第16話 OK。俺と一緒にバーベキューしようぜ

 ダンジョンを脱出した藍大達は、シャングリラの庭で鍛錬をしていた司に奈美を呼びに行ってもらい、奈美を連れて戻って来たら成果物の精算を始めた。


「薬師寺さん悪いね。こっちまで来てもらって」


「そ、それは大丈夫です、はい。そ、それにしても、大きいですね。な、なんですかこの鶏?」


 藍大が詫びると、奈美は問題ないと答えた。


 奈美は特命を受けてシャングリラの隣の出張所で働くことになったので、隣の建物に移動するぐらい大したことではないと思っている。


 そんなことよりも、自分が今までのショップ店員経験で見たことのないモンスターの死骸が持ち込まれたことの方が気になる。


「これはシャインコッコだ。”掃除屋”の称号を持つモンスターで、舞も麗奈も見たことがないんだとよ」


「僕もないよ」


「わ、私もです」


 司と奈美が初見のモンスターだと言うと、藍大はこれもそうかと思った。


 もっとも、同じく”掃除屋”を持つマッシブロックだって初見だったのだから、シャインコッコも知られている可能性は低いと考えていたが。


「とりあえず、シャインコッコの写真を撮って茂に送っとくわ」


 藍大はスマホを取り出してシャインコッコの写真を撮ると、エッグランナーの群れを倒した時の動画も添えて茂にメールで送った。


 すると、数分後には藍大のスマホの着信音が鳴った。


『藍大さぁ、カオスな動画送ってくんじゃねえよ』


「そんなこと言ったってしょうがないじゃないか」


『黙れえ○り。で、今日も”掃除屋”が現れたのか?』


「おう。シャインコッコだ。昨日とは違って全体の写真を送ってやったんだ。嬉しいだろ?」


『そりゃマッシブロックは残骸だったからなぁ。研究し甲斐があるぜ』


「研究ねぇ。・・・あっ」


 スマホを片手に持ったまま、空いた方の手でモンスター図鑑を捲ってシャインコッコのページを開くとそこにはステータス以外の情報も記されていた。


『何に気づいた?』


「モンスター図鑑にステータス以外の情報が載ってた」


『詳しく』


「死体の有効利用できる部位、食えるかどうかが書かれてた。ちなみにシャインコッコは食えるってよ」


『何それ便利。写真撮って送ってくれ』


「わかった。じゃあ、肉はこっちで食うわ。解体もできそうだし」


『・・・藍大、俺のために少し残してくれる優しさがあっても良いと思わないか?』


 モンスター食材が徐々に流通し始めた今、見た目は鶏のシャインコッコが食べれるとわかれば食べたくなるのが人情だ。


 それゆえ、茂は藍大の発言に待ったをかけた。


 待ったをかけなければ、シャングリラの住人だけで平らげられてしまうことは容易に想像できたからである。


「あれれ~? そう言えば俺をロリコン扱いしてた酷い奴がいたぞ~?」


『マジすまんかった。取り置き頼む』


「解体後即バーベキューするわ。食いたかったら昼休みにこっち来な。じゃあな」


『鬼かお前!』


 藍大が茂との電話を切ると、舞が藍大に話しかけた。


「藍大、バーベキューするの?」


 舞は期待に満ちた眼差しを藍大に向けている。


 私も食わせろとその目が語っている。


「冗談のつもりだったけど、解体手伝ってくれるなら本当にバーベキューパーティーしても良いぜ」


「手伝う!」


 今朝自由にできるお金を貰ったとはいえ、昨日の昼まで我慢の食生活だった舞は即座に藍大を手伝うと告げた。


「藍大、私も手伝う!」


「僕も食べてみたいな」


「わ、私も気になります」


「OK。俺と一緒にバーベキューしようぜ」


 茂を揶揄うために言ったバーベキューを行うため、藍大はシャインコッコの解体に取り掛かった。


 シャングリラの庭に血溜まりを作る訳にもいかないので、藍大は解体をダンジョンで行うことにした。


 ダンジョンで放置されたモンスター等の死体は、時間の経過によってダンジョンに吸収される。


 つまり、解体でいくら汚そうが時間が経てばダンジョンが掃除してくれる訳である。


 後片付けのことを考えればダンジョン内で解体した方が楽なので、藍大達はダンジョンで解体し始めた。


 まずはシャインコッコの羽を毟る作業からだ。


 シャインコッコの体が大きいので、5人と1体で協力して毟る。


 正確には、サクラに血の臭いに釣られてモンスターが来ないか見張ってもらうため、羽を毟るのは藍大達5人だ。


 羽を毟られたシャインコッコは寒そうな見た目だが、気にしたら負けである。


