第74話 美人の握ったおにぎりが食いたいか~!?

 おにぎりフェス当日の土曜日、イベント当日はダンジョンに行っている場合ではなかったので、準備を済ませた”楽園の守り人”のメンバーは月見商店街に移動した。


 シャングリラに誰もいない訳にはいかないので、ゲンとゴルゴン、メロが留守番をしており、サクラはおにぎりフェスの盛り上げ役として、リルは藍大の護衛として同行している。


 商店街の中には今日のための特設ステージが用意されていた。


 ステージに登壇すると、舞達はそれぞれ自分の持ち場に移動して食器の確認を始めた。


 確認を終えた者から、藍大に頼んで順番に作り置きしたおにぎりを収納袋から取り出してもらった。


 今回、舞達が作ったおにぎりに使う米のブランドはそれぞれ別である。


 舞達がこれはと気に入ったブランドの米を使っておにぎりを作ることで、米屋の佐藤が望む多様な米のアピールをするつもりなのだ。


 その上おにぎりフェス限定で、それぞれ握った者の写真がパッケージに張り出された米が売り出される。


 人間の限定という響きに弱い特性を突いた立派な戦術である。


 ちなみに、舞達がそれぞれ選んだ米のブランドは以下の通りだ。


 舞は出身地の有名ブランドあきたこまち。


 サクラは名前を聞いてこれしかないと選んだつや姫。


 麗奈は自分の舌に合ったひとめぼれ。


 司は自分が男であるとアピールするべく新之助。


 奈美は定番中の定番を狙ってコシヒカリ。


 未亜はその名前に努力の歴史を感じてきらら397。


 なお、藍大が普段どのブランドを食べているかだが、米屋の佐藤にどの米も美味しいから全種類食べてほしいと言われて順番に買って食べている。


 ここ最近は直近で買ったはるみが気に入っている。


 このブランドは冷めても硬くなりにくいと佐藤に力説されて買ったが、本当に他のブランドよりも硬くなりにくかったので印象的だったのだ。


 米のブランドはさておき、おにぎりの具も重要な要素と言えよう。


 舞達は藍大に手伝ってもらいながら、各々これだと思う具を作っておにぎりにしている。


 舞はアローボアの時雨煮。


 サクラはフロージェリーの中華和え。


 麗奈はドランクマッシュの炊き込みご飯。


 司はパイロスネークの一口唐揚げ。


 奈美はバブルフロッグのそぼろ。


 未亜はアルミラージの焼肉。


 誰も米のブランドも具材も被ることなく、おにぎりフェスを迎えることができたのはラッキーだと言えよう。


 皿に盛り付けが終わり、開始時刻を迎えると八百屋の店主がマイクのスイッチを入れた。


「美人の握ったおにぎりが食いたいか~!?」


「「「・・・「「おおっ!」」・・・」」」


「リア充の気分を味わいたいか~!?」


「「「・・・「「うぉぉぉぉぉっ!!」」・・・」」」


 最初の問いかけよりも多くの男達の魂の叫びが会場内に響き渡った。


「そんな諸君に朗報だ! 今日は”楽園の守り人”が誇る美人達のおにぎりが食えるぞ! しかも、おにぎりに使われてる米は本日限定で握ってる美人の写真のパッケージが付いてるぜ!」


「撲殺騎士たんの写真!?」


「司きゅんの写真!?」


「まな板の写真!?」


「誰がまな板や!」


 最後の声を聞き逃さなかったのか、未亜はしっかりとツッコミを入れる。


 撲殺騎士たんと司きゅんと言った者にツッコまなかったのは、自分のことで手一杯だったからだ。


 そうじゃなければきっとツッコんでいたに違いない。


「では、ここで今日のおにぎりフェスの開催を企画した”楽園の守り人”のクランマスター、逢魔藍大に開会宣言をお願いするぜ!」


「ご紹介に与りました”楽園の守り人”のクランマスター、逢魔藍大です。今日は”楽園の守り人”が月見商店街と業務提携を締結する記念としておにぎりフェスを開くことになりました。我がクランが誇る美人達がシャングリラダンジョンの食材を使った力作を披露します。是非楽しんで下さい。これよりおにぎりフェスを始めます!」


「それでは諸君、気になるあの子の前に行儀良く並べ! マナー違反をしない限り、参加者全員がおにぎりを食べる権利があることを忘れるなよ!」


「「「・・・「「うぉぉぉぉぉっ!!」」・・・」」」


 八百屋の店主の注意が終わると、会場に集まった参加者達が一斉におにぎりを求めて並び始めた。


「アローボアの時雨煮だよ~!」


「美肌効果のフロージェリーの中華和えなの!」


「炊き込みご飯はいかがかしら?」


「僕の唐揚げもあります!」


「あ、あの、そぼろもあります!」


「ご飯のお供は焼肉が一番やで!」


 舞達も参加者に自分の列に並んでほしくて声をかけた。


 折角のイベントで自分の列だけ寂しかったら嫌だからだ。


 今日のイベントの参加者の男女比は、カウントしたところ7:3だった。

 

