第43話 それは言わないお約束だよ
翌日の火曜日、藍大達が到着した時には客船ダンジョンに多くの冒険者が集まっていた。
何故なら、昨日藍大達が隠し部屋でシルバークロウリーを手に入れたことで掲示板がお祭り騒ぎになったからだ。
横浜やその近隣を拠点とする冒険者は、早ければ昨日から隠し部屋を求めて客船ダンジョンで隠し部屋探しをしていた。
藍大達はジャイアントスタッフィーを倒したことで、今日の探索はショートカットを使ってすぐに2階に移動した。
2階に着いた藍大達が目にしたのは、子犬サイズの二枚貝型モンスターを倒しながら隠し部屋を探す冒険者達だった。
その二枚貝のモンスターの名前はシェルシューター。
<
藍大達も何度か戦うことはあったが、残念ながら先に2階にいた冒険者達が倒しているせいでほとんど戦闘する機会はなかった。
シェルシューターはLv15であり、強さから言えばジャイアントスタッフィーよりも少し強いぐらいである。
「藍大、シェルシューターは殻が防具に使えるよ。中身は食べられるの」
「そうだったのか。じゃあ、舞が粉々にしたシェルシューターは殻も使えなければ中身も食べられないな」
「それは言わないお約束だよ」
「追い詰められて余裕がない訳でもないんだし、買い取ってもらうために戦い方をどうにかできないのか? それができれば舞だって貯金できるでしょ」
「うぐ~」
藍大に正論でぶん殴られたせいで、舞は唸ることしかできなかった。
昨日の成果物については、藍大が茂に相談したところ代金を口座振り込みで良いのならDMU運輸を使ってDMU本部に送ってくれれば良いと言われた。
運送料はかかるし、シャングリラのダンジョンで得られた成果物程の儲けにはならないが実入り0よりは売っておきたいのが正直なところだ。
それゆえ、藍大達はスタッフィーやジャイアントスタッフィーの死骸で買い取ってもらえそうなものだけ送った。
だが、その中に舞が倒したスタッフィーはいなかったので藍大がそう言ったのである。
今はマッシブシリーズで武装しており、以前の装備に比べて耐久度が上がったおかげで舞は修理費用を抑えることができている。
だとしても、舞が貯金できていない事実は変わらない。
ようやく食費ぐらいはまともな物を食べられる程度には使えるようになったが、それでも貯金は全然できていない。
舞の財布を預かっている藍大としては、舞に戦い方をどうにかできないのかと注意するのは当然である。
ヒャッハーが戦う気持ちを高揚させるのはわかっていても、オーバーキルなヒャッハーは家計の敵なのだ。
舞もそれはわかっているので、まともに反論することもできずに唸っている。
さて、藍大達はシェルシューターとの戦闘は片手で済む程度しかしないまま、ボス部屋の前に到着した。
隠し部屋を藍大達に探し当てられたくない者達の中には、藍大達に進んでボス部屋までの最短経路を教える者までいたからだ。
「昨日よりも早くボス部屋に着いちゃったな」
「そうだね」
「主~、ボスは私とリルが倒す~」
「オン」
「そうだな。フロアボスはシェルガンナーだってさ。ガンナーなんだから早撃ちしてくる可能性が高い。舞には俺の護衛をしてもらおう」
「は~い」
(本当のことを言えば、狙撃から守ってもらうよりもボスモンスターの素材を粉砕されたくないからだけどな)
舞が護衛に徹するならば、戦利品の価値を下げずに済むという考えは藍大とサクラ、リルの共通のものだったらしい。
サクラとリルにもオーバーキルだと思われているなんて、舞の身体スペックは相当なものであることは間違いない。
もっとも、力加減ができないのが玉に瑕だが。
舞がボス部屋の扉を開けると、大型犬サイズのアコヤガイが部屋の中央に殻を閉じたまま待機していた。
ところが、藍大達がボス部屋の中に足を踏み入れた途端、殻が一瞬だけ開いて<
「危ない!」
「すごいけど盾の意味は!?」
いち早く危険に気づいた舞が藍大達の前に立ち、プロ野球選手顔負けのフォームで水の弾丸を打ち返した。
それがすごいことであるのは重々承知だが、マッシブシールドがあるのにそれを使わずにマッシブメイスで打ち返すものだから、藍大はツッコまずにはいられなかった。
