第72話 着飾ったところで芋は芋なんだよね

 翌日の木曜日の朝、藍大達はダンジョンの地下1階に来ていた。


「オラァ!」


 舞が殴り飛ばした個体が襲撃して来た集団の最後の1体だったらしく、敵は全て地面に倒れ伏した。


 木曜日の地下1階に現れる新しい雑魚モブモンスターはボムポテトと言い、ハンドボール大のジャガイモの見た目をしている。


 その名前の通り、ボムポテトは爆発する。


 自分のHPが尽きるのを覚悟して<自爆スーサイドボム>を発動するのだ。


 <自爆スーサイドボム>なんて迷惑なアビリティを使われては困るので、最初に使われた以外は全て<自爆スーサイドボム>を使わせないようにスピード勝負の戦いとなった。


「倒せばただの大きいジャガイモになるのが不思議だよな」


「モンスターだもん。常識は通用しないんだよ」


「それもそっか。とりあえず回収しちゃおう」


「そうだね」


 ジャガイモならば八百屋にも卸せるので、ボムポテトの死体を放置してダンジョンに吸収させるなんてもったいないことはさせない。


 藍大達はダンジョンを進んではボムポテトとドランクマッシュに襲われたが、見敵必殺サーチ&デストロイを基本方針としてサクサク探索した。


 何度目かの戦いを終えると、藍大達の前にボムポテトでもドランクマッシュでもないモンスターが現れた。


「大変だよ藍大! 羊がメロンに埋まってるよ!」


「何この珍獣」


 舞が言う通り、メロンから羊の顔が飛び出している見た目だったので、藍大はその正体を調べるためにモンスター図鑑を開いた。



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名前:なし 種族:バロメッツ

性別:雌 Lv:25

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HP:350/350

MP:350/350

STR:200

VIT:200

DEX:260

AGI:200

INT:400

LUK:230

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称号:掃除屋

アビリティ:<大地吸収ガイアドレイン><睡眠雲スリープクラウド>   

      <発芽スプラウト><蔓鞭ヴァインウイップ

装備:なし

備考:なし

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 (ダンジョン外での<発芽スプラウト>はただの植物を生やせるのか・・・)


 <発芽スプラウト>はダンジョン内で使えば間違いなく援軍を呼ばれる厄介なアビリティだが、ダンジョンの外に出た状態で使えばただの野菜や果物が生えて来るだけだ。


 そのアビリティは藍大にとって気にならないはずがなかった。


「サクラはバロメッツをテイムしたいから捕まえて」


「は~い。そこのバロメッツ、気をつけ!」


「メロン!」


 <導気カリスマ>によってサクラがバロメッツに姿勢を正させると、藍大はバロメッツに安全に近付くことができるようになった。


 (鳴き声がメロンってのはどうなんだ?)


