第76話 冒険者絶対殺すマンじゃないすか! やだー!

 サクラが持ち帰って来た白い花について、サクラが手に持っている間だけならば藍大でもその正体を調べられる。


 早速、藍大はモンスター図鑑を開いて白い花の正体を調べた。


 (マニュファリリーって言いにくいな)


 その花の名前はマニュファリリーと言い、冒険者にとって貴重なアイテムだった。


 モンスター素材を触媒としてマニュファリリーの蜜を効果付きのアイテムに垂らすと、そのアイテムを強化できるからだ。


 勿論、触媒とするモンスター素材によってバージョンアップの方向性は異なるから、何を触媒にするかが重要だと言える。


「サクラが持って来てくれたんだし、サクラのシルバークロウリーを強化しようか」


「主のツナギを強化した方が安全だよ?」


「サクラが守ってくれれば問題ない。そうだろ?」


「・・・わかった! 主は私が守る!」


 改めて藍大から信頼されているとわかると、サクラは自分が藍大を守ると宣言した。


「頼りにしてるぞ。それじゃ、シルバークロウリーを貸してくれないか?」


「は~い」


 サクラは自分の首に提げたシルバークロウリーを藍大に渡した。


「強化の触媒なんだけど、客船ダンジョンで手に入れたシェルガンナーの真珠を使っても良いか? あれを使えばきっとサクラの助けになると思う」


真珠キラキラ使うの?」


「そうだ。サクラの安全には代えられないから使わせてくれないか?」


「良いよ! 主を信じる!」


 真珠を取っておきたい気持ちはあったが、それでも藍大に全幅の信頼を寄せているサクラは藍大の思うままにして構わないと頷いた。


 サクラから許可を得ると、藍大は収納袋からシェルガンナーの真珠を取り出してマニュファリリーの触媒とした。


 そして、マニュファリリーの蜜をシルバークロウリーにそっと垂らした。


 蜜がシルバークロウリーに触れた瞬間、シルバークロウリーは光に包まれた。


「目がぁぁぁっ! 目がぁぁぁぁぁ〜!」


「藍大、そんなに眩しくないよ?」


「・・・言ってみただけ」


 滅びの呪文に目潰しされた大佐の真似をする藍大に対し、元ネタがわからなかった舞が冷静にツッコむ。


 ボケをボケとわかってもらえなかったことで恥ずかしさが押し寄せ、藍大は顔を赤くしながら応じた。


 それはさておき、光が収まると藍大の手の中でシルバークロウリーに変化があった。


 元々は六芒星のデザインのネックレスだったが、今は中心にピンク色の小さい真珠が嵌め込まれた丸盾のデザインのネックレスになっている。


 藍大は強化されたネックレスをサクラの首にかけてあげた。


「うん、よく似合ってる」


「そうかな?」


「まるでサクラのためにあるみたいだ」


「エヘヘ♪」


 サクラは嬉しそうにモジモジと体を揺らした。


 藍大がモンスター図鑑で強化されたネックレスを調べてみると、その名前がシールドアミュレットへと変化していた。


 (状態異常無効に加えてVIT×1.5!? そいつはすげえ!)


