第73話 ボッシュートの使い手だったの?

 金曜日の朝、藍大と舞、未亜はシャングリラの地下1階に来た。


 藍大が連れて来た従魔はサクラとリル、ゴルゴンの3体だ。


 メロは<発芽スプラウト>で芽を出させた苺の世話をしており、ゲンはその護衛としてシャングリラの庭に残っている。


 もっとも、メロは”元掃除屋”なので護衛しなくても問題ないのだが、ゲンが偶にはのんびり過ごしたいと目で訴えて来たので護衛の名目で留守番することを許可したのだ。


「さあ、今日は頑張るで!」


「修行の成果を期待してますぜ、姐さん!」


「ぐっ、ここぞとばかりにいじりよって」


「藍大、数日で修行できる訳ないじゃん。未亜ちゃんを追い込んじゃ駄目だよ~」


「ごめん、様式美かと思って」


「ええねん。よくよく考えたら、邪魔されることなくモンスターと戦えるっちゅう点でシャングリラに勝る狩場はないんや。ウチが阿呆だったんや」


 未亜は数日の修行外出を振り返って自嘲気味に言った。


 一般公開されているダンジョンは、当然のことながら近場を拠点とする冒険者が入り浸っている。


 探索する冒険者が多ければ多い程、モンスターと遭遇して戦える機会が減るのは想像に難くない。


 ”楽園の守り人”のようにダンジョンを占有していなければ、冒険者同士の狩場被りでまともに実戦経験を積むには時間がかかる。


 未亜が強くなるならば、修行の旅に出ずにシャングリラのダンジョンに籠るのが一番効率が良かったということだ。


 未亜いじりはこの辺にしてダンジョン探索に本腰を入れると、藍大達は本日の雑魚モブに出くわした。


「ゴブリン?」


「ゴブリンだね」


「いや、ただのゴブリンとちゃうで。腰蓑の色がちゃうねん」


 未亜の指摘した通り、確かに腰蓑の色がみすぼらしいゴブリンとは不釣り合いの赤銅色だった。


 藍大がモンスター図鑑で調べてみると、カッパードーバというゴブリンの変種であることがわかった。


「カッパードーバだって。銅でできた腰蓑を付けたゴブリンらしい」


腰蓑あれを剥ぎ取るの?」


「不潔やなぁ。触りとうないで」


「ゴルゴン、燃やしちゃって」


「「「シュロッ!」」」


「ゲギャァァァッ!?」


 <発火眼パイロアイ>によってカッパードーバは焼却された。


 汚物は消毒されなければならない。


 これが世の中のルールである。


 その後、カッパードーバが現れればゴルゴンが燃やし、マネーバグが現れたらマネーバグ絶対殺すレディのサクラが斬り捨てるものだから、舞と未亜の出番はなかった。


 広間のようなスペースでカッパードーバとマネーバグの混成集団を倒すと、藍大達の前に見覚えのあるフォルムの物体が現れた。


 しかし、それは色が金色に輝いていた。


「ミミックだよな?」


「金色だね」


「スーパー○とし君ならぬスーパーミミックやろか?」


 命名規則を世界○しぎ発見に倣うのはいかがなものかと思ったが、藍大はツッコまずにモンスター図鑑を開いて調べることを優先した。



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名前:なし 種族:ゴールデンミミック

性別:なし Lv:25

-----------------------------------------

HP:340/340

MP:450/450

STR:300

VIT:300

DEX:300

AGI:0

INT:0

LUK:500

-----------------------------------------

称号:掃除屋

アビリティ:<猛毒噛ヴェノムバイト><偽宝フェイクトレジャー>  

      <没収舌ボッシュータン><高揚霧ハイミスト

装備:なし

備考:なし

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 (ボッシュートの使い手だったの?)


