第38話 コネは取っておくものじゃなくて使うものなんだよ

 同盟という言葉を聞いて藍大が考える素振りを見せると、誠也が言葉を続けた。


「どうして”レッドスター”が”楽園の守り人”と組もうとしてるのか、わからないって顔をしてますね。勿論、そこはしっかり話しますよ」


「お願いします」


「わかりました。最初に確認ですが、逢魔さんは”レッドスター”が狩場としてるダンジョンがどこかご存じですか?」


「横浜港に停泊していた客船ダンジョンですかね? 持ち主があの地震で亡くなり、その客船がダンジョンになったと記憶しておりますが」


「その通りです。あのダンジョンは私達のホームタウンにあったことから狩場としております。そこの探索に行き詰まりまして、是非とも逢魔さん達の力を借りたいのです」


「正確には誰のどんな力が必要なんでしょうか?」


 具体的な情報がないと判断に困るので、藍大は誠也にズバッと質問した。


「逢魔さんの従魔士の職業技能ジョブスキルです。是非ともテイムしてもらいたいモンスターがいます」


「どんなモンスターなんですか? どうしてテイムが必要なんでしょう?」


「対象は5階のフロアボスのメタルタートルです。テイムが必要というよりは、現時点で製作できる武器では倒せないからテイムに賭けると言った方が良いでしょう。倒せるものなら倒したいんですが、そうもいかないんですよ」


「名前からして硬そうですが、どんな攻撃も通じないんですか?」


「普段なら微々たるものですがダメージを与えられると思います。しかし、甲羅に籠られると全くダメージが入ってる気がしません」


 (なるほど。甲羅に籠ったところをテイムしてほしいってことか)


 ここまで説明されて、藍大はようやく誠也の目的を理解できた。


「倒せなくとも甲羅に閉じこもればテイムできるって考えてるんですね?」


「おっしゃる通りです。こっちから頼んでおりますので、滞在費等の必要経費は”レッドスター”で持ちましょう。私達としては5階で足止めされてる現状を打破したいんです。逢魔さん達もシャングリラのダンジョンに出ないモンスターをテイムできます。悪い話ではないと思いますが」


「この場で少し相談させてもらっても良いですか。今日回答するにしても即答はできかねます」


「わかりました。それでは相談が終わったらこのベルを鳴らして下さい。ベルが鳴るまではこの部屋には人が近づかないようにして、私達も一旦外に出ますので」


「お気遣いいただきありがとうございます」


 藍大にベルを渡すと、誠也と真奈が応接室から離席した。


 2人がいなくなると、藍大達は一斉に息を吐き出した。


「堅苦しいのは疲れるな」


「そうだよね~」


「主成分補給する~」


「クゥ~ン」


 ソファーに体重を預けた藍大だったが、左からは舞が、右からはサクラがもたれかかる。


 足元のリルも藍大に身を寄せている。


 スーツを着て真面目な話をするのは記者会見以来だが、慣れないことはするものではないということなのだろう。


 藍大達はダンジョンに行った時よりも疲れを感じていた。


 しかし、ここは自宅ではないと藍大達は気を引き締め直して話し合いを始めた。


「客船ダンジョンの探索を目的とした同盟かぁ。舞はどう思う?」


「私は受けても良いと思うよ」


「その心は?」


「シャングリラのダンジョン以外にも藍大はダンジョンを知るべきだよ。他のダンジョンでの経験が今後に生きると思うんだ。客船ダンジョンは水辺を得意とするモンスターが多いの。だから、水曜日のダンジョン探索に役立つんじゃないかな。それに”レッドスター”に貸しを作れるし」


「なるほど。一理ある。ただ、俺達がこっちに寝泊まりすると問題もあるんだよな」


「シャングリラへ侵入しようとする冒険者が出て来る可能性を言ってるんだね?」


「そーいうこと」


 藍大の懸念を舞は言い当てた。


 藍大達がシャングリラにいたとしても、昨日のようにクランに属していない冒険者達がシャングリラに押し寄せて来たのだ。


 茂経由でDMUから警告したとしても、それで全員がおとなしくなるとは限らない。


 藍大自身がダンジョンを開く鍵になっていることは公にしているが、もしかしたら自分だって鍵の可能性があるとずけずけとやって来る者がいないとも思えない。


 もしも藍大達が数日間不在すると知れば、その隙を突こうとする者が出てくる可能性だってある。


 クランに属していない冒険者どころか、クランごと来てしまうようなことだってあり得る。


 藍大達が”楽園の守り人”を立ち上げたことで、分別のある冒険者や気弱な冒険者がちょっかいを出すことはなくなったが、超人なんて存在が出現してしまったこのご時世で力に酔ってやらかす者が出て来るなんてしょっちゅうだ。


