第4章 大家さん、客船ダンジョンに挑む

第39話 この頼りなさ、まさに貧弱!

 客船ダンジョンに行く月曜日今日を迎えるまでに、藍大はリルをLv30に到達させた。


 昨日のダンジョンでエッグランナーとシャインコッコ、フロアボスのエッグホッパーを倒した結果、リルがLv30になったのだ。


 それにより、リルも進化可能とシステムメッセージが告げて藍大はリルを進化させた。


 リルは進化した結果、クレセントウルフからハティへと進化した。


 額の白い三日月マークに黒い体は、額の三日月マークを残して月光を彷彿とさせる青白い体へと変化した。


 体のサイズがポニーぐらいまで大きくなったのだが、藍大への甘えん坊なところは全く変わっていない。


 魔石も吸収させると、ステータスは以下のように変化した。



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名前:リル 種族:ハティ

性別:雄 Lv:30

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HP:400/400

MP:460/460

STR:460

VIT:280

DEX:320

AGI:460

INT:260

LUK:220

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称号:藍大の従魔

   掃除屋殺し

アビリティ:<三日月刃クレセントエッジ><隠者ハーミット

      <風鎧ウインドアーマー><風弾ウインドバレット

装備:なし

備考:なし

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 リルのアビリティは<追跡チェイス>が<隠者ハーミット>へと上書きされ、新たに<風弾ウインドバレット>を会得した。


