第9章 大家さん、救援を要請される
第99話 焼き加減はウェルカムだね
特別講義の翌日の金曜日、藍大達は今日も朝からダンジョン探索に勤しんでいた。
探索メンバーは藍大と舞、サクラ、リル、ゲンに加えてゴルゴンがいる。
未亜と健太にはメロが付いて行った。
藍大がゴルゴンを一緒に連れて行くのは、今日の探索でゴルゴンがLv50に到達しそうだからだ。
リルは違うがサクラとゲンはLv50で進化したから、ゴルゴンもLv50で進化するかもしれない。
そう思った藍大が今日だけはゴルゴンを傍に置いておきたかったのだ。
ゴルゴンも藍大と久し振りに一緒に行動できるのでご機嫌である。
「ここって物置か? 縄とか樽が転がってるが」
「そうかもね。木造の物置なのかな」
「フィールド型ダンジョンってこんなパターンもあるの?」
「わからないや。私もこのケースは初めてだよ」
藍大は自分よりも多くのダンジョンを回った舞に質問するが、舞としてもフィールド型ダンジョンに部屋があるなんて初めてだったのでわからないと正直に伝えた。
その時、リルがピクッと反応した。
『ご主人、揺れてる』
「地震? 下から何か来そうか?」
『そんな感じじゃないよ。ユラユラしてるの』
(地震とは違う揺れに窓のない木造の部屋。今日は金曜日。まさか・・・)
藍大はなんとなく既視感のある間取りと今日の曜日から1つの仮説を立てた。
「地下2階のコンセプトって海賊船じゃね?」
「そっか。金曜日だもんね。じゃあ、この階にはお宝とかあるのかな?」
「海賊船で宝探しか。面白そうだ」
「ワクワクするね」
藍大達は地下2階のコンセプトを海賊船だと断定し、倉庫扱いの部屋から外に出た。
外は廊下になっており、廊下の両脇にはたくさんの船室に繋がるドアがあった。
しかし、ドアだけでなく巡回中の
それは青白く魚を二足歩行に擬人化させたようなモンスターで、海賊のような服装にシミターを持っていた。
「ゲギャ!?」
「なんだこいつ? 半魚人?」
「藍大、サファギンだよ。でも、シャングリラに出て来るんだからただのサファギンじゃないはず」
「調べてみる」
「ゲギャッ!」
藍大がモンスター図鑑で調べ始めるのと同時に、サファギン(仮)が手に持ったシミターを振るいながら突進した。
「調べ物の邪魔すんじゃねえ!」
舞はサファギン(仮)のシミターの動きを見切り、盾で弾いてメイスで殴り倒した。
舞の一撃を喰らったサファギン(仮)の頭は、B2メイスに付与された火属性によって火傷の跡が残った。
「助かったよ舞。今倒したのはパールピアスっていうサファギンの変異種らしい。カッパードーバやシルバーヘルムのサファギン版だと思えば良さそうだ」
「問題ないよ。あれぐらいの敵だったら、10や20いても倒せる自信あるもん」
(俺の彼女さんマジパねえっす)
自分が10体のパールピアスに囲まれて従魔がいなかったら、藍大は撲殺される未来しか見えない。
それゆえ、舞を頼もしく思うのは当然だろう。
勿論、ゲンが<
さて、パールピアスがサファギンなのになんでパールピアスという名前なのかだが、その左耳にパールのピアスを着けているからだ。
ただそれだけである。
左耳にピアスを着ける意味はいくつかあるとされているが、モンスター図鑑によればサファギン的にはそれがクールらしい。
それを知った藍大がどうでも良いと思ったのは言うまでもない。
パールピアスの装備を剥ぎ取って死体も収納袋に回収していると、そこに先程のパールピアスの声を聞いて近くにいたらしいパールピアスとカッパードーバが集まって来た。
「「「・・・「「ゲギャ!」」・・・」」」
「「「・・・「「ゴブッ!」」・・・」」」
そこまで広くない廊下に一気に集まったせいで、パールピアスとカッパードーバの混成集団は進むのがやっとというぐらいに詰まっていた。
その様子には藍大も舞も苦笑いである。
「通路いっぱいに広がるから詰まってるな」
「馬鹿なの?」
「馬鹿なんだろうな。ゴルゴン、焼き払え!」
「「「シュロッ!」」」
ここが自分達の見せ場だとわかると、ゴルゴンは全ての首から一斉に<
「「「・・・「「ゲギャァァァァァ!」」・・・」」」
断末魔の叫びはパールピアスもカッパードーバも同じらしく、肉の焦げる臭いと併せて藍大はやり過ぎたかもしれないと思った。
『ゴルゴンがLv49になりました』
「「「シュロッ♪」」」
上手に焼けましたと言わんばかりにゴルゴンは得意気な様子だった。
「焼き加減はウェルカムだね」
「それを言うならウェルダンじゃないか?」
「・・・今のは聞かなかったことにしてくれると嬉しいな」
「前向きに検討することを善処します」
「あぁ! 真似っこ~!」
舞が恥ずかしがって忘れてほしいと頼むと、藍大はキリッとした表情でいつかの舞の真似をした。
