第44話 何が出るかな、何が出るかな

 3階に移動した藍大達だったが、やはり2階と同じく冒険者達の姿がちらほら見えた。


「テイマーさんだ」


「撲殺騎士もいるぞ」


「サクラたん萌え~」


「良い具合にモフモフしてるわ」


 藍大達が来たことを警戒している声もあれば、サクラやリルに興味を示す声もあった。


「むぅ、撲殺騎士と呼ばれることに物申したいよ」


 (それは無理じゃね?)


 そう思っても口にしないだけ、藍大にはまだ優しさが残っていた。


 舞が嬉々としてメイスを使って戦う以上、ちょっとやそっとのことじゃ撲殺の文字は取れないと考えるのが妥当だ。


 反射神経の良さを活かし、護衛に徹すれば撲殺要素は薄まるかもしれないのでそこに期待といったところだろうか。


 さて、藍大達は隠し部屋を探す冒険者達にボス部屋までの道を案内される訳だが、その途中で雑魚モブモンスターに遭遇した。


 シオマネキのように片方の鋏が大きいが、全体のサイズだって小型犬サイズと普通のシオマネキよりもずっと大きい。


「藍大、ウェブカマーだよ! 食べられる奴!」


「知ってたんだ?」


「うん! 前にここに遠征した時にホテルで食べたの!」


 シオマネキだって蟹の一種なんだから食べられるのではないかと思っていた藍大は、舞の経験を聞いてウェブカマーと呼ばれたそれについて調べてみた。


 その結果、ウェブカマーは確かにその身が食べられることはわかったが、基本的に味が薄いことも知った。


 ウェブカマーは体が大きいせいで味も大味らしい。


 では、舞が食べられると喜んだのはなぜか。


 答えは簡単である。


 客船ダンジョンでは雑魚モブのウェブカマーの死骸は、冒険者達によって大量に持ち帰られるから安いのだ。


 甲殻は防具の素材として使われるが、可食部である身は味が薄いから二束三文にしかならない。


 食費を切り詰めてダンジョン探索を行って来た舞からすれば、安くて量が多く味も不味くない食材ならば大歓迎なのである。


 しかし、加工の仕方によってはモンスターの餌にもなるとわかると、藍大に狩らないという選択肢はなくなった。


「よし、狩ろう」


「食料! そこで待ってやがれ!」


「あっ・・・」


 食料確保に燃える舞は、藍大から狩ろうという言葉を聞いて戦闘モードのスイッチが入ってしまった。


 藍大が指示を出す暇もなく、ウェブカマーを撲殺せんと駆け出していった。


 そんな舞を敵認定したウェブカマーは、大きい鋏をぶん回して舞を近づけさせまいとする。


「サクラ、大きい方の鋏を拘束してくれ」


「うん! 逮捕しちゃうぞ~!」


 藍大の指示に従って<闇鎖ダークチェーン>を発動させ、サクラがウェブカマーの大きな鋏を縛り付ける。


 動きが制限されたウェブカマーに対し、舞の渾身の振り下ろしが命中してウェブカマーはふらついた。


「リル、拘束してる方の鋏を切断してくれ」


「オン!」


 藍大の指示通りに<三日月刃クレセントエッジ>を発動し、リルがサクラによって拘束した大きな鋏をウェブカマーの体から切断した。


 その痛みで正気に戻ったらしく、ウェブカマーは怒って口から泡をブクブクと吐き出した。


 しかし、舞はそれを盾で受け流してメイスを振り下ろす。


 同じ場所に連続してメイスを振り下ろされると、ウェブカマーの甲殻に罅が入った。


「砕いてやるぜオラァ!」


 舞のその言葉と同時に振り下ろされたメイスにより、ウェブカマーの甲殻とその身が飛び散ってウェブカマーは沈黙した。


 そして、ウェブカマーを倒したことで高揚していた気持ちが落ち着いた舞は膝から崩れ落ちた。


「あぁ、庶民の味方が~」


「自業自得なんだよなぁ」


 藍大の呟きはもっともである。


 幸い、サクラとリルが協力して切断した鋏は無傷なので藍大達はそれだけ回収してダンジョン探索を再開した。


 ボス部屋までの最短ルートには藍大達を除いて他には誰もいなかった。


 そのルートはもう調べ尽くしていると思っているからこそ、藍大達に隠し部屋を見つけられることはないと冒険者達が判断したからだ。


 ところが、藍大達がボス部屋を視界に捉えて歩いているとリルが足を止めて吠えた。


「オン!」


「ん? どうしたんだリル?」


「リル君、何か見つけたの?」


「オン!」


 リルが見ている方向を藍大も見ると、そこは通路の脇であり血痕のようなシミが残っていた。


 (変だな。血痕なんてモンスターの死骸と一緒で、放置しとけばすぐに吸収されて元通りになるはずなのに)