 藍大はゴールデンミミックのステータスを確認した際、真っ先に<没収舌ボッシュータン>に目がいった。


 未亜がスーパー○とし君なんて口にするものだから、なんとなく藍大も頭の中が世界○しぎ発見に毒されていたのだ。


「未亜、スーパーミミックじゃなくてゴールデンミミックだ。でもな、<没収舌ボッシュータン>っていう強奪系アビリティを使うらしいぞ」


「アカン、ウチみたいな美人ミステリーハンターがおったら真っ先に狙われてしまうで」


 自分の体を庇うように未亜が抱き締めると、ゴールデンミミックは<没収舌ボッシュータン>をサクラの胸目掛けて発動した。


「こっち来ないで!」


 サクラは<深淵刃アビスエッジ>でミミックの舌を切断し、<没収舌ボッシュータン>を無効化した。


 それを見た未亜は額に血管を浮かべて矢を連射した。


 ゴールデンミミックはサクラが首から提げているシルバークロウリーを狙っていたのだが、頭に血が上った未亜にはそれがわからなかった。


「胸なんか!? 胸がないと見向きもされんのか!?」


 メテオラシューターから放たれた矢は、ゴールデンミミックの箱の側面を次々に貫いていく。


「サクラ、未亜が倒す前にLUKを奪え!」


「は~い! いただきま~す!」


 未亜がゴールデンミミックのHPを削り切る前に間に合い、サクラはゴールデンミミックのLUKを奪うことに成功した。


 それと入れ替わるようにシステムメッセージが藍大の耳に届いた。


『おめでとうございます。従魔の能力値の1つが初めて10,000に到達しました』


『初回特典として逢魔藍大はシャングリラダンジョンに自由に出入りできる権利を誰か1人に与えられるようになりました』


『サクラがLv47になりました』


『リルがLv46になりました』


『ゴルゴンがLv37になりました』


『ゴルゴンが称号”掃除屋殺し”を会得しました』


 (もう1人追加できるようになったか)


 能力値が10,000を超えたのはサクラのLUKである。


 誰にシャングリラダンジョンへ自由に出入りする権利を与えるかだが、既に舞にはその権利を与えているので、次に誰を選ぶか藍大は決めていた。


 (未亜にシャングリラを自由に出入りできる権利を与える)


『承知しました。天門未亜に権利を与えました』


 システムメッセージが藍大の思考を読み取って未亜に権利を与えた。


 DMU出向組に権利を与えれば、当人達の意思に関わらずDMUの老害にダンジョン素材を接収される恐れがある。


 それは避けたいので、藍大は自分の実力が伸び悩んでいた未亜にその権利を与えた。


 未亜が自由に出入りできるようになれば、未亜は自分や舞の予定に合わせずにダンジョンに入れる。


 好きなタイミングで他人に邪魔されずに修行できる環境を与えることで、藍大は未亜に恩を売ったのだ。


 未亜は”楽園の守り人”の中でノルマを設けられている訳でもなく、自由にダンジョン探索に加わることは元々クラン加入の条件に含まれていた。


 藍大が未亜の権利をきちんと守れば、未亜だって藍大に報いようと思うのは自然なことだ。


 少なくとも裏切られるようなことはないだろう。


「未亜、良いニュースがある」


「なんや?」


 ゴールデンミミックが自分には取るがないと見向きもしなかったことで、未亜の機嫌はよろしくなかった。


 未亜と大して仲が良くない者ならば話しかけようとは思わないぐらいには機嫌が悪かったが、藍大は今からする話を聞けば未亜の機嫌が直ると信じて怯まなかった。


「未亜にもこのダンジョンに自由に出入りする権利を与えることに成功したんだ」


「ホンマか!? ウチを喜ばせといてから嘘って言って絶望させようと思ってへんやろな!?」


「俺がそんな鬼畜に見える?」


「・・・すまん、失言やった。クランマスターはそんな酷いことせえへんな。ありがとう」


 落ち着きを取り戻した未亜は藍大に詫び、そして感謝した。


「良かったね、未亜ちゃん! これでいっぱい修行できるよ!」


「もう堪忍してくれへん?」


 舞に悪気がないことはわかっているが、自分の至らなさを思い出させられて未亜は恥ずかしくなった。


 オチが付いたところでゴルゴンが魔石を藍大に差し出した。


「次はゴルゴンの番だもんな。お食べ」


「「「シュロロ~」」」


 魔石を飲み込んだ直後、ゴルゴンの鱗の光沢が増した。


『ゴルゴンのアビリティ:<発火眼パイロアイ>がアビリティ:<火炎眼フレイムアイ>に上書きされました』


「火力が上がったな、ゴルゴン」


「「「シュロン♪」」」


 もっとお役に立ちますと言わんばかりにゴルゴンは堂々とした態度になった。


 その後、藍大達はボス部屋に移動してリルがボスを瞬殺してダンジョンを脱出した。


 ボスはシルバーヘルムという銀色の兜をかぶったゴブリンであり、銀色の兜以外はただの腰蓑付きのゴブリンとしか形容しようがなかった。


 ダンジョンを脱出してシルバーヘルムの魔石をメロに与えると、メロの<発芽スプラウト>が<農業アグリカルチャー>に上書きされた。


 メロが戦闘要員ではなく、生産職としての地位を固めた瞬間だった。


 日課のダンジョン探索が終わると、藍大達は明日のおにぎりフェスの準備をして当日に備えた。

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