第69話 ふーん、エッチじゃん
何回かの戦闘を経て、藍大達はボス部屋の前に辿り着いた。
「ボスも
「
「フロージェリーみたいに美容に良い食材だと良いな~」
「既に食材扱いされてる件について。まあ、食材になる運命なのは間違いないけど」
舞がもう倒した後のことを考えていたが、藍大もそれを止めはしなかった。
実際、現段階では”掃除屋”の方がフロアボスよりも強いからだ。
今までの傾向から考えれば、クビレグリンよりも弱いことは間違いない。
勿論、油断せずに挑まなければならないことはわかっているから、ボス部屋の扉を開ける時には藍大達も気を引き締めていた。
扉の向こうには、蛍光ピンクの巨大アドバルーンと表現すべきモンスターが待ち構えていた。
もっとも、アドバルーンには蠢く無数の触手なんてありはしないのだが。
「目がチカチカする色だな」
「藍大、このにゅるにゅるは危険だよ!」
「主、
客船ダンジョンでローパーと対峙した時のように、舞もサクラも自分よりも大きい触手なんて許容できないらしい。
フロージェリーはビーチボール大だったので舞もサクラも脅威には感じなかったようだが、目の前のボスのサイズは自分達と比べ物にならない大きさだったから受け入れられなかったのだ。
藍大はとりあえず、ボスの正体を調べるためにモンスター図鑑を開いた。
-----------------------------------------
名前:なし 種族:エッチゼン
性別:雄 Lv:20
-----------------------------------------
HP:200/200
MP:300/300
STR:200
VIT:200
DEX:250
AGI:120
INT:180
LUK:220
-----------------------------------------
称号:地下1Fフロアボス
アビリティ:<
<
装備:なし
備考:なし
-----------------------------------------
(ふーん、エッチじゃん)
エッチゼンのステータスを見た藍大はそう思わずにはいられなかった。
このネタを言われるためだけに存在しているとしか思えなかったからだ。
無論、エッチゼンにそんな意図はないから藍大の勝手な決め付けになるのだが、見た目と名前から藍大がネタに走らないはずがない。
それはさておき、両隣で舞とサクラがエッチゼンを警戒しているので藍大は早々に決着をつけることにした。
「サクラがLUKを奪ったら、ゴルゴンがあの湿った体を乾かして攻撃を通るようにしろ。リルとゲンはそれを待って触手を切断するんだ」
「いただきま~す!」
サクラがエッチゼンのLUKを奪うのと同時に、エッチゼンも<
しかし、エッチゼンの触手が途中で束ねられ、<
束ねられた触手に捻りが加わり、鞭の如くLUKを奪ったサクラを襲った。
「「「シュロッ!」」」
ゴルゴンはサクラに迫る触手に対して<
だが、もう遅い。
ゴルゴンの6つの目に睨まれたことで、エッチゼンの触手は全体的に水分が一瞬でも失われてしまったのだ。
その隙をリルとゲンが見逃すはずがない。
「オン!」
「ヒュー」
リルの<
その時に与えたダメージ量はエッチゼンのHPの最大値を超えるオーバーキルだったため、エッチゼンの傘は触手を斬られた後に力なく地面に落下した。
『サクラがLv46になりました』
『リルがLv45になりました』
『ゲンがLv42になりました』
『ゴルゴンがLv35になりました』
(リルもLv45じゃ進化しないか)
システムメッセージがリルもLv45になったことを告げたので、藍大はもしかしたら進化するのではないかと淡い期待をしていたのだ。
ところが、それは現実にはならなかった。
「私の出番がなかったよ」
「楽できて良いんじゃない? それに舞はここに来るまでに結構戦ったし」
舞に暴れたと言わず戦ったと言ってあげるあたり、やはり藍大は優しい。
