第109話 薄汚いゴブリン共、姿勢を正しなさい!

 藍大達が移動した先は中学校だった。


 校門はひしゃげており、校庭では戦闘が行われていた。


 (なるほど。現地の冒険者はここで戦ってたのか)


 緊急避難場所の護衛をしていたからこそ、外では冒険者の姿が見当たらなかったのかと藍大は納得した。


 藍大達が校庭に移動すると、その中心に人が多く固まっていてそれを守るように冒険者達がいた。


 冒険者達は自分達を包囲するゴブリンの群れに応戦し、ゴブリンを一般人に近づけまいとしていた。


「主、あそこのゴブリンが偉そう」


「あれはゴブリンジェネラルだよ」


「ゴブリンジェネラル? あれが?」


 サクラが指差した方角にいたのは通常のゴブリンの倍は大きなゴブリンだった。


 ただのゴブリンは棍棒に腰蓑という装備だが、舞がゴブリンジェネラルだと告げた個体は錆びた戦槌ウォーハンマーと血まみれのマントに使い古された鎧を装備していた。


 ゴブリンジェネラルが統率するゴブリンの中には、槍を持った個体や弓を持った個体、剣を持った個体、杖を持った個体がいた。


 藍大がモンスター図鑑で調べてみると、それぞれゴブリンランサーとゴブリンアーチャー、ゴブリンソードマン、ゴブリンメイジと表記された。


 いずれもゴブリンがクラスアップしたものである。


 そんな中、ゴブリンジェネラルの両脇に控えているゴブリンは舞のものとは比べ物にならない程お粗末だが鎧を身に着けていた。


 その2体はゴブリンナイトと言い、今この場においてはゴブリンジェネラルの次に強い種族だと言えよう。


 包囲されて怯えている者達を見て、ゴブリンジェネラルは下卑た笑みを浮かべていた。


「ゲギャギャ!」


 (指揮系統を混乱させるには・・・、燃やすか)


 藍大は高みの見物を決め込んでいるゴブリンジェネラルに狙いを定め、<火炎眼フレイムアイ>を発動した。


「ゲギャァッ!?」


「「ゲギャ!?」」


 その瞬間、自分の体が炎に包まれてゴブリンジェネラルは地面を転げ回った。


 ゴブリンジェネラルに何が起きたのかわからず、ゴブリンナイト達は頭を抱えてゴブリンジェネラルの周りをグルグル回るように走っている。


 ゴブリンジェネラルは地面に体を擦り付けて消火しようとするが、<火炎眼フレイムアイ>の炎が中々消えない。


 結局、藍大の一撃によってHPを全損したゴブリンジェネラルは物言わぬ死体となって燃え尽きるまで燃えっ放しとなった。


 自分達を束ねていたゴブリンジェネラルが死ぬと、どうすれば良いかわからなくなったゴブリン達はパニックに陥った。


「サクラはゴブリン共を動けなくしろ」


「薄汚いゴブリン共、姿勢を正しなさい!」


 サクラの<導気カリスマ>により、指揮官を失ってパニックになったゴブリン達は新たな指揮官を得たと誤認してその指示に従った。


「舞とリルは狩り尽くせ」


「ヒャッハァァァァァッ! 汚物は消毒だぜぇぇぇっ!」


『ご主人の敵は僕の敵だよ!』


 舞はB2メイスで片っ端からゴブリン達を殴り飛ばし、リルは<輝銀狼爪シャイニングネイル>でバッサバッサと斬り捨てた。


 (これでもう終わりか? いや、まだ残ってたか)


 藍大が敵を殲滅したと思ったタイミングで、8体のゴブリンナイトに担がれた神輿が遅れて藍大達のいる中学校の校庭にやって来た。


 その神輿の上には、ゴブリンジェネラルの倍のサイズはあるゴブリンが偉そうにふんぞり返っていた。


 偉そうなゴブリンが座る椅子には大剣が立てかけられており、ゴブリンジェネラルよりも上等な鎧と血に染まったマントを身に纏っていた。


 そして、偉そうなゴブリンの頭の上には安っぽい王冠らしき物が乗っていた。


 藍大はその正体に心当たりがあったが、決めつけずにモンスター図鑑でその正体を調べた。



-----------------------------------------

名前:なし 種族:ゴブリンキング

性別:雄 Lv:40

-----------------------------------------

HP:330/330

MP:250/250

STR:500

VIT:350

DEX:250

AGI:250

INT:0

LUK:260

-----------------------------------------

称号:ゴブリンの王

   性豪

   災厄

アビリティ:<重飛斬ヘビースラッシュ><怪力投擲パワースロー

      <戦叫ウォークライ><硬化突撃ハードブリッツ

装備:ゴブリンズクラウン

   ブラッディマント

   アイアンアーマー

   ゴブリンキラー

備考:不快

-----------------------------------------



 (ゴブリンキングがゴブリンキラー持ってるってどゆこと?)


 藍大が気になったのはそこだった。


 Lv40という数字だけ見れば、藍大が今まで戦ってきた中で最もレベルは高い。


 しかしながら、その能力値の合計はシャングリラダンジョン地下1階の”掃除屋”程度だから大したことはない。


 強いて言うならば”性豪”に嫌な印象を抱いたが、どうせすぐに倒すからと大して気にならなかった。


 ”災厄”という称号がスタンピードの核となるモンスターに与えられる称号だということも、”性豪”と同様にすぐに倒すから些細な問題とみなした。


 そんなことよりも、ゴブリンの癖にゴブリンとの戦闘で力を発揮するゴブリンキラーを持っていることの方が重要である。


 ゴブリンキングがどうやって手に入れたのかもそうだが、自分達にとって脅威となるから奪われまいと自分で使っているとしたらゴブリンキングに最低限の知能があることになる。


 これで喋れるなら尋問して話を聞くこともできるけれど、その淡い期待はあっさりと消えた。


「ゴォォォォォォォォォォッ!」


「「「・・・「「ゴブッ、ゴブッ、ゴォォォォォブッ!」」・・・」」」


 ゴブリンキングは<戦叫ウォークライ>を発動した。


 自分よりも弱い者を委縮させるだけでなく、今のこの場においては神輿を担ぐ8体のゴブリンナイトを鼓舞する役目も果たしていた。


「うっせえわ。サクラ、黙らせてくれ」


「は~い。死んでくれる?」


 サクラは<深淵支配アビスイズマイン>で深淵の刃を形成すると、それを操作して真っ先にゴブリンキングの首を刎ねた。


 自分達の大将が瞬く間にやられてしまい、呆然としたゴブリンナイト達もサクラが深淵の刃で次々に首を刎ねて倒してしまった。


『サクラがLv62になりました』


『サクラが称号”災厄殺し”を会得しました』


『サクラの称号”災厄殺し”と称号”ダンジョンの天敵”が称号”守護者”に統合されました』


『おめでとうございます。従魔が初めて称号”守護者”を会得しました』


『初回特典として逢魔藍大はシャングリラダンジョンに自由に出入りできる権利を誰か1人に与えられるようになりました』


『リルがLv61になりました』


『リルが称号”災厄殺し”を会得しました』


『リルの称号”災厄殺し”と称号”ダンジョンの天敵”が称号”守護者”に統合されました』


『ゲンがLv58になりました』


『ゲンが称号”災厄殺し”を会得しました』


『ゲンの称号”災厄殺し”と称号”ダンジョンの天敵”が称号”守護者”に統合されました』


『ゴルゴンがLv53になりました』


『ゴルゴンが称号”災厄殺し”を会得しました』


『ゴルゴンの称号”災厄殺し”と称号”ダンジョンの天敵”が称号”守護者”に統合されました』


 (長いっての。”守護者”ってなんだよ)


 システムメッセージの長さが過去最高だったため、藍大は若干うんざりした気分で”守護者”の効果を確かめた。


 すると、ダンジョン内外問わずモンスターと戦う時は全能力値が1.5倍になり、一般人からの好感度が上昇するとあった。


 ”ダンジョンの天敵”の上位互換であることは間違いない。


 それだけ確認できれば他に今すぐ調べなければならないことはない。


 藍大は舞達を労った。


「みんなグッジョブ。俺達が来てからここにいた人達に被害は出してないぜ」


「今日の晩御飯は期待しても良いかな~?」


「良いとも!」


「『やった~!』」


 藍大がノリ良く返事をすると、舞とリルが喜んで飛び跳ねた。


「ちょっと疲れちゃった」


「よしよし。サクラはよく頑張ってくれたよ」


「エヘヘ♪」


 藍大がサクラの頭を撫でると、サクラは嬉しそうに笑った。


 その後、ゴブリンキングを討伐した証拠だけ回収してから藍大は茂にスタンピードを終わらせたと連絡した。


 ”災厄”を持つモンスターを倒せばスタンピードが収まるという情報を藍大から聞くと、茂は藍大に感謝して他の現場に連携するために電話を切った。


 麗奈と司はこの場から遠くない高校で自衛隊に後続対応を引き継いで避難民の安全を確保した後に藍大と合流した。


 朝はダンジョン探索で昼はスタンピードとなればクタクタだろう。


 それゆえ、藍大達は地元のメディア関係者の取材に簡単に答えてからDMUの手配したヘリコプターで日没までにシャングリラへと帰った。

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