ではここまで長いボケを用意できまい。


 藍大はボケが終わる頃には茂に言われたことをしっかりと理解していた。


「つまり~、藍大は私とサクラちゃんの両方と結婚できるんだね~」


「舞!? あっちでリル達と山盛りの肉を食べていたはずじゃなかったのか!?」


「もう食べ終えたよ。それに大事な話が聞こえたからこっちに来たの」


「う、嘘だろ? あの量を食い切ったのか? えっ、ちょっ、メロ? パンドラも?」


 茂は途中でメロとパンドラに背中を押されてこの場から退席した。


 メロもパンドラも空気が読める従魔である。


「そうか。全部話は聞いてたんだな」


「うん。私は藍大と結婚したいと思ってる。でも、サクラちゃんに気持ちを押し殺させたまま結婚するのは違うとも思ってたんだ」


「そこまでサクラのことを考えてくれてたのか」


「当たり前だよ。サクラちゃんはいつも藍大のために頑張ってくれてたんだもん。そんな健気な子を追い払って藍大と結婚しようとするような嫌な女じゃないよ」


「・・・舞。良いの?」


 先程までずっと黙っていたサクラだが、舞が自分も藍大と結婚することを認めてくれると知ると嬉しくて黙っていることができなくなって訊ねた。


「良いよ。あっ、でも正妻は私だからね?」


「むぅ・・・。わかった。私は2番目で良いよ」


 (・・・どうしよう。俺を置いてどんどん話が加速してるぞ)