 その羽はモンスター図鑑によると加工可能ということで、袋に分けて入れてある。


 今から行う解体だが、これは藍大がモンスター図鑑を読んで指示を出し、実際に解体するのは司が行う。


 解体の実行役が司である理由は、舞も麗奈も奈美も刃物の扱いに慣れていないからだ。


 槍を使える司だって解体専門ではないため、藍大の指示がなければ解体なんてできない。


「よし、じゃあ司は俺の言う通りに頼む」


「わかった」


 それから15分、藍大の指示で司はてきぱきと解体した。


 もしも勘で解体しようとすれば、こんなに簡単にはできなかったに違いない。


 マッシブロックにあったように、シャインコッコにも魔石があった。


 司から魔石を受け取ると、藍大は既に隣に物欲しそうな目で待機していたサクラに袖を引っ張られた。


「主、魔石、ちょうだい」


「はいよ」


「ありがと! 食べさせて!」


「甘えん坊め。あ~ん」


「あ~ん。んん~♪」


 艶やかな表情で魔石をゴクリと飲み込むと、サクラの中学生なり立てぐらいだった体が中学卒業前ぐらいの大きさへと変わった。


 その直後に、システムメッセージがサクラのアビリティ獲得を告げた。


『サクラのアビリティ:<闇弾ダークバレット>がアビリティ:<闇刃ダークエッジ>に上書きされました』


 (新しいアビリティの獲得じゃなくて上書きときたか)


 藍大は早速モンスター図鑑のサクラもページを開き、<闇刃ダークエッジ>について調べた。


 その結果、<闇刃ダークエッジ>が<闇弾ダークバレット>よりも操作性に富むことがわかった。


 <闇弾ダークバレット>は射出して終わりなので、直線上に攻撃するしかない。


 しかし、<闇刃ダークエッジ>は前方に射出するだけでなく、サクラの周囲の任意の場所に出現させて振り回せる。


 勿論、操作の精度はDEX依存なので、手足のように自由に振り回すにはレベルを上げるしかないがそれは妥当と言えよう。


 とりあえず、サクラが魔石を食べると売れる素材と食べる素材に分けてからシャングリラの庭に戻った。


 余談だが、シャインコッコの羽を毟ってから暇だった舞と麗奈、奈美はエッグランナーの羽も毟っていた。


 なので、シャインコッコとエッグランナーの肉を使った鶏肉ベースのバーベキューとなる。


 麗奈と司、奈美が家から他の食材を持ち寄り、藍大がバーベキューコンロ等を用意してバーベキューは始まった。


 網を温めているとシャングリラの前にタクシーが停まり、その中から茂が出て来た。


「来たぞ藍大!」


「茂、お前暇なの?」


「暇じゃねえけど飯テロに耐えられなかった! つーか、藍大の料理にハズレはねえから逃すはずねえ!」


「素直かよ」


 藍大は従魔士に覚醒するまで時間がかかり、他の冒険者と経験の面で差を開けられた。


 学生時代も運動神経は並であり、従魔士の職業技能ジョブスキルを除けばダンジョンで役立つ基礎がないように思えるかもしれない。


 だが、実際にはそんなことはありえない。


 何故なら、藍大の作る料理は店を開けなくとも並み以上であることは間違いないからだ。


 初恋の相手が料理好きだったため、藍大は一時期料理の鬼になったことがあった。


 その余韻で藍大の料理は主婦以上料理人未満ぐらいの腕前なのだ。


 昨日夕食をご馳走になった舞からすれば、その腕前は自分を超えるものなのでバーベキューをすると藍大が口にした時に期待したと言っても過言ではない。


「茂、昼休みだけこっち来たのか?」


「いや、今日の成果物をいち早くチェックするためって名目で外出扱いになってる」


「それで良いのかエリート」


「幸いなことに、藍大達がダンジョンから成果物を持ち帰ってくれてるってわかってるから上司も説得できた」


「それで良いのか解析班」


「俺は主任だから良いんだよ。それに、DMUは藍大にそっぽ向かれたくねえんだよ。お前を繋ぎ止めるためにも、顔見知りの俺が仲良くするのは推奨されてる」


「で、本音は?」


「俺も肉が食いてえ。さっきも言っただろうが」


「へいへい。じゃあ焼くぜぇ。じゃんじゃん焼くぜぇ」


 この日の探索は、昼から始まったバーベキュー大会が夕方まで続いて午後の部は中止となった。


 バーベキューの前にはダンジョン探索も敵わないのである。

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