第5章 大家さん、取材を受ける

第51話 マディドール生きとったんかワレ!

 客船ダンジョンに行った目的を果たし、藍大達はシャングリラに帰って来た。


 木曜日の夜に帰って来たので、昨日の金曜日は1日休みにして今日からシャングリラの探索を再開する。


 今日の探索メンバーは藍大と従魔達、舞、未亜である。


 麗奈と司は今日もシャングリラの警備だ。


 というのも、藍大が隠し部屋を探し当てたことや”希少種”のフロアボスをテイムしたことで、それに肖ろうとする者がシャングリラにやって来るからその対処をしなければならない。


 未亜は藍大達が帰って来ないとダンジョンに入れないので、今日の探索について来た。


「いやぁ、クランマスターおらんと不便やったで。ダンジョン入れへんもん」


「それはしょうがないだろ。そういうダンジョンなんだし」


「せやなぁ。ダンジョンに理屈求めてもしゃあないもんなぁ」


 未亜は遠い目をしていた。


 藍大が留守の間、未亜は101号室の合鍵を託されていたので、もしかしたら自分も藍大みたいにダンジョンに入れるようになっているのではと期待してちょくちょく101号室を開けてみたのだ。


 しかし、現実は非情なもので未亜がいつ開けてもそこは倉庫と化した101号室だった。


 自分のチャレンジが全て無に帰したのが堪えたらしく、未亜が遠い目をするのも無理もない。


 ショートカットを使って藍大達は地下1階に移動すると、前に入った時と同じように地下1階からは人の手で造られた迷宮のようになっていた。


「なんだあれ? 埴輪?」


「埴輪だね。いっぱいいる」


「埴輪やな。マスコットみたいになっとるけど」


 藍大達が遭遇したのは埴輪をデフォルメした見た目のモンスターだった。


 早速藍大がモンスター図鑑で調べてみると、Lv15のハニワンと表示された。


 (Lv15? ブラッドバットはLv10だったよな?)


 リルをテイムした日に覗いてみた地下1階では、ブラッドバットがLv10だったので藍大は首を傾げた。


 1体をサンプルとして調べても埒が明かないと判断し、他の個体を調べてみるとLv13のハニワンと表示された。


 続けて他のハニワンもどんどん調べていくと、Lv10~Lv15の間で個体差があることに気づいた。


 (なるほど。前に見た時も実はLv10以外のブラッドバットがいたかもしれないな)


 藍大は地下1階に出る雑魚モブモンスターは、Lv10~15なのだと思うことにした。


 その考えは間違っていない。


 藍大が地下1階について考えていると、ハニワン達が<石弾ストーンバレット>を一斉に射出し始めた。


「サクラ、リル、ゲン、守ってくれ!」


「は~い」


「オン!」


「ヒュー」


 サクラは<暗黒刃ダークネスエッジ>、リルは<三日月刃クレセントエッジ>で積極的に石の弾丸を撃ち落とし、ゲンは<防御形態ディフェンスフォーム>を藍大の前で発動して藍大の盾となった。


