第101話 ひぇっ!? 今のなしで!

 ゴルゴンが進化できるようになったので、プラチナアイの解体と回収を済ませた藍大はゴルゴンに話しかけた。


「ゴルゴン、進化するか?」


「「「シュロッ」」」


 藍大の問いかけにゴルゴンは3つの首全てを縦に振った。


 ゴルゴンの意思を確認できたので、藍大はモンスター図鑑のゴルゴンのページを開いて備考欄にある進化可能の文字に触れた。


 その瞬間、ゴルゴンの体が光に包まれた。


 光の中でゴルゴンのシルエットに変化が生じた。


 3つだった首が倍の6つに増えたのだ。


 それに応じて首を支えられるようにゴルゴンの体が大きくなり、そのサイズは軽自動車並みとなった。


 光が収まると、濃い赤色の鱗の隙間から赤い炎を放出して纏うゴルゴンの姿があった。


 今までのゴルゴンの顔つきと比べて凛々しく、藍大は進化しただけでここまで変わるのかと思う程だった。


『ゴルゴンがトライデントレッドからレッサーパイロヒュドラに進化しました』


『ゴルゴンがアビリティ:<装飾化アクセアウト>を会得しました』


『ゴルゴンのデータが更新されました』


 システムメッセージが止んで進化が完了すると、ゴルゴンは驚いただろうと期待した顔を向けた。


「こいつは恐れ入った。ゴルゴンも俺の装備になれるのか」


「「「「「「シュロン♪」」」」」」


 得意気な表情を浮かべるゴルゴンの全ての頭を撫でた後、藍大はゴルゴンの更新されたステータスを確認し始めた。



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名前:ゴルゴン 種族:レッサーパイロヒュドラ

性別:雌 Lv:50

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HP:700/700

MP:780/780

STR:850

VIT:740

DEX:780

AGI:670

INT:900

LUK:720

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称号:藍大の従魔

   融合モンスター

   ダンジョンの天敵

アビリティ:<残機レフト><火炎牙フレイムファング><火炎眼フレイムアイ

      <再生リジェネ><火炎吐息フレイムブレス><装飾化アクセアウト

装備:なし

備考:ご機嫌

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 (こいつはグレートだぜ!)


 ゴルゴンが新しく会得した<装飾化アクセアウト>の効果を知ると、藍大はテンションが上がった。


 何故なら、<装飾化アクセアウト>によって藍大は初めてまともな攻撃手段を手に入れたからだ。


 <装飾化アクセアウト>を使うと、発動者が選んだ対象の望むアクセサリーへと姿を変えて装備されるだけでなく、藍大の体で実現可能なアビリティを1つだけ使えるようにする効果がある。


 <残機レフト>と<火炎牙フレイムファング>、<再生リジェネ>、<火炎吐息ファイアブレス>は体の構造上使うことができず、<装備化アクセアウト>は二重掛けできない。


 消去法ではあるが藍大にもMPはあるため、目を発動媒体とするだけの<火炎眼フレイムアイ>を使えるという訳だ。


 ただし、前述の通り<火炎眼フレイムアイ>の発動には藍大のMPを消費する必要があるから、ゴルゴンのように連発することはできない。


 それでも、ゴルゴンがアクセサリーに変身する時しかMPを消費をしないならば、いざという時には変身を解除すれば良いのでゴルゴンを連れて移動もできる。


「ゴルゴン、早速<装飾化アクセアウト>だ」


「「「「「「シュロッ!」」」」」」


 藍大に指示されたゴルゴンは<装飾化アクセアウト>を発動した。


 それによってゴルゴンの体が小さい光の球へと変わり、そのまま藍大の前髪の辺りに移動して止まった。


 光が収まった時、ゴルゴンの体は赤い蛇を彷彿とさせる曲線を描いたヘアピンへと変わっていた。


「ん?」


「藍大がヘアピン男子になった!」


「偶に髪が邪魔って思ってたせいかも。これなら視界が安定してクリアになる」


『これでアタシの名前を変えなくて済むわ。ゴルゴン要素皆無じゃ困るもの』


「ゴルゴンも<装飾化アクセアウト>で俺に声が聞こえるようになるのか」


『やっとマスターに声が届いたわ。アタシがゴルゴン要素をキープしてあげたんだから感謝してよねっ』


「ありがとな。助かったよ」


 ゴルゴンという名前なのに首が6つの姿になってしまったため、3つの首から連想した名前は関連性がなくなってしまった。


 しかし、ゴルゴン三姉妹には蛇の髪で有名なメデューサがいるから、ゴルゴンは自身をヘアピンに変身させることで髪繋がりでどうにかゴルゴンらしさを保ったのだ。


 自分の名前への拘りを守るのと同時に藍大の希望にも応じるのだから、ヘアピンに化けたことは一石二鳥だと言えよう。


 ゴルゴンと話をした藍大は、早く<火炎眼フレイムアイ>を使ってみたいという衝動に駆られて実験することにした。


 ダンジョンの壁の適当な位置に狙いを定め、心の中で<火炎眼フレイムアイ>と唱えた。


 その瞬間、藍大の体からMPが抜け出た直後に藍大の目が赤く光った。


 それからシュボッと勢いのある音が鳴り、それと同時にダンジョンの壁が燃えた。


 (ふぅ。無詠唱でいけたか。これが無理だったらどうしようかと思った)