 シェルガンナーは<貝殻籠城シェルシージ>というVITの能力値を2倍にするアビリティを会得していた。


 それゆえ、シルバークロウリーにVITを底上げする効果が付くことを期待していたのだが、藍大の予想以上に強化されていた。


「藍大、私にもそういうの欲しい」


「舞?」


「藍大、私にもそういうの欲しい」


「えっと」


「藍大、私にもそういうの欲しい」


 舞はサクラが羨ましくなったらしく、ロボットのように全く同じトーンで同じセリフを3回繰り返した。


 SSシリーズに満足していても、やはり女性として舞もアクセサリーに興味があるのだ。


 舞の目には絶対に引き下がらないという意思が感じられたので、藍大は無駄な抵抗を止めた。


「今度見つけたら舞にあげるよ」


「絶対だよ?」


「わかった」


「やったね!」


 藍大から言質を取ると、舞はニパッと笑った。


 その時、リルが藍大のツナギを引っ張った。


『ご主人、あっちからレッドブルの群れが来るよ!』


 リルがいち早く異変に気付いて知らせると、藍大は頭を戦闘に切り替えてシンプルに指示を出した。


「薙ぎ払え!」


「私に牛肉を寄越せぇぇぇ!」


 その瞬間、舞がSSシールドをフライングディスクの要領で前方に向かって投げた。


 SSシールドに当たった先頭のレッドブルが倒れると、後に続いていたレッドブル達が次々に倒れた。


「サクラ、リル、ゲン、とどめを刺しちゃって」


「は~い」


『うん!』


「ヒュー」


 舞の行動は予想外だったが、結果的に楽ができたので藍大は問題ないと思うことにした。


 レッドブルの死体を回収していると、重厚な足音が遠くから藍大達の耳に届いた。


 その音の主は二足歩行で赤い戦斧バトルアックスを持った黒い牛だった。


 大きさは2mは優に超えており、腹筋はどこに出しても恥ずかしくないシックスパックである。


 藍大はすぐにモンスター図鑑で現れたモンスターについて調べた。



-----------------------------------------

名前:なし 種族:ミノタウロス

性別:雄 Lv:35

-----------------------------------------

HP:360/360

MP:320/320

STR:680

VIT:600

DEX:250

AGI:250

INT:0

LUK:320

-----------------------------------------

称号:掃除屋

アビリティ:<怪力飛斬パワースラッシュ><硬化突撃ハードブリッツ>   

      <斧投アックススロー><戦叫ウォークライ

      <怒切刻アングリーミンス

装備:キリングアックス

備考:激怒

-----------------------------------------



 (冒険者絶対殺すマンじゃないすか! やだー!)


 ミノタウロスのステータスを確認すると、藍大は心の中でシャウトした。


「ブモォォォォォッ!」


 ミノタウロスが<戦叫ウォークライ>を発動した瞬間、藍大達は周囲の空気がビリビリと震えて体が強張るのを感じた。


 しかし、そんな中でも1人だけ動ける者がいた。


 舞である。


「耳障りなんだよドカスが!」


 そう叫び返した直後、舞はレッドブルにやったようにSSシールドを投げて攻撃した。


 ミノタウロスはSTRに比べて低いDEXでは狙いを定めることができず、キリングアックスをフルスイングするも空振ってしまい、SSシールドはミノタウロスの脛に命中した。


「ブモォッ!?」


 脛に激痛を感じたミノタウロスは情けなく叫んだ。


「チャンスだ! サクラはLUKを奪え! リルはミノタウロスに空の旅をプレゼントしろ! ゲンは反撃に備えて待機!」


「いただきま~す!」


『飛んでけ~!』


 ミノタウロスが怯んだ隙を見逃さず、藍大はサクラ達に指示を出した。


 サクラにLUKを奪い取られた直後、ミノタウロスはリルの<竜巻トルネード>に巻き込まれて上空に吹き飛ばされた。


 ところが、ミノタウロスの体は重くてレッドブルのようには飛ばず、上空でバランスを整えたミノタウロスは体を捻ってキリングアックスを投げ飛ばした。


「頼んだぞゲン!」


「ヒュー!」


 任せろと言わんばかりに意気込んだゲンの正面に、鏡のように反射する大きな水の鏡が出現した。


 これはゲンがLv40で会得した<水鏡壁ミラーウォール>である。


 この壁にぶつかったものは、壁が崩されない限り勢いもキープしたまま反射される。


 ミノタウロスのSTRは”ダンジョンの天敵”を有するゲンのINTよりも低いから、<斧投アックススロー>は<水鏡壁ミラーウォール>を壊せなかった。


 つまり、ミノタウロスの投げたキリングアックスはミノタウロスに跳ね返った。


 水の壁の角度を落下するミノタウロスに反射した武器を命中させられるように展開するあたり、ゲンは本当に効率主義だと言える。


 だが、ミノタウロスのシックスパックがキリングアックスによる切断を防いだ。


「腹筋すげえ!」


「もう! お肉になっちゃえ~!」


 ゲンの反撃で倒せなかったことにムッとしたサクラは、<深淵刃アビスエッジ>で落下中のミノタウロスをバラバラに切り刻んだ。


 口にした通り、サクラはミノタウロスを食用肉へと変えてしまったのである。


『サクラがLv49になりました』


『リルがLv48になりました』


『ゲンがLv44になりました』


 システムメッセージが耳に届いたことで、藍大は戦闘が終了したのだと悟った。


「お疲れ様だ。よく頑張ったな」


 藍大はサクラ達を労った。


「お疲れ~。最初の咆哮すごかったね~」


「舞もお疲れ。あの咆哮を喰らってもピンピンしてた舞の方がすごいっしょ」


「エヘヘ、そう?」


「マジですごかった。舞にはミノタウロスのサーロインステーキを昼食に進呈するよ」


「くるしゅうない」


 食用肉であることは確認済だったので、藍大は今日の戦果で最も美味しいだろう部位を舞に食べさせてあげることにした。


 舞もその雰囲気から間違いなく美味しいだろうと察し、胸を張って自分の報酬を受け取る意思を表明した。


「むぅ。主、食べさせて」


 舞が褒められていることに抵抗し、サクラはいつの間にかミノタウロスの魔石を回収して来た。


「愛い奴め。ほれ、あ~ん」


「あ~ん。んん~♪」


 魔石を飲み込んだ途端、サクラのスタイルがまた一段と良くなった。


 その直後にシステムメッセージが藍大の耳に届いた。


『サクラのアビリティ:<暗黒鎖ダークネスチェーン>がアビリティ:<深淵鎖アビスチェーン>に上書きされました』


「順調に強くなってるな。頼りにしてるぞ、サクラ」


「ムフフ~」


 藍大に頼りにしていると言葉にされたおかげで、サクラはすぐにご機嫌になるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る