 藍大の守りが問題なければ、舞は気兼ねなく攻めに行ける。


「行くぜオラァッ!」


「ちょっ、待ってや! ウチもやるで!」


 舞に獲物を全部討ち取られては堪らんという思いから、未亜も矢を放ってハニワンを倒していく。


 舞が倒した方は残骸と呼ぶべき物になり、未亜が倒した方は原形を留めている物もいくつかあった。


「やっぱホームは良いよね~。気楽にできるよ~」


「・・・気楽? せやな。生き生きしとったわ」


 気楽という言葉からは考えられない程舞がオラオラしていたので、未亜は一瞬反応に困ったが生き生きしてたんだからそれで良いかと諦めるように納得した。


 戦利品の回収を済ませて探索に戻ると、今度はマディドールが現れた。


「マディドール生きとったんかワレ!」


「1階のモンスターも地下1階に出るのか。二度手間にならなくてありがたい」


「そだね~」


 未亜がネタに走っている横で、藍大と舞は冷静に話していた。


 マディドール相手に時間がかかることもなく、その泥目当てに舞とサクラ、未亜が張り切ったことで瞬殺となった。


 マディドールの泥を採取した後、藍大達は通路をしばらく歩くとY字路に着いた。


「サクラとリル、どっちが良いと思う」


「う~ん、あっちかな?」


「オン!」


 サクラとリルが指したのは左側の通路だった。


「左を選んだ理由は?」


「いっぱいハニワンとマディドールがいるの」


「ワフゥ」


「レベル上げに最適ってことか。どの道マップを埋める必要があるし、先にレベル上げするか」


「うん!」


「オン!」


 藍大達人間組にはどっちに行けばいいかなんてわからないから、今回はサクラとリルの意見に従うことにした。


 ゲンはこのダンジョンに今日デビューなので、ひとまず今日は藍大達の狩りに慣れてもらうことを優先している。


 右も左もわからない場所で意見を聞けば、ゲンが困ってしまうので藍大はゲンに話は振らない。


 もっとも、戦った後はサクラやリルと平等にゲンも褒められているので、ゲンに不満はないので何も問題はない。


 その後、左の通路を進んで行き止まりの広間でハニワンとマディドールの大群を掃討すると事態は動いた。


「地下1階の”掃除屋”か?」


「そうじゃないかな?」


「戦士像やんな」


 藍大達の前に現れたのは、黒ずんだ色の石でできた人間大の戦士像だった。


 敵戦力の調査は急務なので、藍大はすぐにモンスター図鑑で目の前の敵について調べた。



-----------------------------------------

名前:なし 種族:メテオライトファイター

性別:なし Lv:25

-----------------------------------------

HP:270/270

MP:240/240

STR:350

VIT:440

DEX:300

AGI:250

INT:0

LUK:340

-----------------------------------------

称号:掃除屋

アビリティ:<飛斬スラッシュ><盾突撃シールドブリッツ>   

      <盾投シールドスロー><硬化ハーデン

装備:メテオライトソード

   メテオライトシールド

備考:なし

-----------------------------------------



 (テイム前のゲン並みに強くね?)


 メテオライトファイターのステータスを確認した藍大は、こんな敵が地下1階に出て来るのかと戦慄した。


 だが、敵は1体だけであり甲羅の中に籠られることもない。


 それならばやりようはある。


「サクラは<幸運吸収ラックドレイン>、リルとゲンは<竜巻弾トルネードバレット>と<水槍ウォーターランス>で攻撃。舞は後の先狙いでよろしく」


「は~い。いただきま~す!」


「オン!」


「ヒュー」


「了解!」


 藍大の指示を受けて各々が行動を開始したが、1人だけ何も指示されていない者がいた。


 未亜である。


「クランマスター、ウチは?」


「未亜は待機だ。弓矢であれは撃ち抜けないだろ?」


「せやんなぁ・・・」


 藍大が言うことはもっともだったので、未亜はおとなしくしておくことにした。


 残念ながら、今の未亜では固い相手との相性が悪い。


 石すら貫ける矢が手に入れば別なのだが、今はそんなものがない。


 しかし、戦いに参加できなくてつまらなそうにしている未亜はかわいそうだったので、藍大はフォローを忘れない。


「今日ダンジョンから脱出したら、石に勝てる鏃が作れないか茂に聞いてやるから我慢してくれ」


「おぉ! クランマスターおおきに!」


 しょんぼりしていた未亜は、藍大の気遣いが嬉しくて身を乗り出した。


「むぅ。未亜が主に迫るの良くない。逮捕しちゃうぞ~!」


 サクラはムスッとした表情になり、<闇鎖ダークチェーン>でメテオライトファイターを拘束しようとする。


 メテオライトファイターは逃げようとしたが、LUKが0のせいで躓いて転んでしまい、あっさりと闇の鎖によって縛られた。


「舞も参戦して良いよ」


「その言葉を待ってたぜ! ヒャッハァァァァァッ!」


 反撃されることもないだろうと判断して藍大が指示を出すと、舞は嬉々としてメテオライトファイターを殴りに行った。


 袋叩きにされたメテオライトファイターは、持ち前のVITの高さがあっても従魔3体と舞の攻撃の前には耐えきれず、HPを全損して動かなくなった。


『サクラがLv37になりました』


『リルがLv36になりました』


『ゲンがLv31になりました』


『ゲンがLv32になりました』


『ゲンが称号”侵略者”を会得しました』


 (ゲンだけ? ”侵略者”ってなんだ? 俺達もそうじゃないのか?)


 ダンジョンからすればこの場にいる全員が侵略者だと思ったため、藍大はシステムメッセージを聞いて首を傾げた。


 すぐに調べてみると、”希少種”以外と戦う時に全能力値と会得できる経験値が1.5倍になるという効果だった。


 (客船ダンジョンに行ってみたことでわかった称号だな。舞に感謝だ)


 自分に他のダンジョンのことも知るべきと言ったのは舞だ。


 舞のおかげでこの称号を会得できたので、”侵略者”の情報を茂に売って手に入れたお金で美味しい物でも作ってやろうと思う藍大だった。

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