第6章 大家さん、商店街を救う

第63話 今日も舞は食欲に忠実っと

 翌日の火曜日の朝、藍大達はダンジョン地下1階に来ていた。


 未亜が修行に出てしまったため、藍大の護衛はサクラ達従魔3体を除いて舞だけだ。


 とはいえ、サクラもリルもゲンもそれぞれが十分に強いので、油断さえしなければ地下1階ぐらいなんとかなるレベルだ。


「SSシリーズに変えといて良かったね~」


「それな」


 火曜日のダンジョンは暑い。


 火にまつわるモンスターが出て来るから、自然とダンジョン内の気温も暑くなってしまうのだ。


 藍大はSSツナギ、舞はSSスケイルを着ているため、ダメージに強くなっただけではなくて暑さも緩和されている。


 パイロリザードの素材がしっかりと活かされているので、その効果を茂に報告したらもっと狩って来てほしいとリクエストされるかもしれない。


 さて、藍大達がダンジョン内を進むと、その行く手を阻むように新たなモンスターが現れた。


 しかも3体である。


「蛇だね」


「蛇だな」


「放置すると暑くなっちゃうからって良い?」


「いや、ちょっと待ってほしい」


「どうして?」


 耐暑性能があるSSスケイルを着ているとしても、緩和される暑さには限度がある。


 それゆえ、舞は目の前にいる鱗の隙間から火がチラチラと燃える蛇型モンスターを倒してしまいたいと思った。


 しかし、藍大はそれに待ったをかけた。


 事情があると察した舞が説明を求めるのは当然だろう。


「昨日俺が二次覚醒したじゃん? その力を使う時が来たんだ」


「そうなの? じゃあ待つよ」


「悪いな。サクラ、そこのパイロスネーク達をおとなしくさせてくれ」


「は~い。そこの蛇さん達、気をつけ!」


「「「シャッ!」」」


 サクラの<導気カリスマ>に逆らうことができず、パイロスネーク達は姿勢を正したまま微動だにしなくなった。


「サクラ、ありがとな。じゃあ、やってみますか」


 藍大はパイロスネーク達が動かないことを確認すると、順番にモンスター図鑑を開いて頭の上から被せていった。


 そうすることで、3体全てがモンスター図鑑の中に吸収されていった。


『パイロスネークAのテイムに成功しました』


『パイロスネークAに名前をつけて下さい』


『パイロスネークBのテイムに成功しました』


『パイロスネークBに名前をつけて下さい』


『パイロスネークCのテイムに成功しました』


『パイロスネークCに名前をつけて下さい』


 名付けの時間だが、テイムしたパイロスネーク達の必要な情報だけ確認すると、藍大は特に悩むことなく名前を口にした。


「テイムした順番で名前はアルファ、ブラボー、チャーリーにする」


『3体のパイロスネークの名前をアルファ、ブラボー、チャーリーとして登録します』


『3体は名付けられたことで強化されました』


『3体のステータスはモンスター図鑑の従魔ページに記載され、変化がある度に更新されていつでもその情報を閲覧できます』


『詳細はそれぞれのページで確認して下さい』


 ここまでならば、数こそ違えど今までのテイムと何も変わりはない。


 しかし、ここからが藍大の二次覚醒で得た力の出番である。


「【召喚サモン:アルファ】【召喚サモン:ブラボー】【召喚サモン:チャーリー】」


 藍大は一斉にアルファ達を召喚したが、舞は何をするのか気になって我慢できずに訊ねた。


「藍大、ここから何かするの?」


「こうするんだ。【融合フュージョン:アルファ/ブラボー/チャーリー】」


 藍大が呪文を唱えると、ピカンとダンジョン内を光が包み込む。


「「「目、目がぁ~!」」」


「クゥ~ン」


「ヒュッ」


 突然の発光に誰も反応が間に合わず、あまりの眩しさに全員が視界を奪われた。


 呪文を唱えた藍大もかとツッコミたいところだが、生憎この場にツッコミ担当がいない。


 藍大達が目を開けられるようになると、そこには大型犬サイズの三つ首の赤い蛇がいた。


 融合する前は鱗の隙間から火がチラチラ燃える程度だったが、今はメラメラと燃えて炎も鱗のように纏っている。


『アルファ、ブラボー、チャーリーの融合に成功してトライデントレッドになりました』


『トライデントレッドに名前をつけて下さい』


 これこそが藍大の新たな力、融合である。


 昨日お披露目できなかったのは、サクラとリル、ゲンはお互いに融合の対象ではなかったからだ。


 パイロスネークは2体で融合した時、3体で融合した時でそれぞれ別のモンスターになる。


 2体の時はツインレッドで、3体の時は藍大達の目の前にいるトライデントレッドだ。


 藍大は見た目の特徴とトライデントレッドが雌であることから、丁度良い名前を思いついた。


「名前はゴルゴンだ」


『トライデントレッドの名前をゴルゴンとして登録します』


『ゴルゴンは名付けられたことで強化されました』


