第78話 あァァァんまりだァァアァ!
藍大は進化したサクラのステータスを今一度確認した。
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名前:サクラ 種族:サキュバス
性別:雌 Lv:50
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HP:800/800
MP:960/960
STR:760
VIT:760 (+380)
DEX:760
AGI:780
INT:800
LUK:6,060(+6,060)
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称号:藍大の従魔
勝負師
ダンジョンの天敵
アビリティ:<
<
装備:シールドアミュレット
備考:状態異常無効/色欲充填率20%
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(強くなったのは間違いないがリリスからサキュバスになったのか。それにしても<
進化して軒並み能力値が上がったことも大事だが、備考欄の色欲充填率20%が気になる。
この記述を詳しく見ると、次の進化を控えるための今の姿であること、充填率を100%にすることも進化条件だということしかわからなかった。
言わば調整期間なのだろう。
一説には夢魔の女王とも言われるリリスからサキュバスになったのには理由があったということだ。
気になることはまだある。
それは進化によって新たに会得した<
藍大だって男なのだから仕方のないことだろう。
このアビリティは自分の心を許した者から精力を分けてもらい、それをHPとMPに変換するという効果がある。
力の分け方は様々だが、いわゆるサキュバス的なことをしてサクラがHPとMPを回復するのだから藍大が気にならないはずがない。
「主、どうかな? どうかな?」
サクラは藍大に早く褒めてほしくて急かすように訊ねた。
「強くなったな、サクラ。最初に出会った時とは比べられない程頼り甲斐があるぞ」
「エヘヘ、そうでしょ? いっぱい頼ってね♪」
藍大に成長したと褒められたサクラは、舞と言い争いをして悪くなった機嫌がすっかりV字回復して藍大の腕に抱き着いた。
「むぅ、負けないよ~」
サクラに負けじと舞も藍大の反対側の腕に抱き着いた。
両手に花状態の完成である。
『ご主人、お腹減って来た』
「ヒュー」
サクラと舞が藍大の取り合いを始めそうになると、リルとゲンが空腹を訴えた。
(グッドタイミングだ)
「そろそろ脱出しよう」
リルとゲンにご飯を食べさせるという目的ができたことで、すぐに脱出する大義名分を得た藍大は全員を引き連れてダンジョンを脱出した。
藍大達が101号室のドアから出ると、シャングリラの前が騒がしいことに気づいた。
「ウェ~イ! 君かわうぃ~ね~!」
「あの、僕は男です。というよりも貴方はどなたですか?」
「そんな嘘つくなんてノンノンノンでしょ。オッス、オラ青島。君みたいなカワイ子ちゃんに出会えてオラワクワクすっぞ!」
(うわぁ、騒がしいのが帰って来たか)
声だけしか聞こえないが、藍大はシャングリラの前で知り合いが司に絡んでいることを理解した。
司がいる場所に藍大達が向かうと、藍大の両隣でサクラと舞がその腕を抱き締めているのを見てビジュアル系の外見の男が藍大に詰め寄った。
「ヘイヘイヘ~イ! どういうことだよ藍大ボーイ!? なんで立石さんとサクラたんと腕組んでんだ!?」
「誰が藍大ボーイだ。サクラのことをたん付けすんじゃねえっての」
「おいおい酷いじゃねえの。一緒に30歳で魔法使いになろうぜって俺と誓い合った藍大はどこへ行ったんだ?」
「そんな悲しい誓いを立てる訳ねーだろ」
「痛っ・・・、くはない。ハハッ、相変わらず貧弱だな」
藍大が自称青島の脳天にツッコミの手刀を落とすが、彼に痛いと言わせるには藍大が非力過ぎた。
「藍大、この人誰? さっきからやたら僕のこと口説いて来るんだけど」
そろそろ訊いても良いだろうと判断して司は藍大に訊ねた。
「こいつは204号室の住人の青島健太。誠に遺憾ながら俺と茂の大学からの友人で冒険者だ」
ちなみに、藍大が大地震の起きた時に一緒に海外旅行に行っていた男友達でもある。
「青島健太・・・。えっ、写真と見た目が全然違うじゃん」
「この馬鹿はコロコロ外見変えるんだよ。司の持ってるリストの写真は健太が遠征に行く前に撮ったものだったんだが、またがっつりイメチェンしやがった」