 ここ最近のニュースでも、ちょくちょく調子に乗った冒険者がやらかすなんてことは取り上げられている。


 そう考えると、麗奈と司の負担が増えることを心配せずにはいられまい。


「もしも行くんだったら、芹江さんに見張りの増員を頼んだら? それか、”楽園の守り人”に所属してない人が近寄ったら冒険者資格を停止してもらうよう頼むとか」


「舞って結構コネ使おうとするよね」


「コネは取っておくものじゃなくて使うものなんだよ」


「そうだな。客船ダンジョンに行くとしたら、茂の力を借りよう」


「まだ懸念事項があるの?」


 留守番問題を解決したら決断できると思っていたらしく、舞は首を傾げた。


「舞はどうにかなるかもしれないけど、俺とサクラ、リルが戦ったのはLv15が一番強い。客船ダンジョンで俺達の力が通じるのか心配だ」


「大丈夫じゃないかな?」


「なんでそう思うんだ?」


「"掃除屋"の称号が付いたLv15のモンスターって、普通のLv15のモンスターよりも強いから」


「そうなの?」


「そうだよ。多分、雑魚モブモンスターならLv20ぐらいに相当するんじゃないかな?」


「まさかそんな強い奴と戦ってたなんて知らなかった」


 舞が経験則から大丈夫だと言うと、藍大は今更ながら自分達のやったことが実はすごいことなのだと自覚した。


 実際、藍大達がやってのけたことは普通にすごい。


 7種類の”掃除屋”と対峙して、6種類を討伐して1種類はテイムしたなんてはっきり言って異常だ。


 並みの冒険者がそんな場面に遭遇したら、大半が再起不能になっているだろう。


 いや、もっと言えば死んでいるかもしれない。


 過半数がDMUからの出向であり、実質的なメンバーは藍大と舞と未亜だけだ。


 勿論、藍大にはサクラとリルという頼りになる増援がいるのだが、それでもほとんど藍大と舞だけで7種類を相手にして生き残ったのだから大したものだ。


「そんなに心配なら、メタルタートルと戦う前に客船ダンジョンを1階から順に探索させてもらえば良いんじゃない?」


「良いアイディアかもしれない。そうすれば、俺達も客船ダンジョンに慣れることができるし、サクラやリルをレベルアップさせられる」


「この条件を提示しても、相手からすれば慎重だけど失敗しないように準備するつもりだって誠意は伝わるはず。交渉は藍大に任せるから頑張って」


「わかった。じゃあ、あの2人を呼ぶか」


 話がまとまると、藍大はベルを鳴らして誠也と真奈を呼び出した。


 ベルを鳴らして少し経つと、誠也と真奈が応接室に戻って来た。


 その時には藍大達も姿勢をきっちりと正していた。


「逢魔さん、結論は出ましたか?」


「はい。条件付きで同盟の件をお受けしようと思います」


 条件付きと言った瞬間、藍大は誠也の目が光ったように感じた。


「その条件とはなんでしょうか?」


「メタルタートルのテイムの確率を上げるため、準備期間を設けていただきたいんです。客船ダンジョンを1階から5階に自力で到達できるようになれば、テイムできると思うのですがいかがでしょう?」


 藍大の考えを聞くと、誠也は考えるポーズを取ったがゆっくりと頷いた。


「・・・そうですね。私達は結果を求めるのに急ぎ過ぎでした。慣れないダンジョンでいきなり5階のフロアボスと戦ってくれというのは不親切です。わかりました。その方がテイムできる可能性が高いと思いますし、逢魔さんの条件を呑みましょう」


「ありがとうございます」


「では、いつから客船ダンジョンに挑みますか? 私達としては今日からでも構いませんが」


「流石に今日は厳しいです。一旦、クランメンバーへの説明と準備が必要ですからね。明後日からでどうでしょう?」


「わかりました。明後日迎えをやります。よろしくお願いします」


「こちらこそよろしくお願いします」


 藍大は誠也と握手し、ここに”楽園の守り人”と”レッドスター”の一時的な同盟が成立した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る