第9話 おわかりいただけただろうか
ダンジョンについて説明した後、口で言っただけではわからないだろうと判断し、藍大は101号室のドアを麗奈と司に開けさせてみた。
「物置じゃん」
「物置だね」
「私もそう思ってた時期があったなぁ」
「いや、舞も今日で2日目だからね?」
先達ぶった態度の舞に対し、藍大はツッコミを入れずにはいられなかった。
「そうだったね」
「キュ・・・」
てへぺろする舞に対し、サクラはやれやれとジト目を向けた。
そんな1人と1体をおいといて、藍大は101号室のドアを開けてその奥がダンジョンになっていることを麗奈と司に見せた。
「はい、ダンジョン」
「「えぇっ!?」」
「あれ、茂から聞いてたんじゃないの?」
「聞いてたけど目にしてみると驚くよ」
「うん。どう考えても普通じゃない」
「これが外にバレたら色々と不味いよね」
「僕達が派遣されたのも納得」
そんなことを言っていると、舞が横から口を挟んだ。
「
「そ、そんなこと言ったらアンタだって撲殺騎士じゃないの!」
「僕は悪いことはしてない。勘違いする方が悪いの」
「もしかして二つ名的な何かなの?」
藍大は3人の会話を聞いていて気になったので、その疑問をストレートにぶつけた。
「不本意ながら」
「遺憾ながら」
「残念ながら」
「OK。望んで付けられた訳じゃないことだけはわかった」
舞達がコンボをかまして不満があることを主張すると、藍大は苦笑いしながら頷いた。
舞が撲殺騎士、麗奈が飲猿、司が開拓者と呼ばれるようになったのは理由がある。
最初に舞の撲殺騎士だが、これは舞が冒険者になり立ての頃に入ったダンジョンでモンスターを嬉々としてメイスで殴りまくっていたことで定着した二つ名だ。
普段はおとなしく可愛い物好きだが、戦闘に入った瞬間にスイッチが入るため、舞を知っている者は実力が申し分なくとも下心ありきで近付くようなことはしない。
撲殺騎士なんて二つ名は可愛くないから、舞が嫌がるのも当然である。
次に麗奈だが、DMUのダンジョン探索の打ち上げの日に派手に酔っぱらった挙句パーティー全員を拳で殴り飛ばした。
その時の動きが酔拳のようだったため、かの有名な映画から飲猿なんて二つ名が定着してしまった。
最後に司の開拓者だが、司だけ二つ名が付いた理由が戦闘絡みではない。
司は容姿、声、仕草等、どこをとっても女性に見えるせいで、司を知らない者からすれば美少女と思ってしまうのも仕方がない。
そんな司にお近づきになろうと告白する者が後を絶たず、司は自分が男であることを主張しても告白する者が後を絶たなかったことから、不特定多数の新たな扉を開いた者として開拓者という二つ名になった。
司が女性用の制服を着ているのも、男女問わず周囲の人間が司の制服は女性用をゴリ押ししてこの状態に落ち着いたのである。
決して本人に女装趣味がある訳ではない。
「まあ、シャングリラにいる時は二つ名なんて気にしなくていいから、気軽にいこうぜ。俺は二つ名で呼ばないからさ」
「「「藍大・・・」」」
舞達3人の藍大への好感度が上がった瞬間だった。
「キュ!?」
サクラは藍大を取られたくないので、雲行きが怪しくなったことを悟って藍大の脚に抱き着いた。
「どうしたサクラ?」
「キュ!」
「よくわかんないけど可愛いからまあいっか」
藍大はサクラの頭を撫でて落ち着かせ、3人に声をかけて今日2回目のダンジョン探索を始めた。
ダンジョンの通路は今のところ一本道であり、進んでいくとマディドールが5体現れた。
「マディドールktkr!」
「芹江さんが秘密にするのも納得」
マディドールの泥が手に入ると思って麗奈はテンションが上がり、マディドールが
「おわかりいただけただろうか」
「わかった! 倒して良い!? 倒して手に入れた物は倒した人の物で良いよね!?」
「麗奈、どうどう」
麗奈はマディドールの泥が欲しくて仕方ないらしい。
そんな麗奈を司が落ち着かせようとした。
「麗奈、藍大の護衛だってこと忘れてない?」
「ぐっ・・・、忘れてないよ」
舞もこれは仕事なんだと麗奈を言い聞かせると、ようやく麗奈も落ち着きを取り戻した。
今日は説明のために麗奈と司を連れてきたが、明日以降は片方が藍大とサクラ、舞とダンジョンに入ってもう片方が連絡役と防衛のためにシャングリラで待機する。
それを考慮した藍大は、麗奈のために提案することにした。
「じゃあ俺を除いて全員1体ずつ倒す。残り1体は早い者勝ち。マディドールの泥は倒した人の物でどう?」
