第102話 ねんがんのミスリルをてにいれたぞ

 ダンジョンを脱出して奈美に戦利品の買い取りをしてもらった後、藍大は舞とリルに急かされてササッと炒飯を作った。


 ミスリル包丁とミスリルフライパンを使ったことで、そもそも結構な腕前だった藍大の料理がもうワンランク上がった。


 舞とリルは無我夢中に食べ、食事が終わった今でも幸せそうに余韻に浸っている。


「美味しかったな~」


『ご主人のご飯が一番だよ~』


「普通に作っただけだったんだがなぁ」


 藍大も特別何かした訳ではなかったが、先程食べた炒飯は確かに今までに作った炒飯よりも美味しかった。


 それゆえ、調理器具が違うだけでこうも変わるのかと感心していた。


 14時になると、藍大の部屋のチャイムが鳴った。


「クランマスター、ウチや。ついでに健太もおるで」


「はいよ。今開ける」


 藍大はクラン専用の掲示板を使い、14時に自分の部屋に来るように未亜と健太に伝えていた。


 パンドラのお披露目のために呼び出したのだ。


 メロもお助けキャラとして未亜達に同行したが、今のメロが主に担当する仕事は家庭菜園の世話である。


 メロに家庭菜園の世話をメインに担当してもらうには、新たにパンドラを未亜達に紹介する必要がある。


 余談だが、メロは今日の探索に同行したおかげで2つレベルが上がってLv43になっていた。


 昼食を取って休憩した後、中庭の家庭菜園で本業に従事している。


 藍大がドアを開けて未亜達を迎え入れると、未亜は目聡く藍大のヘアピンに気づいた。


「あれ? クランマスターってそんなオシャレしとらんかったよな?」


「その説明もする。とりあえず中に入ってくれ」


「了解や」


「お邪魔するぜ」


 未亜と健太は部屋の中に入ると、ぐでーっと昼食で感じた幸せの余韻に浸る舞とリル、ついでに昼寝中のゲンを目撃した。


「なあなあ、今日の昼飯は何食べたたんや? ウチにも教えてみ?」


「炒飯だ」


「炒飯でこんなことにならんやろ。そら、クランマスターの料理が美味いことは認めるけどな」


「それな。藍大の飯は美味い。それでも炒飯食べただけでこの反応はおかしい。何か隠してるだろ? さあ吐け。すぐ吐け。絶対吐け」


 未亜よりもむしろ健太の方が藍大にグイグイ迫った。


 その様子に未亜は鼻の穴を膨らました。


「むほっ、ええで! 健太、クランマスターの胸倉を掴んでから反対の手で顎クイや!」


「誰がやるか!」


「えぇ~、やってや~。何も減るもんなんてあらへんやろ~?」


「減る! 俺のSAN値が間違いなく減ってる!」


 頼むから自分を未亜の妄想BLに巻き込まないでくれと健太は抗議した。


 藍大も気持ち的には健太と同感なので話題を修正した。


「舞とリルがああなってんのは今日のダンジョンで手に入れた調理器具の効果だ」


「「調理器具?」」


「ねんがんのミスリルをてにいれたぞ」


 そう言いつつ、藍大はキッチンからミスリル包丁とミスリルフライパンを持ち出して2人に見せた。


「嘘やん・・・」


「殺してでもうばいとる」


 未亜は口をあんぐりさせ、健太は藍大のネタを理解してボケをかぶせた。


 ところが、健太の発言に静かに殺意を向けた者がいた。


「ゴミの分際で主を殺すって言った?」


「違うんですサクラ様! これはそういうネタなんです! 藍大、お前からも説明してくれ!」


 サクラに睨まれた健太は瞬時に土下座に移行し、本気で言った訳ではないことを弁明した。


 しかし、自分の発言だけでは信じてもらえないと思った健太は藍大にも援護を頼んだ。


 流石に藍大もこれでサクラが健太を殺したら不味いので、サクラの頭を撫でて止めに入った。


「サクラ、今のは健太の言う通りそーいうネタなんだ。今回は許してやってくれ」


「は~い」


「俺と藍大では扱いが全然違うぜ」


「当たり前でしょゴミ虫。いつ顔を上げて良いって言った?」


「サクラ様ハードモード入っちゃったじゃねえか。癖になったらどうすんだ」


「そしたら俺がお前と友達の縁切るかな」


「じょ、冗談だからな? そんな酷いこと言わないでくれ」


 健太が業の深い道に進んでしまったのなら、藍大は容赦なく斬り捨てるスタンスを表明した。


「さて、今日2人をここに呼んだ理由だが」


「スルー!? 藍大、スルーしちゃう!?」


「ゴミ虫、煩い」


 健太はサクラに冷ややかな目を向けられてしまい、これ以上サクラの機嫌を損ねないようにと口を手で覆って喋らないアピールをした。


 それを確認した藍大は話を続ける。


