第81話 良い敵は動かなくなった敵だけだぜぇぇぇ!

 未亜達が地下1階を探索していた頃、藍大達は地下2階に広がる月夜の森で巨大な蛾に襲われていた。


「駆逐してやるぞゴラァ!」


「死んじゃえ!」


「「「シュロッ!」」」


「メロン!」


『ご主人~』


 (女性陣が滅茶苦茶荒れてる。リルを見てみろよ? 怯えてるじゃんか)


 藍大達を襲いかかって来るのはシルクモスという巨大な蛾のモンスターだ。


 <糸刃スレッドエッジ>によって吐き出される糸は高級な絹糸だから、避けて落ちている物を回収すれば高値で売れる。


 だが、ビジュアルがキツ過ぎて女性陣は殲滅せんと容赦なく倒している。


 その倒す様子が激しく恐ろしいせいで、リルの尻尾が股下にしまい込まれて藍大にぴったりと体を寄せて震えている。


 戦いが終わるまでの間、藍大はずっとリルを元気づけるために撫で続けていた。


『ゴルゴンがLv38になりました』


『ゴルゴンがLv39になりました』


『メロがLv30になりました』


『メロのアビリティ:<蔓鞭ヴァインウィップ>がアビリティ:<螺旋蔓スパイラルヴァイン>に上書きされました』


『メロがLv31になりました』


『メロがLv32になりました』


 シルクモスは雑魚モブと言えどLv21~25なので、群れで襲って来たのを返り討ちにすれば経験値だって馬鹿にならない。


 藍大の従魔の中では弱い部類のゴルゴンとメロならば、レベルアップするのも当然と言えよう。


「藍大、1つだけ約束してほしいの」


「主、1つだけ約束してほしいの」


「「むっ」」


 戦い終わった後の舞とサクラが藍大に話しかけて被ると、お互いに自分が先だと睨み合う。


 僅差で舞の方が早かったから、藍大は舞から話を聞くことにした。


「若干速かった舞から聞こう」


「ありがと。藍大にお願いしたいのはね、今後強くて役に立つ虫型モンスターがいても絶対にテイムしないでほしいってこと」


「私も同じ! 主、絶対に駄目だからね!」


 舞もサクラも虫が嫌いなので、藍大が虫型モンスターを仲間にしようとすることがないように事前に頼んだのだ。


 何も言わないが、ゴルゴンとメロも激しく同意と言わんばかりに首を縦に振っていた。


「この場にいる半数以上がテイム反対なんだ。その意見は尊重するさ。というか、俺もデカい虫をテイムするために近づくのは怖い。だから、最初からする気もない」


「そうだよね! 流石は藍大だよ!」


「主、私は信じてたよ!」


「「「シュロ~!」」」


「メロン!」


 喜んだ女性陣から一斉に殺到され、藍大はもみくちゃにされたのはご愛敬である。


 その後、藍大達は売れる物だけ回収してから探索を再開したがすぐにシルクモスの群れに襲われた。


 それらを討伐すると、いきなり月夜の森に不気味な声が響き渡った。


「ホ~ホッホ~!」


「誰か笑ってる?」


「冒険者は私達以外地下2階に来てないはずだよ」


『臭いが近付いて来る』


「主、注意して。”掃除屋”だよ」


 リルが警戒を促すと、サクラが藍大を守れるようにぴったりと張り付く。


 メキメキッという音が聞こえて森の中の木々が倒れ、その奥から茶色い巨体が姿を現した。


「梟? いや、熊?」


「ホォォォォォッ!」


 藍大達の前に現れたそれは、羽毛がふさふさの太い腕を広げて荒ぶる鷹のポーズを披露した。


 しかし、藍大は頼もしいメンバーが一緒にいることで怯えることなモンスター図鑑を開いて敵の正体を調べ始めた。



-----------------------------------------

名前:なし 種族:オウルベア

性別:雌 Lv:35

-----------------------------------------

HP:390/390

MP:330/330

STR:630

VIT:550

DEX:200

AGI:350

INT:0

LUK:330

-----------------------------------------

称号:掃除屋

アビリティ:<怪力突撃パワーブリッツ><硬化鉤爪ハードクロー>   

      <羽々斬ウイングスラッシュ><羽根刃ウイングエッジ

      <怪力投パワースロー

装備:なし

備考:警戒

-----------------------------------------



 (荒ぶる鷹のポーズはアビリティじゃなかったのか)


