第20話 誰だってそー思う。俺だってそー思う

 藍大に撫でられたリルはご機嫌であり、尻尾をぶんぶんと振っている。


「リルは頼りになるなぁ」


「オン♪」


 リルが褒められているのを見て、サクラはムスッとした表情になった。


「サクラちゃん可愛い~。嫉妬してる~」


「嫉妬、違う」


「またまた~」


 舞に揶揄われて余計にご機嫌斜めのサクラを放置するのは悪手だと判断し、藍大はサクラの頭も撫でる。


「大丈夫。サクラも頼りにしてるぞ。俺が戦力としては一番頼りにならないからな」


「私、頑張る」


「藍大、それは威張って言うことじゃないよ」


 胸を張って言ってのける藍大に対し、司は冷静にツッコんだ。


 リルを褒めてサクラの機嫌を直すと、藍大達はアルミラージエリートを倒して生じたボス部屋の変化に目を向けた。


 生じた変化とは、ボス部屋の隅に現れた魔法陣と階段である。


「舞、魔法陣と階段について説明よろしく」


「は~い。魔法陣と階段はボスを倒した証明にもなるよ。魔法陣はダンジョンの入り口付近と繋がっててショートカットになるね。1回ボスを倒すと、次の階に行くのにボス戦を経由しなくて済むんだ」


「ファンタジーだな」


「そうだね。だけど、そんなこと言ったらダンジョン関連の現象全てがファンタジーだよ?」


「それもそうか。階段は次の階に繋がるだけ?」


「うん。このダンジョンは下に進むタイプみたいだね」


 舞の説明を聞くと、藍大はスマホの時計を見た。


 (11時40分か。午前の部を切り上げる前に、少しだけ地下1階を覗いてみたいな)


「藍大、その顔は地下1階を覗いてみたいって顔だね?」


「わかる?」


「私も同じだからね!」


 ドヤ顔で言う舞も、藍大と同じく地下1階の様子が気になっていたらしい。


 司はあくまで護衛であり、1階よりもモンスターが少し強くなろうが問題ないため藍大に判断を任せるつもりだ。


「じゃあ、ちょっとだけ覗いてみようぜ。今後の探索の下見も兼ねて」


「賛成!」


「了解」


 藍大達は階段を下って地下1階に進んだ。


 地下1階に移動すると、ダンジョンの内装が洞窟から煉瓦造りの人工建築物に変わった。


「雰囲気が変わったな」


「ダンジョンだもん。そういうことだってあるよ」


「司、ダンジョンってこういうものなのか?」


「そうだね。ダンジョンによっては階が変わると内装が変わる所もあるよ」


「藍大、私の言葉は信じられないの~?」


「そういうつもりはないけど、舞は思考放棄してた気がしたから念のため」


「ひっど~い」


「酷くないよ。これぐらい慎重な方が良いって。藍大自身は戦えないんだから」


 (その通りだけど弱いって言われると悲しくなるんだよなぁ)


 藍大は従魔士だから、藍大自身に戦う力なんてない。


 サクラやリルの力を借りねばダンジョンに来れないのが従魔士の特徴である。


 それは重々承知しているが、男として弱いと言われるのは悲しいものがある。


 もっとも、筋トレしたところで近接戦闘系の職業技能ジョブスキルを会得した冒険者には逆立ちしても追いつけないのだが。


 さて、地下1階を少し進むと、藍大達は広間のような場所に辿り着いた。


 そこの天井には蝙蝠のようなモンスターがびっしりと待機していた。


 藍大達を見つけた瞬間、モンスター達は藍大達に襲い掛かった。


「ヒャッハァァァァァッ! 狩りの時間だぜぇぇぇっ!」


「キャイン!?」


 舞が戦闘モードに入った瞬間、その豹変度合いにリルの尻尾が足の間に巻き込まれていた。


 リルの感情表現が犬と同じならば、それは舞に怯えていることを示している。


 (誰だってそー思う。俺だってそー思う)


 そんな藍大を守るべく、司は藍大の前に立って目の前にやって来るモンスターを1体ずつ確実に切り伏せていた。


 舞は自由に戦い、司は堅実に護衛としての職務を果たしている。


 であれば、藍大も自分にできることをしなければなるまい。


 ということで、モンスター図鑑を開いて適当に1体のステータスを調べてみた。



-----------------------------------------

名前:なし 種族:ブラッドバット

性別:雄 Lv:10

-----------------------------------------

HP:100/100

MP:80/80

STR:90

VIT:50

DEX:80

AGI:90

INT:30

LUK:30

-----------------------------------------

称号:なし

アビリティ:<鋭牙シャープタスク><吸血サックブラッド

装備:なし

備考:なし

-----------------------------------------



 (超音波で攻撃とかしないんだな)


