第8章 大家さん、教壇に立つ

第87話 事故る奴は不運と踊っちまったんだよ

 翌日の火曜日の朝、藍大組と未亜組はそれぞれ地下2階と地下1階に分かれて探索を始めた。


 ゲンとゴルゴンでメンバーチェンジされ、相性の問題からメロは中庭で家庭菜園の面倒を見るため不参加となった。


 ゲンは未亜と健太の言い争いに巻き込まれないこと、今日の敵が火にまつわる敵だから大活躍できることからご機嫌という訳でもなかった。


 何故なら、地下2階が火山の入口だったからだ。


「火曜日は火山か。暑いな」


「まだ入口付近なのにね。SSシリーズがなかったら私は蒸し焼きになってたかも~」


 舞の言い分は間違っていない。


 SSシリーズに耐火性能があるおかげで、火による影響をカットされるから藍大と舞は暑いぐらいで済んでいる。


 ちなみに、サクラはシールドアミュレットの状態異常無効が暑さにも通用するようで涼しい顔をしていた。


 その一方、何も身に着けていない2体は暑さにうんざりしていた。


『ご主人、さっさと踏破しよ!』


「ヒュー」


「そうだな。暑い所に長居する理由もない。サクサク探索して脱出しよう」


 リルとゲンが暑くて困っているのを見て、藍大はなるべく急いで地下2階を踏破することに決めた。


 早速先に進んでみると、粘度の高そうなオレンジ色の体のモンスターが現れた。


「藍大~、これってナメクジ?」


「マグスラグだってさ。マグマで体が構成されてるナメクジだと思ってくれ」


「ヒュー」


 藍大が舞の質問に答えた直後、ゲンがマグスラグに向かって<螺旋水線スパイラルジェット>を放った。


 それがマグスラグの体に風穴を開け、マグスラグの体は形を保っていられなくなりドロドロに崩れた。


 形が崩れたことでマグマの温度が急速に冷えて固まると、マグスラグの死骸が真っ黒になった。


「ヒュー」


「よくやったな、ゲン」


 藍大は俺にかかれば一撃だぜとドヤるゲンの頭を撫でる。


 戦闘前はマグスラグの名前と簡単な特徴しか調べられなかったので、藍大はマグスラグの死骸の活用方法をモンスター図鑑で探してみた。


 (おいおい、マグスラグって燃料になるのかよ)


 モンスター図鑑によると、マグスラグの死骸は石油や石炭に変わる燃料になることがわかった。


 しかも、石油や石炭を使えば二酸化炭素が排出されてしまうのに対し、マグスラグは燃やしてもその体内に蓄積されたMPが大気に放出されるだけで地球温暖化進行させないことも発覚した。


「藍大、マグスラグって何かに使えそう?」


「マグスラグが二酸化炭素を排出しない動力源になるらしい」


「すごいね!」


「ああ。こりゃ狩れるだけ狩って持ち帰らねえとな。情報も含めて高く売れそうだ」


 リフォーム代を勉強してもらったとはいえ、昨日の出費額は少なくなかった。


 だから、今日は稼げるだけ稼いでやろうと藍大は言ったのだ。


「ヒュー」


 俺に任せろと言わんばかりのゲンがとても頼もしい。


 実際、探索を再開してからマグスラグに遭遇する度にゲンが<螺旋水線スパイラルジェット>でワンショットキルするものだから、探索はとても捗った。


 マグスラグは雑魚モブモンスターでもレベルがLv21~25だから、狩りを続けている間にゲンのレベルが1つ上がってLv48になった。


 マグスラグを乱獲していると、周辺にいたもの全てを倒し尽くしてしまったようで、別のモンスター藍大達の前に姿を見せた。


 その見た目は無人の赤々とした火を纏う馬車だった。


 牽引する存在もなく自力でここにやって来たようだ。


 どんな能力を秘めているのかわからなかったため、藍大はすぐにモンスター図鑑を開いてその正体を調べた。



-----------------------------------------

名前:なし 種族:ニトロキャリッジ

性別:なし Lv:35

-----------------------------------------

HP:320/320

MP:420/420

STR:330

VIT:420

DEX:150

AGI:350

INT:520

LUK:260

-----------------------------------------

称号:掃除屋

アビリティ:<火纏突撃ファイアブリッツ><火炎矢フレイムアロー>   

      <過熱炎上オーバーヒート><小爆弾雨ボムレイン

      <自爆スーサイドボム

装備:なし

備考:なし

-----------------------------------------



 (何この危険物)