 ダンジョンに関する知識はあったので、藍大はリルが指摘した違和感について考えた。


「物は試しか」


 そう言うと、藍大は先程の戦闘で細かく砕けたウェブカマーの破片をそのシミに向かって投げてみた。


 気まぐれで石ころ代わりに拾ったのだが、この瞬間に役立った。


 床のシミに破片が刺さった途端、シミの傍にあった壁に突然ドアが浮かび上がった。


「・・・隠し部屋第二弾?」


「そうじゃないかな?」


「入ってみる?」


「入ってみようよ」


 藍大と舞は頷き合い、そのドアを開いてみた。


 すると、そこは1階で見つけた隠し部屋と同じ間取りの部屋であり、部屋の中心部に宝箱が安置されていた。


「リル、またしてもお手柄だったな」


「ワフゥ♪」


 藍大に顎の下を撫でられてリルは嬉しそうに鳴いた。


 リルの<隠者ハーミット>は隠し部屋探しも容易くやってのけるようだ。


「主、宝箱だよ! 私開ける!?」


 サクラは宝箱を見て自分の出番だと張り切っていた。


「サクラ先生、今日も期待してるよ」


「えっへん」


 胸を張って応じると、サクラは早速宝箱を開けた。


「何が出るかな、何が出るかな」


 (舞のチョイスが古い。いや、俺も大概だけどさ)


 藍大がそんなことを思っていると、宝箱の中身を見たサクラがそれを取り出して首を傾げた。


「主、なんか袋が入ってる~」


「見せて」


「うん」


「これは・・・巾着・・・?」


 サクラが藍大に見せたそれは、黒い巾着袋と呼ぶべき代物だった。


 サクラが手に持っていれば、モンスター図鑑でその正体を知ることもできる。


 今回もモンスター図鑑の裏技的な使用法で宝箱から出た黒い巾着袋について調べ始めた。


「なん・・・だと・・・?」


「藍大、どうしたの?」


「これ、収納袋だって。袋の口に端でも入れば袋よりも大きい物が入るし、袋の中では時間の経過はないってさ。容量は25mプール程度らしいけど、重量は感じさせないんだから全然OK」


「何それすごい!」


「主、私すごい?」


「すごい! これは世紀の大発見だ!」


「エヘヘ♪」


 藍大が感激のあまりサクラを抱き締めると、サクラは嬉しそうに抱き締め返す。


 大好きな藍大に抱き締められたことで、サクラは特別な気分になった。


 いつもならば舞が妬くのだが、収納袋を発見した事実に衝撃を受けて固まったままだ。


 今のところ、収納袋の存在は認知されていない。


 厳密には誰かが見つけているのかもしれないが、それを公にしたら奪い合いになるから情報を統制している者がいるかもしれない。


 とりあえず、藍大は今日手に入れた戦利品を収納袋に入れ替え、その収納袋はツナギの胸ポケットにしまった。


「収納袋のことはクランメンバーだけの秘密な」


「そうだね。他所に漏れたら藍大が余計に狙われちゃうもんね」


「は~い」


「オン」


 藍大が狙われては困るので、舞とサクラ、リルに異議はなかった。


「待てよ、フェイクは必要か」


「フェイク?」


「俺達が手ぶらで歩いてたら変に思われるだろ? ダンジョン産の素材に価値があるとわかってて、倒して捨て置いたなんて思われるはずなくね?」


「なるほど。そうだよね。だったら、時間経過が関係ない物のいくつかは今まで見たいに普通の袋に入れておけば良いんじゃない?」


「それが良さそうだな」


 話がまとまると、藍大はふと気になることがあって宝箱に視線を向けた。


「藍大、宝箱に何かあるの?」


「いや、宝箱って持ち帰れるのかなって」


「う~ん、そんな話は聞いたことないよ」


「持ち帰れるか試してみるか」


 そう言うと、藍大は収納袋を取り出して袋の口を宝箱に触れさせた。


 すると、スッと宝箱が収納袋の中に入った。


「入っちゃった」


「だな」


「どうするの?」


「ここを出たら茂に相談してみる。宝箱のサンプルがあるってわかれば、あいつも喜ぶだろうし」


「確かに。芹江さん、鑑定士だし宝箱の現物を見たら喜ぶかも」


 隠し部屋でやることは終わったので、藍大達は部屋の外に出た。


 部屋の外に出た藍大達は、複数の冒険者達に取り囲まれた。


 彼等は藍大達を尾行していたらしい。


「隠し部屋を見つけたのか!?」


「何を見つけた!?」


「教えろよ!」


「サクラ、よろしく」


「は~い。今ここで見たこと全て忘れてダンジョンの外でひたすら踊ってなさい」


「「「Yes, Ma'am!」」」


 サクラの<誘惑香フェロモン>にやられ、彼等は顔を赤らめてこの場から去った。


「サクラグッジョブ」


「エヘヘ~」


 藍大達はサクラのおかげでピンチを切り抜けることに成功した。

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