「「賛成!」」
「キュ!」
「わかった」
女性陣は元気良く返事し、司は静かに応じた。
サクラと舞は午前中にマディドールの泥を手に入れたはずだが、まだまだストックするために確保したいらしい。
「行くぜオラァ!」
「待ってて私の美肌!」
「キャァァァッ!」
舞と麗奈、サクラが早速攻撃を始めた。
「まったく。舞も麗奈も護衛ってこと忘れてない?」
(護衛として頼れるのは司ってことかな)
困った表情のまま、司は藍大の隣からマディドールに向かって槍を投げた。
投げられた槍がマディドールを一撃で仕留め、原形を保てなくなったマディドールは泥の小山になった。
既に舞が2体倒し、麗奈も1体倒しており、自分も1体倒したから残りはサクラが戦っている1体だけである。
それを確認してから司は槍を素早く回収して藍大の隣に戻って来た。
「キュ!」
サクラのフルスイングが上手く入り、最後の1体も泥の小山に変わった。
後続もいないことを確認したら、後は戦利品回収の時間である。
「舞に負けた」
「勝利!」
「キュウ・・・」
「護衛してるはずがいつから討伐勝負になったのかな?」
「攻撃は最大の防御だと思うの」
「ワスレテナイヨ、ホントダヨ」
「キュキュ!」
司のジト目に舞と麗奈、サクラは言い訳した。
1体は喋れないから何を言っているのかわからないが、おそらく言い訳しているのだろう。
「今回だけは見逃してあげよう。なっ、司」
「はぁ。藍大が良いなら仕方ないね」
「藍大ありがとう!」
「藍大素敵! 女の味方! 司は女の敵!」
「なんで僕が女の敵なの?」
「狙ってた男が司に告ったのを私は忘れない」
「知らないよそんなの」
麗奈の私怨なんて知らないと首を振る様子は、どう見ても美少女である。
だが男だを合言葉に、藍大はグッと堪えて自分の足に抱き着くサクラの頭を撫でた。
その後、藍大達は午前中に辿り着いた場所よりも奥に向かい、初めて分かれ道に行き当たった。
「どっちが良いんだ? というか、101号室はこんなに広くないぞ」
「藍大、それは今更だと思うんだ私」
藍大の発言に舞はやんわりとツッコミを入れる。
ダンジョンは元々あった空間を無視している。
ダンジョンになった時点で101号室と同じ広さのはずがないのである。
それを今持ち出した藍大に対し、舞がツッコむのは仕方のないことだろう。
どっちに行くべきか悩んでいた藍大だったが、サクラが藍大の服を引っ張った。
「サクラ、どっちに行けばいいかわかる?」
「キュ」
頷くと同時に、サクラは左の道を指差した。
「地図は絶賛作成中だし、ここはサクラを信じてみるか」
「キュ♪」
サクラが嬉しそうに鳴き、藍大達は左に向かうことに決めた。
左の道を進むと、開けた空間に到着した。
そこにはマディドールが大量にいた。
「マディドールがこんなにいっぱい」
「美肌、モテモテ、玉の輿」
「モンスター部屋だね」
「サクラはレベルアップしたいのか?」
「キュ!」
その通りと言わんばかりにサクラはサムズアップした。
藍大はそのリクエストを受け、この場でマディドールの群れを掃討することに決めた。
「サクラと舞、麗奈は好きに戦って。司は悪いけど俺の護衛で残って」
「「了解!」」
「キュ!」
「良いよ」
藍大の指示に全員賛成し、マディドールの群れの掃討戦が始まった。
「ヒャッハァァァァァッ!」
「泥を寄越しなさい!」
「キャァァァッ!」
舞がメイスをぶん回し、麗奈も殴り飛ばして討伐スコアを伸ばす。
サクラも<
「ふむ。これが冒険者か」
「違うでしょ。蛮族の間違いだよ」
「ですよねー」
「うん」
後ろで見ているだけの藍大と司は、遠い目をしながら戦況を見守った。
戦闘が終わったのはそれから5分後だった。
『サクラがLv11になりました』
『サクラがLv12になりました』
『サクラがLv13になりました』
『サクラがLv14になりました』
『サクラがLv15になりました』
『サクラが進化条件を満たしました』
「サクラ、進化できるらしいぞ」
「キュッキュッキュ~♪」
サクラがレベルアップだけではなく、進化できるようになったと知り、藍大はサクラを持ち上げて喜びを表現した。
藍大が自分のパワーアップを喜んでくれたことが嬉しくて、サクラもとてもご機嫌である。
戦利品回収をした藍大達は、サクラの進化について確認するついでに休憩することにした。
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