第5話 ヒャッハァァァッ! まとめてぶちのめしてやるぜぇぇぇっ!

 藍大達が洞窟風のダンジョンを進むと、何やらカサコソという音が聞こえて来た。


 それをいち早く察知したのは先頭にいた舞であり、手で止まるように藍大達に合図をした。


「立石さん、モンスターが来たの?」


「来たぜ~。狩りの時間が来たぜ~」


「た、立石さん?」


「藍大、ここは立石さんに任せとけ。それよりも来たぞ」


 舞の雰囲気が変わったことでビクッとした藍大は、茂に肩を掴まれて後ろに退く。


 そして、前方から群れを成してやって来たモンスターを視界に捉えた。


っさ! うじゃうじゃいる! なんかピカピカしてんぞ!?」


「珍しいな。あれはマネーバグだ」


「マネーバグ?」


 自分は知らないが茂が知っているようなので、藍大は言外に茂に解説を求めた。


「藍大、1匹だけをよく見てみな。マネーバグってのは、見た目が硬貨そっくりでそこから6本の足が生えた昆虫系モンスターだ。出現する国の硬貨を真似するから、日本じゃ6種類いるんだよ」


「何それ面白い。硬貨の価値が高い程強い的な?」


「その通り。こいつらが早々に現れるとかこのダンジョンはおかしいぜ」


「キュ・・・」


 茂の説明を聞いている途中に、サクラが藍大の右脚にしがみ付いた。


 サクラの体は震えており、マネーバグの集団を怖がっているようだった。


「まさか、サクラがやられたのはこいつら?」


「キュ~」


 藍大の質問に対し、サクラはそうなんだよと言わんばかりに首を縦に振る。


「なるほど。数の暴力にやられたんだな」


「キュキュ~」


 あいつら酷いんだと主張するようにサクラは首を縦に振った。


 そんなやり取りをしていると、先頭に立っていた舞が突然叫び始めた。


「ヒャッハァァァッ! まとめてぶちのめしてやるぜぇぇぇっ!」


「嘘だろ立石さん!?」


「キュキュッ!?」


 舞の豹変ぶりに藍大とサクラは驚かずにはいられなかった。


 そこに疲れた表情をした茂が口を開いた。


「戦闘になると元レディース総長の血が騒ぐらしいぜ」


「いや、元レディースっつーかモヒカンヘッドが相応しいじゃねーか」


「信じられるか? あれが立石さんなんだぜ。でもな、護衛はちゃんとやってくれるんだ」


「そこはちゃんとしてんのな」


「おう。だから、俺達は豹変した立石さんに慣れれば後はおとなしくしてるだけで良いんだ」


「なるほど・・・」


 舞の職業技能ジョブスキルは狂戦士ではなく騎士だ。


 言動が変わったとしても、騎士だから護衛対象を守る意識があるのだろう。


 実際、過去に茂は護衛してもらったことがあるので、舞の実力面に問題を感じていない。


 今もマネーバグの群れを相手に、メイスと盾を嬉々として振るっている。


「オラオラオラァ! どーしたぁ!? もっと根性見せろやぁ!」


「俺の知ってる立石さんは何処へ・・・」


「戦闘が絡まなきゃ、可愛い物好きで良い人なんだけどな」


「つっても超人として戦闘に忌避感ないのは良いんじゃね?」


「そりゃそうだけどよ。あの様子を見た人は固定パーティーは組もうとしねえから、いずれは行き詰まりそうでなぁ」


「それこそ元レディース仲間はどうしたよ?」


「大地震で亡くなったそうだ」


「そんな過去があったとはなぁ」


 寂しい一面もあったのかと思ったが、戦う舞を見てそんなこともないかと思い直す藍大である。


 その時、事態は藍大達の望まない方向へと進んだ。


「キュ!」


 最初に気づいたのはサクラであり、サクラは天井を指差した。


「500円!? マネーバグか!」


「不味い。立石さんが気付いてねえぞ」


「キュキュ!」


「やれるのか、サクラ?」


 私に任せろと胸を張るサクラだが、その足はブルブルと震えている。


 それでも、藍大にやれるかと訊かれたら震えが止まった。


「キュ」


 静かにだが自信のある表情で頷くサクラを見て、藍大も覚悟を決めた。


「OK。俺も付き合おう。サクラ、あいつに<不幸招来バッドラック>!」


「キャァァァッ!」


 普段とは違う叫び声が天井に張り付いたマネーバグに届く。


 藍大達にもその叫び声は届いているが、アビリティによる叫び声なのでマネーバグに聞こえたものと比べればかなり小さく聞こえている。


 その一方、マネーバグは藍大にテイムされて能力値が倍になったサクラの<不幸招来バッドラック>を聞いた瞬間、足を滑らせて天井から落ちた。


 LUKが落ちて天井から足を滑らせてしまい、背中から地面に落ちたのである。


 すると、ひっくり返ってしまった亀の如くマネーバグはじたばたしていた。