舞にツッコみはしたものの、藍大は自分の役割を忘れることなくモンスター図鑑を開いた。
-----------------------------------------
名前:なし 種族:シェルガンナー
性別:雄 Lv:17
-----------------------------------------
HP:100/100
MP:95/100
STR:0
VIT:200
DEX:100
AGI:0
INT:110
LUK:40
-----------------------------------------
称号:2Fフロアボス
アビリティ:<
装備:なし
備考:なし
-----------------------------------------
(攻撃手段が1つしかないのはラッキーだけど、殻に閉じこもられると面倒だな)
<
<
つまり、シェルガンナーはシェルシューターよりも大きくて早撃ちができるだけのボスということである。
字面だけ見ればその程度かと思うかもしれないが、先程舞が打ち返した<
舞やサクラ、リルならば避けられたとしても、一般人とほとんど変わらない藍大では避けるのは難しい。
「舞は手筈通りに頼む。サクラはLUKを奪え。リルはシェルガンナーを攪乱して狙いを定まらせるな」
「了解!」
「任せて! いただきま~す!」
「オン!」
サクラの<
しかし、そんなことを気にせずにシェルガンナーは自分に接近するリルに向かって次々に<
この中で最も素早いリルには、シェルガンナーの攻撃は当たらない。
流れ弾のいくつかが藍大達に向かって飛んで来る。
「せいっ! はっ! それっ!」
(使われない盾の存在意義はどこにあるんだ?)
舞が全てメイスで打ち返すものだから、藍大がそう思ってしまうのも仕方のないことだろう。
「サクラ、空からシェルガンナーを宙吊りにできるか? 殻の上側だけ固定する感じで」
「できる! 逮捕しちゃうぞ~!」
AGIが0のシェルガンナーに対し、サクラの<
しかし、シェルガンナーは<
「タッチの差で逃げ込まれたか」
「どうする主?」
「空中でしばらく縦回転で振り回してみて。酔って殻が開くかも」
「は~い」
藍大の思い付きとも呼べる指示に従い、サクラは空を飛んだままシェルガンナーを闇の鎖で拘束したまま縦回転で振り回してみた。
レベル差のおかげでSTRが十分あるので、サクラはシェルガンナーを軽々と振り回した。
しばらくすると、シェルガンナーは振り回され過ぎて気持ち悪くなったらしく、<
それにより、閉じられていた殻に隙間が生じた。
「サクラ、それを上空に放り出せ! リルは本体を<
「わかった~」
藍大に言われるまま、サクラはシェルガンナーを上空に放り投げた。
闇の鎖の拘束が解けると、力なくシェルガンナーの殻がパッカーンと開く。
「オン!」
そこにリルの<
「あっ、キラキラ!」
サクラは落下するシェルガンナーの殻の片割れから、拳大のピンク色の真珠を見つけて地面に落ちる前にキャッチした。
それ以外の部位が地面に落下すると同時に、藍大の耳にはシステムメッセージが届いた。
『サクラがLv33になりました』
『リルがLv32になりました』
(フロアボスだけあってレベルアップしたか)
シェルガンナーとの戦闘が終わってそんなことを考えている藍大の前に、サクラがニコニコしながら大きな真珠を持ち帰って来た。
「主~、見て~。キラキラ~」
「サクラも女の子だもんな。そういうのが気になるよな」
「うん! 主、これ私にちょうだい!」
「良いよ。サクラが頑張ってくれたおかげで、シェルガンナーの死骸も比較的状態が良いから。ただ、戦闘中は危ないから俺が預かっとく」
「ありがとう! 主大好き!」
「藍大、私も護衛頑張ったよ!」
「シャングリラに帰ったら美味しい物作ってあげるから、今回はサクラに譲ってあげて」
「わかった!」
(わかっちゃったよ)
どうやら、今の舞の優先度は藍大の作る食事>光物らしい。
藍大はリルのことも労った後、戦利品の回収を終わらせてもまだ時間にも体力にも余裕があったので、舞達を連れて3階へと向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます