第52話 リル、そこまで俺と一緒にいたかったのか・・・

 メテオライトファイターを討伐して戦利品を回収した後、藍大達は分かれ道まで戻って今度は右側の通路を進んだ。


 未亜はメテオライトファイター戦で待機せざるを得なかったので、ハニワンとマディドールが現れると率先して戦った。


 自分だけ戦えなかった罪悪感からの行動のようだが、そんなことを言えば藍大なんてダンジョンを見つけてから今に至るまで指示を出すだけである。


 頭脳労働はしても、肉体労働なんてほとんどしていない。


 だが、藍大は従魔士とはそういうものだと割り切っているから、罪悪感から何かしなければならないと自ら追い込まれるようなことはなかった。


 何度か戦闘を行って通路を進んでいくと、リルが右側の壁を見てピタリと止まった。


「リル、何かあった?」


「オン!」


 リルが気になった部分をじっと見つめて吠えた。


 藍大もリルが見つめる方向を見ると、その部分の壁だけ煉瓦の配置が他と異なっていた。


 他所の壁は直方体の煉瓦が上下に半分ずつずれるように組まれていたのだが、リルが指摘した部分だけ正方形の煉瓦が嵌め込まれていたのだ。


「隠し部屋か?」


「オン!」


 リルは正解と言わんばかりに吠えた。


 藍大は石ころを取り出すと、その正方形の煉瓦に向かって投げた。


 直接触れた時に罠が作動するということも、可能性としては十分にあり得る。


 罠に備えた藍大の行動により、石が煉瓦に命中した瞬間に変化が起きた。


 ゴゴゴという音と共に正方形の煉瓦を境目として、壁の煉瓦が上下に開く扉のように天井と床に収納されたのだ。


「ワフゥ」


 ドヤァという擬音語が聞こえそうなリルの顔が可愛かったので、藍大はとりあえずリルをモフッた。


「マジかいな!? ホンマに隠し部屋やんけ!?」


「リル君は本当に良く見つけるね~」


「リル、偉い偉い」


「オン♪」


 未亜は目の前に隠し部屋が現れたことに驚くが、舞とサクラは全く驚くことなくリルを褒めた。


「驚いとんのはウチだけ? ウチが少数派なんか?」


「未亜、これぐらいで驚いてたらキリがないぞ?」


「なぁ、ウチが行かんかった客船ダンジョンで隠し部屋はいくつ見つけたん? 言うてみいや? さっきからスルーしとったけど、クランマスターの巾着おかしいやん。物量無視して入るやんけ」


「スルーしてたのか。気づいてないのかと思って心配したぞ」


「気づかん方がおかしいやろ!」


 収納袋については藍大と舞の取り決めでクランメンバーには教えても良いことにしたが、わざわざ報告せずに気づいたら話すことにしていた。


 したがって、未亜がこの場で訊かなかった場合、藍大はしれっと使い続けるつもりだった。


「隠し部屋は2つ見つけた。1つ目はサクラのシルバークロウリー。状態異常無効の効果がある。こっちが掲示板に載ってた方だな。もう片方がこの巾着袋。収納袋だ。時間経過なし、重量も感じさせない、25mプール程度の容量があるんだ」


「ウ、ウチがいない所でそんなおもろい物見つけとったなんて狡いで!」


「来ないのが悪いんだろ?」


「くっ、正論でぶん殴らんといてや」


 自分が外出を渋ったのが原因なのはわかっていても、狡いと言いたくなる未亜の複雑な心境だった。


「まあ次からは一緒に来れば良いだろ?」


「せやな。ウチだけ仲間外れみたいなんは切ないで。次も必ず誘ってや」


「あれ、何にも縛られないで自由にしたいんじゃなかったの?」


「もう、意地悪せんといてや! クランマスターのいけず!」


 完全に自分が過去に口にした言葉で遊ばれているとわかったので、未亜は藍大に抗議した。


 そのやり取りを見た舞はジト目を藍大に向けた。


「藍大ってSなんだね」


「SかMかって問われたらSかもしれない」


「Sって打たれ弱いもんね。納得だよ」


「いや、俺が打たれ弱いのは心じゃなくて体だし、従魔士だからなんだぞ?」


「アハハ、そうだったね」


 舞の誤解を解くと、藍大達は隠し部屋に入った。


 隠し部屋に入ると、その中には宝箱だけが安置されていた。


「サクラ先生、今日もお願いします」


「くるしゅうない」


 LUKが4,000を超えたサクラならば、きっとまた良い意味でやらかしてくれるだろうと期待し、藍大はサクラに頼む。


 サクラもノリを覚えたらしく、その道のプロのように振舞ってみせた。


 張り切ったサクラが宝箱を開けると、その中から赤い液体の入ったフラスコを取り出した。


 (まさかポーションか!?)