 そんなことを思いつつ、藍大はバロメッツに近寄ってその頭にモンスター図鑑を開いて被せた。


 バロメッツはモンスター図鑑に吸い込まれていき、その直後に藍大の耳にシステムメッセージが聞こえて来た。


『バロメッツのテイムに成功しました』


『バロメッツに名前をつけて下さい』


 名付けの時間だが、藍大は特に悩むことなく名前を口にした。


「名前はメロにする」


『バロメッツの名前をメロとして登録します』


『メロは名付けられたことで強化されました』


『メロのステータスはモンスター図鑑の従魔ページに記載され、変化がある度に更新されていつでもその情報を閲覧できます』


『詳細はメロのページで確認して下さい』


 テイムが完了すると、舞は藍大に声をかけた。


「藍大、お疲れ様。今回はテイムすることにしたんだね」


「メロがいれば家庭菜園ができそうだから」


「そうなの?」


「ダンジョンの外で<発芽スプラウト>ってアビリティを使わせれば、食べられる植物の芽を出させられるらしい」


「ということは苺が食べ放題になるの?」


「上手くいけばね」


「デザートを用意できるなんて優秀な従魔だね」


 既に舞の中ではメロ=苺となっているらしい。


 舞の期待に応えられるかはさておき、藍大はメロもレベルアップさせるために召喚することにした。


「【召喚サモン:メロ】」


「メロ~ン」


 召喚されたメロは眠そうな目をしていた。


「メロちゃん、美味しい苺を作ってね!」


「・・・メ、メロン」


 前向きに検討しますと言わんばかりにメロは目を逸らして鳴いた。


 呼び出されてすぐに実力で絶対敵わない相手に供物を求められれば、メロじゃなくたって似たような反応になるのではないだろうか。


 それはさておき、藍大達はボス部屋を目指して探索を再開した。


 メロが加わったことでサクラ達の1体あたりの取得経験値は減ってしまったが、ボス部屋に到着するまでにメロはLv28までレベルアップした。


 ボムポテトとの戦闘に慣れてしまえば、ドランクマッシュも含めてボス部屋への道のりで疲れるようなことはない。


 少し休憩した後、藍大達はボス部屋の扉を開いた。


 扉の向こうにいたのは黒いシルクハットとマントを身に着けた人間大のジャガイモだった。


「似合わねえなぁ」


「着飾ったところで芋は芋なんだよね」


「芋の癖に生意気~」


『ご飯が服を着てるの?』


 藍大、舞、サクラ、リルの順番で感想を正直に口にすると、そのジャガイモがプルプルと震えてから爆散した。


「「「『えっ!?』」」」


『ゴルゴンがLv36になりました』


『メロがLv29になりました』


 藍大の耳に訳のわからないままシステムメッセージが届いた。


 どうしてこうなったのかさっぱりわからなかった藍大は、とりあえずモンスター図鑑を開いて死体からわかる情報を調べた。


 (バロンポテトっていうボスだったのか・・・)


 ボスの名前すらわかっていなかったが、どういう訳か藍大達は何もせずに倒してしまった。


 いや、正確には何もしていなかった訳ではない。


 藍大達はバロンポテトの容姿をディスった。


 それが原因でバロンポテトは爆散したのだ。


 (貴族のプライドがディスられたことに耐えられずに自爆を選んだってことか)


 バロンポテトのバロンとは男爵のことである。


 男爵としてプライドを持っていたバロンポテトは、藍大達に自分の容姿へ容赦なくディスられたことで心が折れて<自爆スーサイドボム>を発動した。


 ディスられた容姿を死後に残さないようにするため、自分の体を爆散させて死んでなおディスられる事態を避けたのだろう。


 (フロアボスにも繊細な個体がいたってことか)


 藍大はそのように結論付けた。


 客船ダンジョンでゲンに出会った時も”希少種”という称号が発見されたのだから、ダンジョン内にいるモンスターそれぞれに個性があっても不思議ではない。


 そこにゲンが魔石を咥えて藍大の前にやって来た。


「次はゲンの番だったな。食べて良いぞ」


「ヒュー♪」


 魔石を飲み込んだ直後、ゲンの甲羅がピカッと光った。


『ゲンのアビリティ:<鋭水線アクアジェット>がアビリティ:<螺旋水線スパイラルジェット>に上書きされました』


「アビリティが強化されたか。ゲン、良かったじゃん」


「ヒュー♪」


 ゲンを労った後に、藍大はサクラ達を労った後にバロンポテトの飛び散った破片を回収した。


 破片と言ってもサイズ自体は一般的なジャガイモよりも大きいから、回収しないなんて選択肢はないのだ。


 全ての破片を回収し終えると藍大達はダンジョンを脱出した。


 脱出してすぐ、メロは日当たりの良い場所へと自ら移動していった。


「メロ、そこから右半分が家庭菜園予定地だ。悪いが早速苺を頼めるか?」


「メロ~ン」


 ゆったりと回答したメロが<発芽スプラウト>を発動し、家庭菜園予定地から芽が生えた。


「一瞬で芽が生えたな」


「苺楽しみ!」


「メロ~ン」


 メロは家庭菜園予定地の日照条件の良い場所を探し当てて自らそこに根を張った。


 バロメッツは上半身が羊で下半身が植物となっているため、土に触れていた方が元気でいられるのだ。


 今日は本当に何も売る物がなかったから、藍大達は102号室に移動して昼食にした。


 午後は未亜もシャングリラに戻って来たので、クランメンバーに対して藍大がおにぎりフェスで振舞うおにぎり作りを監督した。


 収納袋にできた分をしまえば、できたてを土曜日に振舞えるからコツコツと作ることにしたのだ。


 おにぎり作りはあっという間に時間が過ぎてしまい、気が付けば夕方だった。


 ちなみに、今日作ったおにぎりの中で最も美味しかったのは藍大作の物なのはご愛敬である。

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