第96話 変形する長葱だなんてロマンをわかってるじゃん

 ファームアヴェンジャーの魔石はゴルゴンの分になるので、この場では回収するだけに留まった。


 また、サクラが戦闘中に奪った怒りの大鎌については、舞がそのまま使うことはなくとも素材として使うことはあるかもしれないのでキープすることに決まった。


「ところで、リルは何やってるんだ?」


 リルが足元の土を掘っているのを見て、藍大は気になって訊ねた。


『僕の鼻に訴えて来るものがあるの』


 リルがレアアイテムが掘り当てるかもしれない。


 藍大のその予想は見事に的中した。


「フラスコ・・・。前に見つけた物にそっくりだな」


「確かにそっくりだね」


 リルが掘り当てたのは水色のビー玉のような物体が入ったフラスコだった。


「覚醒の丸薬かもしれない。サクラ、ちょっと持ってて」


「うん」


 サクラにフラスコを手渡すと、藍大はモンスター図鑑で掘り当てたアイテムの正体を調べた。


 (やっぱり覚醒の丸薬だ。そんなポンポン出ても良いんだろうか?)


 今更ながらレアアイテムが出過ぎではないだろうかと思ったけれど、藍大はサクラのLUKの能力値が2万弱あることを思い出して納得した。


「覚醒の丸薬だった。今度は舞の番だ。使ってくれ」


「私で良いの?」


「勿論さ。俺といつも一緒に行動するのは舞なんだし、クランマスターの俺が二次覚醒した次はサブマスターの舞が妥当だ。誰にも文句は言わせない」


「そっか。じゃあ遠慮なく」


 藍大がそこまで言ってくれるなら、ありがたく自分が使わせてもらうと舞は覚醒の丸薬を受け取って飲み込んだ。


 舞が覚醒の丸薬を口に含んだ瞬間、すぐにそれが溶けてなくなった。


 その直後、舞の頭の中に新たにできるようになったことが浮かび上がった。


「舞、何ができるようになった?」


「う~んとね、<<新しい>>光の魔法みたいなものが使えるようになったよ」


「えっ、ちょっと待って。って何? 舞って光属性の魔法使えたの?」


「オーラがそうだよ? 体とか武器とかに光を付与するの」


「Oh・・・」


 藍大と舞で認識に齟齬が生じていたことが発覚した。


 藍大はオーラを闘気のようなものだと認識していたが、実際のところは舞のMPを消費して光を付与していたというのが事実だった。


 舞は殴るだけの騎士ではなく、魔法も使える騎士だったということだ。


 これには藍大も思わず外国人のような反応をしてしまうのも無理もない。


 それでも過ぎたことは仕方がないので、藍大は気持ちを切り替えて話を進めることにした。


「OK。今度は何ができるようになったんだ?」


「えっと、こんな感じ?」


 そう言った瞬間、舞を包み込むように光のドームが現れた。


「光のドームか。全方位の攻撃を守れるのならすごいな」


「そうかも。これで藍大の守りに死角がなくなったね」


 MPの消費を抑えるべく、舞は光のドームを解除してニッコリ笑った。


「頼りにしてるよ」


「うん。藍大は私が絶対守るからね~」


 おっとりした雰囲気のまま言うけれど、舞からは確かな自信が感じられた。


 これで藍大と舞の性別と立場が逆ならば絵になるが、現実はそう上手くいかない。


 舞の二次覚醒が済むと、藍大達はフロアボスが出て来るまでひたすら見敵必殺サーチ&デストロイを繰り返した。


 葱とジャガイモの在庫が増えていく中、藍大の前にそれは姿を現した。


 それは長葱というにはあまりにも大き過ぎた。


 大きく、分厚く、重く、そして大雑把過ぎた。


 それは正にオブジェクトだった。


 正面の地面に突き刺さったそれがフロアボスだろうと判断し、藍大はモンスター図鑑を開いてその正体を確かめた。



-----------------------------------------

名前:なし 種族:ウエポンリーキ

性別:雄 Lv:30

-----------------------------------------

HP:200/200

MP:340/340

STR:560

VIT:250

DEX:280

AGI:600

INT:200

LUK:180

-----------------------------------------

称号:地下2Fフロアボス

アビリティ:<変形トランスフォーム><臭波スティンキーウェーブ

      <麻痺弾パラライズバレット><追跡突撃トレースブリッツ

装備:なし

備考:高揚・変形:大剣

-----------------------------------------



 (変形する長葱だなんてロマンをわかってるじゃん)


