第13話 誰がお義父さんだ

 玄関のドアを藍大が開くと、舞はタブレットを藍大の顔に押し付けるように突き出した。


「どうしたの?」


「これ見て!」


「・・・掲示板?」


「そう! 藍大とサクラちゃんの情報が洩れてる!」


「えっ、マジ?」


「マジ! とにかく一緒に見よ!」


 そう言うと、舞は靴を脱いで藍大の家に上がり込んだ。


 (サクラ以外に女の人をこの家に上げたの初めてじゃね?)


 余計なことを考えつつ、藍大は舞が持って来たタブレットで冒険者専用の掲示板を一緒に見始めた。



◆◆◆◆◆


【バンシー発見】モンスターテイムスレ@1【DMU本部】


1.名無しの冒険者

 モンスターをテイムしたい同志の集まるスレッドです

 誹謗中傷等、他者を意味なく害する者は、DMUに通報します

 モンスターをテイムできる手掛かりがあればじゃんじゃん書き込みましょう

 次スレは950を踏んだ人が立てること


2.名無しの冒険者

 >1

 スレ立て乙

 これマジ?

 DMU本部にバンシーいたの?


3.名無しの冒険者

 >1

 写真はよ!


4.名無しの冒険者

 >1

 写真はよ!


5.名無しの冒険者

 >1

 写真はよ!


6.1です

 >3~5

 落ち着け

 まだ慌てるような時間じゃない

 つ(写真)


7.名無しの冒険者

 >6

 ロリショージョだ!


8.名無しの冒険者

 >7

 お巡りさんこいつです!


9.名無しの冒険者

 >6

 撲殺騎士もいるじゃん


10.名無しの冒険者

 >6

 DMUの制服の奴は良いとして、ツナギの男誰?


11.名無しの冒険者

 >6

 バンシーと手を繋いでる

 これがテイムの証拠?


12.名無しの冒険者

 >6

 YESロリータNOタッチをわかってないようですね


13.1です

 >7,12

 自重しろ変態


 >10

 知らない

 

 >11

 テイム以外にモンスターがあそこまで懐くと思う?


14.名無しの冒険者

 >13

 そう言われるとそうだよな

 今までモンスターをテイムしようと試みた先人達の雄姿を忘れない

 つ(動画)


15.名無しの冒険者

 >14

 やめろしみんなのトラウマ


16.名無しの冒険者

 >14,15

 あのー、掲示板使い始めたばっかなんですけどテイムって上手くいってないんですか?


17.名無しの冒険者

 >16

 いらっしゃい( ^^) _旦~~

 動画を見ればわかるけど餌付けしようとした冒険者が手ごと食い千切られた

 食べた奴はキラードッグ

 他にもエレキラットをテイムしようとして失敗して感電死した事件もあったっけ


18.名無しの冒険者

 >16

 おわかりいただけただろうか

 テイムとは茨の道だ

 動画で映ってた冒険者はそれを俺達に伝えるための犠牲となったのだ


19.名無しの冒険者

 >17,18

 ひえぇぇぇっ

 あの動画R指定待ったなしじゃないですか!


20.1です

 脱線してるんで話を戻すけど、バンシーが出るダンジョンなんて日本にあったっけ?


21.名無しの冒険者

 >20

 見たことない


22.名無しの冒険者

 >20

 聞いたことない


23.名無しの冒険者

 >20

 食べたことない


24.名無しの冒険者

 >21~23

 仲良しか!

 ツッコミはさておきバンシーが出たダンジョンの情報なんてないぞ


25.名無しの冒険者

 発見したダンジョンは速やかにDMUに連絡することって冒険者の鉄則だよな

 まさか密猟者?


26.名無しの冒険者

 >25

 密猟者なら1ですの写真は逮捕されたものじゃなくちゃおかしい

 写真を見る限り逮捕じゃない

 つまり、写真の手を繋いだ男、仮にお義父さんとでも呼ぶが彼は普通の冒険者だ


27.名無しの冒険者

 >26

 お義父さんw


28.名無しの冒険者

 >27

 お義父さんwww


29.名無しの冒険者

 >27

 お義父さんロリショージョを僕に下さい!


30.名無しの冒険者

 >29

 お前7だろ

 変態は巣に帰れ


31.名無しの冒険者

 >29

 YESロリータNOタッチが大事であることを何度も言っておきます


32.名無しの冒険者

 その後、29と31は刑務所に入れられるのだった


33.1です

 バンシーが出るダンジョンはお義父さんが見つけたとしてDMUが公表しないのはなんでだろう?


34.名無しの冒険者

 >33

 そのスルーしてくスタイル好き

 一般論と俺理論を用意したけどどっちが聞きたい?


