【Web版】大家さん、従魔士に覚醒したってよ(書籍タイトル:俺のアパートがダンジョンになったので、最強モンスターを従えて楽々攻略 大家さん、従魔士に覚醒したってよ)
第55話 この一連の動き、ファンタスティック野蛮だな
第55話 この一連の動き、ファンタスティック野蛮だな
翌日の日曜日、藍大は従魔3体に加えて麗奈と司を連れてシャングリラのダンジョンに入った。
本来2人は見張りであり、特に木曜日のダンジョンで藍大の制止も聞かずに酔っぱらって倒れていた麗奈がダンジョンに入るには少なくとも6月になってからの予定だった。
しかし、客船ダンジョンで藍大達が隠し部屋を発見したり、5階のフロアボスであるゲンをテイムしたりしたことで門番の業務で堪るストレスが想定外だったことから、リフレッシュのために舞が提案した。
舞は元レディース総長だったので、周りのことが良く見えている。
司はまだ耐えられそうだったが、麗奈はストレスで相当イライラしていたから、舞の申し出にすぐ乗った。
麗奈と司の代わりに、今日は舞と未亜が門番を担う。
正直なところを言えば、舞がメイスを持って1人立っているだけでも馬鹿なことを考える者はいなくなるのだが、1人だと舞が暇だから未亜が付き合うことになった。
未亜としても今の矢では威力不足が否めないので、藍大が茂に頼んだ石も貫けそうな矢が届くのを待っているのだ。
ダンジョン地下1階に移動すると、藍大達は突っ込んでくる猪のようなモンスターを視界に捉えた。
「私がやる!」
麗奈は嬉々として前に出ると、自分達に向かって来るモンスターに向かって体を捻りながら大きく跳躍する。
モンスターの背中の上にかぽっと座ると、麗奈はその背中を両手でガンガン殴り始めた。
(この一連の動き、ファンタスティック野蛮だな)
藍大はモンスター図鑑で目の前の猪型モンスター、アローボアについて調べ終えて顔を上げてから見た一連の流れにそんな感想を抱いた。
アローボアとは、牙が矢の鏃のようになっていることから名づけられた猪で、バイク並みのサイズだ。
それが全力疾走して来るのを体操選手の床競技みたいに体を捻って跳躍し、アローボアの背中にぴったりと座ってみせたのは芸術とも言える。
しかし、そこからひたすらアローボアの背中を一方的に猟奇的な笑みを浮かべて殴る様は野蛮としか言い表せなかった。
アローボアは麗奈の攻撃でHPを全損し、ドスンと音を立てて床に倒れ伏した。
「ふぅ~。ちょっとだけスッキリした」
「司」
「言っとくけど僕はあんな動きなんて無理だからね? 麗奈がおかしいんだ」
「いや、司に同じことなんて求めないっての。麗奈はどんだけストレスを溜めてたんだ?」
自分にも同じ動きを求めないでくれと司が釘を刺すと、藍大はそれを否定して訊ねた。
「どうだろう? 僕が門番の仕事中に男にナンパされてる時、時々隣で呪詛吐いてたのは知ってる。でも、僕もそういうのをあしらったり侵入を防ぐのに必死だったから・・・」
(麗奈が不憫過ぎるだろ)
その光景を想像した時、藍大は麗奈がとてもかわいそうに思えた。
麗奈に少し優しくしてあげようと決めるのと同時に、司が開拓者と呼ばれる程のことはあるのだと改めて思い知った。
「麗奈、今日はいっぱい暴れて良いからな」
「・・・どうして私を憐れむような表情で見るのよ」
「良いんだ。暴れなさい。アローボアを殴って気が済むならいくらでも殴りなさい」
「ねえってば」
藍大が自分に向けた憐れむような目に対し、麗奈は抗議するが藍大はそれには応じなかった。
だが、その後もアローボアとエッグランナーを見つけると、藍大に向けられた視線なんてケロッと忘れたように駆け出していき、殴ったり蹴ったりしてストレスを解消していた。
司やサクラ達も参戦したものの、ほとんど麗奈が倒してしまったのは仕方のないことだろう。
ところが、あまりにもサクサクと倒し過ぎた結果、藍大達は本日の”掃除屋”に対面することになった。
「オーク? いや、それなら下半身がおかしい」
「あんなに大きければ殴り応えあるわね」
「あれはアローボアの頭蓋骨? 藍大、調べてみてよ」
「そうする」
目の前に現れた上半身がオークで下半身が蜥蜴、更にはアローボアの頭蓋骨が先端にある杖を持つモンスターに遭遇すると、司の言う通り藍大はモンスター図鑑を開いて調べ始めた。
