第4話 俺しか開けられないダンジョンなんですね、わかります

 挨拶を済ませると、藍大達は早速101号室に行くと思いきや反対の103号室の前に移動した。


「茂、ここは店子さんの部屋だぞ? ダンジョンは101号室だ」


「わかってるさ。俺がここに1人で来た理由が103号室にあるんだよ。俺が1人で来たことに違和感なかったか?」


 茂は貴重な鑑定士の職業技能ジョブスキルを持っている。


 シャングリラまではタクシーで来たが、誰も護衛がいないなんて基本的にはありえないぐらい貴重な人材扱いをされている。


「・・・そういやそうだな。茂に護衛がいないなんて変だわ。なんで誰も連れて来ねえの?」


「その理由が103号室の住人なのさ。下手な護衛を付けてもらうより、この人に頼んだ方が良いからな」


「えっ、茂って立石さんの知り合いなの? 超人で冒険者ってことは俺も知ってるけど」


 大家として最低限の情報は知っているが、必要以上は踏み込まないのが藍大の大家スタイルだ。


 だから、茂と103号室の住人に接点があることに驚いていた。


「知ってるさ。立石さんはDMUの協力者だからな。今日はオフって聞いてたから、報酬に色を付けてダンジョン調査に付き添ってもらう依頼も済ませてある」


「茂って仕事ができるよな~」


「これぐらい社会人として当然だろ。アポなしでお宅訪問なんてガキじゃねえんだからする訳ねーだろ」


「フッ、これが大家とDMU解析班との違いか」


「カッコつけるのは俺の方なんだけどな。いや、しねえけど。そんなことよりインターホン押そうぜ」


 言外にくだらないやりとりは止めて用事に移ろうと茂が言うので、藍大は頷いてインターホンを押した。


 ピンポーン。


「は~い」


 103号室の中から声がして、その後すぐに玄関のドアから準備万端といった様子の背の高い女性が現れた。


 金色の髪はポンパドールに整えられており、女性用のプレートメイルに身を包みメイスと盾を装備している。


 これが103号室の住人、立石舞である。


「急な依頼にもかかわらず、受けていただきありがとうございます。今日はよろしくお願いします」


「良いの良いの~。私も今月ピンチだったんで。大家さんがいるってことは、本当にシャングリラにダンジョンが出現したんだね」


「信じてなかったんですか?」


「芹江さんが嘘をつくとは考えてないけど、そのバンシーを見るまで信じるのは難しいと思うんだよね、普通」


 完全武装の舞が藍大の隣にいる自分を見て言うと、サクラは何も言わずに藍大の後ろに隠れる。


 藍大はサクラの頭を撫でてから、舞に向かって口を開く。


「立石さん、サクラが怖がるんでじっと見るのは止めてあげて」


「ごめんね大家さん。というか、まさか従魔士なんて職業技能ジョブスキルが本当にあったんだね。そのバンシー、サクラちゃんって言うんだ~。とっても懐いてるように見えるね」


