第45話 粉砕! 玉砕! 大喝采!

 隠し部屋に入ったところを目撃された藍大達は、サクラの<誘惑香フェロモン>によって救われた。


 目撃者達の記憶を消せば、藍大達が隠し部屋に入って収納袋を手に入れた真相は闇の中である。


 それにしても、藍大達を目撃したのがいずれも男性冒険者だったことは不幸中の幸いだ。


 男性だったからこそ、サクラの<誘惑香フェロモン>が効いた。


 もしも女性冒険者が混じっていたとしたら、サクラのアビリティだけで藍大達がその場を乗り切ることはできなかったに違いない。


 とりあえず、気持ちを切り替えてボス部屋へと向かう藍大達だったが、その前に再びウェブカマーが現れた。


 しかも、先程とは異なり3体もいた。


 こうなってしまえば、素材の価値とか考えるよりも前に自分達が無事に勝つことの方が優先される。


 藍大の指示もそれを考慮したものになった。


「全員、ノルマ1体でよろしく」


「ヒャッハァァァァァッ! 行くぜオラァァァッ!」


「それっ!」


「オン!」


 舞が嬉々として駆けていくのは放置するとして、サクラは<闇刃ダークエッジ>でウェブカマーの鋏や脚はバラバラに斬り落として達磨状態にした。


 リルも<三日月刃クレセントエッジ>で最初に大きな鋏を斬り落とし、それから順番に残りの鋏と脚を斬り落としていった。


 達磨状態になった2体のウェブカマーだが、サクラとリルの攻撃によってHPが既に全損していた。


 (サクラとリルはまだまだ素材を気にする余裕があったか)


 そんなことを考えつつ、藍大は残る1体と戦っている舞の方を見た。


「粉砕! 玉砕! 大喝采!」


 (楽しそうでなによりです)


 思わずそう言いたくなるぐらいには舞が一方的に攻撃していた。


 数分後、ミンチになったウェブカマーだったものが完成した。


 当然回収できる部位はない。


 もっとも、ウェブカマーが3体現れた時点で藍大はサクラとリルが倒した2体分の死骸しか回収できないことは予想していたのだが。


 3体のウェブカマーと遭遇した後、藍大達はボス部屋の前に到着するまで戦うことは一度もなかった。


「もうすぐ昼だし、3階のフロアボスを倒したら今日の探索は終わりにしようか」


「賛成。お腹空いたよ~」


「そりゃあんだけはっちゃけてたからね」


「ら、藍大を守るためには必要なことなんだよ!」


「そだねー」


 自分でもやり過ぎた感は否めないらしく、藍大のジト目を受けて舞はすぐに目を逸らしてボス部屋の扉を開いた。


 話を強制終了させたかったのだろう。


 藍大達がボス部屋に入ると、樽を背負った大型バイクサイズの灰色の蟹が待機していた。


 なんで樽を背負っているのかとツッコミを入れたい気持ちを抑え、藍大はモンスター図鑑でそのボスモンスターについて調べ始めた。



-----------------------------------------

名前:なし 種族:バレルクラブ

性別:雌 Lv:20

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HP:210/210

MP:200/200

STR:120

VIT:300

DEX:120

AGI:80

INT:140

LUK:110

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称号:3Fフロアボス

アビリティ:<泡爆弾バブルボム><鋏槌シザーハンマー><蟹爆弾クラブボム

装備:なし

備考:なし

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 (シャングリラ1階の”掃除屋”並みのステータスじゃん)


 バレルクラブのステータスを確認した藍大は、その能力値を見てシャングリラのダンジョン1階で遭遇した”掃除屋”ぐらいだと判断した。


 客船ダンジョンに来る前、藍大が舞から聞いた話の通りである。


「バレルクラブの樽の中、アビリティで小さい蟹型の爆弾を創って溜め込めるってさ」


「爆弾?」


「ついでに言えば、泡による攻撃も爆弾だって。それと鋏で切るんじゃなくて殴る」


「殴るの? 鋏の意味は?」


「色々ツッコミどころのあるボスモンスターだって話だ」


「そっか。私はどうすれば良い? 殴る? 守る?」


 (RPGゲームのコマンドみたいだ)


 ボス部屋に入っている以上、逃げるという選択肢はない。


 ゲームと違って仲間は同時に攻撃できるから、本当に舞の選択肢は殴るか守るかのどちらかである。


「爆弾使う相手に接近戦する必要はない。守りでよろしく」


「は~い」


 マッシブシールドがあるとしても、どれだけ<泡爆弾バブルボム>と<蟹爆弾クラブボム>に耐えられるかわからない。


 舞に人体実験をさせるつもりなんて藍大には毛頭ないから、この場合守るという選択肢しか選びようがないのだ。


 そんな話をしていると、バレルクラブが早速<蟹爆弾クラブボム>を発動した。


 背負っている樽から、バレルクラブが蟹型の爆弾を次々に取り出して自分の正面に並べると、それらが横歩き藍大達に向かって進軍し始めた。


「リル、<三日月刃クレセントエッジ>で撃ち落とせ。サクラは<幸運吸収ラックドレイン>だ」


「オン!」


「いただきま~す!」


 リルの<三日月刃クレセントエッジ>によって先頭の爆弾が爆発した。

 