-----------------------------------------
名前:なし 種族:オーカス
性別:雄 Lv:25
-----------------------------------------
HP:500/500
MP:250/250
STR:500
VIT:340
DEX:150
AGI:190
INT:0
LUK:260
-----------------------------------------
称号:掃除屋
アビリティ:<
<
装備:アローボアヘッド
備考:なし
-----------------------------------------
(STRが高い。素の状態だったらゲンじゃなきゃVITが負けてる)
藍大が見る限りでは、オーカスと表示されたモンスターはHPとSTRが特に高かった。
”ダンジョンの天敵”のおかげで、サクラもリルもどうにかVITがオーカスのSTRを上回っているものの油断はできない。
「ブヒッヒィィィィィッ!」
突然、オーカスがダンジョンに響き渡る程の咆哮を上げた。
<
このアビリティを使うと、自身の気分が高揚して痛みに怯まなくなるだけでなく、自分以外の者をランダムに怯ませる効果もある。
だが待ってほしい。
藍大達にはLUKが5,000を超えるサクラがいるのを忘れてはいないだろうか。
オーカスにとっては残念なことに、藍大達の誰も怯むことはなかった。
興奮したオーカスだが、サクラの姿を目にした途端に目をハートにした。
「オーカスが落ちたか。サクラ、LUKを奪ってやれ」
「うん! いただきま~す!」
興奮したせいで理性が働かないオーカスは、サクラの<
その隙を突いて、藍大はサクラにオーカスを不幸状態に陥れさせた。
「戦場ではぼーっとしてると命取りなのよ!」
麗奈が隙だらけだと言わんばかりに距離を詰め、オーカスを相手に殴りかかった。
しかし、オーカスはただ鬱陶しい蠅を追い払うように、アローボアヘッドを横に振るった。
「ブヒッ!」
「うっ!?」
静かな振りではあるものの、当たればただでは済まない<
「リルとゲンはオーカスのバランスを崩せ!」
「オン!」
「ヒュー」
リルが<
「せいやっ!」
麗奈が全力で殴りつけると、オーカスは崩れたバランスをどうにもできずに横転した。
「司も行くか?」
「うん。とどめ刺しに行く」
司も藍大の護衛を一時中断し、倒れたオーカスの袋叩きに参加した。
転んだオーカスは立ち上がることもできず、HPが尽きて動かなくなった。
『サクラがLv39になりました』
『リルがLv38になりました』
『ゲンがLv34になりました』
『ゲンがLv35になりました』
システムメッセージが止むと、サクラ達が藍大に駆け寄った。
「主、倒したよ!」
「ウォン!」
「ヒュー」
「見事な連携だった。大したもんだよ」
「エヘヘ♪」
「ワフゥ♪」
「ヒュー♪」
藍大に褒められてサクラ達はご機嫌になった。
その後、藍大達はオーカスの死体を解体した。
麗奈や司も、昨日の未亜と同様に藍大が収納袋を持っていることに気づいたが、未亜のように騒ぐことはなかった。
藍大というイレギュラーならば、そんなこともあるかとすぐに受け入れたからである。
「オーカスの魔石はリルの番だな」
「オン!」
藍大がリルに魔石を与えると、リルのモフモフした毛がより洗練されたモフモフへと変わった。
体のサイズが変わったのかもしれないが、<
『リルのアビリティ:<
「また強そうなアビリティ会得したなぁ」
「オン♪」
これでもっと藍大の役に立てるとリルは嬉しそうに吠えた。
この場ですべき作業全てが終わると、藍大達は勢いに任せてボス部屋へと向かった。
残念ながら、今日は昨日あったはずの隠し部屋を見つけることができずにボス部屋まで到着してしまった。
特殊なシャングリラのダンジョンでも、隠し部屋が毎回の探索で見つけられるとは限らないということだろう。
準備を整えると、藍大達はボス部屋の扉を開けてその中に足を踏み入れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます