第100話 諦めたらそこで試合終了だよ

 藍大はテイムしたパンドラを亜空間に戻してから船室を出て探索を再開した。


「戻しちゃうんだ?」


「まあな。既に大所帯なのにパンドラまでいると咄嗟に動けなくなるし、そもそも未亜達にレンタルするためにテイムしたんだから、万が一のことがあって倒されたら困る」


「なるほど~。納得したよ」


 それからしばらくの間、パールピアスとカッパードーバを見敵必殺サーチ&デストロイして進んでいるとリルが何かに反応した。


『ご主人、右側の壁が変だよ』


「右側? ・・・確かに変だな」


 リルに言われて藍大も通路の右側の壁を見たが、リルと同じく変だと感じた。


 どうして変だと感じるのか。


 それは今まで一定間隔だったはずの船室のドアがなく、一部屋分のスペースが空いていたからである。


「リル、近くに敵はいるか?」


『いないよ』


「よし、調べてみよう」


 日曜日から木曜日までは地下2階がフィールド型だったため、隠し部屋なんて存在しなかった。


 しかし、今日のダンジョンの地下2階は海賊船をモチーフとしたダンジョンだから、隠し部屋があってもおかしくない。


 藍大はそのように考えてドアらしきものが見当たらない壁に近づき、隠し部屋に繋がる仕掛けがないか調べた。


「ん? 風が吹いてる?」


 壁に耳を当てながら仕掛けを探していると、藍大の耳に風が漏れ出る音が届いた。


 それが示すこととは、壁の向こうに隠し部屋があるという事実だ。


「駄目だ、仕掛けが見つからない。リルはどうだ?」


『駄目~』


 リルにも見つけられないとなると、この隠し部屋に仕掛け扉はないのかもしれない。


 藍大がどうしたものかと考えているのを見て、舞がポンと手を打った。


「藍大~、私が壊してみるよ~」


「ダンジョンの壁って壊せるのか? ゴルゴンの<火炎吐息フレイムブレス>でも焦げ跡が付く程度だったんだぞ?」


「諦めたらそこで試合終了だよ」


「そのセリフは知ってたんだ?」


「これは良い言葉だもん。1回聞いたら覚えちゃった」


「名言だもんな。ネタとしてじゃなくても知る機会はあってもおかしくないか」


 そんな話をしつつ、舞は隠し部屋への道を切り拓くために気合を入れた。


 舞の全身に光が付与されるにつれて、藍大は舞から放たれるプレッシャーが強くなったのを感じた。


 舞の呼吸が普段のものとは変わり、武道に身を置く者のそれに近くなることで舞に付与された光の鋭さが増した。


 そして、舞を覆う前進の光がB2メイスへと凝縮される。


「ぶっ壊す! YEAH!」


 ドガァンと強烈な音が鳴ると同時にダンジョン全体が揺れ、壁を殴った衝撃が跳ね返って藍大達を襲った。


「主、怖い」


『クゥ~ン』


「「「シュロ・・・」」」


 サクラ達が出会った当初のように舞に怯えていた。


 それもそのはずで、舞が全力で殴ったことによってダンジョンの壁がぶち破られていたのだ。


「ふぅ~。やってできないことはないんだね~」


「いやいや、こんなんできるの舞だけでしょ」


「そうかな?」


「そうだろ。とにかくお疲れ。見事な一撃だった」


 ここで舞とダンジョンの壁を破壊できる者がいるかいないか討論しても仕方がないので、藍大はこの話を早々に切り上げて舞を労った。


 労われた舞は藍大の発言を逆手に取ることにした。


「頑張ったからご褒美があっても良いと思うの」


「晩御飯に何が食いたい? できる限り舞のリクエストに応じるぞ」


「そうこなくっちゃね~。ダンジョン出るまでに決めとくよ~」


 今日は自分のリクエストに応えてもらえるとわかって舞がご機嫌になった。


 その後、舞が粉砕した壁の破片も茂が鑑定したがるかもしれないから回収し、力づくで壊した部屋の中に入ると宝箱があった。


 藍大がモンスター図鑑で調べてみたが、今度はミミックをはじめとしたモンスターの擬態ではなかったことが確認できた。


「サクラ先生、出番です」


「お任せあれ」


 サクラも藍大の小芝居に乗ってその道のプロのように振舞う。


 LUKが2万を超えているサクラが開けたら、宝箱の中から何が出て来るのか期待に胸が膨らまない者はいないだろう。


 堂々としたサクラが宝箱を開けると、その中から藍大が今まで見た中で一番見事な包丁を取り出した。


「包丁?」


「包丁だね」


「包丁みたい」


 藍大はサクラが宝箱から取り出した包丁をモンスター図鑑で調べてみた。


 (アイエエエ!? ミスリル!? ミスリルナンデ!?)


