第15話 藍大、おつまみがたくさんこっちに来てるわ

 藍大達がダンジョンに入ると、早々にモンスターに遭遇した。


「なんだあれ? 光る卵が走って来たな。デカくね?」


「あれはエッグランナーだよ。底の方をよく見て。脚が生えてるから」


「うわっ、マジだ! 卵から脚だけ生えてやがる!」


「卵の殻が高く売れるわ。中身のヒヨコの肉は食材扱いされてるの」


 藍大の疑問に舞がすぐに答え、麗奈も戦果について補足する。


 とりあえず、新しいモンスターに出会ったら藍大がすることは決まっている。


 モンスター図鑑による鑑定だ。


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名前:なし 種族:エッグランナー

性別:雄 Lv:5

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HP:40/40

MP:80/80

STR:30

VIT:30

DEX:10

AGI:50

INT:0

LUK:10

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称号:なし

アビリティ:<突撃ブリッツ

装備:なし

備考:突撃中

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 (特攻野郎かよ!? 中身知らんけど!)


 アビリティの<突撃ブリッツ>を見て、走って突撃するだけが攻撃手段のエッグランナーの生態に藍大は心の中でツッコんだ。


 能力値自体はサクラが余裕で倒せるものだったからこそ、こんな余裕のコメントが出て来るのだろう。


「舞、麗奈、あれはサクラにやらせてくれ」


「は~い」


「わかったわ」


「サクラ、早速出番だ。<魅了チャーム>の試し撃ちしようぜ」


「うん! 萌え萌え~!」


「えっ、そんな掛け声で良いの?」


 藍大が目を点にしてツッコむが、アビリティが発動してピンク色の光がハートを模ったままエッグランナーに命中し、エッグランナーがブレーキをかけて止まった。


「止まるんだ?」


「止まったわね」


「主、どうする?」


「おっと、すまん。1対1だし普通に倒しちゃってくれ」


「わかった。えいやっ」


「ピヨォッ!」


 <闇弾ダークバレット>がエッグランナーに命中し、エッグランナーは後ろに吹き飛ばされた。


 吹き飛んだ衝撃で光る卵の殻が割れ、その中から小さく黄色いヒヨコの死体が出て来た。


「本体小っさ!」


「私も最初倒した時そう思ったなぁ」


「ヒヨコの串焼きがビールに合うのよね」


 懐かしいと言わんばかりの表情の舞に対し、麗奈の発想は酒飲みのそれである。


「主、倒した!」


「おう。よくやったな」


「頑張った~」


 サクラは藍大に褒めてもらいたくて自分が倒したんだとアピールする。


 藍大もエッグランナーを倒してくれたことに感謝し、サクラが望むままに頭を撫でた。


 その間に舞と麗奈が卵の殻とヒヨコの死体を回収した。


 探索を開始して先に進むと、通路の奥からエッグランナーが続々と走って来た。


「よし来た。サクラ、先頭のエッグランナーに<魅了チャーム>を使うんだ」


「わかった! 萌え萌え~!」


 再びピンク色の光がハートを描いて先頭のエッグランナーに命中し、そのエッグランナーがブレーキをかけて止まった。


 するとどうなるか。


 答えは単純である。


 後がつっかえて衝突するのだ。


 その結果、エッグランナーの群れが転んで立ち上がれずに脚をバタバタさせる図ができた。


「これは面白い。動画撮っておこう」


 藍大は報告に使えるかもという思いも少しだけあったため、スマホで動画撮影を始めた。


「藍大、後は私達がやって良い?」


「良いよ」


「・・・よっしゃ行くぜコラァァァッ!」


「一瞬でキャラ代わった!?」


「舞、中身を潰さないでよ! おつまみが減るわ!」


「欲望駄々洩れかよ・・・」


 その後動画に映っていたのは、世紀末な叫び声を上げながら卵を叩き割る舞とおつまみを確保するために中身を傷つけずに卵だけを割る麗奈の姿だった。


 録画していた藍大が渇いた笑みを浮かべていたのは言うまでもない。


 戦利品を回収してから探索を再開してしばらく進むと、昨日行き当たった分かれ道に到着した。


「サクラ、今日はどっちに行ってみたい?」


「こっち」


 サクラが指差した方角は、昨日とは違って右の道だった。


「うしっ、じゃあ行くか」


「うん!」


 自分の意見が藍大に採用され、サクラは嬉しそうに頷いた。


「サクラちゃん可愛い~。こっちおいで~」


「主、怖い」


「そんなぁ~」


