第30話 俺は今何を見させられてるんだろう?

 藍大達の前に咲いた花は、藍大の腰ぐらいまでの大きさで花びらが紫色なこと以外に目立った特徴はなかった。


 その花がモンスターであることは間違いない。


 何故なら、藍大達に向かって唐突に攻撃を始めたからだ。


「種!? サクラ、斬ってくれ!」


「うん!」


 その花のモンスターが花を閉じて砲台のように形を変更すると、種を砲弾のように発射した。


 藍大がサクラに指示を出すと、サクラは力強く頷いて<闇刃ダークエッジ>でその種を一刀両断した。


 サクラに攻撃を防がれているモンスターは、なんとしてでもサクラのガードを突破してやろうと種を連射する。


 しかし、サクラは出現させたままの闇の刃で発射される種を次々に真っ二つにしていく。


 サクラが時間をこうして稼いでくれている間に、藍大はモンスター図鑑で敵の情報を調べた。


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名前:なし 種族:シードシューター

性別:雄 Lv:15

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HP:150/150

MP:300/380

STR:0

VIT:260

DEX:180

AGI:0

INT:260

LUK:60

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称号:掃除屋

アビリティ:<種弾シードバレット><茨壁ソーンウォール

装備:なし

備考:なし

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 (これぞ丈夫さと威力が特徴の固定砲台と言ったところか)


 STRとAGIが0ということは、近接戦は無力でそもそも今いる場所から1歩たりとも動けないということだ。


 その代わり、MPとVIT、INTは同レベルの”掃除屋”の称号を持つモンスターの中でも高めである。


 つまり、シードシューターはその場から動かず攻撃を受けようとも敵を倒すまでひたすら打ち続けるというごり押し上等という考えのモンスターという訳だ。


 とりあえず、シードシューターについての情報さえわかれば攻略は容易い。


「リル、サクラとスイッチして種を全部斬ってしまえ! サクラは<幸運吸収ラックドレイン>!」


「オン!」


「は~い! いただきま~す!」


 <闇刃ダークエッジ>でシードシューターの<種弾シードバレット>を防いでいたサクラが後ろに退き、それと入れ替わるようにリルが前に出て<風爪ウインドネイル>で<種弾シードバレット>を次々に斬り捨てる。


 リルが守ってくれている間に、サクラは<幸運吸収ラックドレイン>でシードシューターのLUKを吸い尽くす。


 不幸LUK=0になった影響が早速出て、シードシューターが放った種の中の一発がリルによって打ち返されてしまい、シードシューターは種を放っていた砲口に種が入ってしまい自爆した。


「サクラは<魅了チャーム>でシードシューターの動きを封じろ! リルは接近して攻撃!」


「萌え萌え~!」


「オン!」


 サクラの気の抜けるような掛け声の直後、ハートを模ったピンク色の光がシードシューターに命中した。


 それによって攻撃が収まり、シードシューターはまるで金縛りにあったかのように動かなくなった。


 リルは<茨壁ソーンウォール>で邪魔されることなくシードシューターに接近し、<風爪ウインドネイル>で種を飛ばす花を散らすように斬り、そのままHPが0になるまで攻撃を続けた。


 シードシューターのHPが0になった瞬間、シードシューターの体は急速に水分がなくなって萎れてしまった。


『サクラがLv26になりました』


『リルがLv24になりました』


『リルが称号”掃除屋殺し”を会得しました』


 システムメッセージが止むと、藍大はサクラとリルを労った。


「サクラ、リル、よくやったな」


「エヘヘ~♪」


「クゥ~ン♪」


 藍大の指示で危なげなく勝利し、撫でられたサクラとリルは嬉しそうにされるがままになった。


 その後、藍大達は萎びたシードシューターの解体に移った。


 花びらが散り、花の中心にあったらしい魔石は萎びた茎の先端に付いていた。


 茎は硬度がなくなったので折り畳めるようになったため、藍大は大して苦労することなく袋の中にぶち込めた。


「順番で今回の魔石はリルの物だ」


「オン!」


 藍大の手から魔石を飲み込むと、リルの体が大きくなってバイク並みのサイズになった。


『リルのアビリティ:<風爪ウインドネイル>がアビリティ:<三日月刃クレセントエッジ>に上書きされました』


 (今回は上書きか。まさか、Lv30未満は多くてもアビリティ3つって制限があるのか?)


