第24話 火の玉って打ち返せんの!?

 藍大は迫りくる敵と距離がある間にモンスター図鑑を開いた。



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名前:なし 種族:パイロリザード

性別:雌 Lv:15

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HP:220/220

MP:250/250

STR:250

VIT:170

DEX:70

AGI:30

INT:250

LUK:50

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称号:掃除屋

アビリティ:<火球ファイアーボール><火壁ファイアーウォール

装備:なし

備考:なし

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 (サラマンダーじゃなかったか。でも、それはそれとしてヤバくね?)


 サラマンダーかもしれないと思っていたモンスターがパイロリザードだったとわかってホッとしたが、”掃除屋”であることに変わりはない。


 ヒートエイプの火がライターだったとすれば、パイロリザードの火はキャンプファイアー並みの火力である。


 プレートメイルを着ている舞が長い間近づいていれば、プレートメイルが熱せられて戦いに集中できなくなるのは考えるまでもない。


 その上、<火球ファイアーボール>で遠距離攻撃はばっちりだし、こちらから遠距離攻撃を仕掛ければ<火壁ファイアーウォール>で防げる。


 雌だからサクラの<魅了チャーム>も効かないとなると、容易には倒せないだろう。


「舞は俺を護衛して。サクラとリルは挟み撃ちにするように戦うんだ。良いな?」


「了解」


「うん!」


「オン!」


 サクラとリルが頷いて左右に分かれると、パイロリザードはリルを狙って<火球ファイアーボール>を放った。


「グラァ!」


 火の玉のサイズはサッカーボールぐらいだったが、発動から射出までの動きはのっそりしたものだったため、リルは持ち前のAGIで容易く躱した。


「サクラ、<不幸招来バッドラック>だ!」


「地獄行き~!」


 藍大の指示通りにサクラが<不幸招来バッドラック>を発動した。


 元々大して高くないLUKは、サクラの<不幸招来バッドラック>で0になった。


 攻撃のチャンスではあったが、先にパイロリザードを不幸状態にしておいた方が後々自爆させることもできそうなので、藍大は<不幸招来バッドラック>の発動を優先したのだ。


「グラァ?」


 今何かしたかと嘲笑してみせるパイロリザードに対し、サクラはムッとしている。


「サクラ、落ち着け。そいつは自分の状況をわかってないだけだ」


「は~い」


「リル、GO!」


「アオォォォン!」


 藍大はサクラを宥めてリルに攻撃させる。


「グルァ」


 短く鳴くと、パイロリザードはリルの<風爪ウインドネイル>が届く前に火の壁をリルがいる方向に出現させた。


 <火壁ファイアウォール>を発動したのだ。


 リルの<風爪ウインドネイル>は火の壁をサッと揺らめかせるに留まった。


 リル自身は火の壁が出現した時にはブレーキをかけていたので、火の壁に突撃するようなことはなかったのは幸いである。


「サクラ、逆から攻撃!」


「それ~!」


 リルのいる反対側からサクラが<闇刃ダークエッジ>を発動した。


 すると、ここで運が藍大達に味方した。


 リルの攻撃を防いで余裕ぶっこいていたパイロリザードは、反対側からのサクラの攻撃に焦って振りむこうとした結果、バランスを崩して横転した。


「チャンス!」


「藍大、私も行く!」


「許可する!」


「よっしゃ行くぜオラァァァ!」


 転んで背中の火が壁に向かっている今であれば、舞が近づいても危険は少ない。


 ということで、転んだパイロリザードに攻撃するサクラとリルと一緒になって舞がメイスを振るう。


「オラオラオラァ!」


 品性の欠片もない声を発しながら、舞はパイロリザードの脇腹にマッシブメイスで何度も殴りつける。


 しかし、袋叩きにされたことが不快だったパイロリザードが全力で吠えた。


「グラァァァァァァァァァァッ!」


 あまりの声のボリュームに耐えられず、舞とサクラ、リルは藍大の所まで戻って来た。


 特に耳の良いリルは、近くで大声を出されてとても機嫌が悪そうだった。


「サクラ、上空から連続攻撃!」


「わかった! そりゃ~!」


 空を飛んでパイロリザードの上を取り、そこから<闇刃ダークエッジ>でパイロリザードの体表を傷つける。


