第49話 あいつらは名ばかりの豆腐ボディーなのか?

 翌日の木曜日の朝、DMU運輸が藍大達に荷物を配達した。


 いくつかの段ボールに入っていたそれは、舞の新しい武器や防具と藍大のツナギだった。


 メイスとシールド、スケイルアーマーはいずれも薄紅色にカラーリングされていた。


 メイスは蟹の鋏を模している反面、シールドはマッシブシールドの時と同じように亀の甲羅のような形だった。


 スケイルアーマーは形が変わることはなかったが、内側がメタリックではなく革が張られていた。


 藍大のツナギはと言えば、カーキ色で見た目だけならごく普通のツナギのように見えた。


 DMU運輸のトラックが去ると、藍大のスマホに茂から電話がかかって来た。


『よう、藍大。注文した品は見たか?』


「おう。見たぞ茂。ありがとよ。職人班相変わらずすごいな。この早さで元々頼んでたメイスとシールドどころか、舞の鎧と俺のツナギまで用意してくれるなんて」


『あの人達もかなりすげえけど、お前達もピンポイントで必要な素材を送って来るから恐れ入るぜ』


「SSシリーズって何?」


 藍大は舞の装備に付いていたメモを見て、茂にそこに書かれていた意味を訊ねた。


『SeaとShangri-LaでSSだ。海とシャングリラで手に入れた素材を存分に使った武器と防具だから、SSシリーズにしたんだと』


「なるほどな。それで呼び名がそれぞれSSメイスとSSシールド、SSスケイル、SSツナギって訳か」


『そういうことだ。藍大のツナギと立石さんの鎧には、マッシブロックとバレルクラブに加えてローパーとパイロリザードの素材も使われてるから、耐火性と伸縮性もばっちりだぜ。つーか藍大、そろそろツナギじゃなくてちゃんとした防具着れば?』


「馬鹿野郎! 俺からツナギを取ったら大家さんらしさがなくなるだろ!」


『えっ、お前そんな理由でツナギ着てるの?』


 意外としょうもない理由で藍大がツナギを着ていたため、茂が戦慄するのも無理もない。


「ツナギって便利なんだぜ? ポケットも多いし汚れにくいし」


『あーはいはい。良かったな。それはさておき、今日から5階に挑むんだろ? 気を付けろよ』


「わかってる。良い結果を報告できるようにするさ」


『おう、期待してるぜ。またな』


 茂との電話を切ると、藍大と舞は新しい装備に着替えた。


「舞、着心地はどうだ? それとメイスとシールドの具合も問題ないか?」


「ばっちり! 藍大と職人班には足を向けて寝られないよ」


「俺は守ってもらってもらってるからそれで構わないし、職人班も珍しい素材を渡せば喜ぶから無問題モーマンタイ


「そっか。じゃあ、赤星さん達と合流しよっか」


「そうだな」


 今日から客船ダンジョンの5階に挑むので、藍大達は”レッドスター”と一緒に行動する。


 藍大達の探索ペースであれば、あっさりボス部屋に辿り着けるだろうということから誠也も真奈も今日は一緒に同行しようと言い出したのだ。


 リルは昨日の強化で家に入れない大きさになったので、残念ながら亜空間で待機している。


 サクラは藍大と一緒にいたいから、亜空間には戻らず藍大と一緒だ。


 藍大達は誠也と真奈の5人で赤星家の車に乗り込み、客船ダンジョンまで移動した。


 客船ダンジョン前に到着すると、誠也と真奈が普段パーティーを組んでいる者達が集まっていた。


 両手に盾を持った戦士風の男性と白衣の女性の2人だ。


 誠也は合流してすぐに2人を藍大達に紹介した。


「盾持ちが三島豪みしまごう職業技能ジョブスキルは盾士です。白衣の方は三島華みしまはな職業技能ジョブスキルは薬士です。2人は兄妹で私達の幼馴染です」


「「よろしくお願いします」」


「よろしくお願いします」


「私は槍士です。前衛2人、後衛2人のこのパーティーが”レッドスター”の1番隊となってます」


 誠也から説明を受けた藍大は、気になる点が1つだけあって訊ねた。


「薬士ってどう戦うんですか? ”楽園の守り人”にも薬士が1人おりますが、非戦闘員なのでイメージが湧きません」


「私の武器はこれです」


 そう言うと、華は白衣の前のボタンを外して勢い良く開いてみせた。


 しかし、藍大は華の武器を知ることができなかった。


 何故なら、サクラが素早く後ろから手で目隠ししたからである。


「サクラ、見えないんだが」


「主、見ちゃ駄目」


「良いなぁ」


「何言ってんの兄貴のスケベ!」


「痛っ!?」


 サクラが後ろから目隠ししようとすれば、当然藍大に密着するようにしてやるしかない。


 となると、サクラの胸が藍大に当たる訳であり、それを見て羨ましそうに言う豪に華が容赦なく頭を殴った。


 他人の従魔をエロい目で見るとかどうかしていると思って入れたツッコミは、豪が盾を使って防ぐ余裕すらない程に早業だった。


「サクラちゃん、華さんはちゃんと白衣の下に服を着てるから目隠しを外しても大丈夫だよ」


「わかった」


 (そういうことだったのか)