「改めて青島健太だ。よろしくね、司ちゃん」
ウインクする健太に対し、司はジト目を数秒向けてから藍大の方を見た。
「ねえ藍大、この人僕を男だって信じてくれない」
「健太、司は男だぞ」
「嘘だろ!? シャングリラの女性陣よりもずっと可憐で女の子らしいじゃん! 大体今着てるDMUの制服だって女性用だろ!?」
「信じられない気持ちはわかる。だが男だ」
「あァァァんまりだァァアァ!」
藍大のトーンが真剣だったため、健太は膝から崩れ落ちて号泣した。
だが、そんな健太は自分がやらかしたことに気づいていなかった。
「ああ゛ん? 誰が女らしくねえって言ったよゴラァ」
(アカン、舞さんが荒ぶってらっしゃる)
いつの間にか戦闘モードにスイッチが切り替わった舞が、崩れ落ちた健太の頭にSSメイスを添えてドスの効いた声で訊ねた。
健太も頭にメイスが触れたとわかると、泣き喚くのを止めて冷や汗をかき始めた。
「グスン、助けてくれよ藍大。俺達は親友だろ?」
「悪いな健太。俺ってば貧弱で舞のことを止められないんだ」
「謝る! お前を貧弱って言ったのは謝るからヘルプミー!」
先程貧弱と言われたことを根に持っていただけでなく、この場で健太の味方をするのは百害あって一利なしと判断した藍大は健太を見捨てた。
「薄情者ぉぉぉっ!」
「フン、優しい私に感謝しな」
「ぐへっ!?」
舞はSSメイスを使わず脚で突いて健太を転ばせた。
戦闘モードの舞でもメイスで殴ったら健太がただでは済まないとわかっているので、足蹴にして転ばすだけの寛大な処置に留めたのだ。
健太の
健太にお灸をすえて溜飲が下がった舞に対し、藍大は機嫌が一気に直る魔法の言葉をかけた。
「舞、そろそろステーキ食べようぜ」
「ステーキ!? わ~い!」
(チョロ過ぎやしないだろうか?)
すっかり機嫌が直った舞を見て藍大がこう思うのも仕方のないことである。
「司、とりあえず
「うん。そうさせてもらうよ」
司にその場を任せると、藍大は昼食を作るために舞達を連れて102号室へと入った。
レッドブルとミノタウロス、グランドブルには食べられない素材もあったのだが、藍大達は腹が減っていたので買い取りを後回しにして昼食を優先した。
ミノタウロスのステーキを焼き始めると、その匂いに我慢できなくなった舞とリルがキッチンに入らないギリギリの位置で待ち構えていた。
「美味しそう!」
『ご主人、早く早く~』
「今焼いてるから席に着いて待っててくれ。そうだ、味付けは何が良い?」
「塩胡椒と醤油でお願い!」
『僕も!』
「了解。サクラとゲンは?」
「私も同じでお願い」
「ヒュー」
「あいよ」
全員同じ味付けに決まると、藍大はてきぱきと全員分の肉を焼いた。
藍大も冷めないようにすぐに席に着く。
いざ、実食タイムだ。
「「「『いただきます!』」」」
「ヒュー」
それぞれが食べやすいサイズでステーキを口に運ぶ。
「美味い!」
「美味しい~」
「ほっぺた落ちる~」
『これ美味しい!』
「ヒュー♪」
ミノタウロスのステーキは絶品だった。
全員の皿にあった肉ががあっという間になくなってしまったぐらいだ。
舞は真理に辿り着いたような顔になった。
「藍大、私は今気づいた。ステーキは飲み物なんだよ」
「違うね。食べ物だね」
「それぐらいすぐになくなっちゃったよ」
「確かにすぐに食べ終わっちゃったな」
「私、毎日藍大の焼くステーキが食べたい」
(毎日お前のお味噌汁を飲みたいっていうプロポーズの亜種なのか? いや、違うか)
藍大が自分の考えをすぐに否定したのは舞が自分に恋愛感情を抱いていないと思ったからではない。
いつも藍大の作った料理を食べると毎日食べたいと言うものだから、今のもいつものことかと思っただけである。
実際、舞は藍大への好意を隠さなくなった。
サクラが藍大を誘惑するのに対抗する時は平気なのだが、彼氏彼女の関係ですることには恥ずかしさを感じてしまうらしい。
とにかく、舞の発言はプロポーズではなく料理への賛美ということだ。
その後、藍大は舞達のアンコールに応じてミノタウロスの肉をひたすら焼いた。
藍大とサクラは2枚食べたところで満腹になったが、舞とリルは6枚、ゲンは4枚食べて満腹だと宣言した。
ステーキを焼くのに疲れたものの、みんなの満足そうな顔を見た藍大は自分も満足するのだった。
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