第80話 これが俺とマジックコッファーの実力DEATH!

 翌日の月曜日の朝、ダンジョン探索は2組に分かれて行われることになった。


 1組目はダンジョン地下2階を探索する藍大とサクラ、リル、ゴルゴン、メロ、舞。


 2組目はダンジョン地下1階を探索する未亜と健太とゲン。


 昨日はゴルゴンが未亜のヘルプに入ったが、今日はゲンが代わりに入る。


 未亜に従魔が貸し出されることになったのは、未亜が後衛の弓士だからだ。


 それゆえ、藍大が従魔を貸し出す訳だがゲンとゴルゴンを交代でその役割を担うことになった。


 サクラとリルは絶対に藍大から離れたくないと言っており、藍大も特に頼りにしている2体を貸し出すのは不安だからその主張は認められた。


 メロは藍大の従魔の中で一番弱いので、ダンジョンでレベル上げする時はしばらくの間藍大と行動を共にすることになっている。


 メロが貸し出しても問題ない強さになったら、ゲンとゴルゴンとメロを順番に貸し出すことになるだろう。


 さて、未亜は健太とゲンを連れてダンジョン地下1階に来ている。


 前回はアゲハムーノ戦とハイドバット戦で藍大達に頼りっぱなしだったので、未亜は地下1階にリベンジするつもりなのだ。


「ほな行くで」


「うい」


「ヒュー」


 このパーティーでは未亜がリーダーを務める。


 シャングリラダンジョンに自由に出入りできる権利があるのは未亜だから、未亜がリーダーを務めた方が良いという判断からそうなった。


 未亜達が探索を初めて早々にアルミラージの群れが現れた。


「うわっ、すげえ。アルミラージが雑魚モブみたいに群れてんじゃん」


「あれは今日のダンジョンでも最弱や。こんなんで驚いてたらキリがないで? 健太、試しに実力見せてくれや」


「Aye, aye Ma'am」


 わざとらしい敬礼の後、健太は手に持っているアタッシュケースを構えてそのハンドルを引いた。


 その瞬間、ドドドという音と共にエネルギー弾が射出されてアルミラージに当たった。


「なんやそのアタッシュケース!? 武器やったんか!?」


 未亜は予想外の攻撃方法に驚きを隠せなかった。


「これが俺とマジックコッファーの実力DEATH!」


 健太の武器であるマジックコッファーだが、健太が茂経由でDMUの職人班に作ってもらった物だ。


 健太は魔術士の職業技能スキルを会得しているが、まだ藍大の従魔達の<深淵刃アビスエッジ>や<刃竜巻エッジトルネード>のような属性のある技のようなものは使えない。


 今使えるのは属性のないエネルギー弾とエネルギー壁だけである。


 そんな健太の戦闘をサポートするべく作られたのがマジックコッファーだ。


 健太のエネルギー弾の発動を助けるだけでなく、外見がアタッシュケースなら持ち歩いていても目立たずに済む優れ物だった。


「大したもんやな。ウチ、ぶっちゃけ健太のこと見くびっとったわ」


「未亜、俺に惚れた?」


「寝言は寝て言えや」


「俺も惚れられるなら可憐な人が良い」


「ほう、ウチが可憐やないやと?」


「そりゃそうっしょ。少なくともかなりまな板だよコレ!」


「OK。アンタはウチの的になりたいんやな?」


「ヒュー」


 ゲンがいい加減にしろよと2人にジト目を向ける。


 ゲンのジト目には妙に迫力があり、一触即発の2人は落ち着きを取り戻した。


「次言ったら許さへんからな。さっさと先に進むで」


 年齢からすれば未亜の方が年上のため、大人の対応でこの場で起きたことは不問になった。


 少し先に進むと、今度はブラッドバットが群れになって未亜達を襲撃した。


「次はウチの番やな」


 そう言った未亜はメテオラシューターを構えて次々とブラッドバットを狙撃した。


「こいつはすごいな」


 一射で数体のブラッドバットを射抜く未亜の腕前を見て、健太は素直に感心した。


 矢が無限にある訳でもなく、1本1本を大切にしなければならない。


 それが理由で未亜の集中力は最大限に高まっており、気づけばこんなことになっていたのだ。


 修行なんてぶっちゃけただの家出みたいなものだったから、未亜の狙撃の腕が修行で上がった訳ではない。


 藍大や舞のような頼れる存在がいないから、自分がしっかりしなければならないと思ったことで元々あった素質が開花したのだ。


 ゲンは勿論頼りになるのだが、多少面倒臭がりなところがあるから頼りきりではいられない。


 未亜が撃ち落としたブラッドバットだが、先程倒したアルミラージと一緒に大きな袋にしまった後ゲンが背中に乗せて運んでいる。