 ニトロキャリッジのステータスを見た第一印象はこれである。


「こいつヤバい! 火を纏って突撃したり爆弾投げたり自爆したりする!」


「厄介だね」


「主には近づけさせないよ!」


『こいつ倒したら少し涼しくなるよね?』


「ヒュー」


 自分達にとって害しかないとわかると、舞達が藍大の前に立った。


 藍大がどれか1つでもアビリティを受ければ軽く吹っ飛ぶと悟ったからだ。


 警戒する藍大達を前にして、ニトロキャリッジはボボボッという音と共に空中に火球をいくつも用意した。


 いきなり<小爆弾雨ボムレイン>を使ったようだ。


「サクラはいつも通り! ゲンは跳ね返す用意! リルは隙を見て反撃! 舞は万が一攻撃がこっちに通った時に跳ね返してくれ!」


「うん! いただきま~す!」


「ヒュー」


「任せな!」


 サクラがニトロキャリッジのLUKを奪うのと同時に多くの火球が藍大達に向かって降り注いだ。


「ヒュー」


 ゲンは<水鏡壁ミラーウォール>を発動することで、火球の雨が藍大達に当たるのを防いだ。


 更に<水鏡壁ミラーウォール>の効果でニトロキャリッジ目掛けて火球は次々と反射されていく。


 ニトロキャリッジは自分の攻撃を利用されたことに腹を立てたが、今は避けることに集中しなければ少なくないダメージを負うことになる。


 実際、ニトロキャリッジが避けて火球が着弾したあちこちで爆発音が鳴り響いている。


 しかし、いつまでも避け切ることはできなかった。


 運悪く爆発によって凸凹になった地面に車輪が嵌まった瞬間、火球の1つが命中して爆発したのだ。


「事故る奴は不運ハードラックダンスっちまったんだよ」


「主、まだ動いてるよ?」


「すまん、言ってみたかっただけなんだ。サクラ、リル、ゲン、遠距離から攻撃!」


 転倒しても車輪が回っているニトロキャリッジを見て、サクラは藍大の発言に首を傾げながら指摘した。


 言ってみたかったセリフは言えたものの、まだ戦闘は終わっていなかったので藍大は気持ちを引き締めて指示を出した。


「は~い!」


『バラバラになっちゃえ!』


「ヒュー」


 自分に<深淵刃アビスエッジ>と<十字月牙クロスクレセント>、<螺旋水線スパイラルジェット>が向かって来るのを感知すると、ニトロキャリッジは自分だけが勝ち残ることを諦めた。


 ニトロキャリッジは<過熱炎上オーバーヒート>を使って自身の火力を上げた。


 そして、サクラ達の攻撃が着弾する瞬間に<自爆スーサイドボム>を発動した。


 轟音と共に爆発が生じ、爆風に載ってニトロキャリッジの破片の一部が藍大達に向かって飛んで来る。


「私が守ってやるよ! オラオラオラオラオラァ!」


 舞は全身にオーラを纏うと、メイスと盾を巧みに操って自分達に飛んで来る破片を全て叩き落した。


 最後の1つが地面に落ちると、藍大の耳にシステムメッセージが届いた。


『サクラがLv53になりました』


『リルがLv52になりました』


『ゲンがLv49になりました』


 戦闘が終わったとわかった途端、藍大は自分達を体を張って守ってくれた舞の正面に回った。


「大丈夫か?」


「大丈夫~」


 戦闘モードが切れたらしく、いつものようにおっとりした感じに戻った舞がへっちゃらだと態度で示した。


「無事で良かった」


「心配してくれたの?」


「そりゃするだろ。だって、その、彼女なんだし・・・」


 藍大がそう言うと、舞がニパッと笑って藍大を抱き締めた。


 彼女って言ってもらえたことと心配してもらえたことが嬉しくて、反射的に抱き締めてしまったのだ。


「藍大~」


「ま、舞! ちょっと痛いかもしれない! いや、痛い! 間違いなく痛い!」


「舞、主が痛がってる!」


「へっ、あぁ、ごめん!」


 サクラに注意されて嬉しくなってやってしまったことに気づき、舞はすぐに力を抜いて藍大から離れた。


「痛いの痛いの飛んでけ~」


 サクラに<回復ヒール>をかけてもらうと、舞のSTRによってミシミシ鳴っていた藍大の体の痛みが消えた。


「ごめんなさい! 藍大に彼女って言われたのと心配してもらえたのが嬉しかったの!」


 素直に自分の気持ちを口にして謝られると、藍大は舞に小言を言う気がなくなった。


 先程の舞の行動は自分の責任だからである。


 藍大が舞を彼女であると意識して心配したのは本心なので、それを言わなければ良かったとは微塵も思っていない。


 それが原因で何も言えなかった。


 Don'tじゃなくてCan'tということなのだ。


 とはいえ、藍大が危なかったのは事実なので藍大の代わりにサクラが言った。


「舞、主のことが好きなのはわかるけど力加減を考えて。舞が全力で抱き締めたままだったら、主の骨は完全に折れてたんだからね?」


「反省します」


「主、やっぱり力加減のできない舞じゃ駄目だよ。私がなんでもしてあげるから考え直そう?」


「それは駄目!」


 サクラの発言に舞がノータイムで反応すると、藍大はサクラの両肩に手を置いた。


「治療してくれてありがとな。でも、今のは自業自得だ。舞の反応を予想してなかった俺が悪かった。だからそんなことを言わないでくれ」


「・・・わかった。舞、ちゃんと力加減を身に着けて。そうじゃなきゃ主に抱き着かせられないからね」


「頑張る」


 抱き締める力の加減の習得とはどうやってするのだろうか。


 そんなことを思った藍大だったが、気持ちを切り替えてバラバラになったニトロキャリッジの破片と魔石を回収して探索を再開した。

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