第40話 知ってるのか舞電
ダンジョン内を歩き回ること1時間、時々現れるスタッフィーを倒すのも藍大達にとってはただの作業となりつつあった。
一本道で行き止まりに来てしまうと、リルが壁を凝視した。
「どうしたんだリル?」
「オン!」
「この壁に何かあるのか?」
「オン!」
その通りと言わんばかりに吠え、リルは藍大に頬擦りする。
「主~、私が確認しても良い?」
「頼む」
「は~い。それっ」
サクラが掛け声と共に<
ところが、<
「どうなってんだ?」
「これはまさか・・・」
「知ってるのか舞電」
「私の名前は舞だよ~。舞電って誰のこと言ってるの~?」
ブンブンと腕を振って抗議する舞には、聞いたことがあると返せる程の知識はないようだ。
もっとも、そんな知識があったからどうだという話なのだが。
「ごめんごめん。それで、舞は何か知ってるのか?」
「間違ってたらごめんね。でも、多分合ってるんじゃないかな。これは隠し部屋だと思うの」
「隠し部屋?」
「他のダンジョンで見つけられたことが掲示板に載ってたよ。中に普通にダンジョン探索をしただけじゃ見つからない宝箱があるんだって」
「マジか。行ってみようぜ」
「そうだね。冒険者が冒険しないなんておかしいもんね。藍大は私の後ろをついて来て」
(舞が男らしくて頼りになる。それ言ったら舞が不機嫌になるから絶対に言わないけど)
女性に男らしいなんて褒め言葉ではないだろう。
そう思った藍大は頷くだけに留め、舞の後ろについて行った。
舞が壁をすり抜けると、藍大達もその後に続く。
壁の中は他の客室と同じ内装だった。
しかし、違う点が2つあった。
1つ目はスタッフィーが壁や天井、床に張り付いていないことだ。
2つ目は部屋の中心部に宝箱が安置されていることである。
「主、見て! 宝箱だよ~!」
「オン!」
サクラとリルは宝箱を見てソワソワしている。
その一方、舞は宝箱を警戒したままだった。
今は藍大に財布を預けているが、金欠状態が長く続いた舞にとっても宝箱は期待できる代物だ。
だが、舞はシャングリラのダンジョンでミミックを目にしている。
それゆえ、目の前にある宝箱がミミックである可能性を考慮して飛びつくことはなかった。
藍大も同様でモンスター図鑑を開いて宝箱がミミックではないか、あるいは別のモンスターではないか調べていた。
(モンスター図鑑に反応がない。ということはマジで宝箱なの?)
茂がいれば鑑定士の
ないものねだりをしたって仕方がない。
宝箱を持って移動するのはかさばって仕方がないし、そもそもミミックとは違って床に固定されている。
となれば、中身が何か探るには行動あるのみだろう。
「舞、掲示板に載ってた宝箱って罠が仕掛けられてた?」
「仕掛けはなかったはずだよ。鍵もかかってなかったんだって。効果付きのアクセサリーを手に入れた人もいれば、たわしが出て来た人もいたらしいよ」
「何が出るかは運次第か。よし、サクラ先生、お願いします」
「任された!」
宝箱の中身が運次第と判断した藍大は、LUKの能力値が高いサクラに宝箱を開ける役割を頼んだ。
今までコツコツと<
宝くじにサクラの力を借りることはなくても、ダンジョン内で役立つ物が欲しい藍大はこの場においてサクラの力を借りることに躊躇いはなかった。
サクラも藍大に頼られて嬉しいらしく、両手を腰に当ててドヤ顔である。
そして、藍大達が見守っている中、サクラが宝箱の蓋を開けた。
「主~、ネックレスあった~。着けて着けて~」
宝箱の中にあったのは、銀色に輝く六芒星のネックレスだった。
ネックレスの時点で藍大は自分で装備するという選択肢をなくした。
装備するならばサクラか舞の二択だと考えたのだ。
しかし、舞にはマッシブシリーズをプレゼントしているので、今回はサクラにあげるべきだろう。
藍大はそこまで考えて首を縦に振った。
「ぱっと見た感じ危険な感じもしないもんな。よし、着けてあげるからこっちにおいで」
「わ~い」
翼をパタパタさせて喜びをアピールし、サクラはそのまま藍大の前にやって来た。
藍大にネックレスを渡すと、くるりと反転して藍大がネックレスを着けやすくする。
ネックレスを着けてもらうと、サクラはまた反転して藍大にアピールする。
「主見て~。似合うかな? 似合うかな?」
「よく似合ってるぞ」
「エヘヘ~♪ 主にネックレスプレゼントしてもらって褒められちゃった~♪」
「ぐぬぬ」
1人の女性として、アクセサリーをプレゼントしてもらうことに憧れがあったらしく、舞は悔しそうに唸った。
マッシブシリーズをプレゼントしてもらったことは嬉しくとも、やはりネックレスには敵わないのだ。
(待てよ。サクラが装備した今なら、ネックレスがどんなものかモンスター図鑑でわかるんじゃね?)