「クランマスターの収納袋が羨ましいわ~」


「藍大ってそんな物まで持ってんの?」


「あれ、健太は知らされとらんかったんか。大学からの友達なのになぁ。プププ」


「べ、別に藍大のことだから言ったつもりだっただけなんだからね!」


「そのツンデレは誰得やねん」


 他愛のない話をしつつ、この後も襲い掛かって来る雑魚モブモンスターを倒していくと、未亜達は未亜にとってリベンジ対象であるアゲハムーノが現れた。


「出よったなアゲハムーノ」


「こいつが”掃除屋”なのか。デカいな」


 未亜は前回の戦闘の記憶だけでなく、藍大からアゲハムーノの特徴をしっかりと確認していたのでそれを活かした戦闘を開始した。


「健太、アゲハムーノを包囲するようにコッファーで乱射や!」


「任せろ!」


 未亜の指示に従って健太がマジックコッファーでガンガン攻め立てると、アゲハムーノは自分に当たらない攻撃なので無視した。


「もろたで!」


 アゲハムーノを逃がさないように細工し、未亜はアゲハムーノを中心を射抜くべく矢を放った。


 しかし、未亜がフラグを立ててしまったせいなのかアゲハムーノは<恐怖風テラーウインド>で未亜の狙撃を防いだ。


「なんやて!?」


 未亜の放った矢を防いだアゲハムーノは、未亜を嘲笑うかのように小刻みに揺れる。


「もろたで! プププ」


「おいこらどっちの味方やねん!」


 自分を馬鹿にするのはアゲハムーノだけではないとわかると、未亜は健太に腹を立てた。


 そんな時、未亜と健太、そしてアゲハムーノにとって想定外のことが起きた。


 ゲンが<螺旋水線スパイラルジェット>でアゲハムーノの体に風穴を開けたのだ。


 しかもその一撃は<眠力変換スリープイズパワー>で強化されたものだったため、アゲハムーノのVIT程度では耐えきれる威力ではなかった。


「ヒュー」


「ゲンさんマジパねえっす」


「ぐぬぬっ、ウチのリベンジマッチが・・・」


 やれやれしょうがない奴等だと言わんばかりのゲンに対し、健太は素直に称賛した。


 ゲンの一撃は健太にとって目指すべき威力なだけでなく水属性の攻撃だ。


 憧れの属性付き高火力攻撃を見ることができたのだから、健太は大満足だろう。


 その一方、策を練って仕留めるつもりだったアゲハムーノとの戦いで美味しいところを頂戴された未亜は悔しそうにしていた。


 とはいっても、未亜は自分の実力がまだ足りていなかったことを受け入れられない訳でもなかった。


 深呼吸して気持ちを切り替えると、未亜はゲンに感謝の言葉を告げた。


「ゲン、ありがとな。ウチの詰めが甘かったで」


「ヒュー」


 気楽に行こうぜという表情でゲンが応じると、未亜はゲンですら藍大の従魔の中では3番手であることを思い出して先はまだ遠いと思った。


 サクラが昨日サキュバスに進化して強くなったこともそうだが、藍大の保有戦力は日を追うごとに高くなっていく。


 お荷物と思われないように頑張って自分も強くならなければと気合を入れ直した。


 その後、未亜達はアゲハムーノの死体を回収してボス部屋へと向かった。


 残念ながら、2回目の月曜日の地下1階には隠し部屋がなかったから寄り道せずにボス部屋に着いた。


「健太、ボス部屋に入ったら気ぃ付けや。ハイドバットは姿を消しとんねん」


「見えない相手とどうやって戦うんだ?」


「アンタの仕事は乱射や。当たらなくてもかまへんで。それを避けようと動いたところをウチが狙い撃つ」


「え~、また乱射かよ? あれだって無限に撃てる訳じゃねえんだぜ? 俺にやる気を出させてくれ」


「次の戦いで役に立ったなら、司に好きな服着させて好きにしてええで」


「確かに司は可憐だ。シャングリラの住人の仲で最も可憐だ。だが男だ」


「ええやん。男同士の絡みなんて素敵やん?」


「素敵じゃねえから。まな板腐女子黙って」


「ええ加減にせえよ! ウチやって好きでまな板ちゃうねん!」


 そんな言い合いをしていると、呆れた表情のゲンが単独でボス部屋の扉を開けて中に入り、<螺旋水線スパイラルジェット>でハイドバットを瞬殺していた。


 未亜と健太はゲンにやられてハイドバットが地面に撃墜した音で初めてそれに気づいた。


「嘘やん・・・。またやられてしもた」


「俺、ゲンさんに弟子入りする」


 決まり手は自分達との探索に飽きたゲンのワンショットキルだったため、未亜と健太は膝から崩れ落ちた。

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