第10話 サクラが喋った!?
藍大が進化について調べるためにモンスター図鑑を見ると、サクラのページの備考欄に進化可能の文字があった。
どうやらその部分を押せば進化できるらしいとわかると、藍大はサクラに声をかけた。
「サクラ、進化するか?」
「キュ!」
「わかった。じゃあ進化だ」
サクラが力強く頷くと、藍大はサクラの金属バットを受け取ってから進化可能の文字に触れた。
その瞬間、サクラの体が光に包まれた。
光の中でサクラのシルエットが大きくなり、幼女から少女へと成長した。
背中からは小さいが蝙蝠の翼が生えており、服装はゴスロリではなくなったようだ。
光が収まると、上下黒の半袖ジャケットとショートパンツという露出の激しいスタイルのサクラの姿があった。
髪の色はピンクだが色が少し濃くなり、目の色が金色へと変わっていた。
黒い翼をパタパタと動かすと、宙に浮いてふよふよと藍大に抱き着いた。
「
「サクラが喋った!?」
「「「えぇっ!?」」」
まさかサクラが喋れるようになるとは思っていなかったので、藍大は目を丸くした。
舞達も同様であり、サクラが喋ったのを確かに聞いて驚いている。
『サクラがバンシーからリリムに進化しました』
『サクラがアビリティ:<
『サクラのデータが更新されました』
システムメッセージが聞こえると、藍大はすぐにサクラのステータスを確かめ始めた。
-----------------------------------------
名前:サクラ 種族:リリム
性別:雌 Lv:15
-----------------------------------------
HP:170/170
MP:330/330
STR:130
VIT:130
DEX:130
AGI:150
INT:170
LUK:130(+130)
-----------------------------------------
称号:藍大の従魔
運も実力のうち
アビリティ:<
装備:なし
備考:ご機嫌
-----------------------------------------
(進化すげえ。一気に強くなってるぞ)
進化するまでは<
しかし、今は<
<
これで金属バットを振るう幼女、いや、少女という図から解放されるのだ。
「強くなったなぁ」
「主守る。私、頑張る」
「そうか。良い子だな」
「エヘヘ」
頭を撫でられて喜ぶところは、
「サクラちゃん、大きくなったね」
「舞、
「え~?」
「野蛮だからよ。私はそんなことないよね?」
「麗奈、
「そんなぁ」
「2人共野蛮だからじゃない?」
「司、普通」
「・・・普通かぁ」
嫌われてなくて良かったものの、普通という評価の微妙な感じに司はなんとも言えない表情になった。
その一方、はっきり嫌いと言われた舞と麗奈からはどんよりしたオーラが出ている。
「私、主好き。助けて、くれた。ポカポカ」
「・・・テイムした時のことを言ってる?」
「ん!」
テイムによる治療が、サクラの藍大への好感度を爆上げさせたらしい。
「主、ずっと、一緒」
「OK。嫁に行くまで面倒見てやる」
「嫁、行かない。主、私、追い出す?」
藍大の軽口を聞き、サクラは急に涙目になった。
サクラを泣かせる訳にもいかないので、藍大はすぐに訂正した。
「ごめん、冗談だから。ずっと一緒だ」
「主、一緒!」
サクラの目から涙は嘘のように消え、ニパッと笑って抱き着いた。
「サクラが悪女になった」
「藍大の貞操が危ない」
「いや、そんなことないでしょ。・・・ないよね?」
舞と麗奈の言葉を否定した司だが、最後の方は自信がなくなっていた。
藍大はサクラを抱っこしつつ、ふと気になることがあって舞に訊ねた。
「舞、サクラ以外のモンスターで進化するとこって見たことある? もしくは進化したって明らかになってるものでも良いんだが」
「う~ん、直接見たことはないなぁ。それと、進化じゃなくてクラスアップなら知ってる」
「クラスアップ?」
「例えば、ゴブリンがゴブリンアーチャーになるみたいな感じ」
「あー、そういうことか。じゃあ、バンシーがリリムになったって新発見?」