「ゴルゴンが進化して会得したアビリティで俺のヘアピンに化けてる。という訳で、ゴルゴンを俺が連れ回す代わりに未亜と健太に荷物持ち兼デバッファーをテイムして来た」


「そのヘアピンってゴルゴンやったんか。そらしゃあないわな。ウチらはあくまでレンタルしてる身やし、代わりの助っ人を用意してくれただけありがたいで」


「藍大、新しい従魔ってここに出せるのか?」


「おいおい、何言ってんだよ。ずっとここにいるだろ?」


「「え?」」


 まさか既に新しい従魔がこの場にいるとは思っていなかったので、未亜も健太もきょろきょろと周囲を見回した。


 サクラやリル、ゲンのようにわかりやすい従魔の姿が見つからず、それでも従魔の可能性があるものを探した。


 その結果、健太が藍大の思考を読んで回答に辿り着いた。


「まさかとは思うが、そこに置いてある豪華な宝箱じゃねえだろうな?」


「Exactly」


「ぬおっ!? なんやこれ!?」


 藍大が拍手しながら頷いた瞬間、パンドラが真の姿を現した。


 宝箱から銀色に輝く蟹の鋏と脚が生え、蓋がパカンと空いて大きな口をアピールしたのだ。


「紹介しよう。今日テイムしたトレジャーミミックのパンドラ。午前中まで地下2階の”掃除屋”だったから、元々強いし伸び代だってまだある。しかも、運搬に適したアビリティ持ちなんだ」


「キシッ」


 藍大に紹介されたパンドラは自信あり気に鳴いた。


「な、なあ、もしかして運搬ってパンドラの口の中で保管することを言っとるんか?」


「正解。<吸引サック>と<放出イミット>があるから、パンドラが預かってくれる物は入れた時と汚れの面では変わらんぞ。ミミックは無機型のモンスターで何も食べないから、大荷物を持ってダンジョンを散策せずに済むんだ」


「・・・なるほどなぁ。それがホンマならウチらが動きやすくなるで」


「未亜はそれで良いのか?」


 自分達にパンドラが派遣されると聞いて健太は未亜に訊ねた。


「構わへんで。クランマスターがウチらに嫌がらせでパンドラをテイムして来たとは思えへん。クランマスター、デバッファーも兼任言うとったけど、パンドラの残りのアビリティを教えとくれ」


「わかった。<麻痺噛パラライズバイト>と<偽夢フェイクドリーム>、<睡眠霧スリープミスト>だ」


「そんだけ使えるなら、ウチや健太が攻撃する隙を十分作れそうやな。ウチらでパンドラを担いで行かなアカンのなら断ったかもしれんけど、自分で歩いてデバフもできるとか普通にええやん。素敵やん」


「言われてみれば確かに助かるな。登場のインパクトが強かったせいで正しく認識できてなかったぜ」


「キシシ」


 自分が頼りになるとわかってもらえたことで、パンドラは気分を良くしたらしい。


「それじゃパンドラをサポートとして貸し出すことは決定で良いな?」


「ウェルカムや」


「うっ・・・」


 未亜がウェルカムと言った瞬間、舞が頭を押さえて呻いた。


「どうしたんや舞?」


「なんでもないよ~」


 なんでもないと言いつつ、舞はウェルカムという言葉に反応していた。


 午前中のダンジョン探索において、焼き加減をウェルカムとウェルダンで間違えたことを思い出してしまい、急に幸せの余韻から恥ずかしさの方が勝ってしまったようだ。


 藍大は舞が未亜に弄られるのもかわいそうだと思い、未亜の注意を舞から逸らすことにした。


「うっかり食べ過ぎただけだ。それより、パンドラは未亜に預ければいいか? それとも健太か?」


「ウチが預かる! 従魔と一緒に暮らすとか憧れとったんや!」


 弓士の職業技能ジョブスキルを持つ未亜からすれば、従魔の1体でもいればかなり戦い方が変わる。


 それが理由で従魔に興味があり、しかも餌の用意も必要がなくて手のかからないパンドラならば手元に置いて従魔の主気分を味わえるおまけ付きだ。


 健太には特に異論がなかったため、パンドラは当分の間未亜にレンタルされることになった。


 話が終わって未亜と健太が藍大の部屋から出ていくと、舞が立ち上がって藍大に抱き着いた。


「言い間違えたこと、黙っててくれてありがとね」


「未亜が知ったら当分揶揄われるとおもったからな。それはかわいそうだ」


「私、恥ずかしい言い間違いしないように一般常識の勉強しようかな」


「時間がある時に付き合ってやるさ」


「ありがとう」


 舞に対抗してサクラも藍大に抱き着いた。


「サクラ、健太にもうちょっと優しくできないか?」


「軽い人嫌いだもん」


「そっか。それならしょうがない」


 その後、藍大が舞とサクラの気が済むまで身動きが取れなかったのは仕方のないことである。

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