「うわっ、裏側キモッ!」


 マネーバグの背中側は硬貨そっくりだが、腹側は普通の虫なので虫嫌いな人にとって見たくないものだ。


 藍大は虫が大嫌いまではいかないが好きではなかったので、純粋に見た目の気持ち悪さを口に出した。


 (今ならテイムできそうだけど、こいつはテイムしたくない)


 これが藍大の本音である。


「キュ!」


 サクラは地面に落ちていた石ころをマネーバグに投げ付けた。


 その当たり所が悪かったようで、マネーバグは命中した途端に全く動かなくなった。


 ちなみに、モンスターが倒されるとドロップアイテムだけが残るなんてことはなく、死体がまるまる残る。


『サクラがLv2になりました』


『サクラがLv3になりました』


『サクラがLv4になりました』


『サクラがLv5になりました』


『サクラが称号”運も実力のうち”を会得しました』


 システムメッセージがサクラのレベルアップと称号の獲得を告げると、藍大はモンスター図鑑のサクラのページを開いた。



-----------------------------------------

名前:サクラ 種族:バンシー

性別:雌 Lv:5

-----------------------------------------

HP:80/80

MP:240/240

STR:40

VIT:40

DEX:80

AGI:60

INT:80

LUK:40(+40)

-----------------------------------------

称号:藍大の従魔

   運も実力のうち

アビリティ:<不幸招来バッドラック

装備:なし

備考:ご機嫌

-----------------------------------------



 (レベルアップでMPが回復してるじゃん。HPも同じなのか)


 モンスター図鑑を見て、藍大はモンスターのレベルアップの仕組みを知った。


 ゲームと同じ要領で、モンスターは戦闘によって経験値を獲得してレベルアップする。


 その際、HPとMPは全快するのだ。


 脱皮のようなもので、どんなに酷い怪我を負っていたとしてもレベルアップしてしまえば元通りらしい。


 称号の”運も実力のうち”とは、LUKが2倍になる効果がある。


 会得条件は、自身よりもレベルの高い相手にLUKの能力値で上回り、相手を倒すきっかけが運によるものだった場合に手に入るというものだった。


 それはともかく、藍大にはまずやるべきことがあった。


「サクラ、よくやったな。偉いぞ」


「キュ~」


 サクラを労うことを忘れてはいけない。


 藍大にテイムしてもらう前に、ボロボロにやられたことのリベンジを果たせたのでサクラはご機嫌だ。


 <不幸招来バッドラック>は直接攻撃するようなアビリティではないが、それでもマネーバグの中でも最も強い500円の物を倒した。


 おまけに使える称号まで会得したのだから、サクラは褒められて当然だろう。


 藍大がサクラの頭を撫でていると、戦闘を終えて舞が戻って来た。


「終わったよ~」


「・・・戦闘中とのギャップが酷い」


「何が~?」


「なんでもないっす」


 藍大は気にしたら負けだと判断し、この件については口を閉ざすことにした。


「藍大、サクラが倒したマネーバグの死体を貰っても良いか? DMUで調べたい」


「良いけど立石さんが倒した奴等は? あっちの方がって、あぁ、うん、持ってってくれ」


「助かる」


 茂がマネーバグの死体を自分から欲しがった理由を察し、藍大は許可を出した。


 舞が戦ったマネーバグを全てグチャグチャに潰されていたのだ。


 非力なサクラの攻撃とは違い、舞の全力の攻撃を受ければマネーバグは原形を残すことなく死ぬだろう。


 マネーバグ自体が珍しいモンスターなので、茂は貴重な死体のサンプルを得られて思わぬ収穫に喜んだ。


 制服のポケットから丈夫そうな袋を取り出すと、マネーバグの死体を中に入れた。


「藍大、悪いが探索を切り上げて俺の職場まで来てくれないか? 最初からマネーバグが出るようなダンジョンだし、上司に報告しておきたい。藍大に便宜を図るなら、上司へ相談した方が良さそうだ」


「わかった。サクラも良いか?」


「キュ」


「良いってよ」


「サンキュー。立石さんも一緒に来てもらえない? 証人として上司への報告を手伝ってほしいんだ」


「OK」


 序盤に出て来たモンスターが茂の想定外だったため、藍大達のダンジョン探索はここまでとなり脱出した。

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