藍大はそう思うや否や、モンスター図鑑のサクラのページを開いた。
すると、装備欄にシルバークロウリーの文字が追記されていた。
(状態異常無効ってマジ? サクラのLUK半端ないって!)
モンスター図鑑に記載されたことで、藍大は鑑定士でもないのにシルバークロウリーの効果を確認できた。
その効果は状態異常無効であり、魔除けの図形としても知られる六芒星に相応しいものだった。
「良かったな、サクラ。シルバークロウリーが状態異常から守ってくれるってさ」
「・・・主、これは主が着けた方が良いよ」
シルバークロウリーの効果を聞くと、サクラは藍大こそこれを身につけておくべきだと言った。
藍大に着けてもらって褒められたのは嬉しいが、自分が持っているよりも藍大が持っておくべきだと思うぐらいにはサクラは藍大のことを大切に思っている。
サクラが貰ったシルバークロウリーを返そうとすると、藍大は手でそれを制して首を横に振った。
「いや、それはサクラが着けてくれ」
「どうして?」
「俺も男なんでね、守られてるだけだと嫌なんだ。ただでさえ自分で戦えないってのに、戦ってるサクラを守るアイテムを奪って着けるとか鬼畜外道でしょ」
「でも!」
「俺は毒や麻痺とかで苦しむサクラを見たくない」
「主!」
藍大の発言により、サクラの藍大への好感度が爆上がりした。
自分が弱いと理解してなお、サクラを大事にしてくれることでサクラがキュンと来たのである。
サクラは藍大を力一杯抱き締めた。
「主! 主!」
「痛い痛い痛い! サクラ、痛いよ! 俺の体弱過ぎ!」
舞が感激して藍大に抱き締めた時は、プレートアーマーによって柔らかさを感じられなかった。
今回の場合、藍大はサクラの柔らかさを知ることができたものの、出会った頃とは比べ物にならない程強くなったSTRの前に貧弱ボディが悲鳴を上げているのだ。
「ちょっとサクラちゃん!? 藍大の骨が折れる! ストップ! ストォォォップ!」
舞はこのままではいけないとサクラを藍大から引き剥がした。
どうにか救出すると、藍大は舞にサムズアップした。
「助かったぜ舞。いやほんとマジで」
「舞、邪魔しないで! 舞だってメイスとシールド貰った時に同じことしたのに!」
「わ、私の時はちゃんと注意されたら藍大のこと離したもん。サクラちゃんは違うでしょ?」
「うぅ~。主~、舞がサクラのこと虐める~」
サクラは藍大に泣きついた。
大半の男ならばそんなことをされてコロッと落ちるだろう。
ところが、藍大はメンタルだけは強い。
大地震で家族を失い、超人になってもなかなか
それを乗り越えられたのは、藍大が精神的にタフだったからだ。
実際、サクラの<
だから、藍大はサクラだけの味方にはならなかった。
「まあまあ。でも、サクラも舞も結果から言えば同じことやってるからな。おあいこだぞ」
「うぇ~ん」
「気を付けるよ、うん」
藍大が味方になってくれず、サクラは期待が外れた。
舞も次は同じことをしないようにしようと声に出し、気を引き締め直した。
「オン」
「よしよし。リルは良い子だな」
「オン♪」
藍大に少し疲れが見えると、リルは藍大を元気づけるように頬擦りする。
リルの気遣いが嬉しい藍大は、リルのことを褒めて頭を撫でた。
そんなリルを見れば女性陣は納得がいかないと抗議した。
「リル、モフモフで主を篭絡しないで!」
「モフモフは反則だよ!」
「クゥ~ン・・・」
なんで自分が責められるんだとリルは尻尾を脚の間に巻き込んだ。
その様子を理不尽に思い、藍大はしばらくリルに優しくするのだった。
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