第65話 そっか、食物連鎖のピラミッドで私の方が上だからだね!

 トーチホークの死骸の回収を済ませると、藍大達はボス部屋へと向かった。


 その途中にパイロスネークやヒートエイプが現れるが、今日は自分のターンだと言わんばかりにゲンが見敵必殺サーチ&デストロイを繰り返す。


 残念ながら、今日は隠し部屋に遭遇することなく藍大達はボス部屋の前へと到着した。


「今までの傾向からして、扉の向こうにいるフロアボスは蛇系のモンスターだよな」


「そうだね。今日は蛇肉がいっぱいだし唐揚げかな?」


「「「シュロッ!?」」」


「これこれ舞さんや、ゴルゴンが食われるかもってビビってるから」


「えっ!? 大丈夫だよゴルゴンちゃん! 私、仲間は食べないから!」


「敵ならば容赦なく食べるんですね、わかります」


「「「シュロロ・・・」」」


 ゴルゴンは舞を怖い捕食者だと判断し、藍大の体に巻き付いた。


 主である藍大を焼いてはいけないので、巻き付く時は当然火を鱗の溝から出さないようにしている。


「落ち着け。大丈夫だ。俺がゴルゴンを食材になんかさせないから」


「「「シュロロ~♡」」」


 この瞬間、ゴルゴンの藍大に対する好感度が爆上がりした。


 捕食者から自分達を守ってくれる主に感謝してもしきれないという様子である。


「あれ? なんで怖がられるんだろう?」


「それは自分の胸に手を当てて良く考えてごらん」


「そっか、食物連鎖のピラミッドで私の方が上だからだね!」


「「「シュロッ!?」」」


 やっぱり自分達のことを食べるつもりだったのかとゴルゴンは焦るが、藍大は彼女達の頭を撫でて落ち着かせる。


「よ~しよし。大丈夫だからな~。怖くないぞ~。いざとなったら亜空間に引き籠れるようにしてやるからな~」


「「「シュロ!」」」


 その時はお願いしますとゴルゴンはペコペコと藍大に頭を下げた。


 お喋りはここまでにして、藍大達はそろそろボス部屋の中に入ることにした。


 舞が扉を開けると、それだけで部屋の中から熱い空気が流れ出た。


「うっ、暑い~」


「中にいるボスの火力が高いんだろ」


 ボス部屋の中は猛暑日とまではいかないが夏と変わらない室温だった。


 その中心には、鱗が燃えている自転車大のコブラの姿があった。


 藍大は素早くモンスター図鑑を開いて敵のステータスを調べた。



-----------------------------------------

名前:なし 種族:パイロコブラ

性別:雄 Lv:20

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HP:220/220

MP:320/320

STR:210

VIT:200

DEX:120

AGI:130

INT:270

LUK:200

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称号:地下1Fフロアボス

アビリティ:<発火牙パイロファング><毒牙ポイズンファング

      <尻尾刺突テイルスティング><火球ファイアーボール

装備:なし

備考:なし

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 (毒持ってんのかこいつ)


 コブラと名前に入っていることから予想はしていたが、<毒牙ポイズンファング>の文字がアビリティ欄にあるとわかると藍大の顔が引き攣った。


「パイロコブラだ。牙からは火だけでなく毒も出せるぞ。遠くにいれば火を吐くし、近付いたら尻尾で突き刺そうとする」


「この子は悪い子だね」


「シャッシャッシャ~」


 舞の言葉に反応するように、パイロコブラが藍大達を嘲笑うように鳴いた。


 その時だった。


 パイロコブラの頭をレーザーを彷彿とさせる勢いで射出された水が貫いたのだ。


「ヒュー」


 ゲンが<鋭水線アクアジェット>を発動し、パイロコブラにヘッドショットを決めたのである。


 得意気な様子のゲンと地面に倒れるパイロコブラを見て、藍大と舞は目を丸くした。


「「えっ?」」


『サクラがLv44になりました』


『リルがLv43になりました』


『ゲンがLv40になりました』


『ゲンがアビリティ:<水鏡壁ミラーウォール>を会得しました』


『ゴルゴンがLv33になりました』


 システムメッセージがボケッとした藍大を現実に引き摺り戻した。


 (ゲンがパイロコブラにムカついて瞬殺したってことか)