「グルァァァッ!」


 受けたダメージになり振り構っていられなくなったらしく、パイロリザードは<火球ファイアーボール>を乱射した。


 サクラは飛び回ってその攻撃をスイスイと避けるが、火の玉の1つが藍大達の方に飛んで来てしまった。


「任せなぁ!」


 舞は藍大とリルの前に立ち、野球のバッターのようにマッシブメイスを振りかぶった。


 それに伴い、舞が握るマッシブメイスがオーラのようなものに包まれた。


 そして、火の玉をマッシブメイスで打ち返した。


「火の玉って打ち返せんの!?」


 舞のスイングにより、火の玉は弾丸ライナーと表現すべき勢いのままパイロリザードの顔に命中した。


「グルァッ!?」


 パイロリザードもまさか打ち返されるとは思っていなかったようで、受けたダメージよりもその事実に驚いていた。


「隙だらけだ。サクラ、リル、やってしまえ!」


「それっ!」


「オン!」


 <火球ファイアーボール>を打ち返されて動揺している隙に、サクラの<闇刃ダークエッジ>とリルの<風爪ウインドネイル>がパイロリザードに命中した。


 袋叩きにされた時のダメージが大きかったようで、サクラとリルの攻撃でHPが0になったパイロリザードはドシンと音を立てて倒れた。


『サクラがLv23になりました』


『サクラがLv24になりました』


『サクラは称号”掃除屋殺し”を会得しました』


『リルがLv20になりました』


『リルがLv21になりました』


『リルがLv22になりました』


 システムメッセージが藍大達に勝利を告げると、藍大達は大きく息を吐いた。


 今までの戦闘の中で一番緊張したこともあり、その反動で力が抜けてしまったのだ。


「サクラ、リル、お疲れ様。よく頑張ってくれたな」


「エヘヘ~」


「オン♪」


 藍大に頭を撫でられ、サクラもリルも嬉しそうにそれを受け入れた。


「舞もお疲れ。さっきのマジヤバかったな。何あのオーラ?」


「お疲れ様~。えっとね~、騎士の職業技能ジョブスキルだよ~」


「騎士ってオーラを武器に纏わせられるの?」


「後ろに守るべき者がいる時に限定して、武器にオーラを付与して攻撃できるんだ~。いや~、火の玉も打ち返せるなんてすごいよね~」


「打ち返した本人が何言ってんだよ・・・」


 呑気なことを言う舞に藍大は力が抜けてしまった。


 なんにせよ、魔法攻撃にも対抗できることはこの先のダンジョン探索において重要な要素であることは間違いない。


 (そうだ、サクラも新しく称号を手に入れてたっけ?)


 藍大はシステムメッセージの内容を思い出し、モンスター図鑑でサクラが手にした称号について確かめた。


 そこには”掃除屋殺し”の効果が記されており、この称号を持った者が”掃除屋”を持つモンスターと対峙した時に全能力値が1.5倍になり、倒した時の取得経験値も1.5倍になるとわかった。


 取得条件こそ載っていなかったが、サクラが舞達と協力して倒した”掃除屋”が3体だったことから考えると、”掃除屋”を3体倒すことが条件だと推察できる。


「舞、”掃除屋殺し”を取得したとか声は聞こえた?」


「聞こえてないよ~。藍大は聞こえたの~?」


「OK、わかった。なんでもない」


 (システムメッセージは俺にしか聞こえてないし、レベルとか称号って概念はモンスターにしかないのか?)


 今までは聞こえるのが当たり前だと思っていたから訊かなかったが、実はシステムメッセージが自分にしか聞こえていないということは、これも従魔士絡みの力なのだろうと藍大は結論付けた。


 その後、藍大はサクラとリルにパイロリザードの解体を任せた。


 ヒートエイプの皮よりも良い装備の素材となってくれそうなので、その作業は丁寧に行われた。


 ”掃除屋”を倒したということは、当然魔石も解体の過程で見つかる。


「今回はリルの強化に充てるぞ」


「オン♪」


 魔石を飲み込むと、リルの体が少しだけ大きくなった。


『リルがアビリティ:<風鎧ウインドアーマー>を会得しました』


 (風の鎧を纏えるのか。リルのVITはサクラよりも低かったからありがたいな)


 会得したアビリティがリルの弱点を補うものだったため、藍大はホッとした。


 さて、解体を終えてパイロリザードの素材をできるだけロスなく回収した後、藍大は舞に訊ねた。


「ボス部屋行っとく? ただ歩いて帰るよりも近いし、パイロリザードよりは弱いと思うけど」


「行っちゃおう」


「よし、決まりだな」


 帰り道に楽をするため、藍大達は扉を開いてボス部屋の中に進んだ。

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