『ゴルゴンのステータスはモンスター図鑑の従魔ページに記載され、変化がある度に更新されていつでもその情報を閲覧できます』


『詳細はゴルゴンのページで確認して下さい』


 システムメッセージにより、藍大はモンスター図鑑にゴルゴンが登録されたことを知ってホッとした。


 できるとわかっていても、やったことがないことに挑戦するのだから失敗しないか不安になったからである。


 それでも、無事に成功したことがわかると藍大はモンスター図鑑を開いてゴルゴンのステータスを確かめた。



-----------------------------------------

名前:ゴルゴン 種族:トライデントレッド

性別:雌 Lv:30

-----------------------------------------

HP:260/260

MP:340/340

STR:410

VIT:300

DEX:340

AGI:250

INT:440

LUK:280

-----------------------------------------

称号:藍大の従魔

   融合モンスター

アビリティ:<多重思考マルチタスク><発火牙パイロファング>   

      <発火眼パイロアイ><脱皮モルト

装備:なし

備考:なし

-----------------------------------------



 (流石は融合モンスター。アビリティがすごいな)


 藍大はゴルゴンが会得している4つのアビリティを見て、どれも使えると判断した。


 <多重思考マルチタスク>は多頭系モンスターならば保有しているアビリティで、一度に複数のアビリティが使える効果がある。


 なお、上限は頭の数なので、ゴルゴンの場合は最大で3つ同時に使えるということだ。


 <発火牙パイロファング>は噛んだ場所から発火し、<発火眼パイロアイ>は5秒間睨んだ場所から発火する。


 つまり、近接戦闘も遠距離戦闘もこなせるということである。


 そして、<脱皮モルト>は回復系のアビリティである。


 状態異常に陥った時、部位欠損した時に発動すれば五体満足で元通りの姿になる。


 その代わり、消費MPが多いから使いどころに気をつけなければいざという時に使えないなんてこともあり得るだろう。


 ステータス以外の情報も、念のため藍大は一通り目を通した。


 すると、スルーできない内容が記されていた。


「卵産むのかよ・・・」


「藍大、この子卵産むの?」


「ああ。毎晩寝ている内に余剰エネルギーを無精卵に変換して産むことで、体調をリセットする習性があるらしい。しかも、それは鶏卵よりも美味いって」


「この子すごい良い子だよ!」


 (今日も舞は食欲に忠実っと)


 美味しい卵を産んでくれると聞いた瞬間、舞がとても嬉しそうに言った。


 今日も舞は舞である。


「「「シュロロ~」」」


 ゴルゴンもドヤァと言わんばかりの態度になる。


 それとは対照的に、サクラが不安そうな目で藍大の服を引っ張った。


「主、私のこともちゃんと見てくれるよね?」


 その言葉には、ゴルゴンをチヤホヤしたことで一番従魔としての役割を奪われないか心配している気持ちが込められていた。


 藍大はニッコリと笑ってサクラを抱き締めた。


「大丈夫。サクラが俺の一番従魔だよ。俺が従魔士として戦うにはサクラがいなきゃ始まらないんだ。不安にさせてごめんな」


 サクラは藍大から聞きたい言葉を訊けたので、不安そうな表情が一転して満面の笑みに変わった。


「エヘヘ♪ 私が主の一番なの~」


 サクラは藍大を抱き締め返し、藍大の胸に顔をグリグリと埋めた。


 藍大がモンスターをテイムする際、ネックなのはモンスター図鑑を開いてテイムしたいモンスターに被せなければならないことだ。


 そのネックを解消する手段をサクラがいくつか持っている。


 先程見せた<導気カリスマ>で従える方法もあれば、<暗黒鎖ダークネスチェーン>で捕獲することもできる。


 それに加え、藍大を抱いて空を飛べば、テイムできる範囲だって広がる。


 藍大はサクラがいて初めて多くのモンスターをテイムできると言えよう。


 このように戦力強化という点でサクラを重宝しているが、サクラを一番としているのはそれだけが理由じゃない。


 やはり、最初に出会ったこと、少しずつ強くなるところを見守り続けたことが大きい。


 リルもゲンもゴルゴンも頼れることは間違いないが、相棒となる従魔はと訊ねられれば藍大は迷わずサクラを選ぶ。


 そんな藍大の気持ちを言葉から感じ取ったため、サクラはご機嫌になった訳だ。


 ダンジョンの探索を再開しても、しばらくサクラは藍大の腕を組んだままなのは言うまでもない。

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