 それがその後ろにずらりと並ぶ爆弾に火をつけ、爆発が爆弾を取り出して並べていたバレルクラブまで届いた。


 リルが攻撃を仕掛けた時には、サクラの<幸運吸収ラックドレイン>が作用していたせいでバレルクラブのLUKは0だ。


 この影響でバレルクラブは自爆したのである。


 爆風が晴れると、バレルクラブの全身が茹でられた後のように赤く染まっていた。


「キレたらしいな」


「自分の攻撃を利用されたらキレるんじゃないかな?」


「自爆なんだけどな」


「自爆なのにね」


 困った奴だと藍大と舞はやれやれと首を振っていたが、怒ったバレルクラブは藍大達に向かって前進していた。


 前進してする攻撃ならば、<鋏槌シザーハンマー>の可能性が高い。


「サクラはバレルクラブの脚を縛れ。リル、バレルクラブの脚に向かって集中攻撃!」


「逮捕しちゃうぞ~!」


「オン!」


 サクラが<闇鎖ダークチェーン>でバレルクラブの脚をまとめて縛ると、ワンテンポ遅れてリルが<風弾ウインドバレット>を連射する。


 その結果、バランスを崩したバレルクラブが転んだ。


 それだけだったなら、藍大達に都合の良い展開なので袋叩きにすれば良い。


 ところが、バレルクラブが転んだ瞬間に背負っていた樽から蟹型の爆弾が大量にばら撒かれた。


 バレルクラブが藍大達に近づいてきていたせいで、今の状態でこれらの爆弾が一斉に爆発すると藍大達まで爆発の被害を受けることになる。


「リル、俺と舞を乗せて射程圏外に退避! サクラは上空に移動して俺達の移動が終わった瞬間に起爆してあいつを倒せ!」


「オン!」


「は~い」


 藍大と舞は素早くリルの背中に乗り、爆発の衝撃が届かない位置まで避難した。


 それを確認したサクラは、脚に闇の鎖が絡まって動けないバレルクラブに攻撃を仕掛けた。


「ど~ん」


 そう言って<闇刃ダークエッジ>を蟹型の爆弾に当てると、爆発が連鎖してバレルクラブを爆発が飲み込んだ。


 煙によって藍大達の視界が遮られるが、藍大の耳にシステムメッセージが届かない。


 バレルクラブを倒せばサクラもリルもレベルアップできると予測していたため、これはまだバレルクラブを倒せていないのだろうと藍大は判断した。


 実際、煙が収まると口を泡でブクブクさせていたバレルクラブの姿があった。


 その姿は、せめて一矢報いてやると足搔いているようだった。


「サクラ、撃たせるな!」


「えいっ!」


 藍大の指示を受け、サクラは<闇刃ダークエッジ>を発動させてそれをバレルクラブの口に突っ込んだ。


 それにより、バレルクラブの<泡爆弾バブルボム>が暴発し、バレルクラブの顔の辺りに爆発が生じた。


 ドスンという音が室内に響くのと同時に、バレルクラブの体が完全に床に倒れた。


『サクラがLv34になりました』


『サクラが称号”ボス殺し”を会得しました』


『サクラの称号”ボス殺し”と称号”掃除屋殺し”が称号”ダンジョンの天敵”に統合されました』


『リルがLv33になりました』


『リルが称号”ボス殺し”を会得しました』


『リルの称号”ボス殺し”と称号”掃除屋殺し”が称号”ダンジョンの天敵”に統合されました』


 (”ボス殺し”はダンジョンのボス10種類倒して獲得か。”掃除屋殺し”と統合されちゃったけど)


 システムメッセージが止むと、サクラが藍大に飛びついた。


「主~、倒した~」


「よしよし。サクラがダメージを負わなくて良かったよ」


「ちゃんと距離を取って攻撃したんだよ」


「そうだな。良い子だ」


「エヘヘ~♪」


 サクラが褒められていると、リルも褒めてほしそうに鳴いた。


「クゥ~ン」


「リルもありがとな。良い働きだったぞ」


「オン♪」


 藍大に撫でられると、リルは嬉しそうに吠えた。


 その後、藍大はバレルクラブの解体を済ませてから魔石を手に入れた。


 前回はリルが進化した際に使ったので、今回はサクラの番だ。


 サクラは藍大の手から魔石を食べさせてもらうと、サクラの胸がワンサイズ大きくなった。


『サクラのアビリティ:<闇刃ダークエッジ>がアビリティ:<暗黒刃ダークネスエッジ>に上書きされました』


「また強くなったな」


「うん! もっと強くなって主を守るよ!」


「サクラは本当に良い子だ」


「エヘヘ~♪」


 自分が強くなれない以上、サクラが強くなることは藍大にとって望ましいことだ。


 サクラが自分のために強くなるという言葉は、藍大にとって嬉しくないはずがない。


 解体とパワーアップが終わったので、藍大達はダンジョンから脱出した。

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