 藍大は頭を回転させた。


 このまま舞とサクラにリードされて結婚するのを良しとしなかったからである。


 そして、藍大は舞がこんなプロポーズされてみたいと言われた時のことを思い出した。


 そうなれば、藍大の体は次にすべきことを理解して動いていた。


 藍大は舞の正面に立つと、顎をクイッと持ち上げてお互いの目線を合わせた。


「おい、結婚しろよ」


「はい!」


 藍大が舞にプロポーズした時、がやがや騒いでいた外野はしーんと静まり返っていた。


 メロと茂が静かにするように”楽園の守り人”のメンバーに働きかけ、藍大達のムードを壊さないようにするためだ。


 普通ならばこれで外野が騒ぐはずだが、まだもう1回プロポーズが残っているとわかっているので騒ぎ出したい気持ちをどうにか抑え込んでいた。


 そんな外野の気持ちなんて知る由もなく、藍大は次にサクラの方を向いた。


 サクラには無理俺様キャラする必要がなく、自然体で受け入れてほしいと言われていたので気持ちを落ち着かせてからプロポーズした。


「頼りない主だけどずっと傍にいてくれるか?」


「うん!」


「イェェェェェェェェェェイ! リア充爆発しろぉぉぉぉぉっ!」


「やかましい!」


 藍大の連続プロポーズが決まると、我慢できなくなった筆頭の健太が騒ぎ始めたので茂が容赦なく脳天に手刀を落とした。


「祝い酒よ! 奈美、お酒を持って来て!」


「お、おめでとうございます! れ、麗奈さん、もう飲み過ぎです!」


「司もほら、あそこに行ってプロポーズしてきいや」


「僕はノーマルだからね!? 藍大、舞、サクラちゃん、おめでとう!」


 カオス再びである。


 藍大のプロポーズ成功という燃料が投下されたことで、麗奈と未亜が一気にエンジン全開となった。


 奈美と司が体を張って対応しているので、その隙にリル達が藍大と舞、サクラの周囲に集まった。


『ご主人、舞、サクラ、おめでと~』


「ヒュー」


「「「「「「シュロッ!」」」」」」


「メロン!」


「キシッ」


「ありがとな」


「ありがと~」


「ありがとう」


 藍大と舞、サクラの結婚を祝ってとても幸せに満ちた空間が広がった。


 そのせいでシャングリラの住人達のカオスっぷりが際立つが、そんなことは藍大達が知ったことではない。


「あっ、そうだ。急だったから舞とサクラに指輪を用意してなかった。明日買いに行くか?」


「「行く!」」


「待て。待つんだ藍大」


 茂が指輪を買いに行こうとする藍大達に待ったをかけた。


「なんだよ。人を炊きつけといてここで邪魔するのか?」


「違う、そうじゃない。DMUの職人班の中にはアクセサリーを作る人もいて、是非自分達の力作を披露させてほしいって言われてたんだ」


「職人班はなんでもありかよ」


「創作活動において職人班程頼りになる人達はいねえ」


「それは確かに」


「安定の職人班だよね」


「見てみたい」


 今までにDMUの職人班が用意してくれた物は、いずれも素晴らしい出来だったから藍大達に拒否する理由はない。


「OK。問題なさそうだから、明日ここにアクセサリー担当の人が来るように手配しとく」


「よろしく頼む」


「指輪の件は良いとして、俺からはこれを渡しておこう」


「これは・・・、一夫多妻制に応じた婚姻届か。もうこんなのあるのかよ?」


「どうせならお前達をこの国の1組目にしてやろうと思って用意しといた。無駄にならなくて良かったぜ」


「お前って奴はマジで仕事ができるな!」


 これには舞もサクラも首を縦に振っている。


 ここまで手際が良いと逆に怖いぐらいだ。


「それ程のことはあるぜ。藍大達のプロポーズも上手くいったことだし、もう1つの話もして良いか?」


 褒められて悪い気はしない茂は、この流れで潤に頼まれていたもう1つの話もするつもりだ。


 ビッグウェーブを逃さないのが茂という男である。


「話を聞こう」


「よし。轟と広瀬、薬師寺さんを正式に”楽園の守り人”のメンバーに迎えるつもりはないか?」


「出向じゃなくて正式なメンバーにするってことか?」


「おう。勿論本人達の意思次第にもなるが、藍大はもう三原色のクランと同等の戦力を持ってるだろ。だから、本部長が出向という制度を終わらせる時が来たんじゃねえかってな。まだあの3人には知らせてないが」


 茂がDMUの内情をぼかして告げると、藍大はなんとなくそのあたりの事情を察した。


「DMUも一枚岩じゃねえのな。小父さんも苦労してる訳だ」


「ぐっ、やっぱりわかるか」


「たりめーよ。茂の癖はよくわかってる。話しにくい内容はノリで押し切ろうとするからな。ピンと来たぜ」


「藍大にゃバレるわな。健太ならどうとでもなるんだが」


「ありゃ馬鹿だからな」


「それな」


「なんか呼んだかー?」


「「呼んでねえ」」


 自分の名前に反応した健太に対し、藍大と茂の反応がシンクロした。


 それを見て舞がパチパチと拍手する。


「すご~い。息ぴったりだね~」


「まあな。しょうがねえな。俺からあいつらに話してやろう。貸しだぞ?」


「すまん」


「麗奈、司、薬師寺さん、ちょっと良いか?」


「何~?」


「何かな?」


「な、なんでしょう?」


「DMU辞めてウチ来ない?」


 茂はストレート過ぎるぜ藍大と言わんばかりの視線を向けるが賽は投げられてしまった。


「良いよ~。好きにお酒飲めるし」


「僕も構わないよ。”楽園の守り人”を気に入ってるし」


「わ、私もこのクラン好きですから、構いません」


「だってさ、茂」


「お、おう。俺が悩んでたのにこうもあっさり決まるとは・・・」


 あれこれ考えて論理的に話すことは大事だが、それだけでは物事が進まない。


 時には藍大のように直感も使い分ける必要があると茂は学んだ。


 こうして、藍大は舞とサクラと結婚することになり、麗奈と司、奈美が”楽園の守り人”の正式なメンバーになることが決まったのだった。

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