 パイロコブラのAGIが低かったことと<鋭水線アクアジェット>の発動から命中までの時間が短かったことが重なり、ゲンはパイロコブラを瞬殺することに成功した。


 褒めてほしそうに自分を見上げるゲンに対し、藍大は当然その頭を撫でて労ってあげた。


「敵に与える慈悲はないもんな。よくやったぞゲン」


「ヒュー♪」


 ゲンが満足するまで褒めた後、藍大はパイロコブラの解体を始めた。


 モンスター図鑑によれば、パイロコブラの毒は牙の溝から出て来るものであり、パイロコブラの体に毒はない。


 それがわかると、舞が食べたいというのは目に見えていたからサクラとリルに頼んで慎重に解体してもらった。


 解体でしくじれば、パイロコブラの死体に毒が回る恐れがある。


 毒の回った肉を料理したいとは思わないので、サクラとリルの役割は重大だった。


 とはいえ、サクラもリルもいつも解体しているから器用さに磨きがかかっており、藍大が心配するまでもなくちゃっちゃと解体を済ませた。


 解体が終わって魔石を手に入れると、藍大はそれをゴルゴンに見せた。


「ゴルゴン、今回はお前の番だ」


「「「シュロ?」」」


 自分達何もやってないけど貰っちゃって良いのかと言いたげなゴルゴンに対し、藍大は問題ないと首を縦に振った。


「魔石は順番に上げることになってる。もしも自分が何もやってないと申し訳なく思うなら、この魔石を食べて強くなってサクラやリル、ゲンのために魔石を持つモンスターを倒してやれ」


「「「シュロ!」」」


 わかったと頷くと、ゴルゴンは藍大の手から魔石を貰って飲み込んだ。


 その瞬間、ゴルゴンの体表が鮮やかな赤色へと変わった。


『ゴルゴンのアビリティ:<発火牙パイロファング>がアビリティ:<火炎牙フレイムファング>に上書きされました』


 ゴルゴンのアビリティの火力が増したことがわかると、藍大はゴルゴンに声をかけた。


「やったな。火力がアップしたじゃん」


「「「シュロロ~♪」」」


 ゴルゴンも藍大に褒められ、先程の申し訳なさから吹っ切れて純粋に喜んだ。


「ゴルゴンちゃん良かったね~」


「「「シュロ・・・」」」


 舞に悪気はないのだが、ゴルゴンは舞のことを要注意人物だと認定してしまったようだ。


 舞が藍大の従魔と仲良くなるには、同じ釜の飯を食ベ続けるしかない。


 ゲンにはそれで怯えられない程度になり、リルとは藍大の作るご飯を一緒に楽しむ仲になった。


 サクラは舞を自分から主を奪う悪い人だと認識しているので、従魔達の中では最も長い時間舞と過ごしているが距離がある。


 藍大を守るのに協力してくれることには素直に感謝しているが、大好きな藍大に甘えられる時間を奪う舞に心を開けないのは乙女故の問題だろう。


 とりあえず、今日の探索の目的を果たしたので藍大達はダンジョンから脱出した。


 ダンジョンから脱出した藍大達は、何やら外が騒がしいことに気づいた。


「なんだか騒がしいな」


「また冒険者かな?」


 藍大と舞が話していると、司と麗奈が藍大の良く知る人物をシャングリラに入れないように引き留めていた。


「困ります。無理矢理入ろうとしないで下さい」


「そうよ。ここは”楽園の守り人”のクランハウスなの。約束がない人を入れられないわ」


「俺は藍大がこんな小さい時から知ってんだ! そもそも俺は冒険者じゃねえ! 冒険者の常識を俺達一般人に当てはめようとしないでくれ!」


「どうしたのおっちゃん?」


「藍大! おめえに相談があるんだ! なのにこいつらが俺を通してくれねえんだよ!」


 司と麗奈に食って掛かっていたのは商店街の八百屋の店主おっちゃんだった。


 司と麗奈は約束のない者を先に通さないのが仕事だ。


 それゆえ、2人は勤勉に仕事をしていただけである。


 店主が熱くなっていたせいで騒がしくなってしまったという訳だ。


「おっちゃん、話は聞くから声のボリュームを下げてくれ。近所迷惑になる。司、麗奈、今回は特例だ。すまないけど通してやってくれ」


「藍大がそう言うならわかった。すみませんでした」


「ごめんなさい」


「お、おう。俺こそすまん。熱くなっちまった。藍大、おめえ有名人みてえだな」


 藍大が許可を出したことで司と麗奈が店主に詫びた。


 店主も自分が熱くなってしまったことを反省して詫びた。


 どちらとも大人の対応ができた。


「クランリーダーだからな。んじゃ入ってくれ。舞、悪いけど薬師寺さんに素材を売っといてくれ」


「は~い」


 大事おおごとにならずにホッとした藍大は、舞に指示を出して店主を自分の部屋に招き入れた。

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