 自分を見てデレデレの舞に対し、サクラがとった行動は拒絶だった。


 藍大の陰に隠れて舞から逃げたのである。


 今は全くはっちゃけていないが、戦闘モードの舞は恐ろしい。


 それを理解しているがゆえに、サクラは可愛い物好きな普段の舞を警戒している。


「藍大、おつまみがたくさんこっちに来てるわ」


「せめてモンスター名はちゃんと言えよ」


 いきなり麗奈に呼ばれてみれば、エッグランナーが最早おつまみ扱いだった。


 他のダンジョンではレアモンスターのエッグランナー達は泣いて良いだろう。


 現れたエッグランナー達だが、藍大達の相手をするには弱過ぎる。


 あっという間に蹂躙され、卵の殻と中身が無事なヒヨコはホクホク顔の舞と麗奈によって回収された。


 そんな時だった。


 通路の奥から叫び声が響いた。


「コォケコォッコォォォォォッ!」


 声は鶏と言えばこれというものだった。


 その数秒後、声の主が藍大達をロックオンして走って来た。


「なんかチカチカした鶏だな。舞と麗奈はあれが何か知ってる?」


「ごめん、見たことない」


「同じく」


 遠目に見えるモンスターに舞と麗奈は心当たりがないとわかると、藍大がすぐにモンスター図鑑を開いた。



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名前:なし 種族:シャインコッコ

性別:雌 Lv:15

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HP:200/200

MP:290/300

STR:200

VIT:180

DEX:80

AGI:150

INT:130

LUK:50

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称号:掃除屋

アビリティ:<点滅突撃フラッシュブリッツ><卵小爆弾エッグボム

装備:なし

備考:激怒

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 (マッシブロックよりも硬い鶏とはいかに)


 子供ヒヨコをガンガン倒したことで、母親がマジギレして登場した。


 ”掃除屋”の称号がその証拠である。


 とりあえず、<卵小爆弾エッグボム>が遠距離攻撃だと推測した藍大の指示は速かった。


「サクラ、<不幸招来バッドラック>だ」


「うん! 地獄行き!」


 サクラのINTがあっさりとシャインコッコのLUKを上回ったことで、<不幸招来バッドラック>の効果によりシャインコッコは不幸状態LUKが0になった。


 その影響はすぐに現れた。


 <点滅突撃フラッシュブリッツ>を発動したまま藍大達に向かって走っているシャインコッコの足がもつれ、豪快に転んだのである。


 転んだシャインコッコなんて恐れる相手ではないが、<点滅突撃フラッシュブリッツ>のせいで激しく点滅しておりまともに直視できる状況ではなかった。


「サクラ、<闇弾ダークバレット>を乱射!」


「えいっ! えいっ!」


 幸い、シャインコッコの大きさはエッグランナーの卵の殻よりも大きく、的としては十分なサイズだ。


 サクラは藍大の指示に従い、シャインコッコのいる辺りを狙って<闇弾ダークバレット>を乱射した。


『サクラがLv19になりました』


『サクラがLv20になりました』


 サクラが<闇弾ダークバレット>を止めたのは、システムメッセージが聞こえた時だった。


 レベルアップによるMP回復を見越した戦術が功を奏し、サクラだけでシャインコッコを倒すことに成功した。


 これには舞も麗奈も驚きを隠せなかった。


「私達、何もしてないのに終わっちゃった」


「あのヒヨコの成体よね。どんなお酒が合うのかしら?」


「藍大とサクラが倒したから、私達の分はないんじゃないかな?」


「はぅ、そうだったわ・・・」


 司がいないとここまで麗奈が欲望に忠実かつ頭が弱くなると考えると、司の重要性が良くわかる。


「主、勝った!」


「やったなサクラ! ”掃除屋”を一方的に倒せたぜ!」


「主、指示、正しい! やったね!」


 サクラは藍大の指示により、シャインコッコに一切攻撃させずに倒せたことが誇らしいようだ。


 しばらくサクラを労ってから、藍大は現実に戻った。


 (シャインコッコ、一旦持ち帰るか)


 とてもではないが1人で持ち運べる大きさではないため、藍大とサクラ、麗奈が協力して運び、舞はダンジョン脱出までに敵襲がないか警戒する役目を引き受けた。


 都合の良いことに襲撃はなく、藍大達は無事にダンジョンの外に成果物を持ち帰ることができた。

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