というよりも、舞を正当化しないと自分なんてずっと指示を出していただけだから、いたたまれない気持ちになってしまうのだ。
エッチゼンを適当なサイズに解体すると、魔石が出て来たのでリルが咥えて藍大に持って来た。
「ワフゥ」
「よしよし。今度はリルの番だもんな。お食べ」
リルが藍大に許可を貰って魔石を飲み込むと、リルの毛並みが一段とモフり甲斐のある者へと変わった。
『リルのアビリティ:<
(<
『ご主人!』
「ん?」
頭に直接語り掛けるように男の子の声が聞こえ、藍大は辺りをキョロキョロと見渡した。
『ご主人、僕だよ! リルだよ!』
「リル?」
『うん!』
リルは嬉しそうに頷くと、そのまま藍大にじゃれついた。
「すごいね、リル君の声が頭の中に響いてるよ」
「舞も聞こえるのか」
「うん。リル君はテレパシーが使えるようになったんだね」
「そうらしいな。リル、これでお喋りできるな」
『ご主人とお喋り! やったぁ!』
背景に満開の花が見えるぐらい嬉しそうにするリルが可愛くて、舞がそれにやられてしまったらしい。
「リル君可愛い! 私ともお喋りしよ?」
『良いよ。食べたいお肉の話する?』
「良いね!」
「舞とリルの共通の話題って肉以外ないよなぁ」
肉トークに花を咲かせる舞とリルを見て、藍大はやれやれと首を振ってからモンスター図鑑を開いた。
リルのステータスを確認してみると、<
リルが人語で話せるようになったことは、ダンジョン探索の面でも日常生活の面でも間違いなくプラスだ。
とりあえず、今回の強化は大成功だと結論付けて藍大達はダンジョンを脱出した。
アイテムショップ出張所で奈美にエッチゼンの毒袋等の食べられない素材を売ると、薬品の素材が来たと奈美は小躍りしていた。
すぐに自分の世界に入ってしまった奈美を放置して、藍大達は102号室に帰って来た。
藍大が今日手に入れたモンスター食材を使って料理していると、部屋に戻って着替えた舞が合流した。
テキパキと藍大が料理に仕上げ、それをサクラと舞が食卓へと運んでいく。
今日の昼食は海鮮サラダと中華海月の和え物、海月スープ、いかそーめんならぬ海月そーめんという海月尽くしだった。
「すご~い。海月のフルコースだね~」
「材料がなくて海月アイスまでは作れなかったわ」
「これでも十分だよ!」
「ヒュー♪」
藍大に胃袋を掴まれた舞だけでなく、客船ダンジョン出身のゲンも海月料理に興味津々だったようで早く食べようと目で訴えていた。
テーブルに着けないリルとゲン、ゴルゴンの分は床に皿を置いてあげると、藍大達は手を合わせた。
いざ実食である。
「「「『いただきます』」」」
「ヒュー♪」
「「「シュロッ」」」
藍大が最初に手を付けたのはサラダだった。
このサラダにはクビレグリンとエッチゼンの触手が入っている。
クビレグリンのプチプチとした食感に、エッチゼンの触手のコリコリした食感が合わさって口の中が賑やかなことになっていた。
「うん、これはサラダと言うには贅沢だわ」
『ご主人、美味しいぞ!』
「「「シュロ~」」」
藍大だけでなく、リルとゴルゴンもサラダから食べていたようで満足した気持ちをアピールしていた。
ゲンもサラダから食べていたのだが、リアクションを取ることすら忘れて一心不乱に食べ続けている。
肉料理も好きではあるものの、海の幸の方がゲンとしてはなじみがあって食べるのが止まらないようだ。
その一方、サクラと舞は海月そーめんを啜っていた。
このそーめんはフロージェリーでできているため、コラーゲンたっぷりなのだ。
しかも低カロリーだから、美容のためにとサクラも舞も美味しいと喜んで食べていた。
食べてみた結果、水曜日のダンジョン地下1階のモンスター食材は満場一致で卸せるという結論に至った。
食休みを終えた後、藍大達は八百屋の店主を訪ねるために商店街へと向かうのだった。
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