 アビリティ名を唱えないと使えないとなると、今から自分が何かしますと敵に教えながら攻撃することになる。


 中二心をくすぐる必殺技みたいで良いなと思う反面、自分が弱者だと理解している藍大は攻撃するならば奇襲じゃないと通用しないと思っていた。


 それゆえ、無詠唱で<火炎眼フレイムアイ>が発動したことにホッとした。


 その一方、舞は訳がわからずに叫んだ。


「えっ、なんで!?」


「ゴルゴンの<装飾化アクセアウト>のおかげだ。これで俺もゴルゴンの<火炎眼フレイムアイ>を使える。とは言っても、MPが俺に依存するからさっきの威力だと1日3回が限度だけど」


「それでもすごいよ! 藍大も攻撃に参加できるね!」


 舞は藍大が制限付きでも戦いに参加できることを喜んだ。


 ゲンのおかげで防御面では安心できるようになったが、藍大には反撃する手段がなかった。


 それがマシになっただけであるにもかかわらず、舞は自分のことのように藍大が強化されたことを喜んだ。


「ありがとう、舞。ゴルゴンもありがとな」


『これはアタシが頼れる従魔首位になったと言っても過言でもないわね』


「なんだかゴルゴンが調子に乗った波動を感じる」


『ひぇっ!? 今のなしで!』


 自分の声が届いていないはずなのに、サクラが自分の口にしたことを察知したのでゴルゴンはすぐに自分の発言をなかったことにした。


 サクラは一番従魔の座を譲るつもりはない。


 そのプライドがゴルゴンの調子に乗った波動を察知したに違いない。


 藍大はそんなサクラの頭を撫でてから提案した。


「サクラ、プラチナアイの魔石はサクラがLv60になってからにしないか?」


「うん。主がそう言うならそうする~」


「よしよし。きっとLv60で新しいアビリティが手に入るから、ちょっとだけ我慢しような」


「は~い」


 サクラは藍大に甘えるように腕に抱き着いた。


『もう二度と舐めたこと言わないから許してほしいんだわっ』


「次はないからね」


『ひぇっ!? やっぱり聞こえてる!?』


 ゴルゴンがサクラに聞こえないと思いつつ謝ると、サクラにはその謝罪が聞こえたのか会話が成立した。


 それにはゴルゴンも怯えないはずがない。


 ところが、ゴルゴンの怯えた声にはサクラが反応しなかったことから先程のはまぐれだったのだろう。


 藍大はサクラがゴルゴンの声を聞き取れたのか気になって訊ねてみた。


「サクラ、何か聞こえたのか?」


「ううん。でも、なんとなくゴルゴンが調子に乗ったことを謝ったように思ったの。女の勘だよ」


「女の勘ってすげえ・・・」


 自分は男で全くその感覚がわからないので、藍大はサクラの直感が優れているのだと理解した。


 それはさておき、藍大にはまだ確認事項が残っていた。


 サクラのそれぞれの能力値が1,000を超えたことの初回特典である。


 システムメッセージによれば、初回特典は収納袋の中に既に入っている。


 藍大は何がプレゼントされたのかワクワクし、収納袋の中に手を突っ込んだ。


 これだと思う物が手に触れると、藍大はそれを収納袋から取り出した。


「こ、これは・・・!?」


「フライパンだ!」


 舞はフライパンを目にしてテンションが上がった。


 藍大が取り出したのはただのフライパンではないだろう。


 それは隠し部屋の宝箱で手に入れたミスリル包丁と同じ輝きなのだから。


「サクラ、ちょっとこれ持ってみて」


「うん」


 サクラにフライパンを持ってもらうと、藍大はモンスター図鑑でそのフライパンの正体を確かめた。


 (ミスリルフライパン。これも料理専用で破壊不能か)


 天が藍大に料理をしろと言っているのだろうか。


 いや、包丁だけミスリルでは中途半端だから、ミスリルの調理器具が他にもあった方が良いかもなんて藍大の頭にチラついたせいである。


「藍大、晩御飯期待してるね!」


『ご主人、楽しみにしてるね!』


 食いしん坊ズが藍大に期待に満ちた目を向ける。


 そんな目を向けられれば、藍大の返事は決まっている。


「任せとけ。美味いもん作ってやるよ」


 藍大がそう言うと、舞とリルの腹から空腹のサインが聞こえた。


 もう正午を回っていたので、藍大達は早く昼食にありつきたい舞とリルに急かされるようにしてダンジョンを脱出した。

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