「キュ!」


「サクラちゃん可愛い! お持ち帰りしたい!」


 サクラが藍大に懐くのは当然だと言わんばかりのドヤ顔を披露すると、どうやら舞の琴線に触れたらしい。


「キュキュ!」


 嫌だとブンブン首を横に振り、サクラは藍大の脚にしがみ付いた。


「立石さん、落ち着いて下さい。今からサクラがいたというダンジョンに入るんです。遠足に行くんじゃないんですよ? しっかりして下さい」


「茂の仕事口調聞くとエリートっぽく見えるわ~」


「藍大黙って」


「芹江さん、大家さんと仲良いんだね」


「茂とは幼稚園からの付き合いだから」


「藍大、仕事中だ」


「はいはい。んじゃ、ダンジョンに行きますか」


 茂がキッと自分を睨むので、藍大はこれ以上邪魔しないから許してとジェスチャーで詫び、サクラと茂、舞を連れて101号室の前に移動した。


 藍大が鍵を開けて早速ドアに手を駆けようとすると、茂がその手を押さえた。


「待った。護衛の立石さんがいるんだぞ? お前が開けてどうする」


「あっ、そうか。立石さん、よろしく」


「任された」


 藍大に代わって舞がドアノブに手をかけて静かに開くと、そこは物置と化した元の101号室だった。


「・・・え?」


「これがダンジョン?」


「なんで?」


 順番に舞、茂、藍大の反応である。


 ダンジョンに入ろうとしてドアを開けたら物置部屋だったのだから、こんな反応になるのも仕方のないことだろう。


 舞は一旦ドアを閉じてからもう一度開けるが、やはりドアの向こうは物置だった。


「俺がやってみましょう」


 茂が舞に代わってドアを開けてみる。


 しかし、ドアの向こうは物置だった。


「真打ち登場か」


「黙ってさっさと開けろ」


 無駄にカッコつけて藍大が言うものだから、茂はイラっと来て藍大の頭にチョップをかました。


いてっ。わかったよ」


 チョップを受けた頭をさすりつつ、反対の手で藍大がドアノブを握って開くとそこはモンスター図鑑を拾った洞窟だった。


「なん・・・だと・・・」


「大家さんすご~い」


「俺しか開けられないダンジョンなんですね、わかります」


「そんなダンジョン聞いたことねえよ」


「私もないなぁ」


「キュキュ~」


 ドヤァという声が聞こえてきそうな誇らしい顔のサクラを見て、とりあえず藍大は撫でる。


「可愛い! 私も~!」


「キュッ」


 ペシッという音と共に、自分の頭を撫でようとした舞の手をサクラは弾いた。


「痛い。サクラちゃん、なんで私は駄目なの?」


 舞に質問されてもサクラはプイと知らんぷりする。


「藍大、一旦閉めてくれ。立石さん、遊んでる場合じゃないです。藍大がドアを閉めたらもう一度開けて下さい」


「わかった」


「は~い」


 茂に言われた通り、藍大がドアを閉めたら舞がドアを開ける。


 けれども、舞が開けたドアの先にあるのは元の物置然とした101号室だった。


「これは検証が必要ですね」


 茂はそう言うと、ダンジョンに入れる方法を正確に把握するため、藍大達は10分ほどかけてその条件を調べた。


 その結果がわかると、藍大は膝から崩れ落ちた。


「なんで俺が開けると101号室はダンジョンになっちゃうんだ! 俺は脚立を取りたかっただけなのに!」


「大丈夫だよ大家さん! 脚立なら私が取ってあげるから!」


「ありがとう! マジ助かる!」


「そういう問題じゃねえだろ! ・・・すみません」


 藍大と舞のやり取りを聞き、茂は思わず素の口調でツッコんでしまった。


 それに気づいてすぐに謝ったが、舞はニマーッと笑みを浮かべた。


「芹江さん、無理に私にだけ丁寧に喋んなくて良いよ。大家さんと同じ感じに喋ってOKだよ。同い年なんだし」


「え?」


 舞の同い年発言に茂が驚いた。


「あれ、茂は知らんかったの?」


「驚くことかな?」


「いや、知ってたんだがダンジョンで戦う立石さんを知ってる俺としては、同い年だとは思えなかったんだ。藍大も知ったら絶対そう思うに決まってる」


「立石さんって二重人格だったりする?」


「え~? そんなことないよ~」


 両手と首を横に振って否定する舞だが、茂はジト目を向けていた。


 その目は何言ってんだこいつと物語っていた。


「オホン。立石さんが二重人格かどうかは置いといて、ダンジョンに行ける条件はわかったな」


「なんだ茂、立石さんに仕事モードの口調じゃなくて良いのか?」


「疲れたから素で行くことにした。藍大と立石さんに口調使い分けんのも面倒だし」


「私はそれで良いよ~」


「ということだ。それよりも、シャングリラのダンジョンは今の所藍大、お前専用だ」


「らしいな」


 茂の言う通り、検証した結果わかったのはシャングリラの101号室に現れたダンジョンは藍大がドアを開かないと現れないことがわかった。


 扉を閉めるのは誰でもできるが、扉を開けるのは藍大しかできなかったのだ。


「藍大、こうなった原因に心当たりねえのか?」


「ない。強いて言うなら脚立を取りに行こうとしたことぐらいしか思いつかん」


「脚立ってホームセンターに売ってるのだよな?」


「おう。普通にここの近所にあるホームセンターのやつだ」


「脚立がトリガーになったとは考えにくいか。つーか、脚立にそんな思い入れねえだろ? もっと他にあんじゃねえの? よく思い出せよ」


 一旦は脚立に何かあるかもしれないと考えた茂だったが、それはないだろうと考えを改めて他に原因はないか藍大に訊ねた。


 しかし、藍大は大家として代わり映えしない日々を過ごしていただけだったので、すぐに思いつくようなことがなかった。


 これ以上考えても結果が変わらないと判断すると、茂は原因特定を中断してダンジョンに入ることを提案した。


「んじゃ、今度こそダンジョンに入るぜ」


 藍大がドアを開けてダンジョンへの道が開くと、藍大とサクラ、舞、茂の順番でその中へと入った。

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