35.名無しの冒険者

 >34

 俺 理 論


36.1です

 >34

 順番に聞かせてほしい


37.名無しの冒険者

 >36

 おけ

 一般論:公にできない場所にダンジョンが発生したかDMUも調査中

 俺理論:お義父さんがDMU関係者で秘匿を希望した


38.名無しの冒険者

 >37

 俺理論がトンデモ理論じゃなくて案外普通だったな

 てっきり29と32みたいな理論かますのかと思ってたわ


39.名無しの冒険者

 >38

 やれやれ、俺を変態扱いするんじゃあないぜ


40.名無しの冒険者

 変態かそうじゃないかなんてどうでもいいからテイムの方法を教えてくれ!


◆◆◆◆◆



「誰がお義父さんだ」


 タブレットから顔を上げた藍大が口にしたのは、自分がお義父さんではないということだった。


 22歳でサクラみたいな娘がいるはずないし、そもそも彼女なんていたこともないのだから悲しいことを思い出させないでほしいと藍大は憤慨した。


「主は主。お義父さん、違う」


 サクラもご機嫌斜めである。


 誰もどこにも嫁ぐ気はないとお怒りなのだ。


「そうだな。お義父さんじゃない」


 サクラの頭を撫でて機嫌を直すように促していると、舞が困った表情で声をかけて来た。


「ね、漏れてるでしょ?」


「ヤバいね。茂に連絡するわ」


 藍大は先程かけたばかりだが、再び茂に連絡した。


『もしもし、何か伝え忘れか?』


「茂、掲示板に俺達のことが漏れてるぞ」


『はぁっ!? なんてスレだ!?』


「”【バンシー発見】モンスターテイムスレ@1【DMU本部】”ってスレ」


『ちょっと待ってろ。今検索すっから。・・・これかぁ。チッ、余計な仕事増やしやがって』


 該当するスレッドを見つけたらしく、茂は盛大に舌打ちした。


「このスレッド潰せるか?」


『潰せるが既に俺達がDMU本部に入る時の写真は流れちまってる。個別に保存されてたらそこまで追って消去できねえ』


「DMUのセキュリティどうなってんだよ」


『返す言葉がねえよ。だが、この写真を撮った奴の心当たりならある。そいつとっちめて何かしらの罰を与えてやる。俺の仕事を増やしたことを後悔させてやる』


「お、おう。頼むわ」


『任せろ。じゃあな』


 増えた仕事を処理するべく、茂が電話を切った。


「芹江さん、かなり怒ってたね」


「茂は怒らせるとこええんだ。やらかした奴に同情はしないがな」


「でも、どうしよっか? 私達、目立ったせいで外に出られないよ」


「素材の買い取りや買い物なら大丈夫だ」


「どうして?」


「シャングリラの隣の倉庫、あれが明日からアイテムショップの出張所になる。まあ、店員は202号室の薬師寺さんだから、コミュニケーションに難ありだが」


「そっか。薬師寺ちゃんってアイテムショップの店員だったね。芹江さんが手を回してくれたんだ」


「そーいうこと」


 薬師寺奈美と面識がない訳ではないから舞も安心した。


 このタイミングで更にシャングリラと無関係な者がダンジョンの存在を知ると、また藍大とサクラが危険な目に遭う確率が上がる。


 護衛する身としては、そんなことにはなってほしくないので芹江の気遣いに舞は感謝したのだ。


 ぐぅぅぅっ。


 ホッとしたことで、急に空腹であることを舞の体が知らせた。


「あはは、お腹減ったね」


 藍大の前で腹の音を鳴らしてしまったことは恥ずかしかったらしく、舞の顔がどんどん紅潮していった。


 そんな舞に藍大はジト目を向けた。


「舞、今日食べた物を朝から順番に答えろ。嘘はなしだ」


「朝はパンの耳。昼はパンの耳ともやしに焼き肉のタレをかけたもの」


「来月まで今日抜きでまだあと5日はあるんだぞ? なんでそんなに金がないんだよ」


「メイスと盾の修理代を借金してて、手元に残らないの。で、でも、藍大の護衛をした昨日の分で完済したんだよ。今日の分がまだ入金されないから、何も買えなくて・・・」


 (あれだけ乱暴に使えば修理代も嵩むか。つーか、腹を空かせた状態でマッシブロックと戦ったのかよ)


 激しい戦闘だったがあれでも本調子ではないとわかると、藍大は乾いた笑みを浮かべてしまった。


「しょうがねえ。今日の夕飯、俺の家で食ってけよ。どうせ夜も大したもん食えねえんだろ?」


「本当!? 良かったぁ! このままだったらパンの耳と豆苗に焼き肉のタレをかける予定だったの!」


「・・・そいつはヤバいぜ」


 その後、藍大は作り置きしたおかずと冷凍していたご飯をチンして夕食を作り、サクラと舞と一緒に食べた。


 舞がまともな食事にありつけて号泣したのは言うまでもない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る