 藍大がウエポンリーキのステータスに表示された<変形トランスフォーム>の文字に目を奪われたのは、男子たるもの仕方のないことだろう。


 変形はロマンだ。


 人工の属性武器の開発に携わった藍大からすれば、<変形トランスフォーム>を使えるモンスターは新たに見つけたロマンである。


『ご主人、あいつ臭い』


「リルの鼻には刺激が強かったか。わかった。すぐに倒そう」


 <変形トランスフォーム>を使うところは見てみたいが、それでもリルが臭いというのならば優先すべきはリルの方だ。


 ロマンは大事でも従魔の方がもっと大事なのは当然だろう。


「サクラ、サクッと斬っちゃえ」


「うん。死んでちょうだい」


 サクラが<深淵刃アビスエッジ>で一刀両断しようとすると、ウエポンリーキは地面から飛び出して漆黒の刃に向かって突撃した。


 下手な小細工をすることなく、<追跡突撃トレースブリッツ>で迎え撃とうとしているのかもしれない。


 そのように思わせるのがウエポンリーキの狙いだったようだ。


 漆黒の刃が横薙ぎにウエポンリーキを斬ろうとした瞬間、大剣の見た目をしていたそれが光に包まれてレイピアへと姿を変えた。


 大剣からレイピアへの変形でサイズが大きく変わり、サクラの初手はあっさりと躱されてしまった。


「リル、線で駄目なら面で攻撃するぞ。<刃竜巻エッジトルネード>だ」


『うん! 切り刻め!』


 リルの<収縮シュリンク>を使った回避に似た方法で攻撃を躱されたので、藍大は範囲攻撃でウエポンリーキを仕留める作戦に切り替えた。


 <刃竜巻エッジトルネード>が発動すると、ウエポンリーキの正面に鋭い風によって形成された竜巻が現れる。


 所詮は長葱であり、レイピアの形になった今のウエポンリーキの重さなんてたかが知れている。


 ウエポンリーキはあっさりと竜巻の中に吸い込まれていった。


 ところが、ウエポンリーキはまだ諦めていなかった。


 自身を襲う鋭い風を耐えるべく、<変形トランスフォーム>で盾へと変形したのだ。


 その上、<臭波スティンキーウェーブ>を発動して自身の壁代わりにすることで被ダメージ量を軽減させることに成功した。


 <刃竜巻エッジトルネード>が終わると、ウエポンリーキは反撃だと言わんばかりに<麻痺弾パラライズバレット>を連射した。


「その程度効かねえよ!」


 舞が光のドームを創り出し、藍大達をウエポンリーキの攻撃から守った。


 <麻痺弾パラライズバレット>を防がれてしまい、ウエポンリーキは遠距離攻撃では倒せないと悟って<変形トランスフォーム>した。


 再度大剣の形に戻って<追跡突撃トレースブリッツ>を発動した。


 舞が光のドームを解除して迎え撃とうとした時、これ以上は我慢の限界だとリルが動いた。


『こっち来ないで!』


 <十字月牙クロスクレセント>の乱れ撃ちである。


 リルはここにいるメンバーの中で最もAGIとDEXの能力値が高い。


 移動先を誘導するように<十字月牙クロスクレセント>を放ち、まんまと誘導されてしまったウエポンリーキは四分割されて撃墜した。


『サクラがLv58になりました』


『リルがLv57になりました』


『ゲンがLv54になりました』


 システムメッセージがボス戦の終わりを告げた。


 リルはウエポンリーキを倒してすぐに藍大の匂いを嗅いで気分を落ち着かせていた。


「リル、嗅がれると恥ずかしいんだけど」


『ご主人の匂いが落ち着くよ~』


 (頑張ったのはリルだ。これぐらいは仕方ないか)


 自分にはそこまで感じられない臭いだったが、リルからすれば鼻が曲がると思うものだったかもしれないと考え、藍大はリルの気が済むまで好きにさせることにした。


 リルが藍大の匂いを嗅いで動こうとしないから、藍大は舞に収納袋を渡して代わりに四分割されたウエポンリーキの回収を任せた。


 ウエポンリーキの魔石はメロの分なので、藍大達は回収が終わるとダンジョンを脱出した。


 藍大は脱出した後、未亜達と一緒に探索して戻ったばかりのゴルゴンと家庭菜園の手入れをしていたメロに魔石を与えた。


 ゴルゴンはLv48になっており、魔石を飲み込んで<多重思考マルチタスク>が<残機レフト>へと上書きされた。


 これは頭の数だけ同時にアビリティが使えるだけでなく、頭の数だけHPが0になってもHPが全回復して復活するアクティブアビリティだ。


 仮にゴルゴンがどこかのダンジョンのフロアボスとして現れたら、さぞ厄介なフロアボスとして取り上げられるに違いない。


 その一方、メロは魔石を飲み込んで<農業アグリカルチャー>が<農家ファーマー>へと上書きされた。


 メロは益々生産職らしくなった。


 ファームアヴェンジャーの素材を奈美に買い取ってもらってから、藍大達は昼食を取ってC大学に行く準備を始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る