 藍大はブラッドバッドが近接戦闘しかできないと知り、少しだけ安堵した。


「サクラは<闇刃ダークエッジ>で遠距離から攻撃。リルは襲って来る奴を<風爪ウインドネイル>で迎撃」


「うん! え~い!」


「オン!」


 敵戦力の分析を終えた藍大がサクラとリルに指示を出したことで、戦局は一気に藍大達に傾いた。


 自分に近づく者しか攻撃できない舞や司と違って、サクラやリルの射程距離は長い。


 そのおかげで殲滅するまで5分とかからなかった。


『サクラがLv22になりました』


『リルがLv17になりました』


『リルがLv18になりました』


 システムメッセージがサクラとリルのレベルアップを告げる頃には、広間にブラッドバッドの死骸だらけだった。


 舞が倒したものは安定のグチャグチャだったので、回収したのはサクラとリル、司が倒したブラッドバッドの死骸だけだ。


「今日はここまでにして一旦引き上げよう」


「は~い」


「了解」


 階段を上り、魔法陣に乗った瞬間には藍大達はダンジョンの入り口の前まで戻って来ていた。


 (魔法陣が入口に現れてくれて良かった。一方通行じゃ面倒だし)


 そんなことを思いつつ、藍大はダンジョン探索の成果物をアイテムショップで買い取ってもらう前に解体することにした。


 解体する時にはどうしたって血が出てしまうので、作業するならばダンジョン内の方が良いのだ。


 さて、解体だが今日は司ではなくサクラがやりたいと名乗り出たので、サクラが担当した。


 <闇刃ダークエッジ>の操作訓練にもなるし、藍大の仕事を手伝えば自分が褒めてもらえる。


 サクラにとって解体をすることは一石三鳥なのだ。


 アルミラージエリートには魔石があったが、それは”掃除屋”の称号を持つモンスターの物よりも小さかった。


 サクラもリルも欲しがらなかったので、これは売りに出すことが決まった。


「ありがとう、サクラ。助かったぞ」


「エヘヘ~」


 リルに従魔としての一番を奪われぬように、サクラは努力を怠らない。


 それが良い方向に作用するならば、藍大も口出しするつもりはなかった。


 ダンジョンを脱出すると、舞と司にダンジョン産の素材を買い取りを頼んで藍大は茂に報告の連絡を入れた。


 リルのことも報告するつもりだから、今日は最初からビデオ通話である。


「もしもし」


『よう、藍大。今日の報告かって、おい、従魔増えてるじゃねえか』


「新しく従魔にしたリルだ。元”掃除屋”な」


「オン」


『はぁっ!?』


 よろしくと吠えるリルを見て、茂は驚かずにはいられなかった。


 ”掃除屋”をテイムできたという事実が予想外だったからだ。


「”掃除屋”の称号は俺の従魔になったら消えちまったから、証拠としてモンスター図鑑のページを写真で後で送るわ」


『マジか。いや、嘘はついてねえんだろうけど、”掃除屋”ってテイムできたのか』


「サクラが<魅了チャーム>でおとなしくさせてくれて、そこを俺がガバッとな」


「えっへん」


『・・・なるほど。藍大の身体能力じゃ動き回るクレセントウルフを捕まえらんねえよな』


 鑑定士の職業技能ジョブスキルにより、画面越しでリルを鑑定した茂は納得した。


「とりあえず、俺がシャングリラのダンジョンを探索するにあたって従魔の強化を優先させてもらうぜ。それが俺の身の安全につながるだろうし」


『そうしてくれ。今は麗奈も司も派遣できてるが、状況によっては護衛よりも優先すべき事項が出てくるかもしれねえ。自前の戦力があるに越したことはない』


「だな。それで、今日はアルミラージとフロアボスのアルミラージエリート、地下1階のブラッドバットを倒した。肉は俺達の食糧になるけど、それ以外の素材は舞と司がアイテムショップに売りに行ってる」


『了解。すぐに調べたいから回収させに行く。午後もダンジョンに行くのか?』


「いや、大家の仕事や家事もあるし今日はここまでだ」


『わかった。明日も期待してるぜ。マディドールの泥とエッグランナーの殻は大量に持って来てくれたおかげでDMUとしても助かってるからな』


「程々に頑張るさ。じゃあな」


『おう。素材が届くのを楽しみに待ってる』


 茂との通話が終わり、藍大は昼食を取ることにした。

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