第53話 青いネコ型ロボットみたいに床から若干足浮いとるで

 隠し部屋を出てからボス部屋までの道のりはあっという間だった。


 別に隠し部屋の目と鼻の先にボス部屋があったという訳ではなく、<収縮シュリンク>を会得したリルと戦える内に戦ってやると思った未亜が張り切った結果だ。


 ハニワンやマディドールでは藍大達を相手にするには実力が足りない。


 ということで、藍大達は乗りに乗った勢いのままボス部屋へと足を踏み入れた。


 ボス部屋の中で藍大達を待ち構えていたのは、人間サイズの遮光器土偶だった。


「絵にかいたような土偶だな」


「私も知ってる~」


「青いネコ型ロボットみたいに床から若干足浮いとるで」


 藍大達がそんなコメントを口にしていると、遮光器土偶の目が光った。


 藍大はそれが動き出す前に慌ててモンスター図鑑を開き、目の前の敵のステータスを確認した。



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名前:なし 種族:シャッコウ

性別:なし Lv:20

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HP:200/200

MP:250/250

STR:0

VIT:300

DEX:200

AGI:200

INT:270

LUK:250

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称号:地下1Fフロアボス

アビリティ:<石刃ストーンエッジ><石壁ストーンウォール

      <吸収触ドレインタッチ><混乱目線コンフュアイ

装備:なし

備考:なし

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 (不味い! さっきの光は<混乱目線コンフュアイ>か!)


 藍大はステータスを確認し終えた時、既に自分達がシャッコウの攻撃を受けていたのだと気づいた。


 <混乱目線コンフュアイ>は目を光らせた時に目線を送っていた相手と目が合うと、使用者のLUKが相手のLUKを上回った時に混乱状態に陥らせることができるアビリティだ。


 しかし、運が良いことに藍大達の誰も混乱状態には陥っていなかった。


 ちなみに、シャッコウが目線を送っていた相手とはサクラだった。


 サクラの場合、シルバークロウリーのおかげで状態異常が無効化されているので、<混乱目線コンフュアイ>が成功していても不発に終わる。


 シルバークロウリーが光の加減でシャッコウの気を引いた結果、シャッコウは無駄撃ちしたのだ。


 そういう意味ではサクラのLUKが招いた幸運とも言えよう。


「サクラ、まずはLUKを奪い取れ」


「うん! いただきま~す!」


 <混乱目線コンフュアイ>がLUK依存のアビリティである以上、LUKを最初に0にしてしまうのは当然の選択だろう。


 サクラの<幸運吸収ラックドレイン>は成功し、シャッコウは不幸状態に陥った。


 シャッコウはサクラに何かされたことに気づいたらしく、<石刃ストーンエッジ>をサクラに向かって発動した。


「リル、カバーしてくれ!」


「オン!」


 リルが<竜巻弾トルネードバレット>を放ち、薄く鋭い石でできた刃を粉砕した。


「ゲン、突撃!」


「ヒュー」


 ゲンは<防御形態ディフェンスフォーム>からの<滑走突撃グライドブリッツ>を流れるように発動した。


 ゲンのAGIがシャッコウのAGIに勝っているため、シャッコウはゲンの突撃を避けることができずに後方に吹き飛んだ。


 しかし、シャッコウは咄嗟に後方に跳んだことにより、ゲンの突撃によって受けた衝撃をある程度逃がしてみせた。


「そい!」


 未亜が自分だって一矢報いてやろうと矢を放つが、シャッコウの体に当たってコンという音と共に弾かれた。


「キィィィッ! ウチはええとこなしかいな!」


「どうどう。サクラ、シャッコウを拘束」


「逮捕しちゃうぞ~!」


 シャッコウの身動きを封じるべく、サクラが<闇鎖ダークチェーン>を発動した。


 ところが、シャッコウは<石壁ストーンウォール>で自らの前に石壁を創り出して闇の鎖を自分に近づけさせなかった。


「リルとゲンは回り込んで挟み撃ち」


「オン!」


「ヒュー」


 石壁の向こうにいるシャッコウにダメージを与えるべく、藍大はリルとゲンに指示を出した。


 2体が左右に移動して挟み撃ちにしようとすると、シャッコウは自分の左右と後ろにも<石壁ストーンウォール>で石壁を創った。


 (予想通りだ)


 藍大はニヤッと笑った。


 追い詰められたならば、シャッコウは前後左右に壁を創って引き籠ると思っていたからである。


 だが、ここで予想外の事態が生じた。


 シャッコウが壁の穴から浮かび上がると同時に<石弾ストーンバレット>を乱射したのだ。


「安心しな! 私がいるぜ!」


 舞が戦闘モードに切り替わり、藍大の前に立つとメイスと盾にオーラを纏わせて石の弾丸を次々に弾き落していった。


「サクラ、上空から攻撃!」


「うん! バラバラになっちゃえ!」


 当たらない攻撃にムキになったせいで、シャッコウは<暗黒刃ダークネスエッジ>を防ぐ判断が遅れてしまい、サクラの攻撃によって輪切りにされた。


『おめでとうございます。従魔の能力値の1つが初めて5,000に到達しました』


『初回特典として逢魔藍大はシャングリラダンジョンに自由に出入りできる権利を誰か1人に与えられるようになりました』


『サクラがLv38になりました』


『リルがLv37になりました』


『ゲンがLv33になりました』


 (なんですと?)