 藍大がオウルベアについて気になったのはそこだった。


 よくよく考えてみれば、サクラやリルもアビリティなしで香ばしいポーズを披露したことがあるのだから、荒ぶる鷹のポーズぐらい素でやってのけるのだろう。


 違う、そうじゃない。


 ツッコむべきは梟が荒ぶる鷹のポーズをするところではなかろうか。


 ツッコミ不在のせいで藍大にそれを指摘する者は誰もいない。


 ポーズはさておきオウルベアの能力値だが、ミノタウロスよりも大雑把で素早いと評価すべきものだった。


 共通して言えるのはINTが0なパワータイプであることぐらいだ。


 その時、オウルベアは荒ぶる鷹のポーズから<羽根刃ウイングエッジ>の発動に切り替えた。


「任せろ!」


 舞が藍大の前に出て、オウルベアが振るった腕から射出された尖った羽根を全てメイスと盾で弾き落した。


「サクラはいつも通りに対処。ゴルゴンはオウルベアを燃やせ。避けたらリルが狙い撃て。メロは危険だから待機」


「いただきま~す!」


「「「シュロッ!」」」


 サクラがオウルベアのLUKを奪うと、ゴルゴンが<火炎眼フレイムアイ>でオウルベアを燃やそうとした。


 ところが、オウルベアは自分の体に危険を感知して<火炎眼フレイムアイ>を避けた。


「ホッホッホ~」


 当たる訳ないだろと馬鹿にした笑みを浮かべるが、本当に馬鹿なのはオウルベアだ。


 ゴルゴンの攻撃を避けて油断した瞬間を狙い、リルが<十字月牙クロスクレセント>を放った。


「ホォォォォォォォォォォッ!?」


 油断して反応が遅れたせいで回避が中途半端になり、オウルベアの右腕がリルの攻撃によって切断された。


 右腕を斬り落とされた痛みと驚きに耐えられず、オウルベアは発狂した。


 狙いなんてどうだって良いと言わんばかりに<羽根刃ウイングエッジ>を乱射した後、腕をやったリルに向かって左肩から入るショルダータックルを仕掛けた。


 <怪力突撃パワーブリッツ>を使っての攻撃だが、その巨体故に大したスピードではない。


「サクラ、拘束しちゃって」


「は~い! おとなしくしなさい!」


「ホォォォッ!?」


 <深淵鎖アビスチェーン>が決まって一瞬にしてオウルベアは簀巻きにされて地面に転がった。


 こんな鎖なんてぶち壊してやると暴れるオウルベアだが、<暗黒鎖ダークネスチェーン>よりも頑丈で拘束されていると僅かながらHPを蝕まれる<深淵鎖アビスチェーン>を壊すことはできなかった。


「良い敵は動かなくなった敵だけだぜぇぇぇ!」


 舞がそのまま身動きの取れないオウルベアの頭を殴り、オウルベアはHPが尽きて動かなくなった。


『サクラがLv51になりました』


『リルがLv50になりました』


『リルがアビリティ:<駿足クイック>を会得しました』


『ゴルゴンがLv40になりました』


『ゴルゴンがアビリティ:<火炎吐息フレイムブレス>を会得しました』


『メロがLv33になりました』


『メロがLv34になりました』


 (リルとゴルゴンが新しいアビリティを会得したか)


 システムメッセージが止むと、藍大は後で確認しなければと思いつつ従魔達を労った。


 それを羨ましそうに見ていた舞だが、まずは藍大の安全確認が大事だと声をかけた。


「藍大、怪我はないよね?」


「すこぶる元気だ。舞が最初に守ってくれたおかげさ。ありがとな」


「エヘヘ~」


 サクラ達同様に藍大に頭を撫でられ、舞も労われたい欲求が満たされて頬が緩んだ。


 この様子では舞の従魔化は確実に進んでいると思われても当然だろう。


 それから解体を済ませ、魔石はここにいないゲンのためにしっかり取っておくことにした。


 舞は解体中に気になったことがあって藍大に訊ねた。


「熊肉? それとも梟肉? 美味しいのかな?」


「どうだろうな。一応食用ってことはモンスター図鑑でわかった。ただ、モンスター図鑑では食用の肉が美味いかどうかまでは表記されてないから何とも言えん」


「でもでも、日曜日は強いモンスターになるほどお肉が美味しいよね? きっと美味しいんじゃないかな。美味しいよ多分」


「訊く前から結論出てるじゃん」


「いや~、藍大のお墨付きが欲しかったんだよ~。美味しいお肉が待ってるってわかれば、脱出までもっと頑張れるもん」


 藍大に胃袋を掴まれてる舞としては、昼食が楽しみで仕方ないらしい。


『きっと美味しくしてくれるよ。ね、ご主人?』


「舞もリルも期待するんだから頑張らせてもらうよ」


 食べ盛りの舞とリルにこうも期待されれば、藍大としても頑張ろうと思ってしまう。


 藍大達は昼食を楽しみにしながら探索を続けた。

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