 <隠者ハーミット>は見えない者や気配を消した者を探し出し、逆に自分も気配を消すことができる隠密性の高いアビリティだった。


 <風弾ウインドバレット>も会得したことで、リルは奇襲のスペシャリストへの道を歩んでいる。


 なお、リルを進化させる過程でサクラもLv31へとレベルアップしている。


 サクラとリルのレベルアップには未亜も付き合い、大量にエッグランナーを倒して食べた結果、今日はその反動で動きたくないと言っているのはどうしようもない。


 未亜のことは横に置いといて、サクラもリルもこれから先はシャングリラのダンジョンの1階ではレベルアップに苦労することは間違いない。


 藍大の従魔については以上の変化があったが、藍大の護衛である舞にもマッシブロック素材でできたマッシブスケイルが届き、舞の安全性が高まっている。


 マッシブスケイルという名前はいかにもごつごつしてそうなネーミングだが、実際にはスリムなフォルムでありプレートアーマーではなくスケイルアーマーと呼ぶべき見た目だ。


 プレートアーマーよりもスケイルアーマーの方が動きやすいだろうというDMU職人班の判断から、マッシブロックの破片を加工して作られたのである。


 マッシブスケイルが届いた時、舞が感激して藍大を抱き締めてサクラと口論になったことは言うまでもない。


 そろそろ出発時刻だが、藍大は麗奈と司だけでは心配なので茂に警備の増強を依頼していた。


 藍大の懸念はもっともなので、茂はシフトを調整してシャングリラの警備を本部長に直訴して通した。


 警備面の問題も解決し、藍大達が穏やかな気持ちでシャングリラの前で待っていると、そこに一昨日藍大達が乗った高級車が藍大達を迎えに来た。


 リルに少しでも早く会いたかった真奈がおり、車を降りてキョロキョロとリルを探していた。


「こんにちは。逢魔さん、リル君はどこですか?」


「車に乗れないので亜空間にいますよ」


「お願いします。出して下さい。リル君成分を補充しないと禁断症状が出てしまいます」


 ずいっと真奈に距離を詰められた藍大は、リルを一旦呼び出さなければ自分達が横浜に行けないと判断してリルを召喚することにした。


「【召喚サモン:リル】」


「オン♪」


「んほぉっ!」


 召喚されたリルは、今日は早かったねと嬉しそうに藍大に頬擦りする。


 その様子が堪らなかったらしく、真奈は変な声を漏らした。


「主、真奈が悶えてるよ。変態さんなの?」


「そうだな。だからじっと見ちゃ駄目だ」


「デジャヴだよね、これ」


 真奈の業の深さが表に出ると、サクラが藍大に質問する。


 親が子供に言い聞かせるような藍大の発言に、舞は最近似たようなやり取りを見たかもと遠い目をした。


 ちなみに、運転手は真顔だった。


 いや、必死に真顔であろうとしていたというのが正しいだろう。


 自分が仕える人が変態であると考えてしまうと、色々と泣けてくるから何も考えないようにしている。


 真奈がリルを撫でて落ち着くと、藍大達は横浜の客船ダンジョンへと向かった。


 その道中でどんな会話があったかは言わずともわかるであろう。


 1時間半ぐらいかけて移動し、藍大達は横浜港に到着した。


 車を降りると、”レッドスター”に所属している冒険者だけでなく無所属の冒険者達もちらほらいた。


「おい、なんでテイマーさん達がここにいるんだ?」


「”レッドスター”のサブマスターもいるぞ」


「サクラたんhshs」


「お巡りさんこいつです!」


 (1人変態がいたな。通報されてたけど)


 藍大は変態の声が聞こえた方は決して振り向かず、客船ダンジョンの入口まで移動した。


「それでは、ひとまず私はここまでとさせていただきます。今日の探索を終えたら連絡して下さいね」


「わかりました。ありがとうございます」


 真奈が車に乗ってこの場から去ると、藍大はリルを召喚する。


「【召喚サモン:リル】」


「オン♪」


 今度は真奈がいない所で召喚したので、きっと変な声は聞こえないだろうと思っていた。


 しかし、現実は非情だった。


「何あれすげえ」


「圧倒的モフモフじゃないか」


「堪能したいわぁ・・・。じゅるり」


「落ち着きなさいよ馬鹿」


 (どうやら変態はまだこの辺りにいたらしい)


 一体いつからこの場に変態が1人しかいないと錯覚していたのだろうか。


 振り返りたくない藍大達は、そそくさと客船ダンジョンの中へと足を踏み入れた。


 ダンジョンの中は客船の内装だったが、どう考えても縮尺がおかしかった。


 客船が大きいのは確かだが、それでもここまでの広さはないと断言できる広さだった。


 壁には客室のドアがあるようで、藍大が試しにドアノブを握ると動かすことができた。


「これはシャングリラとは違うな」


「藍大、ちょっと待って。開けたらグサッと刺されるかもしれないよ。私が開ける」


「わかった」


 (この頼りなさ、まさに貧弱!)


 ドアを開けた瞬間に不意打ちを喰らう恐れがあるので、護衛する舞としては藍大にドアノブを開けさせることはできない。


 舞がとても頼りになると思う反面、藍大は自身の頼りなさを痛感してしまった。


 舞がドアを開けると、その中は客室だったが至る所に大きな海星ヒトデが張り付いていた。


 それらがモンスターだと判断した藍大は、すぐにモンスター図鑑を開いた。



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名前:なし 種族:スタッフィー

性別:雄 Lv:10

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HP:70/70

MP:80/80

STR:80

VIT:70

DEX:50

AGI:30

INT:100

LUK:20

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称号:なし

アビリティ:<泡球バブルボール><回転攻撃スピンアタック

装備:なし

備考:魅了(サクラ)

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 (海星にすら効果のある<誘惑香フェロモン>とはいかに)


 藍大がスタッフィーのステータスを見て最初に思ったことは、サクラの<誘惑香フェロモン>の効果対象が広いことだった。


 まさか海星にすら効果があるなんて、正直予想外なのである。


 だが、このチャンスを逃す手はない。


「サクラに魅了されて動きが鈍ってるぞ。今のうちに倒しちゃえ」


「は~い!」


「オン!」


「ぶっ潰す! YEAH!」


 サクラとリルは原形が残る倒し方だったが、舞がそうならない倒し方をしたのは言うまでもない。


 スタッフィーが壁のシミになっているのは、なんとも恐ろしいことだと言えよう。


 持ち運べる量には限りがあるので、サクラとリルが倒した中で特に形の良い死骸だけを回収した。


「主~、スタッフィー弱かった~」


「オン」


「よしよし。舞もお疲れ様。この調子で行けるなら、5階までそう時間はかからなそうだ」


 サクラとリルを撫でて舞を労った後、藍大達は部屋を出てボス部屋を探し始めた。

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