「新発見だね」
「そっかー。新発見かー。今度はいくら貰えるかな?」
マイペースな藍大と舞のやり取りを見て、司は口を挟まずにはいられなかった。
「いやいやおかしいよ。これ、大発見だよ? なんでこんなのんびりしてるの?」
「そうは言うけど藍大が従魔士になったこと自体が新発見で、シャングリラダンジョンも新発見だよ?」
「そうね。司、どうせこれから起きることほとんどが新発見なんだから、いちいち驚いてたら疲れるわ」
「おかしいのは僕・・・だと・・・」
舞と麗奈の順応性が高いと言うべきか、2人の緊張感がないと言うべきか。
藍大は冒険者資格を手に入れても
だが、1人は冒険者として名が売れていて、もう1人はDMUに所属しているのだからもう少し緊張感があって良いのではないだろうか。
司がそう思ってしまうのは正常である。
その時だった。
サクラがピクッと反応した。
「どうしたサクラ?」
「主、敵、来る」
そう言うと、サクラは藍大から離れて敵が来ると判断した方向を見た。
すると、その後すぐにマディドールが3体現れた。
「舞、麗奈、司、この3体はサクラにやらせてくれ。新しいアビリティの試し撃ちがしたい」
「は~い」
「了解」
「わかった」
3人から許可を得ると、藍大はサクラに指示を出した。
「サクラ、先頭のマディドールに<
「えい!」
可愛らしい掛け声とともに、黒い弾丸が出現して先頭のマディドールの頭をぶち抜いた。
頭を失ったマディドールは体の形を保てなくなり、そのまま泥の小山へと変わり果てた。
(どう見てもオーバーキルです。ありがとうございます)
とかなんとか思っていても、サクラが強くなったことは藍大にとって喜ばしいことだ。
自分で戦う力のない従魔士としては、サクラが攻撃できるアビリティを手にしたことは本当にありがたいことである。
「サクラ、残り2体もやっちゃえ」
「えい! そりゃ!」
可愛らしい掛け声が連続して発せられ、その直後に2体のマディドールは2つの泥の小山になった。
「主、勝った!」
「サクラ、グッジョブ!」
サムズアップするサクラに対し、藍大もサムズアップを返した。
「これ、もしかして私達要らない?」
「その可能性はあるよね」
「私達が藍大を守るのは、モンスターからだけじゃないんだよ。必要だって」
実力で負けたとは思わないが、マディドールを相手にするならば自分達が加わる必要はないのは明らかだ。
それゆえ、麗奈も司も所在なさげであった。
しかし、舞は藍大の敵はモンスターだけではないと口にして2人を励ました。
いや、自分にも言い聞かせているのかもしれない。
マディドールの泥を回収した後、藍大達はそろそろ引き上げることにした。
理由は単純なもので、持ち運べるマディドールの泥の量がそろそろ限界に近いのだ。
持ち運べない泥を持っていたって仕方ないので、探索する余力はあっても欲張るのは止めた方が良いという判断である。
超人が冒険者の資格を取るにあたって、”まだ行けるは危険信号”という言葉が度々藍大の目に留まった。
これは貴重な超人が無駄死にしないようにという政府の願いが込められた標語なのだが、あながち馬鹿にしたものでもない。
ダンジョンには未知が多く、何が起こっても不思議ではない。
慢心や油断はモンスターと違って見えないが、敵であることに変わりないのだ。
無理せず撤収すると決めた藍大達だったが、分かれ道のところまで戻って来た時にサクラがピクッと反応した。
「主、何かいる。強いの」
「マジで? って行きにはなかったあれか」
サクラが感じた気配の正体は、分かれ道のところにあった人間大の丸く焦げ茶色の岩だった。
そんな物は藍大達が行きに通った時はなかったが、今は藍大達を通さないように置かれていた。
藍大達に気づかれたとわかると、その岩の両端から岩でできたマッシブな腕が生え、正面には1つしかない目が開いた。
サクラが言う通り、そのモンスターから強者の気配が漂っていた。
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