第89話 貧弱脱出・・・だと・・・?
ゲンはサクラがパワーアップするのをじっと待っていた。
サクラがマグマイマイ戦で大活躍したのは間違いなく、ここで自分も早く進化したいとアピールすればサクラが不機嫌になる。
実力も従魔になった序列も上のサクラの不興を買うことは、自分の立ち位置を悪くすることになるからゲンはおとなしく待機していたのだ。
しかしながら、サクラのターンはもう終わったと断言しても良い状況にある。
それならば自分のターンだと主張したって良いはずだとゲンは藍大を見つめた。
ゲンの視線に藍大は気づいていたので、藍大はゲンを手招きした。
「次はゲンの番だ。進化するか?」
「ヒュー」
藍大の問いかけにゲンは勿論だと頷いた。
ゲンの意思を確認すると、藍大はモンスター図鑑のゲンのページを開いて備考欄にある進化可能の文字に触れた。
その瞬間、ゲンの体が光に包まれた。
ところが、光の中でゲンのシルエットは全く変わる様子がなかった。
(これってちゃんと進化してるんだよな?)
藍大が心配するのも無理もない。
サクラとリルの時は体のサイズや外見に変化があったのだから、シルエットだけしか判断要素がないとしても変化がないのは心配になるだろう。
だが、それは杞憂に終わった。
光が収まると、青緑色の体に藍色の盾を模した甲羅を背負ったゲンの姿があった。
シルエットでは変化がなかったものの、甲羅には光沢があって進化前よりも一段と硬そうに感じさせた。
『ゲンがメタルタートルからシールドタートルに進化しました』
『ゲンがアビリティ:<
『ゲンのデータが更新されました』
システムメッセージが止んで進化が完了すると、ゲンは藍大にドヤ顔を向けた。
「ドヤァってか? メタリックの時とはまた違って良いじゃん」
「ヒュー♪」
褒められて気分が良さそうなゲンの頭を撫でると、藍大は更新されたデータを確かめるべくモンスター図鑑のゲンのページに視線を下ろした。
-----------------------------------------
名前:ゲン 種族:シールドタートル
性別:雄 Lv:50
-----------------------------------------
HP:720/720
MP:740/740
STR:700
VIT:1,000
DEX:740
AGI:640
INT:740
LUK:700
-----------------------------------------
称号:藍大の従魔
希少種
ダンジョンの天敵
アビリティ:<
<
装備:なし
備考:ご機嫌
-----------------------------------------
(素のVITが1,000に到達してるじゃん。種族名に偽りなしだな)
藍大がそんなことを考えると、いきなりゲンの体が光の球に変わって藍大にぶつかった。
「なんだ!?」
「眩しい~」
「うぅ~」
『クゥ~ン』
あまりにも突然の出来事だったので、藍大達は眩しさに目を開けていられなかった。
光が止んで目が開けられるようになると、舞とサクラ、リルが驚いた表情で藍大を見ていた。
「藍大、服の色が藍色になってる!」
「なんで!? 主からゲンの力を感じる!」
『ゲンの匂いが主からするよ?』
藍大はよくわからないまま自分の姿を確認した。
「なんじゃこりゃあ!?」
敢えて渋い感じの声で言ったのは、藍大にまだ余裕があるからだろう。
そんなおふざけはさておき、藍大はカーキ色のSSツナギを着てダンジョンにやって来たにもかかわらず、今のツナギの色が舞に指摘された通り藍色になっていた。
『これ・・・楽・・・』
「この声はゲンなのか?」
『諾』
自分の頭の中に直接声が聞こえてきたため、藍大はその声がゲンのものだと確信して訊ねた。
ゲンは最低限しか喋らずに応じてみせた。
「藍大、私達には何も聞こえないよ?」
「主はゲンと話してるの?」
「ゲンの声が聞こえないのか?」
「「『うん』」」
舞達にはゲンの声が聞こえないことが発覚すると、ゲンがその事実を肯定した。
『
「随分ゆっくりと喋るじゃん。どうした?」
『元々・・・こんな感じ・・・。俺・・・思った・・・。俺・・・<
「怠慢じゃねえか!」
ゲンの説明でゲンの話すペースがゆっくりであることは理解できたが、今の状況になった理由がゲンの怠慢だと知って藍大はツッコまずにはいられなかった。
自分の足で歩かずに済むから<
(いや、ゲンは元々フロアボスだったもんな。ボス部屋の中ならほとんど歩かずに済むか)
よくよく考えてみれば元フロアボスのゲンが今のように歩き回っていることの方が異常なのだろうと理解し、藍大はゲンの言葉に納得した。
そして、<
(貧弱脱出・・・だと・・・?)
