第11話 うわっ・・・俺の頼られなさ、ヤバ過ぎ・・・?

 目の前に現れたモンスターについて、藍大は舞達に訊ねた。


「誰かあのモンスター知ってる?」


「ごめん、知らない」


「僕も知らない」


「DMUのデータベースでも見たことない」


「そんなレアな奴が出て来たのか」


 舞達も初めて遭遇したとわかると、藍大は早速モンスター図鑑を開いた。



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名前:なし 種族:マッシブロック

性別:雄 Lv:15

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HP:200/200

MP:300/300

STR:160

VIT:160

DEX:100

AGI:100

INT:160

LUK:100

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称号:掃除屋

アビリティ:<回転攻撃スピンアタック><岩弾ロックバレット

装備:なし

備考:不機嫌

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 (掃除屋? マディドールを倒し過ぎたからか)


 藍大は”掃除屋”という不穏な称号を見つけて素早く詳細を確認した。


 その結果、ダンジョン内で同一種のモンスターを倒し続けると、その者達を排除するためにダンジョンに解き放たれるモンスターだということがわかった。


「これを見てくれ。マッシブロックのステータスだ」


 藍大にモンスター図鑑を見せてもらうと、舞達の顔が引き攣った。


「掃除屋だったんだ~。言われてみれば納得かも」


「というか、岩相手に肉弾戦なんだけど」


「槍が通るかな」


 舞達は掃除屋の存在は知っていたが、差し当たっての問題はマッシブロックの体が岩で構成されていることらしい。


 彼女達が今まで倒して来たモンスターは、岩よりも柔らかいモンスターだった。


 自分達の武器が岩の体に通用するのか試したことがないから、舞達はマッシブロックを倒せるか不安に思った。


 だがちょっと待ってほしい。


 この場にはサクラがいる。


 進化したサクラの<闇弾ダークバレット>を20回当てれば、理論上ではマッシブロックを倒せる。


 それに気づいた藍大はすぐに3人に共有した。


「大丈夫。サクラの攻撃が20回当たれば勝てる。だから、時間稼ぎに当たってくれ」


「「「了解!」」」


 勝ち目があるとわかると、舞達の気合が入った。


「頼むぞサクラ。サクラが勝敗を分けるんだから」


「頑張る!」


 作戦会議が終わった瞬間、マッシブロックの目が光った。


 それにより、マッシブロックの正面に岩の弾丸が作られて射出される。


「やらせねえぞコラァ!」


 マッシブロックが<岩弾ロックバレット>を発動すると、戦闘モードに入った舞がメイスでそれを打ち返した。


 しかし、打ち返したタイミングがやや遅かったこともあり、岩の弾丸はファールとでも呼ぶべき当たりとなってしまった。


 それでも、自分のアビリティがまさか打ち返されるとは思っていなかったようで、マッシブロックが動揺して隙が生じた。


「えい!」


 そこにサクラの<闇弾ダークバレット>が放たれ、目に当たりそうになったところをマッシブロックが腕でガードした。


「あいつ目を庇ったよな?」


「庇ったわ」


「庇ったね」


「もしかしなくても目が弱点なんじゃね?」


「その可能性が高そうね」


「というより間違いないでしょ」


 そのやり取りにより、藍大と麗奈、司がとても良い笑顔になる。


「サクラ、<不幸招来バッドラック>だ!」


「うん! 地獄行き!」


 サクラがバンシーだった頃は叫ぶことで発動した<不幸招来バッドラック>だったが、進化したことにより「地獄行き」がトリガーに変わったらしい。


 INTが170のサクラに対してマッシブロックのLUKは100だ。


 <不幸招来バッドラック>の効果により、マッシブロックは不幸状態LUKが0になった。


 その状態でマッシブロックは<回転攻撃スピンアタック>を発動した。


 すると、力加減を誤って前進できずに壁に激突した。


「ヒャッハァァァァァッ! お目目がら空きだぜぇぇぇっ!」


 隙があれば逃しはせず、嬉々として舞ががら空きになった目にメイスを振り抜く。


 それが余程痛かったようで、マッシブロックは狙いなんて気にせずに<岩弾ロックバレット>をそこかしこに乱発した。


「ヤバい! 藍大を守らなきゃ!」


「岩を撃ち落とす!」


「えいっ!」


 (うわっ・・・俺の頼られなさ、ヤバ過ぎ・・・?)


 藍大も今、一応サクラが進化前に使っていた武器金属バットを持っている。


 しかし、従魔士の職業技能ジョブスキルは肉体を強化するようなことはない。


 それゆえ、超人にもかかわらず藍大の運動神経は一般人に毛が生えた程度だ。


 いや、正確には一般人でもスポーツをやっている者には敵わないだろう。


 そんな藍大が<岩弾ロックバレット>を喰らえば大怪我待ったなしであり、それを理解しているからこそ自虐的なコメントを口にしないが頭に浮かべている。


 麗奈と司が体を張って岩の弾丸を撃ち落とし、サクラは早く戦いが終わるようにマッシブロックを攻撃する。


「追撃行くぜぇっ!」


 舞はマッシブロックに脅威認定されており、舞の声がする方向に<回転攻撃スピンアタック>を発動した。


「ぐっ!?」


 今度は発動に失敗せず、舞の振り下ろしを弾いてバランスを崩し、盾で咄嗟にカバーするも舞の体は後方に吹き飛ばされた。


 幸い、舞が吹き飛ばされた方向には誰もいなかったことで二次被害は避けられたが、舞が倒れたまま動かない。


「舞!」


 藍大は倒れている舞に駆け寄った。


 足だけはそこそこに速いので、自信があったのだろう。


 だが、それはヘイトを稼いでいる舞に近づいたことを意味しており、マッシブロックに邪魔だと認定された。


「藍大はやらせない!」


「僕だって!」


 麗奈と司がマッシブロックと距離を詰め、それぞれ拳や槍を突き出す。


 目が弱点とバレてしまったマッシブロックにとって、弱点を攻撃する存在は優先して排除すべきである。


 2人の行動が功を奏し、舞と藍大はマッシブロックのターゲットから一時的に外れた。


「えい!」


 サクラの<闇弾ダークバレット>が麗奈と司の攻撃を防ぐので精一杯なマッシブロックのガードをすり抜け、そのまま目に直撃した。


 2回目の直撃は1回目よりも鋭い痛みが広がり、マッシブロックは余りの痛みに大きく跳び跳ねた。


 そして、着地の瞬間にLUKが0であることが影響して仰向けに転んでしまった。


「舞、しっかりしろ!」


「うぅ、藍大・・・」


「意識をしっかり持て!」


「敵は・・・?」


「今転んでる」


 隙だらけだと聞いた瞬間、弱っていた舞が藍大に助け起こされた状態から勢い良く起き上がった。


「やられたらやり返す!」


 叫んだ舞は修羅のような表情で転んだままのマッシブロックと距離を詰め、走った勢いに乗ってメイスを振り下ろす。


 目だけは守らなければとマッシブロックは右腕でガードしたが、リベンジに燃える舞の一撃が予想以上に強くて右腕が破壊された。


 (舞半端ねえ!)


「そりゃ!」


「罅入った」


 乗るしかないこのビッグウェーブに麗奈と司も乗り、攻撃を畳みかける。


 2人の攻撃で左腕にも罅が生じる。


「くたばれコラァ!」


 舞の振り下ろしがマッシブロックの左腕を壊し、両腕を失ったマッシブロックはまな板の上の鯉だった。


「当たれ!」


 サクラの<闇弾ダークバレット>がノーガードのマッシブロックの目に当たり、起き上がろうとじたばたしていたその動きが停止した。


 そして、マッシブロックの体全体に亀裂が生じ、手軽な石ころサイズに割れてばらけた。


「主、勝った!」


「よっしゃぁぁぁっ!」


「勝ったわ!」


「ふぅ・・・」


 舞だけ女性が出して良い声ではなかったが、それに触れる者はいなかった。


『サクラがLv16になりました』


『サクラがLv17になりました』


『サクラがLv18になりました』


『サクラの称号”運も実力のうち”が称号”幸運喰らい”に上書きされました』


 サクラのレベルアップと称号の変化を告げるシステムメッセージが終わると、藍大は抱き着いて来たサクラの頭を撫でた。


「よく頑張ったな、サクラ」


「うん! 主、私、頑張った!」


 褒められて嬉しい様子のサクラは満面の笑みである。


 サクラがデレデレになると、藍大は戦闘モードから戻った舞に声をかけた。


「舞、大丈夫か?」


「なんとかね~。藍大が声をかけてくれなかったら、気を失ってたかも~」


「非力な俺でも役に立てて良かったわ」


「非力なんかじゃないよ。情報は武器だもん。藍大がいなかったら、きっともっと苦戦したよ」


「それは私も思った。情報があるのとないのじゃ全然違うわ」


「僕も同感。適材適所」


「主、すごい!」


「ありがとう、みんな」


 その後、藍大達はマッシブロックの破片を全て回収してからダンジョンを脱出した。


 流石にもうこれ以上戦いたくないというのが総意だったので、撤収はてきぱきと行われるのだった。

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