第54話 だが俺はレアだぜ?
藍大は茂から”ブルースカイ”が会談希望だと告げられ、反射的に面倒だとコメントしてしまった。
”レッドスター”との同盟は一時的なものだったので解消され、自分達のペースでシャングリラの探索を再開したと思ったらこれなのだから無理もあるまい。
茂も立て続けに大手クランからの誘いが来れば、藍大が嫌がるのは予想できたので電話先で苦笑いしていた。
「茂、どんな用件か聞いてる?」
『悪い。訊いたが教えてくれんかった。話したいことは会ってから話すの一点張りでな。大手クランはどこもセキュリティー堅いんだわ』
「却下しといてくれ。どんな用件かも教えてくれないんじゃ会うか否か判断に困る」
『”レッドスター”の時と同じ対応なのに、なんで”ブルースカイ”は会わないんだ?』
茂の言う通り、話の持っていく手法は”レッドスター”も”ブルースカイ”も変わらない。
それにもかかわらず、藍大が渋い反応をするので茂はその理由を訊ねた。
「試しに同盟組んでみて思った。身内以外の目があるダンジョンは動きづらい。隠し部屋の件のせいで全然自由に探索できなかった」
『それはまあ、そうだろうなぁ・・・』
いつも同じ者だけが美味しい思いをするのは許さないという方向で、横浜の冒険者達の考えが一致してしまったことで藍大達は探索範囲を制限された。
誰かしらに尾行されるというのも気分の良いものではない。
そう思ったからこそ、”ブルースカイ”が”レッドスター”と同じような申し出をするのならばきっぱり断りたいと思っている。
何も具体的なことを言わず、半ば強制的に同盟を組まされるのは嫌だから藍大は強気に出たのだ。
「悪いけど上手いこと言って用件を訊き出してくれ。話さないってんなら会わないし、大手であることを盾に脅すようなら今後絶対に話を聞く耳は持たないって言っても構わない」
『おいおい、喧嘩腰になるなよ』
「ぶっちゃけシャングリラの探索をした方が金になる」
『おう。その点だけは俺も同感だ。・・・はぁ。わーったよ。藍大の考えを尊重しよう』
「サンキュー。んじゃ、この話は終わりな。俺からはいくつか報告があるんだ」
『聞かせてくれ』
藍大が”ブルースカイ”の話を終わらせると、茂も興味が藍大の報告に映ったので話を戻すことはしなかった。
「まずは情報料を貰えるものからな。ゲンが”希少種”限定の称号を会得した」
『そんなのあんの?』
「あった。”侵略者”って称号だ。”希少種”以外と戦う時に全能力値と会得できる経験値が1.5倍になる。メテオライトファイターを倒したら会得した」
『”侵略者”だと”希少種”と戦った時に効果が発揮されないなら、”ダンジョンの天敵”の下位互換ってことか?』
「いや、そうとも言い切れない」
『なんでだ?』
「”ダンジョンの天敵”ってのは、ダンジョン内で全能力値と会得できる経験値が1.5倍になるって縛りがあるだろ? だが、”侵略者”には場所の縛りがない」
『まさか・・・』
茂は藍大が言いたいことを察した。
「ダンジョンからモンスターが出てこないとは限らない。”ダンジョンの天敵”と”侵略者”の2つがあることから、ダンジョンの外ならば安全だなんて楽観的な発想は有事の際に後手に回ると思うぜ」
『シャングリラは・・・、そうか。お前っていう鍵があったな』
「それなんだが、舞も俺と同じ鍵になった」
『は? なんて?』
藍大からとんでもない報告を受け、茂は聞き間違いではないかと耳を疑った。
「俺と同じで、舞も自由にシャングリラのダンジョンに出入りする権利を得た。サクラのLUKが5,000を超えた特典らしい」
『ちょっ、おま、え? 何それマジで言ってんの?』
「マジだぜ。今も俺の前で舞と未亜が交互に101号室のドアを開けてるけど、ダンジョンに繋がるのは舞がドアを開けた時だけだ」
『・・・2つの事象に関連性がなくね?』
藍大の言っていることが事実だとして、自分には何かまだ知らされていないことがあるのではないかと茂は考えてそう言った。
茂の指摘に藍大も言葉足らずだったことを認めた。
「すまん。説明端折った。サクラのLUKが5,000を超えたことで、俺が誰か1人シャングリラのダンジョンに自由に出入りできる権利を与えられるようになった。だから、舞を指名した」
『シャングリラのダンジョンってどういう仕組みなんだ? 藍大に甘くね?』