 女子に作ってもらったおにぎりを食べたいという素直な男性諸君の他に、女性陣が3割もいる理由は何か。


 それは男性を落とす工夫を学ぶためである。


 恋人のいない女性達は、”楽園の守り人”の女性陣が作るおにぎりからモテる秘訣を学びに来たのだ。


 だがちょっと待ってほしい。


 忘れていないだろうか。


 ”楽園の守り人”の女性陣は皆等しく一癖ある者達だということを。


 舞は見た目だけならゆるふわ美人だが、戦闘モードになった瞬間に言動が世紀末に一直線だ。


 サクラは文句なしに可愛いが、藍大の従魔であり藍大以外割とどうでも良いと思っている。


 麗奈は普段こそまともに見えるが、酒を与えたらアウトの酒乱である。


 司は性格に癖がなく女性よりも女性らしい。


 だが男だ。


 奈美は儚げな美人ではあるものの、キョドリ過多で毒舌である。


 未亜はノリが良くボケもツッコミもこなす貧乳だ。


 彼女達のことをしっかりと理解すれば、”楽園の守り人”のギルドマスターはかなり大変であると理解できるだろう。


 もっとも、藍大自身も無自覚にやらかすのでノーマルとは言えないのだが。


 それはさておき、各人の人気を表すと舞=サクラ>司>未亜>麗奈=奈美と言う状況である。


 舞の時雨煮におふくろの味を感じているらしく、男性陣は食べると自分の故郷を思い出していた。


 しかし、その時雨煮は藍大がいなければできなかったので、舞に感じるバブみのほとんどは藍大に向けられるべきものなのは内緒である。


 サクラの中華和えはサクラファンの男性陣と全ての女性陣を引き寄せていた。


 男性陣は置いといて、女性陣が集まるのは美肌効果と言う言葉に引き寄せられたからだ。


 コラーゲンを摂取して美肌になろうと考えるのは女性陣の共通の見解らしく、真っ先にサクラの列に並んでいるのだ。


 それ以外のメンバーはそれぞれのファンがおにぎりを求めて並んでいるのだが、司の列に並ぶ男性陣を見て未亜の妄想が捗ったことは言うまでもない。


 おにぎりは藍大達スタッフが想像していたよりも早くなくなり、舞達の写真がパッケージとなった米も売り切れとなった。


 おにぎりフェスが終わるのと同時に、商店街の面々は攻勢に出た。


 米だけ買ってこの商店街から帰らせたりはしないと言わんばかりにそれぞれの店の商品を売り出した。


 元々、質が高かったこともあって商店街の全ての店で過去3ヶ月分の売り上げとなった。


 おにぎりフェス万歳である。


 藍大達が片付けを終えて帰ろうとすると、商店街を代表して八百屋の店主が声をかけた。


「”楽園の守り人”には足を向けて寝れねえぜ。今日は本当にありがとな!」


「みんな商魂たくましかったな」


「そりゃ稼ぎ時に稼がねえ商人はいねえよ」


「違いない。こっちも気分転換になったよ。な、みんな?」


「うん! 楽しかったよ!」


「次は単独優勝だもん!」


「お礼にお酒も貰ったし全然OK!」


「楽しかったけど、次は観客でいたいかな?」


「あ、あの、私なんかのおにぎりで喜んでもらえて、よ、良かったです」


「今日のイベントで妄想が捗ったで。ご飯3杯はいけそうや」


 おにぎりがなくなるまでにかかった時間で競った結果は舞とサクラの同時優勝だった。


 その後の順位は司、未亜、麗奈、奈美と続いた。


 舞は純粋に楽しめたから次も違うイベントがあったら参加したいと思っており、サクラはそんな舞を負かしてやると闘争心を燃やしている。


 麗奈は順位に関係なく酒屋からお酒をプレゼントされてご満悦だ。


 司は祭自体気に入っていても、自分が女性陣と肩を並べて参加するのは遠慮したいと正直に言った。


 奈美は人見知りで自信がなかったけれど、今日のイベントで自分にも応援してくれる人がいるとわかって少し自信がついた。


 未亜は腐女子的に撮れ高ばっちりだったようだ。


「とにかく楽しんでもらえて良かったぜ。また、何か面白い企画があったらよろしくな!」


「おう。それじゃあな」


 シャングリラに帰ると、今日頑張ったみんなのために藍大が腕を振るって労ったのは言うまでもない。

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