<
このアビリティを発動している間、ゲンのVITの能力値の分だけ藍大のVITが上昇するとわかったからだ。
しかも、<
つまり、ダンジョンに入る前にゲンが<
その上、藍大の安全性が上がるのと同時にゲンが自分の足で歩かずにダンジョンの探索をできるとなれば、ゲンも藍大の護衛を文字通り体を張って行うのだから文句の付けようがない。
藍大とゲンがwin-winの関係になるのだから、<
もっとも、このアビリティにも不自由はある。
それは<
ゲンがアビリティを行使して戦わなければならない時は、一旦<
とはいえ、藍大がそれだけで安全を手に入れられるのならば安い代償だろう。
『主さんも安全・・・。俺も楽・・・。みんなが幸せ・・・』
「それが事実なのは否定しない。しょうがない。ダンジョン内では戦闘時以外<
『よしきた』
ゲンの声は楽ができるとわかって弾んでいた。
その一方、舞達には藍大が1人で喋っているようにしか見えないので、何がどうなったのか説明を求めた。
藍大の説明を聞くと、舞達は藍大の安全性が増すならゲンの行動を認めた。
「ところで、藍大がどこまで安全なのか確かめなくて大丈夫?」
「できれば事前に確かめておきたいな。いきなりダメージを喰らってそのまま大怪我するとか嫌だし」
舞の指摘はもっともだったので、藍大もぶっつけ本番ではなく予め試しておきたいと言った。
「でも、私は藍大に攻撃したくないよ?」
「私も当然嫌だ」
『僕も嫌だよ』
<
どうしたものかと藍大達が悩んでいると、意外なところから意見が出た。
『舞が・・・主さんを・・・抱き締める・・・』
「なるほど。その手があったか」
「藍大、ゲン君から意見があったの?」
「あった。舞が俺を抱き締めれば良いんじゃないかってさ。舞が力を入れて抱き締めれば、さっきみたいにダメージを与えられるから」
「藍大を殴らなくて済むのは良いけど、抱き締めることを攻撃扱いされるのは乙女的に悲しいよ~」
舞はしょんぼりしてしまったが、他にこれに勝る意見が出なかったため結局ゲンの意見が採用された。
「準備は良い?」
「いつでも大丈夫」
舞は藍大が頷いたのを確認して正面から抱き締めた。
最初はそこまで力を入れなかったものの、徐々に抱き締める力を強めていった。
「主、痛くない?」
「問題ない。ゲンはどうだ?」
『平気』
「平気らしい」
実験の結果、舞がどれだけ強く抱き締めても藍大は痛みを感じなかった。
藍大の鎧と化しているゲンも痛くないと答えたため、少なくともオーラを纏っていない舞が力いっぱい抱き締める分には問題ないことがわかった。
これは藍大にとっても舞にとっても嬉しい事実だろう。
藍大は舞に抱き締められてもダメージを負わないし、舞も感情のままに藍大を抱き締められるのだから。
その後、ダンジョンを出る前に試したいことをいくつか試してから藍大達はダンジョンを脱出した。
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