 舞がサクラを説得したことで藍大の視界が開けた。


 サクラは華が白衣の中に何も着ていない露出狂かもしれないと思い、藍大を誘惑するようなことは阻止してやると目隠ししたのだ。


 華に藍大を誘惑する意図がないとわかれば、目隠しを外すのも当然である。


 華の武器が試験管に入った薬品だと確認した後、藍大はリルを召喚してから誠也達と一緒に客船ダンジョンの5階へと移動した。


 5階に出現する雑魚モブモンスターはロックタートルといい、ガキガキの岩でできた甲羅を背負う亀だ。


 ”レッドスター”所属の者は、既にロックタートルの素材で武器や防具を固めているが、それでもメタルタートルには届かないらしい。


 そういった意味では、舞の手に今朝届いたSSシリーズがどれだけ通用するかが気になるところである。


「早速現れましたね。ロックタートルはのろまです。ただし、攻撃が重いので気を付けて下さい」


「ご忠告ありがとうございます」


 藍大はモンスター図鑑でロックタートルのステータスを調べ、その結果を舞達に伝える。


「藍大~、試しちゃっても良いかな~?」


「許可する」


「ヒャッハァァァァァッ! 行くぜオラァァァッ!」


 藍大にGOサインをもらった途端、言動が豹変して舞が嬉々としてロックタートルと距離を詰めて新しいメイスで殴り始めた。


「あれなら撲殺騎士と呼ばれても納得です」


「この数日で仕上げて来たようですね」


「世紀末かよ」


「何あれ怖い」


 赤星兄妹は冷静に舞のことを観察し、三島兄妹は純粋に舞の豹変具合にビビっていた。


 そんな彼等とは違い、藍大はロックタートルの打たれ弱さに驚いていた。


 (あいつらは名ばかりの豆腐ボディーなのか?)


 藍大がそう思うのも無理もない。


 Lv23のロックタートルが甲羅ごと容易く殴り潰されているのだから。


 倒し終えた舞はニッコリと笑みを浮かべて藍大の隣に戻って来た。


「この武器凄いよ~。マッシブメイスよりも手に馴染むし、殴った時の反動も少ないんだ~」


「満足してもらえて良かった」


「うん! 大満足! メタルタートルもこの調子で砕いちゃう?」


「実際に見たことないからわからないけど、そんなことできるのか?」


ってれないことはないよ!」


 フンスと気合を入れる舞を見て、藍大は舞なら実現するんじゃないだろうかと思った。


「それができるなら、AKABOSHIはDMUの職人班に技術力で負けたことになりますね」


「でも、私達の武器じゃ簡単にロックタートルをグチャグチャに殴り潰せないよね。もう負けてるんじゃない?」


 誠也が苦笑していると、真奈は真面目な表情で応じた。


 真奈もリルが絡まなければ真面目な話だってできるのかと藍大は思ったりしているが、どうにか表情には出さないようにしていたのは言うまでもない。


 その後、ボス部屋に到着するまでの間、サクラやリルもウォーミングアップがてら戦い、”レッドスター”の1番隊もどのように戦うのか藍大達に披露した。


 そして、遂にボス部屋の前までやって来た。


 誠也は何度かメタルタートルに挑んでは撤退しているため、藍大に伝えられるだけの情報を最終確認のつもりで伝えた。


「逢魔さん、いよいよメタルタートルとの戦いです。敵は乗用車並みに大きいですが動きは鈍いです。ただし、鋼の甲羅に籠られたら手出しができません。しかし、その時こそ逢魔さんのテイムのチャンスです。期待してますよ」


「微力を尽くしましょう」


 本来はへりくだって言う時に使う言葉だが、藍大の身体能力だけは本当に微力である。


 一般人に毛が生えた程度の運動神経で、自分よりも強いモンスター、それもフロアボスをテイムしなければならないのだから微力とは言葉通りだ。


 だが、藍大にテイムできなければ、自分達の装備ではメタルタートルに有効なダメージを与えることはできず、舞の使うSSメイスやサクラとリル任せになってしまう。


 勿論、藍大を横浜に招いてからも、誠也達はメタルタートルに有効な攻撃をあれこれ考えて実践はしている。


 上手くいかなかったから藍大達頼みなのだ。


 藍大達一行は同盟を組んだ目的を果たすべく、ボス部屋の扉を開けてその中へと入った。

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