 その予想に対する答えは、残念ながらモンスター図鑑には載っていない。


 だから、その予想を事実として扱うためには、藍大がLv30以上のモンスターのステータスを見るしかない。


 このままサクラとリルを育てていけば、2体がLv30に到達するまでそう遠くはないだろう。


 自分の疑問をすぐに解決できないとわかった藍大は、壁にもたれかけさせた麗奈を拾ってそのままボス部屋へと向かった。


 酔っぱらって寝てしまった麗奈を支えて歩くのは、一般人並みの力しかない藍大にとっては楽ではない。


 その状態でドランクマッシュに襲撃されれば、泥酔の状態異常に陥るリスクがある。


 ならばいっそのこと、視界に入っているボス部屋に入ってサクッとフロアボスを倒してダンジョンを脱出した方が安全だろうという判断をした。


 護衛が護衛される立場になるなんて情けない。


 というよりも、舞が気を遣って息抜きにダンジョン探索の役目を今日は譲ってあげたというのに、酔っぱらって爆睡するとは麗奈は何をやっているのだろうか。


 残念なことに、藍大が寝ている麗奈にツッコんでも効果はないので、今は前に進むしかない。


 ボス部屋の扉を開くと、その中には先端から蒸気を放出する赤みがかったキノコのモンスターがいた。


 サイズはドランクマッシュと同じだが、顔はドランクマッシュと比べ物にならない程いかつい。


「キノッコォォォォォッ!」


「俺は今何を見させられてるんだろう?」


 自己主張の激しい敵の叫び声を聞き、藍大はふと思ったことをそのまま口にした。


 キノコと勢いをつけて鳴くキノコ型のモンスター。


 これをシュールと言わずして何をシュールというのだろうか。


 藍大がモンスター図鑑でサラッとステータスを確認してみると、フロアボスはアングリーマッシュという名前だった。


 当然のことだが、アングリーマッシュの能力値はシードシューターには遠く及ばなかった。


 ただし、注意すべきはそのアビリティである。


 1つ目の<怒蒸気アングリースチーム>は、触れたり吸い込んだりすると興奮状態になってしまうものだ。


 冷静さを失うと、サクラやリルが藍大の指示が届かなくなる恐れがあるので注意せねばなるまい。


 2つ目は<怒蹴アングリーキック>で、威力は使用者の怒りに応じてSTRの値に上乗せされる。


「オン?」


「やって良いぞリル。新しいアビリティ試してみようぜ」


 やっちゃって良いのと訊きたいらしく、リルは首を少しだけ傾げていた。


 それに対する藍大の答えは一向に構わないというもので、先程会得した<三日月刃クレセントエッジ>を試す良い機会だと頷いた。


「オン!」


 やってやるぜと吠えたリルが前脚を振るうと、<風爪ウインドネイル>よりも鋭く速い斬撃がアングリーマッシュへと飛んで行った。


 そして、アングリーマッシュの傘と柄があっさりと斬れて離れ離れとなり、アングリーマッシュは物言わぬ死体となった。


 レベル差が倍以上あることもそうだが、上書きされた<三日月刃クレセントエッジ>が1階のフロアボス相手ではオーバーキルだったのだ。


 戦闘が終わってもシステムメッセージが聞こえないと言うことは、サクラもリルもレベルアップするには足りない経験値しか入らなかったのだろう。


「アオォォォン!」


 リルは勝利したことをアピールすべく雄叫びを上げた。


 正直、今の藍大達にとって1階では物足りなくなっていた。


 勿論、雑魚モブを倒し過ぎると”掃除屋”が現れるから油断ならないが、それさえどうにかすれば危険に思える敵はいない。


 リルが自分に褒めてほしそうにソワソワしているので、藍大はとりあえずリルを褒めた。


「お疲れ様。<三日月刃クレセントエッジ>の威力が予想以上だったな」


「オン♪」


 褒められたリルは頭を撫でられて嬉しそうに応じた。


 リルがアングリーマッシュを倒したことにより、藍大達はダンジョンの外に安全に脱出できるようになった。


 それゆえ、アングリーマッシュの死体を回収してから麗奈を連れて藍大達はダンジョンを脱出した。

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