 掲示板ではまだ発見されていないとされている回復薬ポーションではないかと期待し、藍大はモンスター図鑑を開いた。


 サクラがフラスコを持っている今なら、藍大でもその正体を確かめられる仕様を利用したのだ。


 (アビリティポーション(獣)・・・だと・・・)


 結果がわかると、藍大は衝撃を受けた。


 何故なら、サクラが手にしている液体はポーションの中でもHPやMPを回復するという一般的な物ではなかったからである。


 その効果は獣型モンスターに飲ませることで、会得している任意のアビリティを失う代わりに、今最も欲しているアビリティを得られる特殊なポーションだった。


 ちなみに、獣型モンスター以外が飲むとただの苦い水になるらしい。


 藍大はアビリティポーション(獣)の効果を全員に説明した後、リルの方を向いた。


「リル、これを飲みたいか? いや、訊くまでもないか」


「オン!」


 リルの尻尾が横にブンブンと振られていた。


 藍大の説明を聞いてこの反応ということは、リルには会得したいアビリティがあるのだろう。


 リルにアビリティポーション(獣)を飲ませてあげると、藍大の耳にシステムメッセージが届いた。


『リルのアビリティ:<風鎧ウインドアーマー>が失われてアビリティ:<収縮シュリンク>を会得しました』


「リル、そこまで俺と一緒にいたかったのか・・・」


「オン!」


 リルが吠えると、その体が小型犬サイズまで小さくなった。


 乗用馬よりも少し小さいぐらいの大きさになったリルは、残念ながら藍大と一緒の部屋に入れなくなって泣く泣く亜空間に戻されていた。


 藍大と夜一緒に眠れないこともそうだし、普段から一緒にいられないことがかなり寂しかったらしく、<収縮シュリンク>の会得はリルにとって最優先事項だったようだ。


 自分の防御能力を捨てようとも、藍大と一緒にいたいと思うその気持ちに藍大の目頭が熱くなった。


 このアビリティの効果は単純で、体を自在に小さくできるというものである。


 アビリティを解除すれば元の大きさに戻るから、リルは藍大を背中の上に乗せて走ることもできれば一緒に室内で過ごすこともできるようになった訳だ。


「きゃあぁぁぁぁぁっ! か~わ~い~い~!」


「アォン!?」


 小型犬サイズになったリルは、目をハートマークにした舞に抱き抱えられてしまった。


 戦闘モードに入らなければ可愛い物好きの舞にとって、今のリルはストライクゾーンのど真ん中なのだ。


「クゥ~ン」


「舞、リルが困ってるから止めてあげて」


 加減を誤って小さくなり過ぎたリルは、藍大に甘えようとしていたのに舞に抱き締められてしまってしょんぼりしていた。


 そんなリルの気持ちを汲み、藍大が舞に待ったをかけたのである。


 舞からリルを受け取ると、リルは藍大に頬擦りして甘えた。


 よくぞ自分の気持ちをわかってくれたと喜んでいるようだ。


 (司も今のリルを見たらテンション上がりそうだな)


 真奈程ではないが、司もモフモフには興味を持っている。


 きっとリルが小さくなっているのを見たら、触らせてほしいと藍大に頼むだろう。


「大きさ自在で隠密性が高くて攻撃も参加できるリル。ええなぁ」


 弓士の観点から、未亜もリルを羨ましそうに見ていた。


「ほれほれ、愛い奴め。ここがええのか?」


「オン♪」


 リルが満足するまでの間、藍大は滅茶苦茶リルを甘やかした。


 それから少しして、リルが<収縮シュリンク>を発動し直して大型犬サイズになった。


 屋内で戦闘をするならば、このぐらいの大きさが良いというのがリルの判断らしい。


「リル、<風鎧ウインドアーマー>が使えなくなったんだから敵の攻撃には気を付けるんだぞ?」


「クゥ~ン」


 やっぱりアビリティポーション(獣)で<風鎧ウインドアーマー>を使えなくしたのは不味かっただろうかとリルがしょんぼりすると、藍大は首を横に振ってリルの頭を撫でた。


「<収縮シュリンク>で体のサイズを変えれば避けられるものも多いだろうし、アビリティは使いようだ。俺もリルと一緒にいられて嬉しいぞ。当たらなければどうということはないスタイルで行こうぜ」


「オン!」


 藍大が前向きに捉えて良いと言ってくれたおかげで、リルはすぐにご機嫌になった。


 隠し部屋の宝箱も回収すると、藍大達はボス部屋を目指して探索を再開した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る