 能力値が5,000を超えたのはサクラのLUKである。


 それは想定内だったが、シャングリラのダンジョンを自由に出入りできる権利を与えられるというのは予想外だった。


 このシステムメッセージが藍大に教えてくれたことは言葉以上の内容だからだ。


 まず、藍大がシャングリラに自由に出入りできるのは従魔士の職業技能ジョブスキルによるものだと明らかになった。


 何故なら、システムメッセージは藍大の耳にしか聞こえないし、その内容も従魔士として知るべきであろう内容だけだったからである。


 誰にその権利を与えるかだが、藍大は悩むことなく決めた。


 (舞にシャングリラを自由に出入りできる権利を与える)


『承知しました。立石舞に権利を与えました』


 システムメッセージが藍大の思考を読み取って舞に権利を与えた。


 藍大が舞を選んだ理由だが、単純に最も信用できて実力もあるのが舞だったからだ。


 他のクランメンバーが信用できない訳ではないが、麗奈と司、奈美はDMUからの出向メンバーなので選択肢から除外される。


 未亜の場合はシャングリラの住人としての信用はあるが、財布と胃袋を預かっている舞には劣る。


「藍大、ぼーっとしちゃってどうしたの?」


「主~、大丈夫~?」


「アォン?」


 戦闘後、全く動かずに自分の世界に入ってしまった藍大を心配したらしく、舞とサクラ、リルが藍大の顔を覗き込んだ。


「すまん、予想外の事態が起きてぼーっとしてた」


「具合悪いの?」


「違う。今の戦闘でこのダンジョンに自由に出入りする権利を舞に与えることに成功したんだ」


「へ?」


「えぇっ!? ウチは!?」


「与えられたのは舞だけだ。権利の付与は1回きりだったらしい」


「そんなぁ・・・」


 未亜が肩を落とすができないものは仕方がないだろう。


 ない袖は振れないのだ。


「舞は”楽園の守り人”のサブマスターだ。順番から言って俺の次にその権利が与えられるのは妥当だろ?」


「せやけどウチもおったのに・・・」


「戦闘の貢献度が影響してるんじゃね?」


「ぐぬぬ」


 先程の戦闘を振り返ってみて、舞は活躍したが自分は活躍できていなかったので未亜は唸った。


 反論しようがないので唸るしかできなかった訳だ。


 シャッコウの解体と回収作業を終えると、藍大は魔石をゲンに与えることにした。


 藍大の手から魔石を飲み込むと、ゲンの甲羅に磨きがかかった。


『ゲンのアビリティ:<水槍ウォーターランス>がアビリティ:<鋭水線アクアジェット>に上書きされました』


 (滅茶苦茶強そうだな)


 予想以上のパワーアップに藍大は喜んでゲンの頭を撫でた。


「ヒュー」


 ゲンには発声器官がないので、吐く息による音で感情を判断するしかない。


 だが、藍大に撫でられて満更でもない様子なのは誰の目から見ても明らかだった。


「主~、メテオライトファイターの魔石は~?」


「あっ、忘れてた。リルとゲンは1回ずつ強化したし、次はサクラだな」


「うん!」


 サクラは自分だけ強化してもらっていなかったので、なんとか強化してもらえないか考えた結果、藍大がメテオライトファイターの魔石を放置していたことを思い出した。


 それを指摘して、自分も強化してもらおうとするサクラはしっかりしている。


 藍大の手から魔石を飲み込むと、サクラの色気が増した。


『サクラのアビリティ:<闇鎖ダークチェーン>がアビリティ:<暗黒鎖ダークネスチェーン>に上書きされました』


「どうかな? 大人っぽくなった?」


「お、おう。また綺麗になったな」


「うん!」


 一瞬ドキッとさせられた藍大だったが、サクラは従魔だと心の中で言い聞かせて耐えた。


 その後、いつの間にかボス部屋の中に地下2階へと続く階段とダンジョンの入口に繋がる魔法陣が現れていたため、藍大達はダンジョンを脱出した。


 正午を少し過ぎたタイミングでダンジョンを出ると、藍大は茂にあれこれ報告しようと電話した。


 茂に繋がると、茂は開口一番にこう言った。


『藍大、”ブルースカイ”から会談希望の連絡が入ったんだがどうする?』


「えっ、めんどい」


『おいおい』


 藍大が反射的に嫌がるものだから、茂は困った声を出すのも当然だった。

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