舞も自分が真似されたとわかって藍大をポカポカと殴った。
ゲンが<
「舞、主に攻撃しないで」
「攻撃してるつもりはなかったの。じゃれてるだけなの」
「舞の馬鹿力ならじゃれてるだけでも痛い。ゲンがいなかったらどうする気?」
「ごめんなさい。気をつけます」
「よろしい」
今のやり取りで藍大はサクラが舞の母親みたいに見えてしまったが、それは絶対に口にしなかった。
言えばサクラが不機嫌になるとわかっているからだ。
そんな思考を切り替えるため、藍大は気づいたことを口にした。
「木造の海賊船がコンセプトだけど、壁や床が燃えることはないんだな」
「確かにそうだね。焦げてるけど燃えてないね」
「これもダンジョンだからってことか?」
「そうかもね。時間経過で焦げた部分も元通りになるんじゃないかな。以前そんな話を聞いたことがあるよ」
ダンジョンの修復力は恐ろしいと思う藍大だった。
その後、藍大達は船室のドアを開けては
「ボス部屋?」
「”掃除屋”が待ち構えてるのかもよ」
「それもあり得るな。とりあえず入ってみよう」
「あっ、私が開けるね」
舞を先頭に藍大達は豪華なドアの船室の中に入った。
部屋の中には1階と地下1階でも見たことのあるフォルムの物体があった。
金でコーティングされた訳ではないが、装飾華美な宝箱の見た目である。
「ミミックだよな?」
「ミミックだね」
「ミミックだと思う」
『モンスターの臭いがするよ』
「「「シュロ?」」」
藍大達は目の前にある宝箱がミミックの派生種だと判断し、リルが少なくともそれが宝箱ではないことを裏付けた。
ゴルゴンに至っては燃やしちゃって良いかと藍大に訊ねる始末だ。
「まずは調べてみるさ」
どんなミミックなのか確かめるべく、藍大はモンスター図鑑を開いた。
-----------------------------------------
名前:なし 種族:トレジャーミミック
性別:なし Lv:35
-----------------------------------------
HP:330/330
MP:400/400
STR:450
VIT:400
DEX:530
AGI:250
INT:0
LUK:400
-----------------------------------------
称号:掃除屋
アビリティ:<
<
装備:なし
備考:緊張
-----------------------------------------
(やっぱミミックじゃんか。いや、待てよ・・・)
ステータスを見て目の前で宝箱の振りをした物体がトレジャーミミックだと知ると、藍大はさっさと倒してしまおうかという気持ちになった。
だが、トレジャーミミックにはポテンシャルが秘められていることに気づくと、藍大は安易に倒すという判断を下さなかった。
「このトレジャーミミックをテイムしよう」
「ミミックをテイムするの? なんで?」
「こいつには<
「それがどうしたの?」
「<
「・・・その発想はなかったよ。でも、トレジャーミミックが吸い込んだ物って汚くない?」
藍大の言いたいことはわかったが、モンスターの口の中で保管するのは衛生面で問題はないのかと舞は訊ねた。
「問題ない。そもそもミミックは無機型のモンスターで食べる機能が備わってない。物を出し入れしてるに過ぎないんだよ」
「なるほど~。それで、収納袋があるのに藍大はトレジャーミミックを使うの?」
「いや、俺達が使うんじゃなくて未亜達にレンタルする。トレジャーミミックは状態異常系のアビリティも使えるから、未亜達の攻撃の時間稼ぎにもなるし」
「そっか。未亜ちゃんは運搬手段が欲しいって言ってたから期待を上回ってるね」
「そういうこと。サクラ、トレジャーミミックを動けなくしてくれ」
「うん。トレジャーミミック、じっとしてなさい」
サクラが<
トレジャーミミックはモンスター図鑑に吸い込まれていき、その直後に藍大の耳にシステムメッセージが聞こえて来た。
『トレジャーミミックのテイムに成功しました』
『トレジャーミミックに名前をつけて下さい』
名付けの時間だが、藍大は特に悩むことなく名前を口にした。
「名前はパンドラにする」
『トレジャーミミックの名前をパンドラとして登録します』
『パンドラは名付けられたことで強化されました』
『パンドラのステータスはモンスター図鑑の従魔ページに記載され、変化がある度に更新されていつでもその情報を閲覧できます』
『詳細はパンドラのページで確認して下さい』
こうして、パンドラは未亜達の荷物運び要員兼攻撃の時間稼ぎ要員としてテイムされた。
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