「そこまでは俺もわからん。案外、俺が覚醒するまでに時間がかかったお詫びかもしれない」
『なんじゃそりゃ』
「だが俺はレアだぜ?」
残念ながら、茂にはすぐに腑に落ちる仮説を立てることができなかった。
しかし、藍大がそう言うならばそうかもしれないと思った。
藍大がサクラをテイムできたことは、茂からすればかなり運が良いと言える。
決して運動神経が悪い訳ではないが、一般人から毛が生えた程度の藍大が負傷することなくモンスターをテイムすることは難しい。
ダンジョンのモンスターは侵入者に対して攻撃的だからだ。
それにもかかわらず、藍大はサクラを無傷でテイムできた。
これには藍大を優遇しようとするなんらかの意思が働いていると考えてもおかしくないだろう。
とりあえず、この件については判断材料が足りないので茂は棚上げすることに決めた。
『そうだな。ひとまずそーいうことにしとこう。ところで、さっき言ってたメテオライトファイターって何?』
「土曜日の地下1階の”掃除屋”だな。テイム前のゲン並みに強いステータスだったけど、転ばして舞とサクラ、リル、ゲンが袋叩きにして倒した」
『”掃除屋”だってのに、その倒され方には同情を禁じ得ないな』
哀れなメテオライトファイターの最期を聞き、茂はその場で冥福を祈った。
素材が届けば嬉々として鑑定するのは間違いないが、メテオライトファイターが不憫で仕方なかったからである。
「地下1階ではハニワンって埴輪っぽいモンスターとマディドールが出た。ボスはシャッコウっていう土偶みたいなモンスターだった。マディドールの泥以外は送る」
『いやいや、マディドールの泥も少しは売ってくれよ。あれ、需要高いんだ。DMU内でも争奪戦が起こるぐらいな』
「”楽園の守り人”の女性陣+司から許可を取ってくれ」
『くっ、なんて手強い交渉相手なんだ・・・』
司が交渉相手に含まれていることにツッコミはないのだろうか。
舞やサクラ、麗奈、奈美、未亜がマディドールの泥を欲しがるのはわかる。
司の肌はそこら辺の女性よりも綺麗だから、藍大は当然のように交渉相手に司も含めた。
だが男だ。
いや、司に関して言えば、性別:司という新たな性別を設けても良いのかもしれない。
「まだ報告は終わってないんだ」
『他にもあるのか? 正直、もうお腹いっぱいなんだが』
「シャングリラにも隠し部屋があった」
『なん・・・だと・・・』
驚くネタが尽きないので、茂としては一度休憩を挟みたいところだった。
それでも、報告を途中で投げ出すのは仕事熱心な茂にはできないからすぐに立ち直った。
『何が出たんだ?』
「アビリティポーション(獣)っていう薬品。獣系モンスターに飲ませることで、会得している任意のアビリティを失う代わりに、今最も欲しているアビリティを得られるんだ」
『何それすごい。リルに飲ませたのか?』
「勿論。<
『健気な忠犬だな。いや、
「良い奴さ。今は小型犬サイズになったところを見張りを終えたばかりの司に捕まってモフラれてる」
『絵になるなぁ』
「それな」
茂の意見に藍大は同意した。
『他に報告事項はあるか?』
「あるぜ。これが最後だ。まあ、報告事項じゃなくて要望なんだが」
『要望?』
「未亜が硬い物でも貫ける矢が欲しいってさ。メテオライトファイターの素材を鏃にするとかどう?」
『ふむ。見てみないと何とも言えないが、強力な矢になるんじゃないか? つーか、立石さんのSSメイスは大丈夫なのか? メテオライトファイターを殴って壊れてねえよな?』
テイム前のゲンとほとんど同じVITのメテオライトファイターの体を殴ったなら、舞のSSメイスが壊れたかもしれないと茂は心配になった。
「問題ない。使った素材が良かっただけあって、耐久性もばっちりらしい」
『そりゃ良かった。マッシブメイスの時みたいにすぐ壊れたら悲しいからなぁ』
「メイスで投げ銭ってのもおかしな話だよな。どっちかと言えば、さっき頼んだ矢の方が投げ銭だろうに」
『俺もそー思う。まあ、諸々のことは素材をこっちに送ってもらってからだな』
「了解。それじゃ」
『おう。楽しみに待ってるぜ』
藍大は電話を切り、今日の戦果を奈美に買い取ってもらいに倉庫に行った。
収納袋があったおかげで、買い取る量がすごいことになったのは言うまでもない。
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