 モンスター図鑑に表示されたアイテム名はミスリル包丁だった。


 ミスリルと言えばラノベや漫画、ゲームにはお馴染みの架空金属である。


 ミスリルが実在するということは、人類にとって大きな発見であることは間違いない。


 それが包丁となって現れただけでなく、料理専用で破壊不能と注意書きが書かれていれば藍大が驚くのも無理もない。


 最近、モンスター食材を斬る頻度が増えてからというもの、藍大は包丁を研ぐ回数が増えたと思っていたがここでその悩みが解決できるとは思わないだろう。


 だがちょっと待ってほしい。


 サクラのLUKが2万を超えていることを忘れていないだろうか。


 藍大が良い包丁が欲しいと無意識で望んでいたことで、従魔のサクラが誇るLUKの実力が発揮されたのだ。


「藍大、それって包丁なんだよね?」


「包丁だよ。だがミスリルだ」


「ミスリルって何かな?」


「知らないの?」


「知らないの」


「そっか」


「うん」


 安○先生の名言は知っていても、トー○キン先生の作品に出て来る架空金属は知らないらしい。


 そんな舞にミスリルについて熱弁しても伝わらないと思い、藍大は舞が喜ぶ情報のみ伝えることにした。


「この包丁の刃はミスリルって特殊な金属で、これを使えば食材を不用意に傷めることなく料理ができる。つまり、美味い料理を作る道具って訳だ」


「この包丁すごい包丁だよ! 藍大、ちゃんと今日から使ってね!」


「わかってるって」


 舞でもわかるようにミスリル包丁のすごさを伝えると、藍大はサクラとリルの頭を撫でた。


「サクラ、リル、よくやってくれたな。これで美味い物もっと作ってやるからな」


「うん!」


『楽しみ!』


 よしよしと2体の頭を撫でた後、藍大達は宝箱も回収してから隠し部屋の外に出た。


 藍大達が出ると破られた辺りの壁が蠢き始めて穴が徐々に塞がり始めた。


 ダンジョンとはよくわからないものだと藍大達が首を傾げていると、先程舞が壁をぶち破った音を聞きつけたのか初めて見るサファギンがやって来た。


 そのサファギンは海賊船の船長みたいな服を着ており、右目にはプラチナに輝く眼帯が着けられていた。


 これがボスだろうと判断し、藍大はすかさずモンスター図鑑を開いた。



-----------------------------------------

名前:なし 種族:プラチナアイ

性別:雄 Lv:30

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HP:340/340

MP:200/200

STR:560

VIT:300

DEX:520

AGI:500

INT:0

LUK:250

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称号:地下2Fフロアボス

アビリティ:<斬撃巣スラッシュネスト><背後刺突バックスタブ

      <回転斬スピンスラッシュ><剣投擲ソードスロー

装備:白金の眼帯

   キャプテンセット

   華美なシミター

備考:欠損(右目)

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 (あの眼帯の下は欠損してるだけか。オシャレ眼帯や切札じゃなくて良かった)


「ゲギャッギャァァァ!」


 プラチナアイは奇声を上げると、手に持ったシミターを振り回して藍大達に斬撃を放った。


「無駄無駄無駄!」


 前に出た舞が盾を使って全ての斬撃を防いだ。


「ゴルゴン、プラチナアイだけを燃やせ」


「「「シュロッ!」」」


 藍大の命令に応じるために<火炎眼フレイムアイ>を発動するが、プラチナアイはゴルゴンの攻撃に気づいて動き回って避けた。


 ところが、完全には避け切れずにプラチナアイの着ている服の端が燃えた。


「ゲギャァァァ!?」


 燃える服がよっぽど熱かったらしく、プラチナアイは火を消そうとして床をゴロゴロと転がり回った。


「サクラは動きを封じ込めろ。とどめはリルに任せる」


「うん! おとなしくしなさい!」


 サクラは転がり回るプラチナアイを<深淵鎖アビスチェーン>で簀巻きにした。


 後はリルの仕事である。


『とどめだ!』


 リルの<十字月牙クロスクレセント>がプラチナアイの首を吹き飛ばした。


『サクラがLv59になりました』


『おめでとうございます。1体の従魔の各能力値が初めて1,000に到達しました』


『初回特典として逢魔藍大の望んでいたアイテムが収納袋にプレゼントされました』


『リルがLv58になりました』


『ゲンがLv55になりました』


『ゴルゴンがLv50になりました』


『ゴルゴンが進化条件を満たしました』


『ゴルゴンが称号”ボス殺し”を会得しました』


『ゴルゴンの称号”ボス殺し”と称号”掃除屋殺し”が称号”ダンジョンの天敵”に統合されました』


 システムメッセージが戦闘の終わりとゴルゴンが進化できることを告げた。


 (やっぱりLv50で進化か)


 気になるメッセージはあったものの、藍大はゴルゴンがLv50で進化する予想が当たってニヤリと笑った。

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